イマドキのビジネスはだいたいそんな感じだ! その32

泡沫候補のトランプさんを勝たせたものとは?

 

 

business_column32a大方の予想を裏切って米国の次期大統領はトランプさんになった。

アメリカのマスメディアのほとんどが「多分ヒラリーさん」と踏んでいたし、公然と「トランプさんはアメリカの大統領にふさわしくない」と言い続けてきたからね。

 

日本のマスメディアも右倣えだった。

ことトランプさんに対しては、右も左もなく、全国紙はおしなべてヒラリーさんだろうと言っていた。

1月からマスメディアはトランプさんとどう距離を置くのかが、見ものだ。

 

少なくともトランプさんが勝つと予見していた人が3人いる。

 

1人は映画監督マイケル・ムーアさんだ。

ブッシュ再選を阻む目的でつくった『華氏911』とか医療問題を突いた『Sicko(シッコ)』とか、突撃系ジャーナリズムの精神を存分に発揮して、米国の闇を突く作品を残している彼だ。

 

彼によれば、「トランプを選んだんじゃなくて、やらせてみたかった。病んだ政治体制に対する辛辣な悪ふざけだった」という。

それに「みんなトランプをなめていた」と。

「考えてもみてほしい、泡沫候補と言われたトランプが共和党の指名を受けたのだから」と。

チェンジとかイノベーションとかいった言葉を好む国民性だから、今回も「迷ったら変えてみよう」的精神が発揮されたにすぎない、と。

 

もう1人はジャーナリストの木村太郎さんだ。

木村さんは、新聞やニュース解説番組で、「トランプだ」と一貫して言い続けていた。理由は「トランプがいい」からではなく、両者がダメだけど、よりヒラリーさんのほうが“闇が深かった”からだと。

 

3人目は作家の志茂田景樹さんだ。

彼はツイッターで事前に「トランプが勝つ」と予見している。

「やり場のない不満が独裁的色調とドッキングしやすい状況が世界を覆ってるなかで、いままでと違った何かを期待するから」と分析した。

彼によれば、「フィリピンのトランプ」ことドゥテルテ大統領も同じ流れで登場したという。

 

言われてみれば、納得がいくことばかりだ。

 

選挙分析では、トランプさんを勝たせたのは、実は民主党候補選でヒラリーさんと最後まで戦ったサンダースさんだという。

アメリカ人がずっと嫌っていた社会主義、共産主義の匂いをプンプンさせた75歳のサンダースさんが、しかも孫ほどの若者層から支持を得て民主党候補として残り続けたことは、ご存知の通りだ。

 

それだけでもちょっと前の政治記者なら卒倒ものだが、しかもあろうことか、選挙本戦でその支持者が元泡沫候補のトランプさんを支えたという。事情通の評論家が絶句するのも分からないでもない。

 

彼らは、エスタブリッシュメントの匂いがプンプンするヒラリーさんを嫌い、「ウォール街の金持ちに増税する」と言ったサンダースさん同様に、自動車工場だらけの土地で「メキシコからの輸入車に35%の関税をかける」とか、

稼働率の低い工場が残る田園地帯で、「アップルに中国ではなく米国内でiPhoneを作らせる」と言ったトランプさんに賭けた。

 

ムーアさんは叫ぶ。

「今回ほど、俺の人生で俺が間違っていると誰かに証明してほしいと思ったことはないな」と。

 

世界が経験したことのない4年間が始まるかもしれない。

 

だがそれほど悲観しなくてもいい気もする。選挙結果が僅差だったことだ。つまり反対勢力も大きいからだ。

ひょっとしたら、トランプさんのことだ「不動産会社経営のほうが大統領よりやっぱり面白いわ」となって、早々に「大統領や〜めた」とならないこともない。

 

選挙に限らず、キャンペーンとかCMとかはワンイシュー、ワンフレーズのほうが伝わりやすい。

しかし実際の生活での問題はたくさんあって、しかも分かちがたく絡みついている。物事は複雑だ。少なくともYESかNOではない。

 

曖昧なものを曖昧なまま動かすのが日本人の悪いところだ、と言われる。しかし物事は曖昧なものがほとんどでできている。

いま眼前にあるコップもPCもクルマも物理的な実態としての重さや質を備えているが、量子の世界までいくと、その存在すら怪しくなる。

 

曖昧なものに一方的な基準や価値軸を与えて、分けられているのがこの世界だとも言える。

大事なことは多様な価値軸を持つことだ。

 

なんか、ちょっと真面目すぎた……でもイマドキのビジネスはだいたいそんな感じだ。

 

オビ コラム

 

 

◆2017年1月号の記事より◆

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