フィンテック・トップ企業 「リクルートホールディングス」
「POSレジ」がメインバンク?
コンビニやスーパーなどでの支払いの際、よく見かけるPOSレジ。
ご存じのとおりネットワークにつながり、金銭のやり取りが生じた際に顧客の年齢や性別なども含めて販売情報を登録、管理する便利なシステムです。お店にとっては便利ですが、導入するには高額の利用料が必要でした。
そこで最近注目されているのが、アプリをインストールするだけで手元のiPhoneやiPadをPOSレジのように使えるサービス「Airレジ」です。初期費用や月額費用はかからないことから、2013年のサービスリリース以降、登録アカウント数は30万にも迫る勢いで拡大しています。
無料で導入できるとはいえ、その性能はなかなかのもの。注文入力から座席や予約状況の管理、売上や在庫管理、さらに会計機能まで利用できます。ジャックにSquareリーダー(ICカードリーダー)を指せば、クレジットカードの支払いにも対応できます。
このサービスを展開しているのはリクルートです。リクルートといえば人材というイメージがあるかもしれませんが、転職や就職、人材派遣といった分野に限らず、今や生活に関するあらゆる分野の情報を取り扱っています。テクノロジー分野にも注力しており、IT分野での存在感も大きくなっています。
同社のこの事業への力の入れようには目を見張るものがあります。過去には、iPhoneやiPadミニ、専用レシートプリンタ、キャッシュドロアなど、必要機器すべてを無料でレンタルするキャンペーンを実施するなど、かなり力を入れています。
初期費用も月額費用もかからないと聞き、どうやって利益を生み出すのかと心配していましたが、2016年8月、同社が発表した「新たな事業の開始に関するお知らせ」にその答えを見つけました。そこには「新規事業として中小企業向けの融資事業を開始する」、「保有するトランザクションデータ(商取引データ)とその他の様々なデータを活用し、オンライン完結型の融資事業を展開」すると記載されていました。
銀行などの金融機関が企業に融資する際は、担保や財務諸表などを元に審査を行ってきました。この審査はよく「健康診断」にたとえられます。これまでの審査を人間の健康診断に当てはめると、「身長、体重、血圧」などの外形的な診断をしてきたということになります。
一方、Airレジで得た商取引データをもとにした判断は、外形的な診断にとどまりません。というのも、その人(企業)が毎日どんな食事をしているのか、食事の量は適切か、回数や量が増えているのか減っているのか、などが分かるからです。このため、現在の健康状態はもとより、将来のそれまで精度高く予想できてしまうのです。
これにより、従来の金融機関の審査には通らなかった企業にも融資できるかもしれません。その場合、貸出金利を高くできるでしょう。その先にあるのは、将来予想モデルをもとにした経営コンサルティングへのビジネス展開と考えられます。
企業側からすれば、Airレジを無料もしくは安価で導入して毎日の活動に使うだけで、面倒な手間をかけたり審査を受けたりせずとも融資を受けることができるようになり、かつ、経営へのアドバイスも期待できるのです。
現在は子会社リクルートファイナンスパートナーズを通じ、宿泊施設を運営する企業向けにオンライン融資を行っているようですが、今後はAirレジを利用する全産業に展開すると思われます。リクルートには引き続き注目したいところです。
筆者プロフィール/一村 明博
東京都出身。成蹊大学法学部卒業。1993年、大和証券入社。富裕層や中小企業オーナーを主な顧客とする個人営業に従事し、常に全国トップクラスの営業成績を残す。入社3年目には全国NO.1を獲得。
その後、2001年に松井証券入社。2004年、最年少(当時)で同社営業推進部長、そして2006年には同社取締役に就任。高度かつ専門的な知識が必要とされる金融業界において20年以上にわたり500人以上の部下を育てた人材育成のプロフェッショナル。