次世代の産業を担う【中小企業】初めて明かされる秘話
日本再生の鍵を探せ 企業x学校物語

人不足が叫ばれる中小企業をシングルマザーが救う?

 

オビ インタビュー

人不足が叫ばれる中小企業をシングルマザーが救う?

◆取材:加藤俊 /文:菰田将司

 

日本シングルマザー支援協会 江成道子日本シングルマザー支援協会 代表理事 江成道子さん

全国108万世帯あるひとり親世帯(2010年総務省統計局データ)。そのうち54.6%が世帯年収122万円以下の貧困世帯と言われている。それを証し立てるかのように、学校の給食費や教材の費用が捻出できない家庭やペットショップでパンの耳をもらう家庭など、ことさら社会構造の犠牲者としての姿ばかりをクローズアップするメディア。

しかし、この問題を如何に解決すべきかを見据えた報道や記事となると少ない。実際答えは見つからない。この国では1985年以降、ひとり親世帯の貧困が半数以上となる状態がずっと続いているのだから。

 

ひとり親の大多数はシングルマザーである。本稿は、「人不足が叫ばれる中小企業に、シングルマザーを役立てることはできないのか」という視点で、業界団体「日本シングルマザー支援協会」の代表理事江成道子さんにお話を伺ったものである。

 

 

日本シングルマザー支援協会代表理事江成道子さんに聞くシングルマザー問題の「本質」

日本シングルマザー支援協会とは? 

自らも五人の子供を育てるシングルマザーである江成道子さんが代表理事を務める日本シングルマザー支援協会お金を稼ぐ力を養う」「共感しあえるコミュニティ」「再婚という幸せ」の3つの柱を掲げ、セミナーやランチ会・サポート企業の紹介・婚活イベントなどを精力的に行っている団体だ。

「社会的弱者・貧困というイメージに重ねられやすいシングルマザーたちが抱えている様々な問題ですが、本質は別のところにあります」と彼女は語る。

 

 

―シングルマザーを支援する協会を始めたきっかけは?

 

日本シングルマザー支援協会 江成道子 (2)「シングルマザーが働ける環境というのは、誰にとってもいい環境ですし、女性が社会に出て責任もって働くことを自覚すること」と、シングルマザーの啓蒙と社会との連携を訴える江成道子さん

まず、私自身がシングルマザーであったことが第一にあります。だから、同じ境遇の女性に自分の経験から何か手助けをと思い立ち、シングルマザーを集めたランチ会を始めたのがきっかけでした。

理念としては「少し元気なシングル(マザー)が、元気のないシングルの手を引いていけるようにしよう」と。このコンセプトが徐々に支持を集めるようになり、現在シングルの1,020名ほどが会員になっています。

 

―現在シングルマザー世帯の54%が貧困世帯と言われている。会員の収入の状況は?

 

収入に関しては統計とほとんど変わらず、年収300万円未満が65%を占めているのが実情です。資産があり金銭的な不自由なく子育てができる層や、反対に行政の支援を得なければ生活できない貧困層の両者に当てはまらない中間層が、シングルマザー全体の6割ほどを占めるのですが、協会では主にこの層を対象にしています。

現在、『300万プロジェクト』と称して、会員全員が300万円を越えることができるよう活動しています。

 

―何故300万円なのか?

 

それが自立して生活していけるボーダーだと考えているからです。

 

 

企業にとって、シングルマザーを雇うことは 

―企業側から見ると、シングルマザーを雇うことのメリットはあるのか?

 

女性は自宅から近い職場を選ぶ傾向にあり、通勤時間が男性の平均70分に対し、女性は20分というデータがあります。男女共同じ労働時間なのですから、これだけでも小回りの効く女性に利点があります。

さらに、シングルマザーは子供を育てる責任があるから、仕事の定着率は高い傾向があります。

 

―中小企業から見れば雇っても子供が熱を出したなどで急に休まれるのは、人手不足の企業では大きな損失になってしまう。こうした点がシングルマザーを雇うことに積極的になれない壁になっているのでは?

 

全ての業種業態がシングルマザーの受け皿となれるワケではありません。それは女性も理解すべきです。

例えば、絶対休まれては困るルートにシングルマザーを雇用するのは難しい。しかし、ルートと関係ない営業専門ならどうでしょうか。会社にリスクを負わせずにシングルマザーを雇うことのできる方法はたくさんありますし、かえってそれを武器にして業績を伸ばしている企業も出てきました。

 

―例えば、どんな企業があるのか?

 

シングルマザー支援で売上トップになったクリーニング店などが現に登場してきています。

 

―そうした一部の業界を超えて、一般的な中小企業がシングルマザーを雇う場合、どういったことを理解すべきなのか?

