オビ スペシャルエディション

FCEトレーニング・カンパニー代表安河内亮が注目企業に切り込む!

伸びる会社の人材育成術

第3回:株式会社ブリングアップ史

 

 

株式会社ブリングアップ史

株式会社ブリングアップ史(社員数90名)

本社:東京都港区西新橋2-22-1 ル・グランシエルBLD.5F

TEL:03-6880-3050  FAX:03-6880-3051

http://bring-tv.com/

 

「伸びている企業の秘密は人材育成にあった!」

成長を遂げている企業の経営陣は、どのようにして人材育成を行っているのだろうか。これまでに4,500社を超える企業の研修・教育を行ってきたFCEトレーニング・カンパニー代表、安河内亮が伸びている成長企業を取材し、人材育成のポイントを探る。

 

平均離職率が8~9割と言われるTV業界。その中において、「やめない人材」を業界に送り続ける会社が株式会社ブリングアップ史。新卒を採用し、3年かけて育て、業界に送り出すというユニークなビジネスモデルを構築した、まさにTV業界の人材育成のプロともいえる野田社長にお話をお伺いしました。

オビ インタビュー

─まずは事業について教えていただけますでしょうか。

 

弊社では、テレビ制作業界に特化した人材派遣業と人材育成業を行っています。具体的に言うと、「テレビ番組制作」を志す新卒人材を正社員として採用し、3年かけて一人前に育てます。その期間に彼らは、テレビ制作会社で派遣スタッフとして仕事をし、OJTで業務を覚え、テレビマン、社会人として必要なことを身につけてもらう。そして、一人前になって卒業し、制作会社に転籍するまでを支援するという事業です。

テレビ制作会社は、アシスタントディレクター職を担う若手社員の平均離職率が8~9割とも言われています。そんな中で、弊社を卒業した社員の離職率は3割です。既に300名以上の弊社の「卒業生」が名だたるテレビ番組のディレクターとして活躍しています。

 

─なぜ、このような事業を始められたのでしょうか?

 

テレビ業界は職人肌の人間が多く、待っていても誰も教えてくれない。自分から努力しないと生き残れない世界なんですよね。一方で、この業界で活躍したいと考える20代の多くは、「好きな仕事だ」と思ってやってくるけど、実際はそんな厳しい現実をイメージできていないから、入社してから「入社前のイメージとは違った」といって辞めていってしまいます。

僕はそんなテレビ業界を変えたいと思いました。そこで、新卒を採用し、育てて、送り出していくことで業界を変えようと思ったんです。もうこの事業を始めて12年になりますが、最近では、創業初期の卒業生が、各制作会社でそれなりのポジションになり、教育する側になっている。

弊社で学んだことを受け継いで、「育てる組織」を作っていってくれるんです。そうなると、弊社の考え方や教え方が周りのプロデューサーに伝播していき、人が辞めない、人が継続する会社組織に生まれ変わるのです。こういう会社が増えていることを最近特に強く感じています。

 

─素晴らしいですね。どのように人材を育成されているのでしょうか?

 

弊社はいわば「テレビマンとしてだけではなく、社会で通用する一流の人材」を育てる会社とも言えます。だからこそ、若いうちに仕事の基礎、人間として、社会人としての基礎をしっかりと叩き込みます。そのために社内の研修もみっちりとやっていますし、外部の研修も活用しています。テレビ制作に関わる具体的なスキルもそうですし、人間力的な部分もそうです。

そのような人材育成をした上で、社員をテレビ制作会社へ派遣するのですが、やはりそこでつまずく社員も出てきます。その中で最も多い理由が、実は「人間関係」。同僚同士での好き嫌いという問題だけでなく、主体的に物事を考えられているかどうかという面もあれば、具体的な仕事の仕方に問題の原因があったりもします。

こういった失敗をしてしまった社員とは、必ず面談し、一緒に「振り返り」をします。問題が起きたから他の会社に派遣し直すのではなく、どんな問題が起こったのかを具体的に把握し、何が課題だったのかを社員と一緒に探り、それをどう解決し乗り越えていくかを考えます。

そして、その課題を乗り越えるために、社内や外部の研修に参加させます。普段から、何かしらの失敗をした社員に対して、必ず「失敗の元をとるように!」と言っていますから(笑)。

 

─具体的に行動が変わったことを感じた人はいますか?

