大マスコミ、テレビ科学者は原発事故をオモチャにするな!!

「忘れていないか?公のために働く姿勢」  工学博士・環境浄化研究所 代表取締役社長/須郷高信氏

変な科学者が変に知識を押し立てるのは悪党が凶器を振り回す行為に等しい

 

先日、ビックライフ9月号の特集記事、〈緊急取材!人類は原子力とどう向き合うべきか〉を読んだという家庭の主婦から、深刻な内容の電話が入った。

 

受話器越しにもかかわらず、言葉の端々から真剣に悩む様子がひしひしと伝わってくる。

 

不安そうな声で、「東北の野菜は青酸カリと同じ猛毒ですか?」と聞くのだ。発端は9月4日の読売テレビ、「たかじんのそこまで言って委員会」での中部大学武田邦彦教授の発言である。「東北の野菜は健康を害するから捨ててもらいたい」、「今、東北で農作物を生産するのは間違い」、「ここ(岩手県一関市)には海を通って放射性物質が落ち、0・5マイクロシーベルトになりました」、「畑に青酸カリが撒かれた。

 

除けてから植えてください」などなど、原発事故と青酸カリを結び付けた過激なコメントの数々だ。一般市民に東北の野菜や魚介類、牛肉、果実などは猛毒であるとのイメージを植え付け、恐怖心を煽るに十分な内容で、少なからずパニックを呼ぶことが容易に推測される。

 

東日本大震災は地震と津波に加えて原子力事故の三重苦を伴った未曾有の災害であり、被災者の方々は想像をはるかに超えた苦難に立ち向かっている。この大震災を機に科学者を名乗る大学教授が励ましの言葉ではなく、放射線と青酸カリを同列に扱い、恐怖心を駆り立てる言動は許しがたい行為である。当人は福島原発を題材にした同様の表現で恐怖心を駆り立て、専門家の証言とした本を出版し、大手新聞に広告を掲載するなどしている。

 

数千万円の印税を得ているとの話も聞く。さらには公共のテレビまでが災害をバラエティー扱いにし、視聴率稼ぎをしている。非人道的でこれも許しがたい行為である。放送倫理委員会の良識は何処へいったのか。

 

これらは被災者の苦悩を増幅するだけでなく、周辺地域の風評被害を広げるばかりか、中国など近隣諸国の日本産品の輸入禁止処置にも見られるように、我が国の経済活動に及ぼす悪影響はあまりに甚大で計り知れない。

 

科学技術は人類に役立つために探求されてこそ意義があり、恐怖心やストレスを助長するためのものではない。科学者が知識を押し立てて被災者を苦しめる行為は、凶器を持った悪党が善良な市民に襲いかかる暴力行為にも等しい。と同時に、学問を冒涜するものでもある。

 

放射線量の0・5マイクロシーベルトと言う難解な数値を、猛毒に直結する青酸カリに比して恐怖心を煽る語り口は、専門知識の無い一般市民に対して科学という凶器を突きつけるも同然である。科学者が科学者を名乗って発言する場合は、その0・5マイクロシーベルトという数値が人体にどう影響し、その範囲はどの程度のものかなどを、正しく、かつ分かりやすく視聴者に解説する道義的責任が伴うことは言うまでもない。

 

医療、工業、建設業など暮らしと産業に役立っている確定的影響以下の極微量放射線

 

話は変わるが、人類に関わる放射線は次の三つの要素がある。一番目は地球の誕生や生命の誕生に大きく関わった必要不可欠な自然放射線。二番目は太陽系から常時放出されている宇宙放射線。三番目は福島原発などから放出されたセシウムの他、医療用のコバルトやテクネチウム、CT検診や胸部検診のX線、PET検診の陽電子線などの人工的な放射線の三種類に大別される。

 

放射線の人体への影響は100年以上にわたる研究の結果、放射線の影響係数の換算式が確立され、シーベルト(Sv)と言う統一単位で表示することができるようになった。0・5マイクロシーベルトとは1千万分の5シーベルトである。

 

放射線の人体への影響は確定的影響と確率的影響の2面性がある。確定的影響とは永年にわたる臨床結果から人体への影響が認められた放射線量を閾値(しきい線量)とし、それ以下は自然環境や医療被曝等を含めて影響が確認できなかった放射線量である。

 

他方、確率的影響を主張する学者は臨床事例として確認されなくとも、確率的にはゼロはあり得ないため、極微量でも容認できないとする考え方である。確率的影響の場合は、医療検診の他、鳥取県三朝温泉や山梨県増富温泉、秋田県玉川温泉などのラドン温泉近郊住民の自然放射線被曝も容認の範囲を超えることになる。

 

三朝温泉などのラドン温泉は地球誕生以来の天然のラジウムが存在し、温泉の表面ではラドンガスを発生するため入浴とともに放射性ガスを吸引し、飲泉による内部被曝が考えられる。岡山大学の永年にわたる研究結果では、三朝温泉地域住民の肺癌死亡率は3分の1、大腸癌は5分の1と全国平均を大きく下回る長寿地域であることが報告されている。

 

温泉表面の放射線量は前述の青酸カリで表現された0・5マイクロシーベルト程度で、ラドンからの放射線エネルギーはセシウムの5・4倍に相当する640万電子ボルトであり、アルファ線による人体への加重係数はセシウムの20倍である。

 

1982年の米国保険物理学会誌では微量の放射線照射はDNA損傷修復酵素が活性化される免疫効果(ホルミシス効果)が確認されている。成人の身体は、地球起源の放射性物質である半減期が12億年のカリウム40が4000ベクレル、炭素14が2500ベクレルの放射線を常に放出しながら健康を維持している。

 

天然の放射線は人類や地球に不可欠な物質であり、カリウムや炭素の存在比率を分析することで、1万年前の年代を正確に検証する技術が確立され、考古学では重要な元素となっている。確定的影響以下の極微量の放射線は各方面で暮らしに役立っているのだ。

 

私は放射線化学を40年間研究し、放射線のエネルギーを化学反応に活用して、長寿命ボタン型アルカリ電池の実用化に世界で初めて成功し、暮らしに役立てている。放射線の優れた特性を上手に活用することで、今では自動車用タイヤや耐熱電線、建材用プリント合板の製造等々各方面で工業利用されている。

 

科学者は人類の発展のために学問を活用する社会的責務を負うものであり、知識を凶器として乱用することは決して戒めなければならない。これは鉄則である!【寄稿】

 

須郷高信(すごう・たかのぶ)

工学博士。環境浄化研究所代表取締役社長。1965年日本原子力研究所入所。以来、半世紀近くに亘って放射線化学とその民生利用の研究・開発に従事する傍ら、テレビのコメンテーターほか、大学や自治体などの講演会の講師を務める。科学技術庁長官賞、向坊賞受賞。