探訪 – 「チームビルディング合宿研修」in 富士吉田/〝人間の持つ力〟を諦めない──。
探訪〜THE・Training!!〜
「チームビルディング合宿研修」in 富士吉田
〝人間の持つ力〟を諦めない──。
◇撮影・文/高永三津子
これから43.6kmのウォークラリーに挑む受講者たち。チームで円陣を組み、気合いを入れる
「理屈は立派だが失敗を恐れて行動しない」「感受性に乏しく気配りができない」
「叱られることやプレッシャーへの耐性が低い」「出世やボーナスに興味がない」……《ゆとり世代》の特徴だ。
こんな若手社員に「話が通じないから扱いが難しい」と手を焼いている経営者がいるかもしれない。
そんな世代とも真正面でぶつかり、ほかにも中堅・幹部社員クラス向けも含め100を越えるプログラムの社員教育を、
外部機関として提供をしているのが株式会社ディプレだ。
なかでも根幹となる「チームビルディング合宿研修」は開始から約11年に渡り受講生の数は7千人を越える。
参加した企業の9割がリピーターとなり、研修への参加人数が毎年1〜2割増、
研修を終えた受講生は社内で実力が認められ短期間に出世する者も多く、
研修未体験の社員に比べ企業の優秀な人材になっているという。
〝常識〟と呼ばれる感覚の通じない若者たちが、短期間で変化を遂げるとは本当だろうか?
実際の現場を確かめるべく、この春入社の新卒社員たちが合宿しているという山梨県・富士吉田市へと向かった。
それぞれの底力を、根気強くあぶり出していく学びの場
富士山麓の合宿所に集まった6社34名の新卒者は各チーム4~5名・合計8チームに分けられ、
3泊4日の間、寝食すべてを共にする。
可能な限り会社ごとのチームとなるが、人数の関係で複数社混合のチームもある。
プログラムは、巷のセミナーによくあるプレゼンスキルのノウハウを学んだりニーズの理解力を深める、
といったロジカルな座学やロールプレイングではない。
『体感することによって理解を深めていくアクションラーニング』が中心だ。
おもちゃのブロックを規定時間内に組み立てる・粘土でオブジェを制作・発声訓練・
フルマラソン以上の距離を踏破するウォークラリーなど17のプログラムをすべてチームでこなし、
ポイントによって勝敗を決める。
「一般常識や社会人としてのマナー講習などは学ばず、
単純そうな内容ばかりだけれど大丈夫だろうか?」と筆者のように考えたり、
「なんで研修なんて受けなきゃならないんだろう?
適当にこなして時間が過ぎれば終わるよね(受講生談)」なんて構えていると、
手痛いしっぺ返しを喰らう内容であった。
「時間を守り、目的を明確にせよ!」と檄が飛ぶ
「2分の遅刻! 毎回毎回遅れる理由はなんだ!?」
「……頑張りが足りないからです」
「頑張りとは何だ!? さっきから下ばかり向いて喋りもしない、
メンバー同士互いの顔も見ずに歩いていただろう? 何をどうすれば頑張れるんだ?」
「はい……(長い沈黙)」
「『自分は頑張っている』を自分の中だけで終わらせるな。外に向かってその頑張りを出せ!」
合宿3日目、43.6㎞ウォークラリー・チェックポイントでのトレーナーと受講生の会話だ。
ポイント通過時間とゴール時間、何を目標としゴールするかはチーム毎に前夜計画を立てている。
知り合って間もないメンバー同士、計画には詰めが甘い部分もあり、さらには道迷い・負傷者などの不測の事態、
そして時間に遅れれば先程のような厳しい言葉でトレーナーから指摘される。
合宿全体の責任者でもある株式会社ディプレ代表取締役・中西誠氏は、
「〝他人の目でものを見れない・一生懸命やるのはカッコ悪い・責任をとりたくないから誰かが言い出すまで何も言わない〟。
ゆとり世代と言われるここ何年かの受講生たちの特徴です。
さらには基礎体力の低下。この距離はひとりで歩くのなら誰でも可能。チームで歩くから難しい。
雰囲気を良くも悪くもするのは誰かではなく自分だということ、これに気づくかどうかでチームがガラリと変わります。
ラリー中盤からが勝負です」と語る。
