中小企業の強みを示す評価書
【賢者に学べ!】
中小企業の強みを示す評価書
◆西郷国際特許事務所 所長/弁理士 西郷義美
運転資金、3千万円
中小企業のA社は、従業員28名である。ITの研究開発型企業。既存技術のデジタル化をめざし成功した。しかし、資金はそこで底をつき、新製品の製造までは出来ず苦慮していた。
中小企業は不動産などの担保となるものは無く、一般的に資金的に脆弱である。そんなとき、知財を担保にして、融資を受けることが出来そうだとの話を小耳に挟んだ。
その方法とは、「知財ビジネス評価書」を活用するものである。
「ものづくり・商業・サービス革新補助金」の説明会に参加したことで「知財ビジネス評価書」を知り、積極的に、懇意にしている地場の地方銀行に投げかけた。
同行は、専門性の高い研究開発型企業の技術内容の理解や客観的な事業評価を目的として、評価書を活用。A社の技術に関する特許等の評価を実施。
保証協会と連携して同評価書を融資判断の材料として活用。A社の技術や今後の成長性についてより深い理解を得ることができ、同保証協会の保証許諾を得て、A社に対し、運転資金3千万円の融資を実施した。
外国での知財の評価は
・中国では、中小企業の知財を活用する形で担保化しバックアップしている。
・つまり、中国政府が主導する形で、知財を活用して資金難を解決している。知財権を活用し、中小企業の発展を支える融資サービス体制の整備を進めている。
・資金繰り対策。着実に技術力を高めている。
・知的財産権担保融資。急速に成長を続ける中国企業。
日本における知財担保融資
日本においては過去にも知財担保融資システムが検討されたが、いったん下火になり、いままた脚光を浴び、成果を上げつつある。
不動産などの価格は下落し、有形資産のみの担保システムに陰りが生じ、知財などの無形資産に光が当たりつつある。
この特許庁が主導している知財ビジネス評価書は、金融機関が申し込むものだが、融資を受ける中小企業側から積極的に評価書の申込みを、働きかけることも有効であろう。
特許を保有する企業は保有していない企業よりも売上高営業利益率、従業員一人当たり営業利益率ともに高いことは、よく知られている。
一部の中小企業では、特許などの出願費用や、特許権など知財権の維持費用を惜しみ、技術的にかなり高度な独自技術を開発しているにもかかわらず、特許を出願しないケースがみられる。経営的に根本から誤っている。
このようなことをしていては、知財戦争に負けてしまう。結果的に、敵方の知財の威力で壊滅的損害を被り、知財権の威力を知ることになる。
しかし、そうなる前に、各自の企業の成績表である評価書を眼前に突きつけられ、現実を目の当たりにすることは重要なことである。
もし、知財戦略をないがしろにしていれば、その結果、大事件を引き起こし得るのだが、その危険を事前に評価書から察知できることになり、危険を回避できることになる。評価書制度の意義は高い。
その評価書を以下説明する
一言で言えば、中小企業の知財を評価することで、企業の強みが分かり、中小企業の強みを評価し、融資を実行し、中小企業の更なる発展を後押しする制度、と言える。
制度の概要、つまり、
・特許・商標等は知的財産権といい、法律によってその権利が守られており、経営資産として有効に活用することが可能。
・中小企業が持つ知的財産権について、専門の調査会社がその技術内容等を含めたビジネス全体を評価し、「知財ビジネス評価書」を作成する。この評価書は、企業の強みや成長性、ビジネス全体を読み解くことができるものである。
・金融機関の方は、この評価書により、中小企業の特許や技術等がどのようにビジネスに貢献し、利益を生み出しているのかが分かるため、経営評価の判断材料として活用できる。
・その結果、その中小企業に融資し、バックアップする。
・つまり、特許・商標等の企業が保有する知的財産を活用したビジネスの実態をわかりやすく説明し、そのビジネス全体の評価を行う。
そして、端的に言えば、評価書で判ることは、
・現在の、この会社がどんな特許や技術で儲けているのかが判る!
・現在の、特許等の技術をつかった製品の概要
・将来の、事業の見通しが判る! 今後の事業の成長性を評価
・将来に向け、知財や事業に関する課題を指摘
それでは、評価書を入手するために金融機関のやるべき事は、
・申請書に必要事項を記入して頂くだけで、特別な資料の添付などは不要である。
・また、費用は不要である。無料。作成にかかる費用は全額特許庁が負担するため、金融機関、中小企業の負担は発生しない。
手続きの流れは、
・金融機関が、クライアントである中小企業の評価の申請をする。この申請を特許庁の受託事業者は、受付ける。
・受託業者は、提携調査会社に、評価指示をする。
・調査会社は、中小企業に、ヒアリングを行う。
・調査会社は、評価書を、特許庁の受託事業者に提出する。
・受託事業者は、金融機関に、評価書を提出する。
・金融機関は、融資可能性や将来性の判断に活用できる。
この評価書制度を活用して、同行初の融資を実施した銀行は、
・専門性の高い研究開発型企業に対する適正な事業性評価を行うツールとして役立った、と言っている。
・また、中小企業の成長要因に密接に関わる特許等の知財を評価し把握することは、金融機関が企業の事業性や中長期的な成長性を見極めるために有益であった、と述べている。
なお、
・対象となる企業は、中小企業で有り、特許、実用新案、意匠、商標のいずれかの権利を保有しているという条件である。いまは、著作権のみしか保有していない企業は対象にならない。
・評価書を作成してもらいたい中小企業からは、残念ながら直接申請はできない。申請は金融機関からに限られている。金融支援に活用させたいからである。
・それでは、評価対象企業は、その評価書を金融機関に見せて欲しいと言い、見せて貰えるか? 評価書は金融機関の判断で評価対象企業に内容を開示しても構わないと、特許庁は言っている。
ここで分かることは、やはり知財は、強大な威力を有し、企業をもり立ててくれる存在であるということ。知財取得に励むべきである。
なお、特許庁では並行して、金融機関が知財を切り口として顧客企業とのリレーションを強化し、企業の実態把握を深めるため、知財を切り口とした企業の実態把握の啓蒙サービスも行っている。
●筆者プロフィール/西郷義美
1969年 大同大学工学部機械工学科卒業
1969年-1975年 Omark Japan Inc.(米国日本支社)
1975年-1977年 祐川国際特許事務所
1976年10月 西郷国際特許事務所を創設、現在に至る。
《公 職》
2008年4月-2009年3月
弁理士会副会長(国際活動部門総監)
《資 格》
1975年 弁理士国家試験合格(登録第8005号)
2003年 特定侵害訴訟代理試験合格、訴訟代理資格登録。
《著 作》
『サービスマーク入門』(商標関連書籍/発明協会刊)
『「知財 IQ」をみがけ』(特許関連書籍/日刊工業新聞社刊)
●西郷国際特許事務所(創業1975年)
所長 弁理士/西郷義美 副所長 技術/西郷竹義
行政書士/西郷義光
弁護士・弁理士 西郷直子(顧問)
事務所員 他7名(全10名)
〈お茶の水事務所〉
東京都千代田区神田小川町2-8 西郷特許ビル
TEL 03-3292-4411 FAX 03-3292-4414
〈吉祥寺事務所〉
東京都武蔵野市吉祥寺東町3-23-3
TEL 0422-21-0426 FAX 0422-21-8735
Eメール:saipat@da2.so-net.ne.jp
saigohpat@saigoh.com
URL:http://www.saigoh.com/
◆2016年10月号の記事より◆
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