わが国の防衛医官と看護師が働く現場

私事で恐縮だが、先日体調を崩して一週間ほど埼玉県所沢市にある防衛医科大学校病院に入院した。

この病院は昭和52年4月18日に設置され、同年12月1日に開院した。以来今日まで、医学に関する臨床教育及び研究の場として、また同時に広く地域住民に開放された総合的な医療機関としての役割を果たしている。

平成21年度における診療実績は、外来患者数延べ30万6690人(1日平均1294人)、入院患者数延べ18万2848人(1日平均501人・※1)で、埼玉県西部地域では大規模な病院である。

 

私にとっては生涯初めての入院だったため、興味深く医官や看護師の仕事ぶりを見ていたが、すぐに気付いたことがあった。

それは、民間病院はもとより一般の公立病院とは異なる院内の雰囲気である。

言葉で表せば、「医官と看護師、検査技師らが持つ仕事(任務)に対する統一された使命感」とでも言おうか。

私にとっては生涯初めての入院だったため、興味深く医官や看護師の仕事ぶりを見ていたが、すぐに気付いたことがあった。

それは、民間病院はもとより一般の公立病院とは異なる院内の雰囲気である。

言葉で表せば、「医官と看護師、検査技師らが持つ仕事(任務)に対する統一された使命感」とでも言おうか。

それは単なる医療従事者という粋を超え、自衛隊医官・看護師・技師として、国家の有事に任務を果たす覚悟を決めた者のみに表れる態度や責任感であると感じた。

 

 

防衛医官と看護師の養成

ある日、指導医官が病棟に数人の医学生を連れてきて、「この患者の容態が分かる者はいるか?」と医学生に尋ねた。

明確な答えが出ないと察するや否や「我々は現場(私は戦場と解釈した)に出てナンボだ。しかし、そこにいる多数の(自衛)隊員の健康状態を全て把握している訳ではない。現場で具合が悪くなった者が出れば、その症状を的確に把握して処置しなければならない。それが我々の任務だ」と説明していた。

 

また別の日には、医学生が7人で私のところにやってきて、心電図を測りたいと言う。されるがままじっとしていたが、まだ機器の扱いに不慣れで、7人掛かりで電極の位置やケーブルを何度も付け替えながら、やっとのことで測定を終えた。

この時の指導医官は余り口を出さない人だったが、要所における必要な指導は行っていた。

その他、失敗しないよう慎重に採血の針を扱う看護学生や、検査のため移動するときに付き添ってくれた医学生など、短期間であったが、指導する医官と熱心に医学を学ぼうとする若者達の姿を目にすることができた。

 

これらは防衛医大設立の目的である「医師である幹部自衛官となるべき者を養成し、かつ、自衛隊医官に対して自衛隊の任務遂行に必要な医学についての高度の理論、応用についての知識と、これらに関する研究能力を修得させるほか、臨床についての教育訓練を行うこと(※2)」の一端を実践しているものと理解できる。

私が「このようにして将来の医官や看護師を育てているのか」と感銘を受けたことは言うまでもない。

そして、こうした教育により長い時間を掛けて養成された士気の高い自衛隊医官・看護師は、自衛隊のためだけではなく、国民にとっても必要な存在であるため、政府には今後も力を入れて取り組んで貰いたいと思った。

 

中小企業の現状

さて、翻って考えてみたいのはわが国中小企業の景況感とこの先の動向である。

08年9月のリーマン・ショックによる落ち込みもようやく底を打ち、上昇傾向に入ったのも束の間、昨年3月の東日本大震災の影響により大きく低下してしまった(=図1)。

地域別の景況DIは、震災で直接的被害の大きかった東北地方や関東地方で大幅な低下が見られるが、その他の地域でも総じて低下しており、全国的にその影響が及んでいることがうかがえる(※3)。

 

また、昨年10月から広がったタイの洪水被害の影響も、詳細がこれから明らかになってくるだろう。加えて、欧米の金融不安により円高がなかなか是正されない。

こうした外部環境の大きな変動を受けて、当社のような製造系中小企業は受注減や値下げ要求、部品の海外調達化などに晒され、昨年から苦しい経営を強いられている。

 

 

中小企業の人材育成の必要性

このような厳しい経営環境の中では、人材育成はもちろん、今の雇用を維持するだけでも難しいことだと考えがちだ。

しかし、企業は経営資源である「人材・設備・資金」を常に確保し続ける必要があり、このうち最も経営者の頭を悩ませるのが人材でもある。良いと思った人材を入社させた後も、定着率や処遇の妥当性、円満な人間関係など、考えなければならない事は幾らでもあるからだ。

そして何と言っても業務に必要な技能の習得や継承に時間が掛かる。これは、前述した防衛医大の医官や看護師の養成と何ら変わるものではない。

 

だから長期的な視点に立って考えると、経営環境が厳しい時でも一定の雇用を継続する努力を怠れば、高齢化や自然減によりその企業の活力は次第に失われていくことになる。

わが国に士気の高い自衛隊医官・看護師が必要なのと同様に、民間企業にもやる気のある元気な従業員が不可欠だ。

 

大企業と比較して経営資源に乏しいと言われる我々中小企業だが、意外と知られていないのが、全国の企業数420万社のうちの99.7%を占め、常用雇用者数は2450万人(※4)を有する勢力であることだ。

昨年は大きな災害が続いてわが国の経済にも多大な影響を及ぼしたが、新たな年を迎えた今、我々中小企業経営者が、力を合わせて立ち上がることで今年の日本経済を活性化させていきたい。

 

我々は、こんな時代だからこそ積極的に雇用と人材育成を進め、社会貢献をしなければならないのではないだろうか。   【寄稿】

 

 

※1…防衛医科大学校病院ホームページ、http://www.ndmc.ac.jp/hospital/annai02.html、2011年12月12日。

※2…防衛医科大学校病院ホームページ、http://www.ndmc.ac.jp/about/enkaku.html、2011年12月12日

※3…中小企業庁「中小企業白書2011年版」、同友館、2011年、p.13。

※4…前出「中小企業白書2011年版」、p.402-403。

【図1】中小企業の景況DI…出所:中小企業庁「中小企業白書2011年版」、同友館、2011年、p12。

 

 

永井健一(ながい けんいち)氏

■略歴…1964年、東京都新宿区生まれ。1985年、日本電子専門学校を卒業後、1年間サラリーマンを経験。

1986年、家業である永井製作所に入社。1990年取締役工場長、2002年、代表取締役専務を経て、2004年、代表取締役社長に就任。

入間市商工会副会長、入間市工業会理事も務める。

また、2008年、社会人入試で駿河台大学大学院経済学研究科に入学。2010年、修士課程を修了。現在に至る。

 

 

有限会社永井製作所

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