TPPでどうなる知的財産権 ‐ 西郷国際特許事務所
TPPでどうなる知的財産権
◆文:西郷義美(西郷国際特許事務所所長・元弁理士会副会長・国際活動部門総監)
(写真=pixabayより)
「百選」危うし。裁判の判決を紹介する専門誌である「判例百選」シリーズの「著作権判例百選」の改訂版で裁判沙汰があった。
元の編者から、「自分の氏名が無断で外された」、これは著作権侵害だとしてである。旧版の編者だった大渕東京大学教授が、出版元の有斐閣の改訂版出版差し止めを求めた仮処分申請である。
東京地裁は2015年10月26日付けで、改訂版の出版差し止めを命じる仮処分決定を下した。有斐閣の敗訴である。
事の次第はこうである。2009年12月発行の「著作権判例百選第4版」では、4人の編者の1人として表紙に大渕教授の氏名が記載されていたが、今年11月発行予定の第5版では、編集の依頼は無く編者から外された。しかし、大渕教授は、「新版の第5版は、旧版の第4版とほとんど同じ内容で、無断で編者から外すのは著作権侵害」として訴えていた。
有斐閣は「編集は、4人のうち中心的な作業を行ったのは2人の研究者で、大渕教授は当たらない」と主張した。しかし、東京地裁は「第5版は、収録判例や執筆者の8割超が第4版から維持されており、2次的著作物に当たる」と判断。「第4版を意に反して改変したと言わざるを得ない」として、著作権侵害と認め、改訂版の出版差し止めを命じる仮処分決定を下したのである。
ま、言うなれば、幼稚園児が、「何でオレだけ、学芸会の役から外すんだよ!」と言うケンカである。しかし、学者人生においては、生死に関わることであろう事も納得できる。
有斐閣も、法律書を扱う老舗であるの、何とぶざまな処理をしたのか。しかも、裁判までもつれ込むとは。かつ、勝訴の見込みはどこにあったのか。不思議である。そのような法律書の内容は、大丈夫か。また、今回のこの判例は、地裁ではあるが、百選には掲載するのだろうか。載せる場合は、公平な記述を望むものである。
TPPにおける知財の概略
ところで今、ちまたで沸騰しているTPPは、知的財産権知財を最重要視した米国と、日本との一騎打ちの様相だった。TPPにおける知財の概略を述べてみたい。
ついに2015年10月5日、TPP大筋合意が報じられ、同日、政府対策本部は概要を発表した。
いわゆる「知財3点セット」とは、
第1「保護期間延長」
日本では現在「著作者の死後50年」である著作権が、「死後70年」に延長される。
そして、「作品・実演・レコードなどは公表後70年」である。なお、米国の当初要求は70年などでなく、95年だった。持てる知財で稼ごうとしていた魂胆ありありである。日本等の交渉の成果で、70年に。
ここで確認すると、
施行期日の時点で、すでに日本での保護期間が切れている作品は、復活しない(と考えるのが一般的)。
既に50年が経過し、パブリックドメイン化(知財権が消滅した状態。「公有」とも言う)したものは、生き返らない。
すでに徐々に切れ始めていたビートルズなどの楽曲は、命拾いし20年ほどはパブリックドメイン化しないことになる。
第2「法定賠償金又は追加的賠償金の導入」
「法定損害賠償」とは、発生した損害の程度に応じて賠償額をその都度に算定するのではなく、制定法の範囲内で確定するものをいう。損害額の算出が困難な不法行為に対し、法的救済を行うのである。
また「追加的賠償金」は懲罰的賠償金を含むとされている。将来の侵害予防の観点等から十分な賠償金額を裁判所が独自に認定できることなどが明記された。
第3「著作権侵害の非親告罪化」
つまり、著作権侵害事件を著作権者など被害者(著作権者等)の告訴を経ることなく公訴を提起できるようにするということである。
ポイントは2つ、
第1は、非親告罪化することによって、警察が勝手に動いて、恣意的に逮捕することも考えられる。つまり、
捜査機関が特定の言論人・言論機関を監視、検挙できる恐れがある。
なお当然であるが、ネット上に海賊版の音楽や画像などを無断アップするなどは、非親告罪の対象である。
第2は、著作権侵害事件の全てがこの非親告罪の対象になるのかとの疑問がある。
これに対し、政府発表では、「商業的規模の侵害」で、「原作等の市場での収益性に大きな影響を与えない場合は除外」となっている。つまり、重大な事件性のあるものに限定する趣旨である。
今後どうなるか
では、国内法はいつごろ変わるか。
極めて順調に行って、2016年に国会で承認、2017年早々に施行できれば上出来、と言われている。
いずれにせよ、TPPは大筋合意された。米国情勢など綱渡りは続くものの、施行に向けて進むはずである。
そこで、いつもの生き方である。流れをうまく利用するのが人生の奥義であるので、TPPを上手に利用、活用し、裕福に、楽しく、生き残る創意工夫をすべきだ。
「メリットあり」と考えて進む事が、是と考える。積極肯定主義である。
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