 

雇ってあげるという思考ではなく、会社が利益を上げるための女性の活用法を、会社に女性が加わったらどういう効果が生まれるだろうか、という視点で考えてもらいたいです。

例えば、シングルマザーだけの部署を設けるなど。そうすれば、お互いの状況を分かっているから、子供の緊急自体でも白い目で見られません。既存の枠組みの中だと周囲に迷惑をかけてしまうから、居心地が良くない。しかしシングルマザーばかりなら、ただでさえ良い定着率が更に高まるでしょう。

営業部などでは特に効果を発揮する筈です。消費の動向に敏感なのは女性ですし、コミュニケーション能力も高く、客の心に入っていけます。一般にも、女性からの提案のほうが選ばれるのではないでしょうか。そこにガッツのあるシングルマザーは上手くマッチするよう思います。

 

―新しく部署を設けるのは、ある程度の体力を有する企業でないと難しそうだが

 

近年、機会均等を謳って総合職に女性を入れたことは、単に男性社会に女性を放り込んだだけになり、独身のキャリアウーマンを増やす結果にしかなっていない。これは「家庭を持つことを諦めて、男の中で強く生きなければならない」ことを強いているだけ。これでは問題の解決にはならないのです。

なんなら協会に仕事をアウトソーシングしてくれてもいい。これなら企業にリスクもない。近いうちに、営業代行会社や調査会社など、女性が得意とする業種で業務委託を受ける会社を作ることを考えていますから。

 

企業に対して協会はどのような活動をしているのか?

 

大手企業の情報は求人サイトなどを通じて手に入るのに、人を欲している中小企業の情報は目に入らず、仕事の中身も分からない。このミスマッチングはもったいないと考え、シングルマザーを積極的に雇用したい企業から協賛金を募り、女性に企業情報の提供をしています。

また、シングルマザーにも起業したい人は多く、その支援も協会の大事な仕事です。子供を大学へ行かせたいのであれば、ビジネスとして成功しなければならない。しかし女性たちは、パート程度の収入でいい、と自分の仕事を低く見てしまっている。この意識を変えていくという活動をしています。

自らがどうなりたいかを考えさせ、社会にどう貢献していくか、という意識を持たせる。そして自分が経済的に自立し、子供にもそれを教える。このようにシングルマザーを啓蒙し、成功の連鎖を作ることは協会の大きな目的です。

 

―サポート企業は何社ほどいるのか?

 

今は若い男性を育てるのも難しい時代。シングルマザーの頑張りに期待しているという企業も多く、現在、サポート企業の数は70社を超えます。

 

―業種はどういった企業が多いのか?

 

多種多様です。先日は、葬儀会社や運送会社などとも話をしました。共に女性があまり応募してこない業種だが、だからこそ女性を求めている業種。他にも常に人手が不足している介護系からもお話が来ています。自身がシングルに育てられたという経営者や、女性社長で自分もシングルだ、という人からも支援を頂いています。こういう方々は、女性の底力を知っています。

 

 

シングルマザー問題の本質と課題

長引く不況下で女性にも労働力が求められるようになった。多くの女性が家庭・育児と仕事の板挟みになっている。

女性を取り巻く環境がどうなっていくべきと考えているのか?

 

女性が働くか家に入るかを選べる時代は終わった。共に働く時代になっていることを男女共再認識すべきです。

現在、生活保護を受ける人の半数は高齢者。そして、そのほとんどが女性です。原因は男性と比べ長寿の女性が、「稼ぐ」力のないまま残されてしまったから。

日本の歴史の大半は、農業中心の社会。男女共働きの社会でした。「女性は家庭に」という常識が生まれたのはそんなに古くない。戦後、配偶者控除を作り女性は仕事をせずに子供を多く生むことが求められるようになってからです。

女性が働かなくとも、男性が頑張れば所得は上がっていきましたが、それはそういう時代だったから。現在では時代の変化に人の意識がついていっていない。未だに女性は「なんで働くの」、男性は「なんで女房を働かせているの」。こういう意識を変えていかないといけないと思っています。

 

―女性が社会で活躍するようになると少子化が進むという意見がある。出産や教育の問題にはどう取り組んでいくべきなのか?

