~“超・採用難時代”を迎えるこれからの人材育成と人材採用を考える~ 超訳『社会人基礎力』Vol.09
【連載】超訳『社会人基礎力』Vol.09
~“超・採用難時代”を迎えるこれからの人材育成と人材採用を考える~ 『海外生活経験者』というブランド人材活用のススメ
◆文:鈴木信之(株式会社エストレリータ)
2005年経済産業省(以下、経産省)において、官僚・学者・企業人事の方々が議論し、定義されていった『社会人基礎力』(=組織や地域社会の中で多様な人々とともに仕事を行っていく上で必要な基礎的な能力)。
10年経った現在、「これからの日本にとって12の社会人基礎力はどんな意味をもつのか?」、そして「12の社会人基礎力を身に付けるためにはどうしたらいいのか?」について、海外生活に挑戦する日本の若者のキャリア支援を、起業以来8年間でのべ29,000人超に提供してきた株式会社エストレリータ代表の私、鈴木信之が、改めて、この『社会人基礎力』の超訳(再定義)に挑んでみたいと思います。
企業経営者の皆さまには人材育成や人材採用の観点から、そして、子を持つ1人の親としてはご自身のご子息・ご令嬢への教育の観点から、“これから”を考える1つの契機としていただければ幸いです。
【第9回】柔軟性
今回は第9回目。『柔軟性』について考えていきたいと思います。
『柔軟性』:意見の違いや立場の違いを理解する力(経産省の定義)
急速なグローバル化により、ニーズや価値観の多様化が進んでいる今、最も必要なチカラの1つと言っても過言ではないのが、この『柔軟性』です。日本ではダイバーシティ(Diversity:多様性)を〝女性活用〟と捉えたり、〝外国人活用〟と考えたりしがちですが、本当の意味のダイバーシティはもっと平易で、〝私の〈普通〉とあなたの〈普通〉は違うし、違って良い〟ということだと思います。
私たちは同質(例えば日本人だけの集団)の中にいる時、どうしても『~するべき』とか『当然~だ』が強くなる傾向があります。一方で、例えば職場に1人外国人の方がいると、『彼は外国人だから、しょうがない』と、平気で日本人との違いを受け容れる。明らかに異質なものは『しょうがない』という魔法のコトバで許容することができるのです。これがダイバーシティのヒントになります。良い意味で、目の前の人を〝自分とは異質な存在〟と捉えることができれば、多様性や柔軟性に近づくことができるはずなのです。
『~するべき』の『べき』は強弱はあるものの、人口の数だけ存在しています。自分の『べき』が強すぎると、相手の『べき』を容れにくくなる。一問一答のような単純な課題は姿を消し、唯一無二の正解がない時代となり、複数の回答の組み合わせから生じる複数の正解が存在する今の世の中では、様々な『べき』の掛け合わせが新しいモノを生み出す。だからこそ、自分と異なる『べき』を、複数回答の存在を、そして複数の正解を許容できることが大切であり、これこそ『柔軟性』に他ならないのです。『べき』が強い人ほど、〝異質〟との遭遇を積極的に自分自身に課していかないと、『柔軟性』が形骸化してしまいますし、『僕は柔軟だから、若手からも、後輩からも、新入社員からだって話を聞くよ』と言いながら、聞くだけで全く受け容れるつもりはないという『偽柔軟性』人間が蔓延(はびこ)ってしまいます。
さて『柔軟』の反対は何でしょう? 例えば、『信念』『価値観』『成功体験』『固定観念』などが挙げられます。確かにその度合が強すぎると『柔軟性』を損なうことになるでしょう。ただ、それぞれは決して悪いものではありません。
『過去の成功体験に固執しちゃいけない。ゼロベースで考えなくては』という台詞を良く耳にします。なるほど正論だと思いますし、それがイノベーションの源泉であることに疑いの余地はありませんが、過去の成功体験が今の日本の繁栄を築いてきてくれたことも事実であり、ただそれを否定すればよいというのも、『柔軟性』を欠いた姿勢と言わざるを得ません。どのような意見にも、反対意見に耳を貸す『柔軟性』が必要なのだと思います。
では、日頃どんなことをしていけば、本物の『柔軟性』を身に付けていくことができるのでしょうか? ここでは4つのことを提案したいと思います。
1つ目は〝変化に対してポジティブな姿勢でいる〟こと。
人は予期せぬ〝変化〟に怖れを抱く。突然の別れ、解雇や倒産もそれにあたります。でも、人は自ら積極的に変化を取りにいくこともある。転職などはその最たるものです。そこには希望があり、夢があり、想いがある。変わらないモノへの安心感を持つことがいけないとは言わないが、現状維持が〝幻〟であるような変化の激しい時代には、変化をネガティブに捉えて怖がるよりも、ポジティブにチャンスと捉えるほうが良い結果に繋がることも多いし、柔軟性を伴った沢山の選択肢の存在に気づくこともできる。『ピンチをチャンスに!』というキャッチは正にこのことだと思います。
