オビ コラム

超訳『社会人基礎力』Vol.12〈最終回〉

『海外生活経験者』というブランド人材活用のススメ

~“超・採用難時代”を迎えるこれからの人材育成と人材採用を考える~

 

株式会社エストレリータ/代表取締役社長 鈴木 信之

 

12_Est12_012005年経済産業省(以下、経産省)において、官僚・学者・企業人事の方々が議論し、定義されていった『社会人基礎力』(=組織や地域社会の中で多様な人々とともに仕事を行っていく上で必要な基礎的な能力)。

10年経った現在、「これからの日本にとって12の社会人基礎力はどんな意味をもつのか?」、そして「12の社会人基礎力を身に付けるためにはどうしたらいいのか?」について、海外生活に挑戦する日本の若者のキャリア支援を、起業以来9年間でのべ33,000人超に提供してきた株式会社エストレリータ代表の私、鈴木信之が、改めて、この『社会人基礎力』の超訳(再定義)に挑んでみたいと思います。

企業経営者の皆さまには人材育成や人材採用の観点から、そして、子を持つ1人の親としてはご自身のご子息・ご令嬢への教育の観点から、“これから”を考える1つの契機としていただければ幸いです。

 

 

【第12回】ストレスコントロール力

今回はいよいよ最終回。『ストレスコントロール力』について考えていきたいと思います。

 

『ストレスコントロール力』:ストレスの発生源に対応する力(経産省の定義)

現代は〝ストレスフルな(ストレスの多い)時代〟と言われていますが、その背景には次の3つの変化があると思われます。

1つ目は、社会のグローバル化により、様々な〝違い〟の中でこれまで以上の成果を求められるようになったこと。〝同質性〟の中では問題なく成果を出すことができた日本人にとって、〝多様性〟の中で今までと同様に、否、それ以上に成果を出していくには、強いストレスがかかります

2つ目は、社会のIT化に伴い、これまでのようにリアルな人間関係に時間を割かなくても、ヴァーチャルなそれが代替し、次第に人との関わりが希薄となったため、他者との僅かな衝突すら、より大きなストレスに感じてしまうことです。

そして3つ目は、高度成長期の時代には存在していた社会として皆が向かう〝唯一無二の方向性(ベクトル)〟が完全に消滅したこと。新たなイノベーションを必要とする現在では、進むべき方向の見えない〝将来〟が、不安とストレスを大量生産するようになっています。

 

そもそもストレスには、ユーストレス(eustress)とディストレス(distress)の2つがあります。前者のユーストレスが、心地よい緊張感で自分を奮い立たせる〝良い〟ストレスであるのに対し、後者のディストレスは、自分の心身に不快感をもたらし、他者との関係を壊す言動を発動させる〝悪い〟ストレスです。

そしてこのディストレスはインフルエンザのように、周囲に感染していきます。誰かのディストレスから生じる負の感情は、その人と接する沢山の人にうつされてしまうのです。お互いにうつし合いながら〝拡大再生産〟されていくストレスが、現代を〝ストレスフルな時代〟に仕立てていくのです。

 

少し前まで、ストレスに耐えられること(忍耐力や我慢強さ)は高く評価されていました。しかし、それらは今、以前ほど評価をされません。どんなに我慢強くて100のストレスに耐える力がある人も、101のストレスがのしかかった瞬間に、心が折れ、メンタルが不調となり、〝鬱(うつ)〟となるのです。

メンタルヘルスをきちんと学べば、僕らは全員〝鬱予備軍〟であることを理解できるはずです。自分のキャパシティ(capacity)を超えたら誰でも折れてしまう力(忍耐力・我慢強さ)よりも、そのストレスを処理する力である〝ストレスコーピング力〟の方を高く評価する世の中になってきたのです。

 

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【図1】にあるように、同じ100のストレス(ストレッサー:ストレスの原因)がのしかかったとしても、ストレスコーピング力が低いAさんと高いBさんでは、心や身体への負担(ストレス反応)の大きさは全く異なります。Aさんには80の負担が掛かり心身とも不調となってしまいますが、Bさんには10しか負担が掛からなかったため心身ともに元気なままでいられるのです。

我慢強いと言われる企業戦士が、負荷の高いプロジェクトを終了した直後に燃え尽きてしまい、メンタル不調となるケースを目にした人も多いはずです。〝レジリエンス(resilience)〟と呼ばれる、折れない心・しなやかな心が、数年前から企業・人事の注目を集めているのも、忍耐力ではなくストレスコーピング力が評価されるように変化してきた証左かもしれません。

 

