オビ コラム

Business Column イマドキのビジネスはだいたいそんな感じだ! その26

元気に「ハイ!」と返事をする若手がいる組織は常勝軍団になれない

 

いまから四半世紀以上前、バサロキック(知らない人は調べてね)を武器にソウルオリンピックで金メダルを獲った鈴木大地さんを、テレビ中継で見ていた時、「日本にもこんな知恵のあるアスリートがいるんだ」としきりに関心したことを覚えている。

 

で、1、2年前、しばらくぶりに彼の姿をテレビの画面で目撃した時、「何で水泳界のメダリストが駅伝の監督をやっているのか」と首を傾げた。だが勘のいいワタシはすぐ「スポーツの天才というのは、ジャンルを問わずなんでもできるのだな」と思い直した。そしてその思考は、その後彼が初代スポーツ庁長官という役職に就いた際に自信となってワタシの身体を漲らせた。

 

「何か一つの分野で抜きん出た結果を残している人は、まったく別の分野のトップもやすやすとこなせてしまうものだ」と。

 

だが間もなく、驚愕の事実を知るのである。ワタシが鈴木大地だと思っていた人物は、原晋という全くの別人だったのだ。他人の空似である。

 

ワタシは世間でいう〝いいオヤジ〟の年齢であるが、新橋界隈でおだをあげている頑固オヤジと違い、高い自己修正力を持っている。今回の件もすぐさま自己修正力を発揮して、鈴木大地のそっくりさんである原晋なる人物をしっかり峻別し、そしてなぜ彼がテレビに出ているのかを解剖した。

 

さらに驚愕の事実が判明した。原晋という人物は、鈴木大地と顔だけでなく生まれた年も一緒だったのだ! だが世間が原さんを取り上げているのは、ちょっと違っていた。

 

原さん率いる青山学院大学という駅伝チームが、箱根駅伝という日本でも最も由緒ある駅伝で総合二連覇を達成しただけでなく、その1、2年前まで青山学院大学がエントリーすらままならない大学だったこと。しかも原さんは駅伝ランナーとして高校でちょっと活躍したものの、その後は大学、実業団でもパッとせず、サラリーマンとして出直すことになるがそこでも落ちこぼれてしまったなんとも情けないアスリートだったことだ。

 

その情けない元アスリートが母校でもない大学の理事を前に「常勝チームをつくる」と言い放ってそれを実現したから世間が驚いているのだ。

 

スポーツに限らず、ビジネスでも常勝チームをつくることは監督者の夢だ。それを実現した人を世間では「名将」と呼んだりする。しかし従来の常勝チームは真の意味で常勝チームとはなっていない。なぜなら、その名将が去れば常勝チームでなくなるからだ。真の常勝チームは名将が去っても仕組みで勝てるチームだ。原さんは真の常勝チームをつくったのだ。原さんは組織とは4つのステージで成長すると考えた。

 

すなわち、①監督の命令で動く「命令型」、②監督がチームの代表者(キャプテンなど)に指示を出して動く「指示型」、③監督が代表者の方向だけを代表者に伝えて、代表者とメンバーが一緒に考えて動く「投げかけ型」を経て、最終的に④選手がすべて考えて行動し、監督はメンバーに対してサポーター役に徹する「サポーター型」に行き着くのだ。

 

常勝チームのメンバーは自分のすることが分かっているので監督はほとんど何もしないのだ。原さんは練習時にはほとんど何もしない。じゃあ、監督は何をするのかというと選手の微妙な変化を感じ取ることだという。何か「?」と感じたら、何気にメンバーに声をかける。そこで「実はこう考えている。こうしようと思う」とメンバーが気軽に相談してこれるような空気がつくられている。つまり監督のもう一つ重要なことはチームのメンバーが相談しやすいコミュニケーション環境をつくることにある。

 

原さんはメンバーが話をしやすいように部員の好きなタレントやアニメなどを勉強している。そうやって同じ目線でくだらない冗談を言い合い、コミュニケーションが取れるから、メンバーが気軽に相談してこれるのだ。

 

原さんはだから体育会系にありがちな、元気よく「ハイ!」と返事をする学生を評価しない。こういう「返事がいい学生は監督の指示に従うだけで自分で考えようとしない」からだ。少なくとも近寄りがたい雰囲気だけの名将やカリスマには、イマドキの常勝チームはつくれない。

 

イマドキのビジネスはだいたいそんな感じだ。

 

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2016年6月号の記事より
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