オビ コラム

地方起業─『君の名は』で注目される飛騨の魅力

◇取材:天野央登

 
飛騨地方と聞くとどのようなイメージを思い浮かべるだろうか?

「飛騨牛」「白川郷」といった従来のイメージに、昨年の大ヒット映画「君の名は」の聖地として思い浮かべる人もいるのではないか。

今回、この飛騨地方の魅力に迫り、現地からのレポートをお届けする。

 

 

多くの資源に満ち溢れた宝の山・飛騨

筆者にとって飛騨古川への来訪は今回が初となる。

東京からは新幹線と特急を乗り継いで4時間弱、バスだと直行便で6時間かかる。

古川の駅を降りると、ちょうど雪が舞い始めていた。

ほのかに立ち昇る木々の香りが、澄みきった空気のなかに溶け込み鼻腔をくすぐる。

あたりまえだが、空気が東京よりも美味しい。

 

飛騨地方もほかの地方と同じく、人口減少の問題を抱えている。

データによると飛騨地方の人口は2040年までに現在よりも3割落ち込む。

 

この飛騨市を活気づけようと、現在市役所や起業家の方々が尽力している。

本稿では、そうした取り組みを多くの方に知っていただき、少しでも飛騨に興味がある方に飛騨に赴いてほしいと思う。

(とはいっても、実のところ当初は「君の名は」の観光客需要による起業が増えているかを調べることが取材の意図だったのだが、

聞けば飛騨の魅力は様々であり、それ以外の魅力も浮かび上がってきた、というのが実情なのだが)。

 

今回取材したのは、飛騨市役所の上畑さんと飛騨で起業されたデザイナーの千原さん。

千原さんはUターンして起業された方。

上畑さんによると、飛騨市からは起業がしやすいように資金援助を行っているそうだ。

 

例えば、新規起業者には補助対象額の3分の2以内、上限100万円で資金援助がある。

住居支援等はないのかをお聞きしたところ、「IターンよりもUターン者が多いので、実家があって住まいに困らないUターンの方には住宅支援よりも補助金の方が良いと考えています」とのこと。

 

もともとの目的であった「君の名は」の関連の施策でいうと現地の高校生が映画のそれぞれのキャラクターを演じるというPR企画が存在するという。

だが、版権の関係で「君の名は」関係の商品の独自開発は難しいのだとか。

 

ただ飛騨地方の魅力は「君の名は」以外にも数多くある。

江戸時代から栄えてきたこの地方の豊富な資源を活用するビジネスチャンスはありそうだ。

 

「飛騨には面白いコンテンツはあるが、外に対する情報を発信したり、戦略的にブランドするのが苦手。

だから宝が埋もれているんです。

飛騨っていうネームバリューがあるから勝手に広まるので広報する必要がなかったという側面もあります。

掘り返すと結構いいものがあります。ビジネスの種はある。出し方次第です」とは千原さんの弁。

 

以下にどういった分野があるかを紹介する。

 

 

林業

まず飛騨地方において目につくのはその山と木の多さだ。

見渡す限り緑で覆われている土地ゆえ林業が盛んだ。

現在、数社が間伐によって森林資源を保存しつつ使うことができる森林の量を測定しているそうだ。

安価に使える森林資源。これは何かに使えるかもしれない。

間伐した木材を売却したお金で再び間伐を行い、森林を美しくしていこうという取り組みもある。

 

空き家活用

また、古民家の有効活用も進んでいる。

実際に飛騨市では古民家を活用したゲストハウスや、定年退職された方によるカフェがオープンしている。

月5万円程度で借りられる古民家もあり、安価にビジネスをスタートできる。

 

さらには、こうした古民家や空き家をオフィスとして転用する事例もでている。

特に夏季の研修施設や合宿地として、多くの企業がこの地を選んでいるとのこと。

おいしい飛騨の料理を食べ、普段と違った空気を吸うことでリフレッシュしてもらいながら、

仕事のモチベーションを高めたりとレクリエーション環境としては国内有数の地といえそうだ。

 

農業

飛騨地方で今一番注目されているのは農業かもしれない。

流行りの言葉でいえば、「就農」だ。この地方では特にトマトの栽培に力を入れている。

Uターン、Iターン者を集めた研修制度が人気で参加者も多いとのこと。

 

JA飛騨では、農業のノウハウがない人にも農業が始めることができるように農業の「基本技術」や「栽培技術」を研修によって伝授している。

このプログラムは毎年3名を上限に募集しており、今年で3年目にあたる。

さらには、活動資金として最大3700万円を無利子で借りることもできる。

 

実際に移住した方々も、飛騨の地域で健康に、そして古くからの地域住民とも共生をしながら笑顔で過ごしている人が多いとのこと。

お聞きしたエピソードとして、トマト栽培の研修施設のベテラン教官が、トマト畑までスケボーで通う移住者のためにスケボーにバックミラーをつけてあげたというなんともほのぼのした話を聞けた。

 

この研修施設で栽培したトマトは実はJAが一括で買い上げている。

研修後は空畑を活用して自ら〝就農〟できるのだ。つまり、研修後に起業することもできる。

就農での起業はオーガニックなどハードルの高いものにトライすることが多く、農業初心者には困難だという。

しかし、こちらの研修施設で研修すれば、3年もすると多くの人が立派なビジネスを営めるようになるとのことで、まさに周辺環境含めて仕組みが整っていると言える。

 

 

 

いかがだっただろうか?

このように飛騨地方には多数のビジネスの種が用意されている。生かし方はあなた次第とも言える。

資源があり、自然豊かな地域が起業家を待っている。

 

あなたも飛騨地方にぜひ一度足を運んでほしい。

そして、この地方にある宝を見つけだし、活用してもらえることを望んでいる。

 

 

オビ コラム

 

●合同会社イニシャル

Amano3569@gmail.com

 

 

 

◆2017年4月号の記事より◆

WEBでは公開されていない記事や情報満載の雑誌版は毎号500円!

雑誌版の購入はこちらから