「オフィスのペーパーレス化」が語られるようになって数年が経つ。その進み具合はまちまちだが、「何から手をつければ良いかわからない」という声も多く聞かれる。今回はペーパーレス化入門として、公認会計士/税理士で、現在は企業文書の電子化・ペーパーレス化を支援するペーパーロジック株式会社の代表を務める横山公一氏に話を聞いた。

 

 

1)「PDF化=ペーパーレス化」ではない!?

・企業文書には法令で保存を義務付けているものがある

みなさんは「ペーパーレス化」と言われたらどんなことを指すと思いますか?「これまで紙にしていた情報をデータで保存すること」「PDF化のこと」だと勘違いしている方も多いのではないでしょうか。企業で取り扱う文書情報の中には書面にて保存・保管することを法令で取り決められているものもあります。これらの書類を法令に準拠した形で電子データ化して初めて紙の書類が廃棄できるようになるのです。

 

・ペーパーレス化でセキュリティが変わる

デジタル化するにあたり、セキュリティを気にする方も多いでしょう。漏えいや改ざんに対する強度でいうと紙だから安心という訳でもなく、鍵付きのキャビネットも鍵を何らかの方法で複製してしまえば誰でも重要情報にアクセスできてしまいます。

一方、デジタルデータを守るための取り組みは進んでいます。顧客からデータを預かる企業は信頼に直結するセキュリティを強化していますし、何者かによってデータの閲覧や改変が行われてしまった場合の追跡する技術も実用化されています。セキュリティに関していえば、デジタルはアナログ以上の堅牢性と追跡性を実現しているということができるのです。

 

 

2)ペーパーレス化のメリットとは

・生産性の向上

紙の書類が多くあってどこに何があるのかがすぐに分からず、探しているうちに10分経ってしまった・・・こんな経験はありませんか?この10分間は明らかに人件費の無駄遣いです。閲覧制限がかけられている重要書類を取り出すために、閲覧申請を出して、承諾を受けて、担当者の立会のもと書類を出して・・・こんな例もあるかもしれません。この一連の作業にももちろん人件費がかかっていますよね。

紙の書類に比べてデジタル化すると検索性は一気に高まり、探す時間も手間も削減されて業務効率を高めることができます。今や日本企業のほとんどが慢性的な人手不足。あらゆる場面での効率化が必須な中、ペーパーレスの導入も必要不可欠と言えるのです。

 

・内部統制の強化

どんな企業にも閲覧・操作できるメンバーを限定したい機密情報がありますよね。社員の給与や評価に関する情報もその一つと言えるでしょう。これらを紙媒体で管理するのは、かなりのコストと手間がかかってしまいます。しかし、ペーパーレス化を実現すれば、セキュリティが万全なサーバーにデータを保管し、アクセス権限を管理すれば良いのです。“紙”の時代の内部統制の運用は人による相互牽制が中心でしたが、デジタルへ移行することにより、人手によらずとも、改ざん可能性やなりすましを排除し、ログ管理により低コストで内部統制が強化されるのです。

 

 

・経費削減

ペーパーレス化で最も分かりやすいメリットがコストの削減です。人件費については先ほど述べましたが、印紙税やプリンタの稼働(用紙やインク)、紙での流通コスト、保管コストなどの直接的なコストもあります。企業規模にもよりますが、より直接的に実感できるのが印紙税でしょう。中でも金銭消費賃貸契約や不動産売買契約などには、高額の印紙の貼付が義務付けられています。契約金額によって額面は変わりますが決して安いものではないですし、積み重なるとかなり大きな金額になります。

電子契約では、その印紙の貼付が不要なのです。そもそも印紙は紙の原本に貼るものであって、紙の原本を作らない電子契約では貼付の必要はありません。年間の印紙税による支出は企業によって異なりますが、どの企業も削減されれば大きなプラスになるでしょう。

 

 

3)なぜ日本でペーパーレス化が進まないのか

・欧米ではペーパーレスが当たり前

諸外国を訪れると、多くの国々で日本以上にICT(情報通信技術)が活用されており、ペーパーレス化が進んでいて人々の生活にもしっかりと浸透しています。また、欧米のビジネスシーンでは日常的な請求書や提案書のやり取りはペーパーレスが当たり前で、会社同士の契約書もデジタル化され、そこに電子署名とタイムスタンプを捺すことで契約内容の真正性を保証する形がとられています。

 

・専門家も不足している

日本でペーパーレス化が進まないのは、技術や運用というより情緒的な問題が大きいように感じます。歴史的な背景から紙に対する信頼感や安心感が大きく、デジタルへの移行を阻んでいる面もあるかと思います。また、多くの日本企業が変化に対して保守的で、同業他社がまだ実施していないなら様子を見ようとしている面もあるでしょう。

加えて現実的な問題として、専門家の不足という問題もあります。ペーパーレス化をスムーズに進めるには社内のリソースのみではなかなか難しいのです。社内の業務フローを見渡して進め方のプランニングをする、セキュリティレベルを設定して場合によってはサーバーなどのハードウェアの選定をする、税務関係の法的知識・電子帳簿保存法による各種申請や届出の指導、法的要件の整理、そして日常的な業務を全てペーパーレスで回していくための包括的なシステムの導入、これら全てをカバーできる「ペーパーレス化の専門家」が日本では決定的に不足しており、そのために企業のペーパーレス化が進まないという現状があるのです。

 

・行政の後押しはあるのか

日本政府もデジタル化を推進するべく、2000年頃から様々な手を打ってきました。電子帳帳簿保存法、電子署名法など関連する法令の整備に加え、中小企業を対象とした「IT導入補助金」も2018年度の目的に書類の電子化と掲げられていて、ペーパーレス社会を構築する上で企業にとって大きな助けとなっているでしょう。

日本には紙での保存が義務付けられている記録や書類がまだまだ多く残っていますし、規制緩和が遅れている分野も存在します。ですが、ペーパーレス化の流れはこれまで以上に強まることは間違いありません。乗り遅れないためにも、全ての企業が今すぐにペーパーレス化に踏み切るべきなのです。

 

後編に続く

 

 

 

■プロフィール

 

横山公一

ペーパーロジック株式会社 代表取締役社長兼CEO

学習院大学法学部卒業。1991年監査法人トーマツに入所し、監査業務、株式公開支援業務、関与先のABS発行の会計税務等を担当。1999年創業メンバーとして金融特化型の会計事務所を設立、代表パートナーとして同社を取扱ファンド数1,500、管理金額4兆円へと成長させ、金融特化型会計事務所としては国内最大手にまで成長させる。ファンド管理のスペシャリスト。公認会計士・税理士。

請求書・納品書など契約以外の法定保存文書も全て電子化