◆文: 島田博文(日本コムシス株式会社顧問) / 技術経営士の会

 

 

 

昨年の9月から「日本的経営」について6人の方から投稿を頂き包括的な把握ができたと思います。

私はそこではあまり議論にならなかった「成長の限界」について述べさせていただきます。

 

私の修士論文は非線形理論です。当時はローマクラブの「成長の限界」が話題になり、堺屋太一の「油断」という近未来小説がベストセラーでした。そんなことから私は“成長は無限に続くものではない”と考えるようになりました。

そこで「成長には限界がある」という観点から「日本的経営」を論じてみたいと思います。

 

資本主義は「成長」をもっとも効率的に行うシステムです。その為グローバル化が進み、新自由主義という、政府よりも市場の方が正しい資本配分が出来ると言う市場原理主義の考えがもてはやされています。しかしながら、これには副作用があります。

グローバリゼーションは世界に、格差の拡大という社会危機を生み出し、資本主義は資源の危機、生態系の危機を生み出し、環境破壊・天候不順などを発生させています。

世界経済全体が停滞の方向へ向かっているように感じます。

 

会社の経営は“継続する事”を第一に考えるべきです。その為には利害が反する代表的なステークホルダーである社員・お客・株主のどれにも偏らずバランス良く貢献する経営を考えるべきです。

 

株主のために社員を犠牲にするような経営は短期的には成り立ちますが、長期的には疑問です。会社の経営は継続と雇用の確保が目的であり、成長はその結果です。成長を目的にする経営は長続きしないと思います。

 

私は日本的経営のルーツを、資本主義の考えは渋沢栄一・会社経営は松下幸之助・社員のモチベーションは石田梅岩から見出しました。

 

全てのステークホルダーに配意する経営には、経営者のモラルに頼るしかありません。

渋沢栄一は「道徳経済合一説」を唱えています。即ち、「仁義道徳と生産殖得は元来ともに進むべきものです。しかるに世の中が段々進歩するにしたがって社会の事物はますます発展する。

但しこれに伴って肝心な道徳仁義というものがともに進歩して行くかというと残念ならそれは「否」と答えざるを得ない。」と言っています。まさに経営者の仁義道徳に期待するしかありません。

 

そして松下幸之助は“社員の人生に責任を持つ”という発想のもと、終身雇用と年功序列という制度を生み出しました。社員をコストと考えている今の風潮には明るい未来は感じられません。

 

 

しかし、こうした考え方の日本的経営には弱点があります。成長が見込めない中では「社員のモチベーションを維持し、付加価値のある経営を如何にするか」が課題になります。これに応えているのが石田梅岩です。

石田梅岩は「勤勉と倹約」という相矛盾することを掲げ「生産性や経済性を度外視して勤勉に働くことは良いことだ」という文化を創りました。

 

即ち「細部に拘る美意識を育て、勤勉かつ精巧に働くことが積徳の士だ」と言う美学が社員のモチベーションを維持すると言っています。日本の“ものづくり”の原点もここにあると思います。

 

いずれはフロンテイアが無くなり地球規模でゼロサム社会を余儀なくされるでしょう。より完全な循環社会がこれを可能にするでしょう。でも企業を継続するには挑戦する心が必要です。その挑戦する心を何処に求めるか?

 

GDPの拡大や、利益の飽くなき追求、規模の拡大に求めず、細部に拘る美意識を大事にし“継続と雇用の確保”を第一とする日本的経営に期待すると言うのはいささか暴論でしょうか?

 

 

【筆者プロフィール】

島田博文(しまだ・ひろふみ)…1940年生まれ

日本コムシス株式会社顧問
元コムシスホールディングス株式会社/日本コムシス株式会社 代表取締役社長・会長
元日本情報通信株式会社 代表取締役社長
元日本電信電話株式会社 取締役

1967年、日本電信電話公社(現、日本電信電話株式会社)に入社。1994年、取締役信越支社長として、ハイテク五輪“長野オリンピック”を通信面で支え、成功に導く。1999年1月、日本情報通信株式会社 代表取締役社長。NTTとIBMの対等出資の子会社の社長として、日本的経営の中に外資系のマネジメント手法を反映させた経営を行った。2003年、日本コムシス株式会社、およびコムシスホールディングス株式会社 代表取締役社長。2013年より日本コムシス株式会社顧問。

1967年、慶応義塾大学大学院工学研究科 電気工学専攻修士課程修了

 

技術経営士の会

<技術経営士の定義>

技術経営士は、高齢化が進む日本を、世界に先駆け“叡智(えいち)に満ち、落ち着きがあり文化度の高い成熟社会”に変えていくために、技術者としての専門知識及び組織経営の経験を社会に還元することに加え、技術の社会への実装を使命とする者に与えられる資格です。

 

<「技術経営士の会」とは>

「技術経営士の会」は、技術同友会の支援のもとに、有志の技術経営士により、平成25年5月に発足された任意団体です。現在114名(平成29年7月現在)の個人会員、および1社の賛助会員で構成されています。経済産業省や中小企業投資育成会社、信用金庫等の協力を得て企業とのマッチングを行うなど、技術経営士の知見を積極的に社会に還元するために、技術経営士の活動を支援しています。

 

「技術経営士ジャーナル」で技術経営士の活動を紹介しています。

http://www.stamp-ownd.com/