コラム – 欧米諸国のデュアルシステムと若者の失業対策
いち早くEU危機を脱したドイツ、“若者の失業対策における手本”とも称されるオーストリア……
欧米諸国のデュアルシステムと若者の失業対策
世界的な問題のひとつとして挙げられているのが、若者層の失業率が高止まりしていることだ。
ILOが昨年9月に発表した報告書によれば、世界の若者の失業率は2016年で13.1%、全世代のそれは5.7%と約2.3倍の開きがある。
一方デュアルシステムのような徒弟制度が浸透しているドイツとその近隣国では、若者の失業率の割合が極めて低い。
2008年の世界金融危機以降、欧米諸国では失業率が急増したが、ドイツをはじめとする一部の国は限定的だった。
さらに高付加価値型のものづくりを得意とする国も多く、その技術力の高さとの相関関係も注目されている。
今回はデュアルシステムの実例として多く取り上げられるドイツ、オーストリアの教育制度を紹介しよう。
※失業率とは、失業者÷労働力人口×100で算出したもの。 (今回はILOデーターに準拠し、小数点第1で四捨五入している) ※失業率推移 引用/IMF – World Economic Outlook Databases (2016年10月版) ※若者(15歳-24歳)の失業率推移 引用/OECD (2017), Youth unemployment rate (indicator). doi: 10.1787/c3634df7-en (Accessed on 18 February 2017)
◉ドイツ
日本版デュアルシステムを導入する際に、一番に参考にされたといわれるのがドイツ。実はデュアルシステムという名称もドイツ語由来だ。
スペシャリストを育てることを重視しているドイツでは、教育制度も日本とは大きく異なる。
基礎教育は日本でいう小学校の4年生程度まで。その後には進学と就労、どちらを目指すかによってコースが変わる。
義務教育を終えて、職業訓練校へ進学するころには、すでに職人としての基礎的な知識と技術教育を終えているのだ。
こうした背景もあり、ドイツのデュアルシステムは職業訓練としての色が非常に強い。
カリキュラムの主導権を握るのも、商工会議所や手工業会議所といった職人たちの寄り合いだ。
その内容については職種によって異なるが、期間はおおむね2年から4年、座学を週1、2日、残りを受け入れ企業に通い実習訓練を受けるというパターンが多い。
そのほか長期間、実習訓練を集中的に行うというものもある。
実習料は無料で、生徒には法律で定められた報酬が支払われる。
金額についてはアルバイト程度かそれ以下ということが多いようだが、実習年数ごとに報酬額は上がっていくのが基本だ。
しかしデュアルシステムを終えたからといって、即就職というわけではない。
商工会議所や手工業会議所が行う職人試験に合格してはじめて、一人前の熟練工として働くことができるのだ。
なおこの職人試験というのは国家資格であり、ドイツ国内はもちろん、国際的にもプロの職人として高く評価されるものである。
そのため資格取得を目指し、国外からも職業専門校へと留学する学生もいる。
若者層と全体での失業率の乖離が一番低いのもドイツであることを考えると、一連の教育制度は就職をスムーズにしてくれることは間違いない。
しかしながらわずか10歳で進路を決めることへの是非や教育格差、一度決めた進路からの変更やドロップアウトしてしまった若者たちの救済が不十分などさまざまな課題も指摘されている。
◉オーストリア
あまり喧伝されることはないが、世界的にも失業率が極めて低い国がオーストリアである。
ここ数年だけで見ればドイツに見劣りするものの、戦後よりこれほど安定して失業者が少ない国というのはごくわずかだ。
歴史的にもドイツとの関係性が深く、政治システムなど似たところも多いというオーストリアは、製造業・建築業が非常に盛んな国でもある。
高付加価値型のものづくりを得意としており、その優れた職人育成法が注目されてきた。
オーストリアの教育制度だが、義務教育は満15歳まで。日本でいう小学校4年生で基礎教育を終えると、進学と就労、それぞれのコースへと分かれて義務教育を受ける。
ここまではドイツと似ているが、オーストリアの場合は義務教育が終わる1年前にもう一度進路選択を行い、就労訓練に特化した技術学校へ進むか(デュアルシステムはここで行われる)、
一般教育と就労訓練を同時に行う職業教育学校に進むかを選ぶことができる。
またそれぞれの学校に進学した後も、資格取得や進路変更がしやすいように配慮されているのも特徴で、卒業と同時に大学への進学資格も取得できるようになっている。
義務教育後の進学先として、これらの職業教育を提供する学校を選ぶ人の割合は実に8割にもなるという。
一定以上の学力と技術修練を両立させることができるオーストリアの手法は、教育制度のひとつのスタンダードとして今後広がることだろう。
【本稿執筆にあたっての参考資料】
専門高校等における「日本版デュアルシステム」の推進に向けて ―実務と教育が連結した新しい人材育成システム推進のための政策提言― 平成16年2月20日
専門高校等における「日本版デュアルシステム」に関する調査研究協力者会議
報告書 ILO世界の雇用及び社会の見通し 動向編2017年版
学校制度と職業教育 ドイツの学校制度と職業教育 オーストリアのデュアルシステムに関する一考察 ―人材育成の社会的責任をめぐって―
ほか
◆2017年3月号の記事より◆
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