2つ目は〝ポジションチェンジの眼鏡を掛ける〟こと。
自分から相手に視点を変換し、自分の『べき』を持ちながら、相手の『べき』も見えるようになるのも良いでしょうし、空想の中で、〝反対な自分〟を創り出して、〝今の自分〟とディベートさせてみても良いかもしれません。本来、違う視点を容れにくい自分自身の中に、いかに違う視点を創ることができるかが大事だと思います。
3つ目は〝同調圧力を破壊する〟こと。
〝出る杭を打ってきた〟これまでの日本では、程度の差こそあれ、同質性を重んじ、異質を排除してきました。〝皆同じ〟であることが心に平安をもたらし、〝皆と違う〟ことをする人を村八分にしてきました。ただ、仮に日本人同士の異質は排除できたとしても、外国人という異質は排除しようがありません。グローバル化社会の到来は、同調圧力の終焉を意味します。だからこそ、お互いに分かり合っている人以外とのチームを組みながら、〝同質性〟が生み出す『べき』を思い切り破壊し、〝同質性〟を歴史の教科書にしか存在しないものに追いやることが必要なのだと思います。
4つ目は〝アウフヘーベン(止揚)する〟こと。
〝AかBか?〟というどちらかが正解で、どちらかが不正解という考えから脱却し、〝AもBも〟という、より高次の解答もあるはずだと考える。どちらか一方しか取れないという思い込みを外してあげることも『柔軟性』を鍛える道となります。悩んでいる時は間違いなく視野が狭くなり、『柔軟性』を欠いていることがほとんどだからです。
私たち日本人は、日本にずっといる限り、私たちの〝普通〟〝当たり前〟〝常識〟を、人類皆共通の〝普通〟〝当たり前〟〝常識〟だと思い込んでいます。海外に飛び出して初めて、私たちの〝普通〟〝当たり前〟〝常識〟なんて、日本という地域限定の、平成という時代限定の、〝多くの中の1つ(One of them)〟でしかないことに気がつくのです。
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『海外生活経験者』たちは、日本の〝普通〟〝当たり前〟〝常識〟を健全に疑うことができるようになり、様々な国の人たちが持つ多様な〝普通〟〝当たり前〟〝常識〟を仕入れ、そこから新しい複数の正解を創り出すことができるようになって帰国してきます。
企業人事としては『海外生活経験者』たちを、唯一無二の解答を探して行き詰った〝今〟を、力強く打破していってくれる頼もしい人材として捉え直してみてはいかがでしょうか?
そして1人の親としては、違いを許容し、〝I am OK, You are OK(自分も正解だけど、あなたも正解)〟という姿勢を身に付けるために、海外という〝違いのるつぼ〟にご子息・ご令嬢を送りこんであげてはいかがでしょうか。自分の答だけに固執せず、相手をそのまま受容できると、相手に対して優しくなり、人間関係が良くなる。そんな『柔軟性』をきっと身に付けてきますから。
◉超訳『社会人基礎力』その9:柔軟性
自分の普通や自分の『べき』と
相手の普通や相手の『べき』とを
共存させることができ
複数の正解の存在を疑うことなく
ポジティブに〝変化〟を受け容れられること
●Information
株式会社エストレリータでは、海外生活経験者だけが登録できる【Est Navi】という採用サイトを運営しています。利用できるのは、“超・採用難時代”に大きな不利益を被りながらも果敢に挑み続ける中小ベンチャー企業のみ。
ご興味のある方は ml@estrellita.co.jp または、 ☎03-5348-1720 までお問い合わせ下さい。
●プロフィール/すずき・のぶゆき(株式会社エストレリータ/代表取締役社長)
1972年9月6日生まれ。慶應義塾大学経済学部卒。中学受験の老舗企業「四谷大塚」で講師人事・企画を担当。次に当時〝世界のBig5〟と言われたデロイトトーマツコンサルティング(現アビームコンサルティング)に入社。HRコンサルタントとして、吸収合併した会社の事業再生や子会社の人事部長として実績をあげる。その後、パソナグループの子会社パソナテックに入社。人事統括や企画責任者を歴任。大手企業の採用コンサルティングや大学でのキャリアセミナー講師を担当。2007年7月に人事コンサルティング企業エストレリータ設立。企業での研修・セミナーや大学などでの講演は年間200本超。日本に99名しかいない国家資格・一級キャリアコンサルティング技能士の1人(2015年5月現在)。
●株式会社エストレリータ
〒164-0003 東京都中野区東中野3-8-2 矢島ビル4F
TEL 03-5348-1720
http://www.kaigaiseikatsu-supli.jp
◆2016年2・3月号の記事より◆