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【連載】超訳『社会人基礎力』Vol.10

~“超・採用難時代”を迎えるこれからの人材育成と人材採用を考える~『海外生活経験者』というブランド人材活用のススメ

◆文:鈴木信之(株式会社エストレリータ)

 

【第10回】情況把握力

 今回は第10回目。『情況把握力』について考えていきたいと思います。

 『情況把握力』:自分と周囲の人々や物事との関係性を理解する力(経産省の定義)

 全てを自給自足でまかない、誰の力も借りずにひっそりと独りで生きているのでない限り、私たちは他者との関係性の中で仕事をし生活をしています。自分という〝個〟が〝社会〟から望まれる存在であり続けられるかどうかは、この『情況把握力』の有無に大きく左右されます。

 〝個〟を尊重せず、〝個〟を〝社会〟や〝集団〟の中に埋没させていきなさいと言っている訳ではもちろんありません。ただ、〝個の尊重〟を〝チームの否定〟と捉えたり、〝行き過ぎた個人主義〟と同値にするべきではないと思います。

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 皆が同じ能力や強みを持っているはずはありませんし、その必要もありません。私たちにはそれぞれ他者と異なる強みや弱みが備わっています。それぞれの弱みを論(あげつら)い合っていては、チームは創られません。また人が集まっただけでは、グループ(群れ)にはなりますが、チームにはなりません。それぞれの強みを惜しみなく提供し合う中で初めて、チームが誕生し、そこにシナジー効果(相乗効果)が生まれるのです。

 それぞれの強みを持ち寄った〝作品〟には、その創作の過程で、様々な視野や価値観が包含されていきますし、多様な人々に受け容れられるモノとして世に出されるのです。

 

 『情況把握力』の有無は、採用選考の1つとして行なわれることが多いグループワークの中で測られます。即席のチームの中である課題に取り組む訳ですが、その時に、リーダータイプの人はリーダーシップをとり、サブリーダータイプの人はリーダーをフォローし、ムードメーカータイプの人は良いあいづちを打ちながら話しやすい雰囲気を創り出したりします。これらの役割ができないなら、時間くらいは測れるとタイムキーパー役を買って出て、時間内に課題が終了するように残り時間をメンバーに伝えることもできるのです。チームがゴールするために、どんな役割でも良いから、それを発揮し貢献しようとしない求職者は、採用担当の目に留まりません。

 

 皆が「ピッチャーをやりたい!」と言ってピッチャーマウンドに9人全員がいたら、野球はできませんし、「シュートを決めたい!」からと言ってキーパーも含め11人全員が敵のゴールの近くにいたら、サッカーにはならないのです。

 どのポジションであっても、そこで自分に課せられた〝果たさなければならない役割〟があります。それを瞬時に見つけて、すぐに発揮することができなければ、チームで仕事をしていく一員にはなり得ないのです。

 そして強いチームは、その役割も固定的ではありません。「相手がこう動くなら、自分はこう動かないと…」とか「彼女がリーダーをやるなら、僕はサブリーダーとしてサポートしようかな…」とか「上司が思い切りカミナリを落としたんだったら、自分が後で彼らにその意味を通訳(フォロー)してあげないと…」とか。チームの他のメンバーとの相互関係の中で、自分が提供できるモノを柔軟に変えていくことができるのです。「空気を読む/読めない」とかではなく、「この場で自分ができること(貢献)は何だろう?」と考えて、行動に移す習慣をつけることが大事なのです。その際に、その提供したものが正解か不正解かというよりも、何かしらの貢献がしたいという気持ち(マインド)の方がずっと重要なのです。

 

 皆が自分で少しずつ料理を持ち寄るパーティーに参加することを思い浮かべてください。

 もし自分が持っていった料理を他者から「不味い」と否定されたら、また次回もこのパーティーに参加したいと思うでしょうか? 人が出してきた〝強み〟を否定したり、見下したりするような相手とは、付き合いそのものを避けたいと思うのが当たり前であり、当然そこにチームは生まれません。相手を否定せず、合意形成ができる人材なのかを〝コンセンサスゲーム〟と呼ばれるグループワークを使って、企業・採用担当者は確認しているのです。

