庄内の風にのせて「歩く道づくり」/東北公益文科大学 特任講師中原浩子
庄内の風にのせて「歩く道づくり」
◆文:東北公益文科大学/特任講師 中原浩子
それぞれの道、それぞれの歩き方
ロングトレイルをご存知でしょうか?
これまでの山岳観光はもっぱら山頂(ピーク)を目指す登山が主流でしたが、美しい山々を眺めながら道を歩く、山に残すのは自分の踏み跡だけというロングトレイルのスタイルが少しずつ日本でも注目を浴びています。
現在、私は鳥海山の山麓でこのロングトレイルを作ろうと地域の方々と共に研究活動を行っています。
そういう私は鳥海山に出会うまで、登山には全く縁がありませんでした。下山することになるのに何故山を登るのか、その行動が理解できずにいました。しかし、そんな私でも庄内に移住した後、鳥海山・月山・蔵王をはじめとする美しき山々に恵まれている環境下で、登山の魅力にとりつかれたのは言うまでもありません。
ところが残念なことに、登山は常に危険を伴うものであり、時期と天候に左右され、体力と知識を必要とする限られた人にしか楽しめないものなのだということに気づき、落胆していたのです。
そんな時、ピークを目指すのではなく、美しい山々を眺めながら、里の景色を楽しみながら、自分の好きなペースで空気を感じ、風を聞き、時には立ち止まって足元の草花を愛でたり、鳥と会話をする……
そんなスタイルで山と親しむ事ができるロングトレイルの存在を知ったのです。
これなら、私のような素人でもずっとこの山たちと楽しいお付き合いをすることができるのではないかと思い、早速、鳥海山で活動する鳥海やわたインタープリター協会に提案し、一緒に取り組むことになったのです。研究テーマは「自然保護と共存する観光~地域と取り組む新しい観光の形〜」。
目標達成型のピークを目指す登山から、歩くことそのものを楽しむ過程重視型の歩く旅。旅や登山はよく人の生き方に例えられますが、人生のあり方も一人ひとり違うように、人生の経験を積んで大人になった今、山の歩き方もそれぞれ違う道があるのではないでしょうか。つい百年前までは、人は自分の力で道をつくり、自分の足でしっかり歩いていたはずです。人がつくった道がつながって、どこまでも歩いて行けるのが当然でした。
私の夢は、鳥海山から秋田県、庄内、そして山形県全体へと、人が自分の力で歩いて移動できる道で繋ぐロングトレイルを実現することです。
中原浩子(なかはら・ひろこ)…1961年生まれ、広島市出身。県立広島皆実高等学校卒業。上智大学外国語学部ポルトガル語学科卒業。同学在学中にバックパッカーとしてヨーロッパ巡りや、アメリカでのホームステイを経験した後、外国語学部で習得した語学力を活かして赤井電機株式会社海外営業部に勤務し、ドイツの会社を専属担当。その後、ベネッセ幼児通信教育部に勤務。海外赴任(駐在員家族として)を経て帰国後、千葉市で英語塾を経営。2010年3月、庄内に移住。ブログ「庄内 大好き!」(http://hiropidiary.n-da.jp/)を開設以来、「庄内に魅せられて」と題した講演会講師を多数務める。