疲れながらも笑顔で乗り切るチーム、思い通りにいかず暗い表情のチーム……さまざまであった。
しかしどのような状況においてもトレーナーたちは厳しく声をかけ続ける。
時間に間に合えば、「よくやった! でも時間を守ることなど出来て当たり前のことだ!」、
遅刻したチームには「社会でやっていけると思うなよ!」と厳しい言葉を放つ。
いままでに経験のない長距離を歩くことで、気力・体力・精神力の限界を超え、否応なく自分の内面と向き合い、
またそれによって順位や目的の完遂の如何が結果として表れた3日目のプログラム。
その振り返り作業は同日深夜まで行われた。
要所要所で「行けるぞ! 自分たちの目的を忘れるな!!」と歩いているチームに声をかける中西氏
(左)長距離を歩くため救命士がフィジカル面をサポートする/(中)ラリー中、トレーナー陣は参加者全員が共有している携帯電話のGPSアプリで、各チームがどう動いているかを確認している/(右)トレーナーたちは実は元受講生。この合宿のつらさと喜びを知った上で叱咤している
一生懸命やれば感情が動く
4日目・朝のプログラムは「発声訓練」。
ルールは単純で「おはようございます!!」という言葉を1対1で大声で叫ぶチーム戦となる。
より一生懸命だった者に対して受講生たち自身が評価をし、勝敗が決まるものだ。
日毎の体験でつながりが増している受講生たち。
「まだまだ声が出るぞ!」「そんなもので勝てると思うなよ!」と励まし合い、前日とは違い表情も真剣そのもの。
負傷によりラリーを放棄した者、不要なプライドからチームを引っ張れなかったリーダー、
それまでの自分の持つ限界をさらに振りきるべく、それぞれの心の思いが声となって叫ばれていた。
ここまで結果を出していなかった者が勝てば、涙を流してチームで喜び、抱き合い、ハイタッチをする。
そしてプログラムは、「声を出すだけなのに、一生懸命やって勝つのは本当に嬉しいこと。
〝一生懸命〟だからこそ、心が、感情が動いて感動をする。
いま思っている限界は明日には変わる。みんな伸びしろだらけだ!」というトレーナーの言葉で締めくくられた。
(左上)〝一生懸命〟だからこそ、勝った時の喜びもひとしお。チームの仲間と励まし合いながら勝利を目指す。
(右上・右下)発声訓練では、心と身体の奥底から声を振り絞る。勝敗は「より一生懸命だった者」に対して挙手を行い決めていく
(左下)「注意されたことを理不尽だと思ったことはないです。精神的につらいけれど、解決方法を考えていくのが楽しかった」と受講生
会社とはチームであり、チームとは自分の弱点がないものとなる場。
それには自分をさらけ出し相手を知り、高め合うことが必須だ。
社会に出て知る自分のちっぽけなプライドや、仕事を進める上での互いの意思統一の大切さが、
頭で考えるのではなく、単純なプログラムの中で〝身体〟に沁み入る4日間の合宿。
勝ったチーム・負けたチームともに受講生たちは、最初とは打って変わり、最終日には曇りのない清々しい顔をしていた。
受講生たち一人ひとりに細やかな目を配り、微かな変化をも逃さない中西氏はこう語る。
「一見すると、頑な過ぎて対応が難しそうに見えるゆとり世代の若者だけれど『底力』を持っていて、
変わらざるを得ない環境に置かれれば、みずから変わっていく。
周りにいる大人たちがいまの子供たちを作っていて、関わる大人が変われば変わる。諦めたら終わりです」
いつの時代にも「今時の若者」は存在している。あなたも私もそう言われた人であろう。
複雑に考えているのは、周囲にいる者や風潮がそうさせているからかもしれない。
みるみる変化をしていく新卒者たちを目の当たりにして、ゾクゾク、ワクワクし、心震えた取材であった。
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【取材協力】
株式会社ディプレ(代表取締役:中西 誠氏)
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◆2017年5月号の記事より◆