コラム – 実習生に報酬は支払うべきか? 日本版デュアルシステムにおける金銭事情
実習生に報酬は支払うべきか?
日本版デュアルシステムにおける金銭事情
デュアルシステムの受け入れを検討する企業にとって(あるいは実際に実習生を受け入れている企業にとっても)、ずばり知りたいことのひとつといえば金銭面に関する話だろう。
デュアルシステムは実施している自治体や学校の方針によってその内容が変わるのだが、実はそれぞれの詳細な比較資料というのはほとんどない。
金銭面の話題となるとなおさらだ。今回は「実習生に賃金を払うべきかどうか?」をテーマに、その実態を私見を交えて述べる。
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このアンケートは、日本版デュアルシステム導入当初に、デュアルシステムを実施するうえでの当該者である専門学校と企業を対象として行われたものである。
およそ10年前といえば、世界的に経済が回復傾向にあるといわれていたころ。
2008年の世界金融危機を乗り越え、現在は再び持ち直しつつあるとは言われているが、いつどこで大どんでん返しがあるか分からない。
あなたはこの結果をどのように見るだろうか?
日本版デュアルシステムにおける実習生への報酬支払は限定的
日本版デュアルシステムでは、実施する自治体や学校の方針によって内容が異なるのだが、それは実習生への報酬についても同じであるようだ。
ハローワークなどを経由して申し込む“職業訓練の一貫としてのデュアルシステム”では、企業と実習生はパートタイマーとして雇用関係を結び、報酬も支払われるケースが多い。
対象となる年齢層がおおむね40歳くらいまでと働き盛り世代であり、実習期間も最短なら3カ月から半年程度で終わることから、企業としても試用期間感覚で導入しやすいのだろう。
一方で高等課程の生徒を対象とするデュアルシステムでは、“教育の一環”として捉えられているということもあり、報酬が発生しないケースがほとんどだ。
企業報酬は受け取らないと明言する実施校も少なくない。
インターネットなどで調べたところ、こうした年齢・履修科目の区分なく、実習生には報酬が支払われるというものもあったが、それはホテルや観光業・ドラッグストアなど一部職種に限られているようだ。
製造業や病院・クリニックへの実習で報酬が支払われるものは見つけることができなかった。
受け入れ企業の手間や収益機会の損失を考慮すると、むしろ委託費ではまかなえていないのではないか。
そもそも高校生が学校の授業のなかで金銭を受け取ることは不適当だとする声もある。
しかしながら、さまざまな懸念を考慮したうえでなお、高校生を含めたすべての実習生に一定の報酬を支払うことは意義があるのではないかと私は思う。
「専門学校にいく子はやんちゃ坊主が多い」というのは今は昔。経済的な理由から専門学校を選んだという子どもたちは決して少なくない。
実際に実習生たちに話を聞くなかでも、はじめこそ「勉強が苦手だから専門学校に入った」と冗談交じりに口にするものの、
金銭的・経済的事情から普通科への進学を断念したという子、家計を助けるためにアルバイトをしながら学校に通う子、
卒業後の就職を見据えてデュアルシステムを受けていると打ち明けてくれる子は一人、二人ではなかった。
たとえわずかな額であったとしてもデュアルシステムで報酬を得ることができるとなれば、
学費負担の軽減や生徒たちの生活を向上させる意味でも役立つし、実習を希望する学生の数も増えるだろう。
なにより「自分の手で稼いだ金を自分で管理する」経験を積むことは、若い子どもたちにとって金銭の使い方や価値を学ぶ良いきっかけにもなるはずだ。
とはいえ実習生への報酬負担を依頼することで、受け入れを断念する企業が出てきてしまったり、資金と体力にゆとりのある一部の企業や業種だけしかデュアルシステムを利用できなくなってしまうのでは本末転倒だ。
各企業の経営状態や体力によって、負担額を変えるなどの支援策の検討は必要である。
名もなき工場が一軒、また一軒と閉鎖されていくなかで、日本の技術力は目に見えて失われていった。
誰もが知る大手家電メーカーは海外へと工場を移し、日本でモノづくりをする人も、その技を教える人もどんどん減っている。町工場が元気でなくては雇用も技術も生まれない。
風が吹けば桶屋が儲かるといった具合に、ひいては日本社会そのものの活性化にも繋がるのではなかろうか。
実際に商工会や職人同士の寄り合いが主導して就労訓練を行うことで、高い効果を上げている国がある。デュアルシステムの元祖であるドイツがそれだ。
次号では、ドイツにおけるデュアルシステムの制度内容をはじめ、若年層の失業率改善に成功したイギリス、アメリカ、その他欧米諸国の職業訓練の様子について追って紹介する。
【本稿執筆にあたっての参考資料】
・専門高校等における「日本版デュアルシステム」の推進に向けて ―実務と教育が連結した新しい人材育成システム推進のための政策提言―
・キャリア教育における中小企業の役割 ―日本版デュアルシステムを中心に―
・平成16年度 日本経済2004 -持続的成長の可能性とリスク-
ほか
◆2017年2月号の記事より◆
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