 逆に、パーティー前日までに、他の人が何を持っていくか尋ねておくことができれば、それと重ならず、違う料理を用意できるので、参加者は皆、料理のバリエーションを楽しむことができます。相手に合わせた臨機応変な貢献(=料理)の提供が、チームの力(=パーティーの満足度)を向上させることに繋がるのです。

 

 2002年のNHKスペシャル「変革の世紀~第2回 情報革命が組織を変える」という番組で、ピラミッド組織を逆転させるというものがありました。顧客や生産現場に接している一般社員に大規模な権限委譲を行なって、中間管理職も経営陣もその支援にまわる逆ピラミッド型の組織を創ろうとしている超大企業が登場し始めていると紹介されていました。そのような組織では当然、その場その場での臨機応変な判断と対応が求められますし、その瞬間その瞬間でリーダーシップをとらなければならなくなることも起こります。そんな未来型組織の構築にはこの『情況把握力』が必要不可欠なのかもしれません。

 

 私たちは、同質の中では、権利の主張に陥りやすくなります。「私はこうしたいんだけど…」「僕、それは嫌なんだけど…」となりがちです。ですが、異質が混じると、「私はこういうことならできるよ…」「僕はこんなこと得意だよ…」と貢献の持ち寄りが自然と生まれます。

 『海外生活経験者』たちは、この自分が貢献できる役割の持ち寄りを、実際に海外で何度も経験し、異文化適応能力を高めてきています。

 企業人事としては『海外生活経験者』たちを、〝異文化〟適応能力のみならず、〝異質〟適応能力と貢献意識が高い人材として捉え直してみてはいかがでしょうか?

 そして1人の親としては、異なる強みを持った他者と、(グループではなく)チームを創る力を養うために、海外という〝異質の交差点〟にご子息・ご令嬢を送りこんであげてはいかがでしょうか。自分の強みを惜しみなく提供して、組織がゴールに辿りつくことに貢献するための『情況把握力』をきっと身に付けてきますから。

 

◉超訳『社会人基礎力』その10:情況把握力

自分がチームに貢献できる役割を

瞬時に発見・発信でき

他者が発信してきたものによって臨機応変に

こちらの発信を変えることができること

 

●Information

株式会社エストレリータでは、海外生活経験者だけが登録できる【Est Navi】という採用サイトを運営しています。利用できるのは、“超・採用難時代”に大きな不利益を被りながらも果敢に挑み続ける中小ベンチャー企業のみ。

ご興味のある方は ml@estrellita.co.jp または、 ☎03-5348-1720 までお問い合わせ下さい。

 

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●プロフィール/すずき・のぶゆき(株式会社エストレリータ/代表取締役社長)

超訳『社会人基礎力』Vol.09_03

1972年9月6日生まれ。慶應義塾大学経済学部卒。中学受験の老舗企業「四谷大塚」で講師人事・企画を担当。次に当時〝世界のBig5〟と言われたデロイトトーマツコンサルティング(現アビームコンサルティング)に入社。HRコンサルタントとして、吸収合併した会社の事業再生や子会社の人事部長として実績をあげる。その後、パソナグループの子会社パソナテックに入社。人事統括や企画責任者を歴任。大手企業の採用コンサルティングや大学でのキャリアセミナー講師を担当。2007年7月に人事コンサルティング企業エストレリータ設立。企業での研修・セミナーや大学などでの講演は年間200本超。日本に99名しかいない国家資格・一級キャリアコンサルティング技能士の1人(2015年5月現在)。

 

株式会社エストレリータ02グローバル人材育成教育学会 関西支部大会での講演の様子

●株式会社エストレリータ

〒164-0003 東京都中野区東中野3-8-2 矢島ビル4F

TEL 03-5348-1720

http://www.estrellita.co.jp

http://www.kaigaiseikatsu-supli.jp

https://www.est-navi.jp/

 

◆2016年4月号の記事より◆

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