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『分割されゆく太平洋:中国化する世界と対峙する日米同盟』世界戦略レポート

 

オビ 世界戦略レポート

分割されゆく太平洋:中国化する世界と対峙する日米同盟

◆文責:海野世界戦略研究所オビ コラム

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[海野世界戦略研究所の視点]

◉太平洋はアメリカと中国の覇権争いのせめぎ合いの場となっている。
◉経済発展を実現したと考えている中国は、「平和的台頭」路線を破棄し、覇権主義に進んでいるように見える。
◉それに対しアメリカは、是が非でも中国が太平洋上に覇権を拡大させることは避けたいと考えている。
◉日本は、好むと好まざるとに関わらず、大国間の狭間で、重要な立ち位置に立たされることになる。
◉こうした状況の中で、日本は自らの立ち位置を主体的に構築して行く必要に迫られている。

 

平和的台頭後の中国

中国は、自国の基本政策として平和的台頭政策を挙げてきた。その外交政策の基本は、自国の経済発展を国の第一優先事項とし、その実現のために平和的な国際環境を率先して構築し、平和的な国際環境を利用することで自国の経済発展を遂げる、というものである。これは、中国指導層が2003年に考案した構想であり、2004年当時の胡錦涛国家主席も、「中国が他国を犠牲にして台頭することはない。他国の邪魔をすることも、相手国の脅威になることもない」と平和的台頭政策をベースに自国の外交政策を説明していた。

事実、中国は平和的台頭政策に則り、ASEAN各国と友好協力条約を結び、南米・アフリカとの外交関係を強化し、インド・パキスタンとも交渉を進めてきた。平和的台頭政策により中国脅威論を国際的な世論から取り除き、国内への外資の呼び込みと、その後の積極的な対外投資に成功した。危ういと言われ続けながらも、2000年代を通じてここまでの発展を遂げた中国の経済的な成功は、平和的台頭政策がその裏にあったことは間違いない。

 

しかし、経済発展をある程度成し遂げたと考える中国指導層の一部は、平和的台頭政策を転換し、積極的な拡張を目指しているように見える。これは、習近平政権の掲げる基本政治構想である「中国夢」とも一致するため、現実味のある路線転換として一部では見られている。

「中国夢」とは、中華思想をベースにした考え方で、簡単に言えば、明や清の時代のような、中国を中心とした周辺国支配(朝貢外交)を再現させたい、という考え方である。実際に朝貢外交を再度実現することができる訳ではないが、中国を世界の中心として捉える世界観に基づく外交戦略を実行に移すことは、現在の中国の経済力と影響力をもってすれば十分に可能であると考える向きもある。

つまり、自国の勃興する経済力を背景に、軍備の近代化と拡張を図ることで軍事的な力を付けつつ、軍事力と国際的な影響力を後ろ盾にして意見を異にする国々に対して自国の領土や主権に関する主張を押し通そうとする拡張的な外交姿勢である。

当然、中国指導層も一枚岩である訳ではなく、平和的台頭派と拡張派がせめぎ合っていると考えるのが妥当であると考えられるが、現実として拡張派が影響力を持ちつつあることは間違いなく、今後、国としての中国が領土問題で積極主義的な動きを加速させると見ておいて間違いはないだろう。

 

 

アメリカの対中政策

アメリカの対中政策は、中国が自ら定めるA2/ADラインを阻止し、中国が太平洋に進出することを絶対に阻止することを基本としている。

A2/ADラインとは、もともとは冷戦時代に西側諸国が太平洋においてソビエト連邦や中華人民共和国などの東側諸国を封じ込めるための戦略的な抵抗線として提唱されていた概念であるが、その後、鄧小平がその戦略概念を逆に利用して、主に対アメリカ軍への太平洋に於ける対抗を想定した自国の防衛ラインとして再定義し直した軍事戦略である。

オバマ大統領は、政権発足の初期段階で、中国のA2/ADライン阻止を目標としてピボット戦略をアメリカのグローバルな軍事戦略の基本戦略として据え、太平洋の安定化に向けて軍事的なリソースを再配分することを目指していた。しかしながら、その後のISIS問題をはじめとする中東問題やアフガニスタン問題の長期化により、東半球への軸足移動が遅々として進んでいない状況である。