プライドが高くて、人の対応が悪い、とか、○○さんがやってくれない、とか、周りの人のせいにばっかりしているような社員がいました。周りがやってくれないから自分はできないということばっかり言っているので、私が「じゃあ、自分でやれ。全部お前ができるのか?」と問いただしました。すると、「できません」って(笑)。

つまり、その社員はただ単に協調性がないんです。仕事へのやる気はあるので、苦手なだけだと思いました。その彼とは一緒に現状の課題を洗い出し、「プライドを捨てろ」という話をして、外部のマナー研修に送り出しました。挨拶や第一印象をトレーニングする研修です。

その研修に参加させたところ、研修後に出してもらったレポートで「プライドを持つのは仕事をしっかり覚えてからでも遅くない」っていうコメントを自分で気づいて書いてくれていたんですよ。

研修を担当された講師からは、その社員について「周りの模範になる」というコメントをもらいました。自分で気づいたからこその結果ですよね。今、彼は新しい派遣先でOJTを始めていますが、うまくいっているみたいです。

 

─そんな野田社長が仕事をするうえで一番大切にされていることは何ですか?

 

物語の「主人公になること」だと思っています。僕自身は営業マン、エンジニア、そして今のテレビ業界と、全くの異業種を転々としてきました。「やりたい仕事」というのは特にありません。ただ縁があってその仕事に携われるのであれば、自分の価値観を最大限に発揮し、結果を出してみたいと思っています。

そう思うと、「自分なんか」と嫌々考えながら端っこで仕事するよりも、仕事を進める真ん中にいたほうがいいと思っています。やってみたら、どんな仕事でも楽しさってあるんですよね。それを見出すことを考えると「仕事の真ん中」にいることの方が楽なんです。自分がその仕事の、物語の「主人公になる」ことを選ぶというか。

そうすると、いろいろな人に会って、いろいろな仕事ができて、結果を出すことで成長できる。いろいろな人に会うと、自分では気づかないさまざまな評価をもらうことになります。それが短所であれば、まずはちゃんと受け止め「変えていこう」と思えればそれでいいと思っています。

ただ、その分さらに長所を伸ばしていく。短所も長所も、自分の判断で決めるのではなくて、仕事においては「評価者は他人」だからこそ、それを受け止める時期を20代は特に持ってほしいと思っています。

 

 

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FCEトレーニング・カンパニー代表・安河内亮の一言

 

FCEトレーニング・カンパニー 安河内亮

ブリングアップ史で人が育ち、業界で活躍をされている要因はいくつもありますが、特に注目すべきは2点と感じました。

①人材育成は「リーダーシップマインド」「マネジメントスキル」「オペレーションスキル」の3段階がある

②人材育成の主体者はトップである

 

短期的に成果をあげ、「あの人は仕事ができる人」と言われる人は、主に「オペレーションスキル」つまり専門的なスキルや知識の習得に力を注いでいます。

例えばセールスマンが短期で数字を上げようと、セールスに関するさまざまなテクニックを懸命に勉強するといったことです。しかし、これだけでは成果は長続きしません。スキル・テクニックだけでは、遅かれ早かれ成長スピードが鈍化してしまうのは皆様も納得いただけるところではないかと思います。

 

長期的に成果を出し続けるためには、やはり土台に主体性を持ち、自らをよりよい方向へ導くリーダーシップマインド、またはどんな場面でも共通する正しい仕事の仕方や進め方というセルフマネジメントスキル(リーダーであれば、仕事のさせ方という意味合いでマネジメントスキルとも言います)が必要です。そして、その土台の上にオペレーションスキルをのせていく。この流れを個人の育成において取り入れることが重要だと感じています。

まさにブリングアップ史は、自社での教育と外部の我々によって、土台部分をしっかりと構築しています。この取り組みが大きなポイントの1つとなっています。

 

そしてもう1つは、トップ自らが人材育成の主体者であるということです。育成を決して外部に任せっきりにしない。常にボールは自分達が持っていて、適切なタイミングと適切なテーマで時に外部をうまく使う。これは、人材育成に成功する企業の主となる共通点の1つです。

例えば、外部企業と役割分担をクリアにして数名の人の育成プランを作ったりする。このようにトップ自らが常に目の前の人材について向き合いながら、リソースをいい意味で「使い倒している」企業は、次々に人材が育っています。ブリングアップ史の取り組みは、そんな好例であったと思います。

 

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FCEトレーニング・カンパニー

代表/安河内 亮

東証一部上場企業にて、大手小売チェーン等の経営支援に携わり、その後、人財開発部門へ。就職人気企業ランキング日本50位へランクイン、「働きがいのある会社」ランキング入賞など実績を残す。その後FCEトレーニング・カンパニーを創業。自らも人財コンサルティング、社内大学構築等を実施。嘉悦大学非常勤講師。

https://www.training-c.co.jp/

 

2015年10月号の記事より
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