ブラック企業社名公表から1年、現状とこれからを考える
〈シリーズ〉風評被害対策 第14回
ブラック企業社名公表から1年、現状とこれからを考える
カイシャの病院・ソルナ株式会社
ネットの監視サービスや風評対策総合コンサルティングを行う『カイシャの病院』として、中小企業から上場企業まで多くのクライアントのネットトラブルに対応。書かれたものへの対処法だけでなく、「今後いかに書かれにくい企業」としていくか、そのための様々なサービスにも力を入れており、さながら「根治治療」を掲げる専門医のようだと好評を得ている。六本木ヒルズにて開業中。
様々な「ブラック企業」に対する認識
今や、学生や転職者が就職・転職活動において、面接を受ける会社の情報と共に「その会社がブラック企業ではないか?」をインターネット等で調べるということはごく当たり前になってきました。
そして一度ブラック企業だと認知されると、ほとんどの人はその会社を受けることすら避けることになります。
学生や転職者にとっては、これから入社する会社次第で今後の自分の人生が大きく変わるわけですから、違法な労働環境の中で働かされるような会社は万が一にも避けたいわけで、おのずと会社選びは慎重になります。
その一方、企業側にとっても、たとえ悪意はなくとも知識不足や認識違いの結果、一度ブラック企業として認知されてしまうと、たとえすぐに改善したとしても、インターネットにブラック企業だという情報ばかりがまん延してしまうという現状があります。
これほどまでに「ブラック企業」という言葉が広がりを見せ、社会問題になっていることから、国も動き出しました。ブラック企業撲滅へ向けた国の取り組みの一つが、昨年5月にはじまったブラック企業「社名」公表です。
2015年5月に決まった社名公表の新基準
今までも、労働基準監督署の再三の是正勧告に従わない悪質な企業を、労働基準法違反で書類送検するということがあり、ここまでの段階になったら社名を公表してよいことになっていました。
しかし、指導に従わないなど、ここまで悪質ではなくとも、違法な長時間労働をさせる等のブラック企業は多く存在するとみられ、このようなブラック企業を撲滅させていく為に、厚生労働省は2015年5月に社名公表の新基準を発表したのです。
その新基準とは、大きく言うと、労働基準監督署の行政指導である是正勧告だけでも社名を公表することができるというものでした。
とは言っても、是正勧告を受けた会社が全て公表されるわけではなく、ここにも条件があります。
まずは、複数の都道府県に事業場がある規模のいわゆる大企業であり、月100時間を超える残業や時間外労働といった違法な長時間労働をしている労働者が1カ所で10人以上おり、
なおかつそれが複数の事業場で起こっており、その状態が1年以上継続している、といった場合に限るとされています。
新基準で公表された会社
この新基準の発表から1年後の今年5月、初めてこの新基準でのブラック企業の社名公表がありました。
その会社は、千葉市で棚卸し代行業を経営しているエイジスという会社です。
千葉労働局によると、同社は4カ所の事業場で働くそれぞれ10人以上、計63人に月100時間を超える時間外・休日労働が認められ、最長の場合はおよそ197時間もの時間外・休日労働があったということでした。
社名の公表を受け、同社は自社サイトにお知らせを掲載し、是正指導を真摯に受け止めること、そして社長をトップとするプロジェクトチームを発足させて、長時間労働の削減に着手する旨を発表しました。
基準を下げるべきとの声もあるが変更の予定はなし
ただ、このようにブラック企業の社名が公表されたのが、新基準の発表から1年経ってたった1件だけ、ということには疑問の声も上がっています。
「違法な時間外労働をさせているのはこの会社だけのはずがない」「もっとしっかり調査してどんどん公表するべき」という公表件数の少なさへの疑問、
そして「公表されるのが大企業だけでは意味がない、中小企業こそ悪質なブラック企業が多い」「まだ公表の条件が厳しい、複数の事業場に複数人、
そして一定期間が必要では結局調査するのに膨大な時間と手間がかかり現実に追いついていない」といった、公表する基準への疑問などです。
しかし、厚生労働省は現在のところ基準を下げる予定はないということです。ただ、だからといって国も何もしていないわけではありません。
現在は企業名の公表よりも、労働基準監督署の立ち入り調査をする基準を、現在の「違法な残業が100時間を超える従業員が1人でもいる場合」から「違法な残業が80時間を超える従業員が1人でもいる場合」に引き下げる予定でおり、
立ち入り調査による是正勧告でブラック企業の芽を早期に摘んでいこうという方針のようです。
このやり方は、単純に考えても立ち入り調査の対象が2倍以上に増えることになり、現在でも不足していると言われている労働基準監督官でどう対応していくのかに疑問も上がっています。
イメージダウンの方が法的ペナルティよりもダメージが大きい
ところで今回公表された千葉の棚卸し代行業のエイジスは、法的なペナルティとしては、現段階では行政指導の是正勧告のみで、強制力はありませんでした。
ただし、公表されてしまったことによる影響は決して小さくないはずです。
すぐにプロジェクトチームを立ち上げて対応していますが、国にブラック企業と認められ公表された、ということで企業イメージと信用は大幅に落ち込むことが予想されます。
事実、発表の翌日の株価はストップ安となりました。また、Yahooで社名を検索すると複数のニュースサイトやまとめサイトが10位以内に表れます。
ニュースサイトでは株価下落を話題にしたものやブラック企業の烙印を押された経緯を解説したものがあり、これらのサイトが上位に表示されることが続く限り、営業面だけでなく採用面でも悪い影響を与え続けることになります。
社長が知っておくべき今後の流れ
ブラック企業社名公表の新基準から1年、まだ公開された企業は1社という結果でしたが、今後の流れはさらに基準も厳しくなり、対象となる企業も中小企業まで広がることが予想されます。
法的ペナルティはないから安心するのではなく、公表された場合のリスクを考え対策していかなくてはいけません。
また、法的ペナルティよりもイメージダウンの方がダメージは大きいとなると、ネット上の書き込みも無視できません。
インターネットにおいては、口コミや場合によってはウワサといった事実と異なる情報によってブラック企業と認知される可能性もあります。
NAVERといったまとめサイトの運営者は閲覧数を稼ぐためにあらゆるニュースをまとめて記事を作成します。
今回の場合もまったくの第三者が芸能ニュースと同じ感覚で話題にして記事を作成した結果、1カ月あまりで約3万人がアクセスしたことがわかっています。
彼らにとってのネタ選びの基準は、テレビのニュースに限らずネット上のあらゆる情報の中から閲覧数が期待できる話題性があるかどうかで決まります。
特に、ブラック企業ネタは話題性があることから記事にされやすいといえます。
これまでは、社名で検索した際に、悪意あるネガティブなサイトが上位に表示されて悪影響を受けていたものが、これからはそれらのサイトを見た悪意ない何者かが閲覧数稼ぎの目的で話題にしたネガティブなサイトからも、さらに悪影響を受ける危険性があるのです。
経営者として、小さい火種を無視するのではなく、小さいうちに対策を打っておくことが大きな火にしないための対策であるということを知っておくべきではないでしょうか。
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カイシャの病院・ソルナ株式会社
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◆2016年9月号の記事より◆
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