しかし、それでもアメリカの基本戦略は、対中強硬策であることに変化はなく、中国の領土的拡張主義に対してアメリカが妥協することはあり得ない。なぜなら、A2/ADがあくまで中国の領土防衛を目的としたものであるとは言え、中国の太平洋での自由な活動を一度でも許してしまえば、あとは遮るものがないだけに、中国が際限なくアメリカの領土に近づくことになるからである。

中国は、A2/ADライン構想に基づき、空母や潜水艦の配備の増強を進めており、これが実現すると、アメリカといえども有効な牽制ができなくなってしまう。ちなみに、このアメリカの危機感の根底には、太平洋戦争で東南アジアに進出した日本を押し返すのに4年もの歳月がかかった経験もあると考えられる。

 

 

覚悟を決めたアメリカと同盟国日本

オバマ政権のピボット戦略の実行が遅れているのを見て、中国は日本海や南シナ海に於ける領土拡張を実行に移した。それに対し、当事国の一つである日本の安倍政権はアメリカに赴き、アメリカ議会での演説の場でアメリカが太平洋地域の安全保障に真剣に取り組む必要を直接訴えることで、オバマ政権が対中政策に本腰を入れるようにさせたことは記憶に新しい。

元々、アメリカ議会は国防権限法案で、米国による沖縄・尖閣諸島の防衛義務を明記し、議会声明に於いても「日本の施政権を脅かすいかなる試みにも、米国が毅然として対抗する姿勢」を表明すると同時に、「過去数年間、中国は尖閣諸島の領有権を主張して東シナやベトナムとフィリピンなどと領有権問題のある南シナ海で攻撃的な活動を強めてきた」と中国を牽制していたが、今年6月に改めて、「東シナ海でも現状変更を試みる動きがある。我が国を含め周辺諸国はこうした状況に 不安を抱いている」として、アジア安全保障会議でより踏み込んで中国を牽制した。

これまで中国に対して様子見、というよりも、国際社会に対してむしろ及び腰という印象すら与えていたアメリカ、特にオバマ政権の姿勢が、日本の安倍首相の訪米をきっかけにして根本的に変化しはじめたと見ることができるが、これは同盟国を巻き込む形で米中の対立がより鮮明化しつつある状況にあるとも言える状況である。

 

中国の沿岸部の南側半分は直接、太平洋に面している部分と陸地が点在する部分とがあり、中国が太平洋の外側に進出するに当たっては、特に台湾とフィリピンが中国にとって邪魔な存在となる。また、北半分には同様の存在として日本があり、位置といい、大きさといい、中国から見ると日本の領土は地勢的に非常に邪魔な存在である。

逆にアメリカから見れば、中国を太平洋の西側に封じ込めておくためには、これらの国々の存在が非常に重要になる。別の言い方をすれば、台湾を含むこれらの国々に、どのような役割を、どこまで負わせるのか、ということをアメリカは当然考える。

それに対し、各国は、自国の安全保障の観点から、どこまでアメリカの期待に応え、どこからを自国独自の戦略とするか、を自ら考える必要に迫られる。

特に、日本はアメリカの対中国戦略にとって地勢的に極めて重要な位置にあることで、この対立に否が応でも巻き込まれることになる。

 

 

日本の主体性は何処にあるのか?

日本は、この情勢をどのように捉え、どう対応するべきなのであろうか?

まず、与件として言えることが2点ある。1つ目は、前述した地勢的な位置である。簡単に言うと、米中の対立に火の粉どころか、火花を直接浴びざるを得ない場所に国土があり、緊迫する国際情勢から国土を守るためには、日本は情勢に対して積極的且つ主体的な役割を果たさざるを得ない。

 

2点目は、国際的な同盟関係で、当然、日本は米国の同盟国としての義務を負うことになる。これまでの日米安保は、謂わば片務的な契約であったが、いまのアメリカには片務契約を履行するだけの余裕も意思もない。既に、これまでの日米同盟はすれ違っており、今後の姿をお互いに見出せないままでいる状況が継続しているが、これこそが、付け入る隙を与える状況であると言え、日本が自らの力で国土を守る意思と姿勢を固めることを国際社会に認知させる必要がある。

日米同盟を前提とした領土保全の仕方について、国内の危機感が全般に薄く、世論が必ずしも固まっていない部分はあるが、実際的な問題として考える時には、地勢的な状況と合わせて自らの領土保全を自らが保障することが国際情勢から必然的に求められている、ということを与件としてとらえなければならない。