では、この〝ストレスフルな時代〟を生き抜いていくために、私たちにできるのはどんなことなのでしょうか? 私は次の4つのことが大切だと考えます。

 

1つ目はストレスの〝受け止め方〟。

『ストレスは自分が成長するために神様がくれた〝贈り物〟だ』と捉えることで、どんなストレスも〝良い〟ストレスであるユーストレスに変換できるはずです。無理なポジティブシンキングを勧めるつもりはありませんが、頑張る理由(発奮材料)にすることができれば、不快なストレスも少しだけ受け容れ易くなるはずです。

2つ目はストレスの〝自覚力〟。

〝悪い〟ストレスであるディストレスは、人間関係を壊してしまう言動を無意識に発動させますが、軽いディストレスは意識下に置くことができます。つまり自覚できるのです。自分がディストレスの状態に入り始めたことに、きちんと気付くことができれば、無意識になるまで放っておくことがなくなります。自分が周囲にディストレスをまき散らす発生源とならなくて済むのです。

3つ目はストレスの〝把握力〟。

逆に、他者のディストレスを早期に把握できれば、その相手とコミュニケーションを取るタイミングをずらすことができ、相手からのディストレスに感染してしまうことを未然に防ぐことができるはずです。もちろん、相手のディストレスの原因を探り、その除去を支援してあげることもできるのです。

最後の4つ目はストレスの〝仕入れ〟です。

人間は、不意に襲ってきたストレスに弱い生き物ですが、自分からストレスを取りに行くこともする不思議な生き物です。受験も留学も自ら進んでストレスを〝仕入れ〟に行っているようなものです。〝受動的な〟ストレスはディストレスになりやすいですが、〝積極的な〟ストレスはたいていユーストレスとして機能し、挑戦のモチベーションとすることができるのです。

 

日本にいる限り、私たちが体験できるのは〝国産〟のストレスのみですが、海外に飛び出せば、未知の〝外国産〟の様々なストレスに出遭えます。  企業人事としては『海外生活経験者』たちを、未知のストレスを積極的に仕入れに行き、それを上手に処理して、ストレスコーピング力を高めてきた、〝変化の時代にこそ活きる〟人材として捉え直してみてはいかがでしょうか?

そして1人の親としては、何が起こるか分からない時代に、日々〝未知との遭遇〟の中で生き抜いていかなければならないご子息・ご令嬢を、〝未体験のストレス〟の仕入れのため、進んで海外に送り出してあげてはいかがでしょうか? 過保護になって、ストレスコーピングを代替してあげてばかりでは、生きていくことに困る日がすぐにやってきてしまいますから。

 

全12回の連載の中で、【社会人基礎力】を今の日本というフィルターで捉え直してみました。もちろん私見ではございますが、何か1つでも皆様の参考となることがあったとしたら、望外の喜びでございます。1年間本当にありがとうございました。

 

 

◉超訳『社会人基礎力』その12:ストレスコントロール力

未知のストレスを積極的に仕入れていき

それらを処理する方法と良い受け止め方を身に付け

自分や他人のストレスを早期にキャッチしながら

お互いに感染し合うことを未然に防ぐこと

 

 

〈Information〉
株式会社エストレリータでは、海外生活経験者だけが登録できる【Est Navi】という採用サイトを運営しています。利用できるのは、“超・採用難時代”に大きな不利益を被りながらも果敢に挑み続ける中小ベンチャー企業のみ。 ご興味のある方は ml@estrellita.co.jp または、 ☎03-5348-1720 までお問い合わせ下さい。

 

オビ コラム

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プロフィール/すずき・のぶゆき

1972年9月6日生まれ。慶應義塾大学経済学部卒。中学受験の老舗企業「四谷大塚」で講師人事・企画を担当。次に当時〝世界のBig5〟と言われたデロイトトーマツコンサルティング(現アビームコンサルティング)に入社。HRコンサルタントとして、吸収合併した会社の事業再生や子会社の人事部長として実績をあげる。その後、パソナグループの子会社パソナテックに入社。人事統括や企画責任者を歴任。大手企業の採用コンサルティングや大学でのキャリアセミナー講師を担当。2007年7月に人事コンサルティング企業エストレリータ設立。企業での研修・セミナーや大学などでの講演は年間200本超。日本に99名しかいない国家資格・一級キャリアコンサルティング技能士の1人(2015年5月現在)。

 

 

株式会社エストレリータ

〒164-0003 東京都中野区東中野3-8-2 矢島ビル4F

TEL 03-5348-1720

http://www.estrellita.co.jp

http://www.kaigaiseikatsu-supli.jp

https://www.est-navi.jp/

 

 

 

2016年6月号の記事より
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