元LINE社長森川氏×サイボウズ社長×クックパッド創業者×面白法人カヤックCEOが語る公益資本主義・討論会〈後編〉
有名経営者達によるパネル・ディスカッション後編。公益資本主義の提唱者、原丈人氏や住友精密工業株式会社の前社長神永晉氏も参加!▶前編はこちら
登壇者
・LINE前社長 現在 C Channel株式会社 代表取締役社長 森川亮氏
・サイボウズ株式会社 代表取締役社長 青野慶久氏
・クックパッド株式会社 創業者 取締役 佐野陽光氏
・面白法人カヤック 代表取締役CEO 柳澤大輔氏
・株式会社54 代表取締役社長 山口豪志氏
・DEFTA PARTNERS グループ会長 原丈人氏
・住友精密工業株式会社 前代表取締役社長 神永晉氏
―今度は皆さんの会社の将来のビジョンをお聞きしていきたいと思います。「こんなことをしていきたい」とか、まさに10年後とか30年後とかに残していきたい未来像をお聞したい。
森川:そうですね。僕がやりたいのは「メディアとは何か」ということです。ビジネスは何事もどうやったら儲けるかが基軸になるのですが、メディアは本質的にはメッセージを伝える役割です。儲けること以上に社会の公器という側面が多分にあると思うのです。
その視点で考えると、世の中を元気にするということはすなわち人が元気になるようなメッセージを伝えることの延長線上にあると言えるはずです。やはり世界中の人を応援するとか、いつも笑顔を映すとか、何か元気なメッセージが流れるとか。たぶんそれだけで世の中の人が今よりは明るく楽しく生きられるんだろうなと。
ですから世界中に笑顔を溢れさせるために、素敵な言葉とか人とかサービスみたいなものをシャワーのように降らせることによって、人を元気にし、ひいては人類が良い方向に進んでいける、そういう社会を作る会社にしたいなと思っています。
青野:サイボウズは、チームワークを溢れる社会を作るということなので、チームワークにこだわっていきたいと思っています。チームワークにこだわることでも、みんな楽しく生きられるのではと思っているからです。
例えば100m走で1位になったと。それは嬉しいのですけど、それよりもリレーで勝ったほうが嬉しくないですか?バトンをみんなで繋いで勝った時の感動ってありますよね。みんなで自分の役割を果たして、貢献して、切磋琢磨して、感謝されて、そこに人間が幸福を感じるツボがあるのだと思うのです。武者小路実篤も「幸福は感謝に宿る」と言っています。一人で作り上げられるものではない。だから「貢献」をチームワークというところに広げていくというのが中長期的にやりたいことです。
ただ、これはあくまで僕がやりたいことなんです。実際のところは、これをメンバーに引き継ぎたいとは思っていません。なぜかというと、メンバーはメンバーでまた違う欲求があるはずですから。だから、「会社は永続してなんぼ」という話がありますけど、僕はちょっとこの考え方を疑っていまして、別に僕が死んだらサイボウズは解散でいいのではないかと思ったりもしています。
で次の世代の人達が次の会社を作ったらよいと思うのですよね。うまく分割するなり引き継ぐなりして。そのようなことを思いながら商売をしています。
佐野:本質的なところを突いていますね、それ。「会社は永続するべきか?」ってすごく難しい問題ですよね。本当は会社ってミッションがあったらそれを達成したらそこで解散すべきものです。だって会社ってそれ自体もともと定義が曖昧なのに、すごく強い権利が許されている。『法人』ですからね。ほぼ人と同じ権利を認められている、法の下の人格という。
僕はどちらかというと、クックパッドを会社という形態にしたのも、ゴールは本当に「すべての人が日常で料理を楽しんでいる世界にすること」なのですよ。当たり前のように料理が生活の中にある社会を実現したい。食に関して、全員が主体性を持てるようにしたい。そうすることで食うには困らない人ばかりの社会になるのだと思っています。それこそ地球に住む100億人全員がそうなるようにしていきたいんです。
そんな社会を実現するのがゴールなのですけど、始める時から「100年位はかかるかな」と思っていたのです。そうすると、たぶんぼくは生きてないのですよ、100年後ですから。だから何らかの組織に想いを宿さないと達成できない。で会社という形態を選んで、本当の意味でパブリックなもの、一部の人が所有するものではなくて、みんなが所有しているものにしたいと考えて、ここまで来ているんですが、もう十数年やってきているのに、ゴールまでまだ1%も達成していません。「このままだと、1000年くらい掛かっても達成できないな」というのが現状です。
柳沢:ぼくの場合は、個人的なのと会社とあって。会社に関しては去年12月に上場しましたので、1つ問われているのが「面白法人が上場したら、面白くなくなるんじゃないの?」というご意見にきちんと応えていくことです。もう一つ根源的なところで「クリエイティブと普通の経営は両立するのか?」という問いもあって、これは「公益資本主義で社会に貢献することと利益を上げることは本当に両立するのか?」という問いと同質のものだと思っています。これに関してチャレンジする権利を頂いたので、この先それを証明していくことですね。
