中村伸一 アルファ九州税理士法人代表社員 – すべての中小企業経営者に花束を!~中小企業のM&Aにおける税理士の重要性~
◆文:中村伸一(税理士)
「関らせて頂いたすべての経営者に安心して経営に邁進して頂き、その引退の花道を綺麗に飾る」これが銀行を退職し、税理士の道へ進んだ当時の私の目標でした。
その後何とか働きながら資格取得が出来、独立開業から早10年が経とうとしています。
お陰様でクライアントにもスタッフにも恵まれ、今こそ当時の目標に向かって全力で突き進む決意を固める今日この頃です。
福岡市中央区に位置する弊社へも、日々様々な相談が来ます。監査担当者では分かりえない内容、経営相談などについてはスタッフではなく小職が対応するのですが、その多くは事業承継に係ることです。
昨今の未曾有の事業承継ブームの中で、ここ福岡でも多くの中小企業経営者が多種多様な悩み事を抱えておられます。
ある地方都市での事業承継セミナーを開催した折のこと、賞味二時間ほどのセミナーで、事業承継に関する概論をお話した後の個別相談会への反響とその内容は非常に興味深いものでした。セミナー自体は主催者の要望もあり、「事業承継については早めに準備をしないと間に合いませんよ」という注意喚起型のセミナーでした。
その多くは家内承継(ご子息に事業を承継すること)を前提としてお話して、ほんの少しだけM&Aに関するお話をしました。すると驚くことにその後の個別相談の内容はことごとくM&Aの話でした。どの相談者にも顧問税理士は付いているのでしょうが、どうも顧問の先生以外の相談相手を必要と考えられているようです。
他にも節税対策など多くのエッセンスを散りばめたお話した積りではありますが、どうやら少しだけ触れたM&Aが一番心に響いた様子。まさに望外の結果となった一日でした。
その際、触れた内容は次の通りです。中小企業のM&Aを考えるに当たって社内承継(社内の親族外の方に事業承継すること)が難しいことは言うまでもありません。専務や常務などの肩書があり長年取締役として頑張って来られた方でも、代表取締役として先頭にたつことの重圧にはなかなか勝てません。
また、個人資力の問題も大きく存在します。銀行借入の連帯保証は、取締役とはいえ一般のサラリーマン家庭にはとてもとても重くのしかかってきます。これが家内承継であれば代表者の個人財産もいずれ引き継ぐ事になりますので、話がスムーズに進むのです。ここで重要な役割を果たすのが私たち税理士です。
確定申告を通じて個人の財産額はある程度把握していますし、必要とあれば相続税対策も事前に行っています。長い時間を一緒に共有した顧問税理士こそ、経営上の重要な局面でその後継予定者である方がどんな判断をしたのか?どんな役割を果たしたのか?常に寄り添ってきた顧問税理士なのです。
会社の3要素は「ヒト・モノ・カネ」と言います。それら全てを全体的に把握出来ていないと本来事業承継の相談には乗れません。後継者に経営能力が欠けていたために不幸な結果を招いてしまったケースは無数に存在します。「ヒト・モノ・カネ」の全ての要素から考えて、そもそも承継が可能なのか?どういう承継のスタイルが最適なのか?を判断する必要があります。
セミナーの際にも少し感じたのですが、ほとんどの相談者が顧問税理士に相談をすることなく専門家の門を叩くようです。また、事業承継によって生ずる税金の額が必要以上にクローズアップされているような気がします。
そもそも事業承継対策として税金を減らすためだけに株価を落とすのは会社のベクトルとして不健全の様な気がしますし、必要以上の投資のための借金をしたり、税金を減らす以上に銀行利息が増大しているケースも散見されます。これでは会社の体力は削られていく一方です。そうならない為にも「長い時間をかけてじっくり対策する」ことが王道であり大原則でもあります。もちろんそれまで放ったらかしにしていた顧問税理士にも非はあると思います。
しかし、銀行やM&Aコンサルタントに委託する前に、一度立ち止まって顧問税理士にご相談いただきたいのです。何が最適な方法なのか?長年共に歩んだ顧問税理士がきっと一番の相談相手になることと思います。
小職は顧問契約を結ばせて頂く際に必ず確認するようにしています。何が社長にとって一番の花道なのか?それが見つけられていなければ時間をかけて共に考えますし、方向性が定まっているのであれば、それに向けて邁進します。
全ての経営者が独立開業した瞬間に「身の引き方」を頭の中のどこかに置いておかなければなりません。その方向性によって経営自体が大きく左右されるからです。IPOを目指すような有望な会社は別として、大きく分けると身内に承継するか、外部に売却するかの2点に選択肢は集約されます。この方向性によって大きく経営スタイルが違ってくるからです。
かつて「税理士は転ばぬ先の杖」と言われました。しかし昨今の所謂「安売り税理士」の登場によって顧問税理士の重要性の認識が下落しているように思います。「ヒト・モノ・カネ」の全ての流れを把握出来ているのは顧問税理士に他なりません。
もっともっと顧問税理士を活用して頂くことによって、中小企業経営者の勇退の花道を一杯の花束で飾られますことを願ってやみません。
中村伸一(なかむら・しんいち)……昭和47年4月21日生。アルファ九州税理士法人 代表社員。
北九州市出身。西南学院大学卒業後、都市銀行へ就職、融資業務を担当するも融資課員として「貸し渋り」を経験。その経験から「経営者の真のパートナーでありたい」と考え退職し帰福。
その後市内の大手会計事務所勤務を経て平成20年独立開業。平成28年2月に税理士法人とし、久留米支店開設。目先の節税だけでなく、相続・事業承継など長期的なスパンでの総合的なアドバイスで定評を得る。
相続・事業承継対策を得意とし、大手ハウスメーカーや地場大手不動産会社で多くのセミナー・講演実績を持つ。
〈講演〉
中小企業大学校主催「経営に役立つ管理会計講座」セミナー
資産活用大学福岡夢俱楽部主催「知らないと損をする!?」セミナー 等
アルファ九州税理士法人
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