イマドキのビジネスはだいたいそんな感じだ! その33

クラウドファンディングは「クラウドマーケティング」として使え!

 

business_column33おそらく日本の成人男性の3人に1人くらいは、小学校時代、ふとこんなことを夢想したはずである。

 

「日本の人口はだいたい1億2000万人だから、1人1円ずつもらうことができれば、1億2000万円集められる!

お、いいじゃん、いいじゃん!」と。

 

でまず親と親戚にもらう。次に近所のおばちゃん、クラスメイト全員、町内会…あとは、隣町の駅前で、電車から降りてきた誰かを捕まえて…。

 

でもそこまで行くにはバス代がかかるな。片道150円、あ、往復で300円は要るな。

1人301円はもらわないと割に合わないな…。ん? 却ってお金がかかるじゃん!」

 

かくして小学生の億万長者計画は、あっけなく潰えるのであった…。

 

あったり前だ。日本人全員から1人1人1円を集めるなんて、どう考えてもコストがかかりすぎる。北海道の人に1円もらうとしたら、北海道までの膨大な交通費が要るわけだから。

 

しかし、その交通費が不要だとしたら。その調達コストが劇的に下がったらどうだろう?

 

そんな小学生の白昼夢のような話が実現できそうなのが、いまどきのネット社会である。インターネットが資金の調達コストを劇的に下げたのである。

 

その1つが「クラウドファンディング」だ。

クラウドファンディングは、資金を必要としているプロジェクトや事業のためにインターネットを通じて募集をかけて、そのプロジェクトの目的や意義に賛同した不特定多数から資金を広く薄く調達する、いわば市民型パトロンである。

 

その形態はさまざまで、お金を寄付して、見返りを求めない「寄付型」やプロジェクトや事業で生まれた商品を買ってもらう(出資者に商品を送る)「購入型」、融資として貸し付ける「貸し付け型」などいくつかタイプがある。

 

いまのところクラウドファンディングの利用者は、金融機関の融資を受けにくいスタートアップ企業、ソーシャル起業家やNPOなどの利用率が高い。

個別のプロジェクトではアート作品の展示会や映画の制作資金として使われることが多いようだ。

もちろん上述したような、自分の懐に金を入れるためにクラウドファンディングを使う、というのは対象にならない。

 

調査会社の矢野経済研究所によれば、クラウドファンディングを仲介する企業も増えて、2016年6月末時点では約140社にも上っているらしい。

それだけ一般化していて、仲介業者にとっても美味しいということだろう。実際手数料は結構高い。2割くらいは平気で取られる。

 

もしかしたらクラウドファンディングを「プロジェクト資金として集める」仕組みと捉えることが転機を迎えているのかもしれない。

そう思わせてくれたのが、昨年公開されヒットを続けている劇場アニメ『この世界の片隅に』のクラウドファンディングである。

 

脚本・監督を手掛けた片渕須直さんらが、制作費を少しでも賄おうと、2015年に2カ月間の設定でクラウドファンディングをかけたところ、目標額の2000万円を最初の8日間で突破、最終的には3900万円を集めたのだ。

ほとんどが数十万から数百万円の目標額のなか、異例とも言える額である。

 

ただこれで映画の制作費が十分賄えるわけではない。目標額2000万は、意欲的な数字だが、制作費全体の10分の1にすぎない。

 

実は片渕監督らは最初から制作費を賄おうとは思っていなかった。狙ったのは「お客さんが確実にいるか」というマーケティングだった。

というのも片渕監督は、前作『マイマイ新子と千年の魔法』で、作品自体は評価されたものの、客層のミスマッチがあってヒットに至らなかったからだ。

そこで、今回の「この世界の片隅に」については、自信はあるものの、本当に観客がいるのかを証明する必要があった。

 

結果、想定以上のマーケットが存在していたことが分かった。

年が明けてからも上映館は増え続け、1月上旬には観客動員数100万人を突破。海外上映も視野に入ってきた。

 

もはやクラウドファンディングは資金調達だけでなく、新商品や新コンテンツのテストマーケティング手法の1つとして拡がりつつある。

クラウドファンディングならぬ、クラウドマーケティングと言ってもいいだろう。そう、金より市場を手に入れる手法なのだ。

 

イマドキのビジネスはだいたいそんな感じだ!

 

オビ コラム

 

 

◆2017年2月号の記事より◆

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