 

少子化の最大の問題は「子育てにはお金がかかる」という意識。大学に行くお金がない、おもちゃを買うお金がない。だから出産は難しいというもの。収入が不安定な時期の妊娠について気後れしてしまっている。この意識改革が求められると同時に、社会の制度面でもサポートが必要です。

もちろん、責任を伝えることは重要ですが、妊娠が過剰にタブー化されている点がいまだあります。戦前の社会なら生活力のない若者に子供が生まれても、経済力のある人が引き取る「養子制度」がセーフティーネットとして比較的機能していました。

しかし今は基準が厳しいから、なることが難しい。再考の余地があるように思います。

 

ただ、未婚率が増えているという問題は、女性の収入が増えればある程度は改善されると思います。今、結婚に躊躇する理由は、多くが経済的な問題です。しかし、男性の年収が少なくても世帯全体の収入で考えれば埋め合わせられる。

収入における男女の比率を変え、そして世帯年収で、日本人が満足できる収入といわれる800万円を目指す。男性一人では難しいことでも、二人でならば可能です。

これによって教育費・進学率は倍化しているのに収入は半減していて、収入の五割が教育費になっているという昨今の状況を改善することができる。

 

―収入の問題は二人が力を合わせれば解決できるが、育児の問題もある

 

おっしゃるとおり。母親は常に周囲からのストレスを感じている。乳母車でバスに乗る時の周囲からの冷たい視線。定時で退社する時も、居残る同僚に謝って帰らないといけない。

しかし、子供を社会全体で育てるようになればそれも変わる。子育てをプライベートなものからパブリックのものにすることで、出生率も向上するのではないでしょうか。

 

―男性は今後、どのような役割を担うべきなのか?

 

全ての関係は男女から始まるので、男性の存在はとても重要。子育てについては、男もやるのは当然ですが、ただ子育ての中心が母親になるのはヒトが動物である以上、変わりません。だから子供のそばにいることの多い母親が笑顔でいなければいけない。

そういった意味で、男性に求められているのは「父」より「夫」としての側面。妻を笑顔にすることが大事な仕事です。

 

―協会として再婚を勧める活動をしているのもそのような方針故か?

 

経済的な問題以上に、子育てにはパートナーがいるのが自然な形だからです。両親の仲が悪いのは子供の一番のストレス。血縁の有無より、お母さんが笑顔でいられる環境のほうが、子供にとっては遥かに重要なことを知って頂きたいです。

 

―江成さんの考えは仕事や育児の意識を変えることについて、女性の間でもズレがあるのでは?

 

あくまで私の個人的な経験上ですが、高齢の世代の方はシングルマザーを認めたがらない傾向があります。彼女たちは色々なことに我慢をしてきた世代。私たちを「我慢できなかった」として認めたがりません。女性の持っているそういう意識は世代を超えて今も残っています。

日本の構造が大きく変わっている以上、「父は大企業で働き、母は家事子育てをし、子供が二人」という価値観は旧弊であり、このような「作り上げられた普通」を破壊しなければならない時期に来ていると思います。

 

―シングルマザーについての問題は、政治の優先課題にはなっていない現状がある。政治に求めるものは?

 

今、団塊世代が退職し求人が高まっている中で、シングルマザーを取り巻く状況は変わりつつあります。しかしメディアは相変わらず、シングルマザーがどれだけ貧困かを書き立てることしかしません。

同じように政治家はシングルマザーを理解しているのでしょうか?政治が動けば多くの問題は解決します。しかし政治・行政側の人たちにとってシングルマザーの問題は、優先事項が低い問題。

政治がシングルマザーの問題に真剣に取り組めば、今まで政治に関心がなかった女性層の支持を集め、投票率は上がります。また、特別なことをせずに大きな経済効果を得ることも可能なはずです。そのことに気づき、シングルマザー支援の政策を掲げる政党などが生まれれば、多くの支持を集められるでしょう。

ただ、本当に政治家に期待することは、シングルマザーの問題ではなく、社会の問題がシングルマザーに影響を与えてしまっているこの現状を改善することです。

今の社会は、弱者を守るものではなく、必死で社会から落伍しないようにしなければならない社会です。一旦そこから外れると戻ってくることは容易ではない。

そうではなく、落伍してもセーフティーネットが働く社会を実現すべきです。政治家にはこのような状況を変えることを、早急にやってもらいたいと願っています。

 

取材にあたって、公益財団法人世界平和研究所 小島弘氏・藤和彦氏に尽力頂いた

オビ インタビュー

江成道子(えなり・みちこ)…一般社団法人日本シングルマザー支援協会代表理事。5人姉妹を育てるシングルマザー。1968年東京都生まれ。16歳で高校を中退後、病院に就職。看護助手として数年働いた後、高校卒業資格が欲しくなり通信制高校に入学。その後20歳で結婚し、21歳で長女を出産。高校を卒業したのちは保険外交員として働く。27歳で3人の子どもを連れて最初の離婚。30歳で再婚、四女、五女をもうけ、5人の母となる。そして37歳で2度目の離婚。2013年7月に今までの経験を活かした活動で起業がしたいと思い、日本シングルマザー支援協会を設立して現在に至る。

 

一般社団法人日本シングルマザー支援協会

http://シングルマザー協会.com/

神奈川県横浜市神奈川区鶴屋町3-31-1 鶴屋町ビル502号室

℡ :045-534-8849

 

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