つまり、情勢と自らの現在の立ち位置を客観的に正視した上で物事を考えるならば、日本の領土が存在する位置によるリスクと、国際関係・同盟関係による義務に対してどのように対応をしてゆくのか、という観点で今後の日本の取るべき戦略を議論して行く必要があるのである。

自らの立ち位置を自ら決める必要がある日本

これまで日本は、差し迫ったさしたる脅威に自らが直接対面することもない中で、日米安保を前提とした流れに乗ることで、自らの安全保障を実現してきた。

しかし、これからはそうはいかない。少しでも隙を見せれば、それに付け込んでくる、というのは、南沙諸島の動きを見ていればすぐに分かることである。

アメリカという同盟国の存在はあるものの、アメリカが日本の領土をすべて保全してくれる訳では当然ない。どこまでの範囲を同盟関係の中で保全し、どこからを自らの力で守るのか?、また、守るべきものは何で、それをどう守るのか?については、自ら答えを出して、自ら力を蓄えなければならない。

例えば、日本は、日米同盟を前提としつつ、自国の領土を自国の力で守り切るだけの力を付けなければならない。それは、中国のA2/ADラインがちょうど、日本の九州と東海を起点としていることを見ても分かるように、A2/ADラインを阻止することが日本の安全保障にとって有益である。A2/AD戦略に基づく中国の防衛的エア・シーバトル構想に対する対抗力を日本が身につけることが必要である、ということである。

念のためではあるが、ここでの対抗力や戦略が指しているのは、軍事的な部分だけのことを言っているのではなく、外交能力や国内世論の整理など総合的な国の方針と施策のことを指している。このことについては、誌面の関係もあるため別に論考したい。

 

 

地に足のついた議論が喫急に求められる

自国の主体性というと、すぐに極端な方向に走りがちではあるが、現実感の無い理想論に基づいた議論には意味がないし、そうした理想論を議論している時間も、もう残されてはいない。

日々刻々と変わりゆく情勢の中で顕在化するリスクに対して対峙する姿勢を明確にすることが、日本が主体性を持つために必要なことなのであると考えられるのである。

こうした議論を進めるに当たっては、日本政府が提唱している新ガイドラインや南シナ海での日本の役割、それらを実現するに於いての憲法9条に関する国内世論の取りまとめ、また、エア・シーバトル戦略の具体的な内容と、個別に議論すべき論点は山ほどある。

当稿では、日本の取るべき立ち位置や、その実現のための戦略についても具体的な内容にまで踏み込めなかったが、別稿にて議論を展開したいと考えている。

 

オビ コラム

【文 責】佐々木宏

海野世界戦略研究所について

海野世界戦略研究所(Unno Institute for Global Strategic Studies)は独立系のシンクタンクで、日本企業のグローバル化と日本社会の国際関係構築を目指した戦略的なオピニオン・アクションリーダーとなることをミッションとしている。

主な業務は、

①情報提供事業:世界情勢に関するインテリジェンス、そのインテリジェンスに基づく戦略の国内外の個人または組織への提供

②組織間のコミュニケーション促進及び利害調整代行業

を展開する会社である。

http://www.unnoinstitute.com
株式会社海野世界戦略研究所(Unno Institute for Global Strategic Studies)

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代表取締役会長 筒井潔(つつい・きよし)…慶應義塾大学理工学部電気工学科博士課程修了。合同会社創光技術事務所所長。

 

 

 

 

海野恵一氏

代表取締役社長 海野恵一(うんの・けいいち)…東京大学経済学部卒業。アクセンチュア株式会社元代表取締役。スウィングバイ株式会社、代表取締役社長。

 

 

 

佐々木宏氏

代表取締役副社長 佐々木 宏(ささき・ひろし) …早稲田大学大学院生産情報システム研究科博士課程後期中退。株式会社テリーズ代表取締役。

 

 

 

 

海野塾

グローバルな世界で真に活躍できる人材を育成するための教育プログラムで、講義は英語を中心に行われる。グローバル化する複雑な世界を理解するだけでなく、その中で主体的にリーダーシップを発揮できる人材の養成が、海野塾の主眼である。

海野塾は、毎週末に個人向けに開催されているものの他に、個別企業向けにアレンジした研修プログラムも提供されている。

問合せ先:event-s@swingby.jp 担当:劉(りゅう)

 

2015年7月号の記事より
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