で、株式市場を通して株主に参加してもらうというこの仕組みを使って、面白いことをしていこうというのを中長期的に考えています。やはり外から見て面白いと言われなければならないので、そこを追求していく仕組みや見え方が大事なんですけど、ギャグマンガの宿命というか、面白いことの条件って短命に終わるということだったりするのです。だいたい面白い時期は一瞬なんです。「なんか終わったよね」「オワコンになっちゃったよね」「面白くなくなったね」と言われていく宿命を常に背負いながら、戦い続けなきゃいけない。
そう考えると、とんでもなく面白いことを最初にバーンとやってしまうとその後苦しくなっていくので、徐々にやっていこうと思っています。
そういう前提で一年目にやったことがあります。うちは社員200人全員が名刺に人事部と書いてあるのですが、これは面白いコンテンツを作るために優秀なクリエーターの採用が必須だからです。組織としてリクルートに近いところがあって、社員の退職や独立を応援して、その事自体を公言しているので、ある程度の人数が常時巣立っていきます。必然的に採用をし続けなければならないんです。それで全員人事部と付けるだけで、社員全員の採用意識が高まって、結果的に半年間で採用コストが30%下がるというような非常にシンプルで効果的なアイデアだったのです。これはどの会社でもできることだと思います。
で上場するからには、株主にもまずは人事部になってもらって採用に協力してもらおうと。株主の人事部化作戦ということで、株主から採用したら何か金銭的な対応とかできないか?と考えて動いていたんです。でもそれは法的に利益供与になるので、できないということで、鳩サブレーを39枚送るという謎のところに着地したわけなのですけど(笑い)。
それでも、どうにかして株主に人事部になってもらうことはできないかっていうことで、株主専用のSNSを設けました。株主の方の意見交換を通してアイデアを取り入れていこうと。ただこれも結構難しくて、本当は僕らがいろいろコメントしたいのだけれどそれができないのです。株主平等主義という仕組みがあって、もし発信するなら全体に見えなければいけないので、株主限定のコミュニティという性質上せっかく良い意見でもこちらのコメントができないので一方通行になってしまうのです。
そうやって試行錯誤しながら来ているのですが、今後長期保有している人に対しての株主優待を多くすることは考えていきたいと思っています。要は仲間ですから、何か優待を増やしていくようなことで長く持ってもらう必要がある。色々と企画を考えたのですけれども、配当をなくすというのはある種株価のキャピタルゲインで株主に還元するという発想ですから、一緒に長くやっていこうという考え方と矛盾するのではないかなと思うので、配当を出すというのを早いタイミングでやるべきだろうなとは考えています。
もう一つ。個人的には鎌倉の地域活動をやっています。地域のお年寄りから学生までを集めて、「この街をどういうふうな街にしたら面白いかな」「どんなプロジェクトをやろうかな」というのを月に1回みんなでブレストしてやっているんです。もう3年位やっているのですけど、不思議なことに、この間街がどんどん好きになってきて、人生も楽しくなってきたんです。鎌倉にカマコンバーという夜中に木金だけ9時からやっているバーがあるのですけど、そこに行くと誰かしらいてなにかちょっと街の企みがあるみたいな所までにはなりました。この活動を通して分かったことがあるんです。
「働く場所を楽しくすると、人生が面白くなる」という思いで面白法人を作りましたけど、「住んでいるところが楽しくなってくると、さらに人生が楽しくなる」ということです。
会社も楽しいけど、今は地域も楽しい。どっちも楽しいと人生が無敵な状態になるというのがわかったんです。
ですから、皆さん住むところって適当に便利さとかで決めていると思うのですが、本当はその街を作っていく感覚になる場所にすべきと思います。そうすると毎日が凄い充実しますよ。
そして、これを企業がもっとバックアップするべきだなというのが、この頃気づいた観点です。どこに本社を置くかが今後は今以上に重要になってくる筈です。そして、地域に対して貢献する社員や土日の活動をバックアップすることで、社員の人生がより楽しくなっていく。これって、本業や経済合理性もあると思うのです。
実際に、本業でつまらなそうにしている方が、地域の活動で楽しくなってきてそこから本業が楽しくなっていくという循環を見てきました。ここを会社がバックアップするような体制になると日本全体が元気になるので、これは個人的な活動なのですけれども、良いことなのではないかなと思っています。
―登壇者の方々のお話を受けてですね、ぜひ原さんと神永さんのコメントをいただきたいと思うのですけれども。
