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超訳『社会人基礎力』Vol. 11

『海外生活経験者』というブランド人材活用のススメ ~“超・採用難時代”を迎えるこれからの人材育成と人材採用を考える~

 

 2005年経済産業省(以下、経産省)において、官僚・学者・企業人事の方々が議論し、定義されていった『社会人基礎力』(=組織や地域社会の中で多様な人々とともに仕事を行っていく上で必要な基礎的な能力)。

 10年経った現在、「これからの日本にとって12の社会人基礎力はどんな意味をもつのか?」、そして「12の社会人基礎力を身に付けるためにはどうしたらいいのか?」について、海外生活に挑戦する日本の若者のキャリア支援を、起業以来9年間でのべ33,000人超に提供してきた株式会社エストレリータ代表の私、鈴木信之が、改めて、この『社会人基礎力』の超訳(再定義)に挑んでみたいと思います。

 企業経営者の皆さまには人材育成や人材採用の観点から、そして、子を持つ1人の親としてはご自身のご子息・ご令嬢への教育の観点から、“これから”を考える1つの契機としていただければ幸いです。

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【第11回】規律性

 今回は第11回目。『規律性』について考えていきたいと思います。

 『規律性』:社会のルールや人との約束を守る力(経産省の定義)

 〝規則(ルール)〟に則って、自らの発言や行動を適切に〝律する〟ことができるということですが、今日の社会ではやたらと〝規則〟や〝法律〟が増えてきている気がします。あらゆることを〝規則〟で定めなければならない社会の背景には何があるのでしょうか? この〝規律〟を『守る』『伝える』『創る』『疑い・壊す』、そして〝規律〟が『不要な社会を創る』という5つの側面から見ていきたいと思います。

 

まずは〝規律〟を『守る』という面。

 人として誰しもが守るべき〝規律〟のほとんどは、保育園や幼稚園の園児の時代に学ぶと言われています。しかし、それは誤った個人主義の中で、社会に出るまでの間に〝有名無実〟なモノへと変わってしまいます。少品種大量生産の時代から多品種少量生産の時代への変化は、〝規律〟や〝モラル〟にまで多品種を持ち込み、守るべき〝規律〟と守らなくてもいい〝規律〟を自分の好みで選別させるようになります。そして、オリジナリティとは異なる、〝自分勝手〟とか〝自分さえよければ〟という形容詞の付いた、自己流という名の〝規律〟が人口の数だけ出来上がる訳です。本当に守るべき〝規律〟など片手か両手の数くらいしかなかったはずなのに、それすら守れない人が出てきたため、逆に沢山の細かい〝規律〟を創らなければならなくなるのです。

 

次に〝規律〟を『伝える』という面。

 4つの現象が〝規律〟を『伝える』ことを難しくしています。

 1つ目は、SNSを含めたヴァーチャルな時間が、人と人とのリアルな時間を奪い始めていること。他者や社会との接点が少なくなり、それに伴って〝規律〟や〝モラル〟を学ぶ機会も著しく減少してしまいます。

 2つ目は、効率を重視した過度な分業化の進展。人間関係を希薄にし、世代間ギャップの大きさもあいまって、〝規律〟や〝モラル〟の、世代を超えた伝播がされにくい世の中となってきています。

 3つ目は、「下手に〝規律〟を伝えようとしたら、相手に逆ギレされてしまい、怖い目に遭った」という事件。そんなことを見聞きするたびに、見て見ぬふりをするのが〝お利口〟とされる風潮が出来上がってきています。

 4つ目は、自分の子供だけを過度に守りたいと考える〝モンスターペアレント〟の出現。彼らは、〝規律〟を伝えようとする先生にまで牙をむくため、〝規律〟を教えることを半ば放棄した学校すら見受けられます。

 学生の間も、社会人になってからも〝規律〟を『伝えられる』機会に恵まれなかった若者が、〝規律〟に親しみを覚えられないのは、ある意味で仕方の無いことなのかもしれません。

 

次に〝規律〟を『創る』という面。

 社会の急激な変化によって、無くなる(=人間がやることではなくなる)仕事が出てくると同時に、全く新しい仕事やサービス・商品も誕生しています。その変化の速さは、本来創らなければならない〝規律〟が全く追い付いていない状況を生み出しています。そして〝規律〟を『創る』時、それを守るべき主体の範囲も考えなければなりません。ある会社が守るべき〝規律〟なのか、ある地域に必要な〝規律〟なのか、国として大切な〝規律〟なのか、あるいは、地球に住む一員として考えていかなければならない〝規律〟なのかということです。『国連グローバル・コンパクトの10原則』というものの中で、人権・労働・環境・腐敗防止の4分野は地球人として守っていかなければならないことだと提言しています(http://ungcjn.org/gc/principles/index.html)。逆に、もう少し身近なところで、友達との間で大事にしている〝規律〟や、自分自身の中で大切にしている〝規律〟も『創る』対象となるのです。

 

