「オフィスのペーパーレス化」が語られるようになって数年が経つ。その進み具合はまちまちだが、「何から手をつければ良いかわからない」という声も多く聞かれる。前編に引き続き、公認会計士/税理士で、現在は企業文書の電子化・ペーパーレス化を支援するペーパーロジック株式会社の代表を務める横山公一氏に話を聞いた。

前編はこちら

 

1)ペーパーレス化のための準備

・文書の棚卸しと業務フローの再確認

日々の業務で取り扱う書類は思っている以上に多くあるものです。それらの文書類を洗い出し、どのようなルートで動いているのかを把握するところからペーパーレス化の準備は始まります。つまり、文書の棚卸です。一つの文書の流れを追うことは業務の流れそのものを確認することになります。この作業によって業務フローの無駄に気づき、ペーパーレス化以前の業務効率化が叶うかもしれません。業務の流れをシンプルにすることは、ペーパーレス化の効果を高めることにもつながります。

 

 

・ペーパーレス化は意識変革である

オフィスのペーパーレス化は、これまでの業務の流れに大きな変革をもたらします。新しいシステムの導入で情報伝達のスピードも変わりますし、どこで情報が滞っているかが一目瞭然なのでみだりに後回しにしたり自分だけで握っておくこともできません。そこで否応なく突きつけられるのが、意識の変革です。コーディネーターを置いて現場に知識を浸透させるだけでは不十分で、各部署の上長はもちろん、経営トップも積極的に関与して社員を鼓舞すると良いでしょう。これは企業理念を掲げ、指針を示すことと同じです。ペーパーレス化に取り組む理由を明確に示し、リーダーシップを発揮することでペーパーレス化の動きはさらに加速していくはずです。

 

そして何より大切なのは、「まずは使ってみる」という姿勢です。使ってみて初めて気づくこともありますし、「さして難しいものではないな」ということも分かるでしょう。

 

 

 

2)ペーパーレス化導入のステップ

 

 

①知識の習得

まずペーパーレス化について必要な知識を浸透させておきます。最初から深い知識を浸透させようとするのは時間がかかりますし、「大変そうで嫌だなあ」とマイナスイメージもつきかねないので、ごく基本的な理解が得られれば十分です。

 

 

②導入準備

導入範囲や移行ステップの検討、適用する文書の棚卸しと業務フローの見直し作業をします。この頃に必要があれば税務署への届け出などをしておくとよいでしょう。

 

 

③導入

複数の部署で数人ずつ移行するのか、特定の部署を丸々ペーパーレス化するのか、自社に合ったサイズでスモールスタートしてください。ペーパーレス化についての深い知識は、この段階で必要に応じて身につければOKです。

 

 

④定着

問題が起こったら随時解決し、ペーパーレスでの業務フローを確立させましょう。導入範囲が広がったら、すでにペーパーレスを経験済みの社員がフォローしながら定着させていきます。

 

 

3)ペーパーレスシステムの選び方

ペーパーレス化のためのソリューションは、現在複数の企業から提供されています。ですが、ほとんどのサービスが問題点が残っています。ここでは3つの視点で説明します。

 

 

①個別にソリューションが分かれている

多くのソリューションは、電子帳簿保存法対応の帳票電子化の機能と、電子契約の機能が個別のサービスとして提供されています。つまり、社内業務を包括的にカバーできる「ペーパーレス業務システム」として提供されていないのです。今後のAIやブロックチェーンの活用を見据えると、ビジネスデータは一元管理すべきだと思います。

 

 

②社内の業務フロー全体をペーパーレス化できていない

稟議や決裁は電子化できるものの、添付する見積書や請求書が紙保存というケースも見られます。一般に業務で用いるあらゆる書類に対応できなくては、ペーパーレス化の恩恵も中途半端になってしまう恐れがあります。

 

 

③一部法令にしか対応できていないものが多い

多くのシステムが税法には対応していますが、会社法や電子署名法まで網羅しているシステムはとても少ないようです。デジタル化保存が可能になっている法律が現状251本あるので、会社が属する業種で遵守すべき関連法規はきちんと押さえておきましょう。

 

 

 

・ペーパーレスシステムに不可欠な機能とは

ビジネスの現場でペーパーレス化の対象となる書類は、社内の稟議・決裁、議事録や労務関連書類、外部とのやりとりでは見積書・発注書・納品書・受領書・請求書など、そして外部の合意の証として契約書と、守備範囲はとても広いものです。今後を考えるとビジネスデータを包括的に、全ての領域をカバーするサービスが必要となってくるでしょう。

導入にあたってどうしても必要だと思われるのは、電子契約に関する機能です。契約書は作成から文書の取り交わし、保管に至るまで多くの手間と時間がかかりますし、先述した印紙税も関わってきます。なので、電子契約関連の機能が充実したシステムを選ぶことが大きなポイントとなります。

 

細かく説明すると長くなってしまうのでここでは控えますが、電子契約サービスに必要な条件は以下が挙げられます。

 

 

・真正性が確実に担保されること

・複数の法律から求められる保存要件を満たしていること

・ワークフロー機能があること

・高度なセキュリティ環境を提供できること

・分かりやすく使いやすいこと

 

 

とはいえ、どんなに優れたシステムを採用しても、導入の仕方を誤ってしまうと十分に機能させることができません。コストのことを考えると自社内で完結させるのがベストかもしれませんが、専門家の力も上手に借りて短期間での移行が完了すれば大きなメリットとなります。

 

企業の業務効率化と生産性向上はもう先送りできるものではありません。ペーパーレス化はそのための大きな一歩を踏み出せる力をもたらしてくれます。この記事を読んでくださった方が、自社のペーパーレス化にポジティブなエネルギーを持ってくださることを願っています。

 

 

 

 

■プロフィール

 

横山公一

ペーパーロジック株式会社 代表取締役社長兼CEO

学習院大学法学部卒業。1991年監査法人トーマツに入所し、監査業務、株式公開支援業務、関与先のABS発行の会計税務等を担当。1999年創業メンバーとして金融特化型の会計事務所を設立、代表パートナーとして同社を取扱ファンド数1,500、管理金額4兆円へと成長させ、金融特化型会計事務所としては国内最大手にまで成長させる。ファンド管理のスペシャリスト。公認会計士・税理士。

請求書・納品書など契約以外の法定保存文書も全て電子化