原丈人氏(DEFTA PARTNERSグループ会長):公益資本主義という観点から言いますと、今日来られている4人の経営者、誰一人として、利益・売上・上場を目的にしているような人とは違うところに、私は非常に魅力を感じています。自分でしたいこと、これを追求していますよね。
今日の経営者のお話から様々な社中(ステーク・ホルダー)に対しての思い入れが感じられるでしょう。でもこういう経営者は、米国的に見れば株価を最大化することに懸命な良い経営者ではありません。寧ろ悪い経営者です。
こうした株式市場の抱える問題をどうやって是正しようかというのを考えています。たとえば、中長期の株主の存在。苦しい時も会社を支えてくれる株主の存在はありがたいですよ。証券市場で株式を売買しているだけの株主と中長期の視野で可能性を感じてお金を出して支えてくれる株主とでは、株主の質が違うでしょう。現状の仕組みでは、同じ株主となってしまっているのをどうやって種別していくか。
やはり、長い期間株式を持ってくれる人に対して何ができるか。重要案件に関する決議事項、これに関してたった1日だけの株主のような人達と同等の議決権というのはおかしな話です。もしくは短期で資金を出して大株主になって創業者の人達や従業員がコツコツ貯めた留保を「全部吐きだせ」と言われたら、どう思います? 非常に理不尽な話ですが、実際にそういうことを商売にしているアメリカのファンドが結構ある。
こういったことを考えると、配当金にしたって長く持ってくれている人に対しては、1株あたり10円でなく2年持っていれば20円、3年持っていれば30円、10年持ってくれていれば100円ないしは1000円払ってもいいと思うのです。
でも株主平等の原則があるから難しい。ただフランスの商法やドイツなど国々では、株主平等の原則は別の観点から見て配当金の金額は年数によって変えてもいいとか、議決権を変えてもいいとかという読み方があるのです。元来日本の商法や会社法はそうしたヨーロッパ諸国から導入したものですので、商法学者が会社法のもとになっている立法学者の考え方をしっかりと整理してもらえれば、これは変えられる可能性が非常に高いです。
会計基準も今や国際会計基準等々、M&Aをやったほうが会社の経営者のボーナスが増えるようなおかしな仕組みになってきています。これも是正する必要がありますが、残念ながら金融工学を妄信する勢いが非常に強いこともあって、これは簡単に変えられることはできないかもしれません。しかし問題は大きい。
例えば、中長期の視野で投資をして新製品を作ることが現に難しくなってきている。5年くらいでは回収できない、その段階では累積赤字を数十億円垂れ流しているようにしか見えない事業も、減損会計で見られると打ち切られる危険があります。
実際のところは、前向きに投資をしているこの資金は一見なくなっているように見えてもきちんと価値に変わっている訳です。その価値を公認会計士や監査法人は単なる金銭的価値の観点からしか見ませんので、時価会計基準を使う減損会計でもって、特別損失をその段階で出してしまう。そうすると長期的な開発はできなくなってしまうのです。
何事もそうなのですが、物事の本質は数値化すると消えてしまう場合があります。手段と目的が逆になりますから。でも、ウォール・ストリートや経営学、ビジネススクールの世界では、数値化を絶対視する風潮が未だマジョリティーです。
公益資本主義では、投資の仕組みをROE(Return On Equity)からROC(Return of Company)に変えていこうと挑戦しています。でもROCの究極のところは数値化できない。それでも、彼らにも理解させるだけのものにしなければならない。来年にはかなり制度のいいものができるでしょう。
神永晉氏(住友精密工業株式会社 前社長):将来的には、ROCに基づいて動く証券市場というものも有りうる。それは現在圧倒的力を持つ証券市場との折り合いをどうするかというテクニカルな話ではありますが。ただ考え方に賛同してくれる経営者は増えてきています。「いまのROE市場よりも、その市場のほうがいいじゃない」ということになれば、変えることはできる筈です。
皆さんのお話を聞いての感想ということでは、とても素晴らしいお話を聞かせて頂きました。頷けることが多かった。
例えば資金が有り余るのは良くない。本当そうなのですよ。本来は何をやりたいのかが先に来なくちゃいけない。それをやるために資金をどう集めるかという順番でなければならないのですが、最近のいわゆる大企業がリードする産業はそうではなくなってしまっている。アイデアを生み出す能力が下がってきてしまっています。多くの事業で国の補助金が出ています。語弊があってもいいのですけど、補助金だと研究成果がなかなか出ない。よくもっとベンチャーに金を出してという話をベンチャーの人達から聞きます。確かにそうした方が生み出せるものも大きいのですが、それができない歪なところが日本にはある。
でも今日のお話を聞いていて、皆さんのような若い世代の経営者がたくさん出てきていることを想うと、変えようと思えば変える余地はいくらでもあると期待を新たにできました。有難うございました。
―有難うございました。