次に〝規律〟を『疑い・壊す』という面。

 いくら一度創った〝規律〟だからとは言っても、時代に則さなくなってくれば『壊す』ことも必要となります。〝これまでの常識〟〝これまでの当たり前〟〝前例〟という名の〝規律〟は、健全に『疑い』、必要ならば『壊す』ということをしなければ、時代に取り残され、その組織(企業・地域・国など)は哀れな末路を辿らざるを得なくなります。閉ざされた〝日本〟という村社会の中だけで通用していた〝規律〟の中には、急速なグローバル化の中で『疑い・壊す』必要があるものも沢山あります。その〝規律〟の中で生きる人の種類が増えれば、当然、〝スクラップ&ビルド〟が必要となる訳です。

 

最後に〝規律〟が『不要な社会を創る』という面。

 「歩きスマホをしたら罰金ですよ!」とか「昔、交際していた相手の性的画像を公開するとリベンジポルノ防止法に抵触しますよ!」とか、以前なら誰もしなかったようなことをし始める人が出てきて、考えられる全てのことを〝規律〟化しなければならない社会になりつつあります。毎日のように法律が生み出されていく社会は、果たして健全な社会なのでしょうか? 〝規律〟と〝罰則〟に対して過度に依存する社会は、私たちが目指すべき世の中なのでしょうか? 個人の中の〝規律性〟を信じて、必要最低限の〝規律〟だけで過ごせる社会と、個人の中の〝規律性〟を疑い、沢山の〝規律〟でがんじがらめにする社会、どちらを選択し、どちらを次の世代に残していくのかは、私たち自身の決断と覚悟にかかっているのです。

 

 国が違えば、当然〝規律〟も異なります。国民性の違いは、大切にしている〝規律〟の違いと見ることもできます。日本で生活していくために必要な〝規律〟を頭に蓄えて生きてきた人が、海外に飛び出した瞬間に、全く異なる〝規律〟の中で生きていかなければならず、新たな〝規律〟を仕入れ始めるのです。それは〝規律〟を『守る』『伝える』『創る』『疑い・壊す』の4技能を習得していく過程と捉えることもできます。そして、〝ある〟のが当たり前だと自分が信じていた〝規律〟が存在しない世界に足を踏み入れると、〝規律〟が『不要な社会を創る』素地を自分の中に芽生えさせることができるのです。

 企業人事としては『海外生活経験者』たちを、本当に大切な〝規律〟を『守り』『伝え』、変化と成長を妨げる〝規律〟を健全に『疑い・壊し』、新たな時代に必要な〝規律〟を『創り出す』力を持った人材として捉え直してみてはいかがでしょうか?

 そして1人の親としては、国が違っても変わらない、本当に大切な数少ない〝規律〟の存在に気付くために、そして、就業規則や法律などの〝規律〟に頼らなくても、自らの言動を適切に律していく力を養うために、海外という〝異なる規律の世界〟にご子息・ご令嬢を送りこんであげてはいかがでしょうか。そこで生きるための〝規律〟を何も知らない〝赤ん坊〟になる体験は、きっと園児の頃に教わった、人として大切ないくつかのことを思い出すきっかけとなるはずですから。

 

◉超訳『社会人基礎力』その11:規律性

人として本当に『守る』べき〝規律〟が自身の中にあり

大切な人にもそれを『伝える』ことができ

それ以外の〝規律〟は必要に応じて

『創る』『疑う』『壊す』ことができること

 

Information

株式会社エストレリータでは、海外生活経験者だけが登録できる【Est Navi】という採用サイトを運営しています。利用できるのは、“超・採用難時代”に大きな不利益を被りながらも果敢に挑み続ける中小ベンチャー企業のみ。

ご興味のある方は ml@estrellita.co.jp または、 ☎03-5348-1720 までお問い合わせ下さい。

株式会社エストレリータ代表取締役社長/鈴木 信之

 

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すずき・のぶゆき

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1972年9月6日生まれ。慶應義塾大学経済学部卒。中学受験の老舗企業「四谷大塚」で講師人事・企画を担当。次に当時〝世界のBig5〟と言われたデロイトトーマツコンサルティング(現アビームコンサルティング)に入社。HRコンサルタントとして、吸収合併した会社の事業再生や子会社の人事部長として実績をあげる。その後、パソナグループの子会社パソナテックに入社。人事統括や企画責任者を歴任。大手企業の採用コンサルティングや大学でのキャリアセミナー講師を担当。2007年7月に人事コンサルティング企業エストレリータ設立。企業での研修・セミナーや大学などでの講演は年間200本超。日本に99名しかいない国家資格・一級キャリアコンサルティング技能士の1人(2015年5月現在)。

 

株式会社エストレリータ

〒164-0003 東京都中野区東中野3-8-2 矢島ビル4F

TEL 03-5348-1720

http://www.estrellita.co.jp

http://www.kaigaiseikatsu-supli.jp

https://www.est-navi.jp/

大阪国際大学での海外渡航前セミナーの様子

大阪国際大学での海外渡航前セミナーの様子

 
◆2016年5月号の記事より◆

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