次世代の産業を担う【中小企業】初めて明かされる秘話
日本再生の鍵を探せ 企業x学校物語

長野県上田市から「地域振興」のモデルケースを発信する浅間リサーチエクステンションセンター

 

オビ スペシャルエディション

長野県上田市から地域振興のモデルケースを発信する浅間リサーチエクステンションセンター

◆取材:加藤俊 /文:小林英隆

a247ffc86d63b080c600a21170b1568b_m

姨捨サービスエリアからの眺め・千曲川

 

日本再生は地方再生なくしては成り立たない。長野県東信地方(上田・佐久・軽井沢地方)に地域を活性化させるモデルケースがあった。

 

 「ここまで盛り上がるとは思っていなかった」

浅間リサーチエクステンションセンター(以下AREC)は長野県・上田市を拠点に企業のニーズと、大学のシーズを結びつけることを目的に設立された産学連携施設だ。その歴史は古く、2002年2月に信州大学・繊維学部構内でスタート。

当時は国立大学の敷地内に連携支援施設を設置した全国でも先駆的な例だった。現在では地元経済を上向かせるための様々な活動が評価され、東信地方の「地域活性化ネットワーク」の拠点になっている。

 

専任理事を務める岡田基幸氏(以下、岡田氏)は予想以上にARECが地元企業から求められたことに、「産学連携に寄せられる期待があった」と語る。

ARECAREC専務理事岡田基幸

実際に、会員企業と大学研究機関の交流のために貸し出しているセンター内の共同研究スペースはほぼ満室。会員組織(年会費5万円)は、東信地方の企業200社が参加。その他、講演会や研究会等も定期的に行っている。ちなみに、運営は家賃と会費収入のみで賄っているとのこと。

 

「会費が年間約1,000万円と、レンタルラボの賃料が年間1,600万円でだいたい2,600万円の収入があります」(岡田氏、以下同)

 

財政的に独立できているのは、この手の施設ではやはり珍しい(施設設置は上田市が建てている)。それだけ企業からの期待が集まる理由は何なのか。

地場の企業にこの点を訊くと、「近年、東信の企業が求める技術ニーズの水準が高くなり、勉強やマッチングなども商工会等で企画できる範疇ではなくなっていた。ARECであれば、信州大学との連携が期待できた」とのこと。要は、信州大学のシーズを活用して、地場経済を発展させようという産学双方の思惑が一致したことが大きいようだ。

 

ところで、具体的な成功事例は何があるのか。大学側のニーズを企業側が解決する例として、繊維強化プラスチック(FRP)のリサイクルの事例があるという。

FRPは、繊維をプラスチックの中に入れて強度を向上させた複合材料で、その一種炭素繊維強化プラスチック(CFRP)は、ボーイング787 などの飛行機に大量に使用され、また自動車メーカーが量産化に向けて積極的に取り組むなど、産業界から大きく注目されている。ただ、素材の分離が困難であるため一般にリサイクルや廃棄処分が難しいとされていたが、同大学ではこの研究が進んでいるという。

 

もともと信州大学繊維学部は、上田市が蚕糸業の蚕都としてその名を誇った頃の上田蚕糸専門学校が前身。繊維産業の盛衰の中、大学設立以降も、東信の人々や産業の発展に寄与してきた歴史がある。繊維にかける思いは、日本で唯一の繊維応用力学研究室が設けられていることにも見て取れる。

 

 

オビ インタビュー

岡田基幸氏・インタビュー

AREC2

岡田氏に「地域活性化」をはじめとした意見をお聞きした!

まずは「エリア活性化」から振興する

 

−長野の地域活性化をどう考えているのか。

 

 県の特徴という独自性をいきなり打ち出すのは現時点では難しいでしょう。どこの県でも「環境」「医療」「宇宙工学」とまるで金太郎飴のような実行計画しか提出されてなく自分たちの地場資産の把握が十分に行われていないように感じます。

 

 

−現地に即していない計画が目立つと?

 

その通りです。私はまず県レベルではなく、「エリア」ごとの特色を見つけ出すことからはじめるべきだと考えます。例えば長野県ならば「北信」「東信」「中信」「南信」と4つに分かれているので「東信なら東信」とエリア毎の特色を見つけ出すべきです。

 

 

−ARECの東信エリアの状況は?

 

ようやくではありますが特色を打ち出すための連携体制を確立する準備が整いました。上田信用金庫の小林哲哉理事長と信州大学繊維学部濱田州博学部長の両名が旗を振ることでエリア内連携を強めている。そこに、上田市長とARECが支える形で連携ができつつある。

 

 

−エリアの特色はどのように出して行くのか?

 

きちんとテーブルをつけて、地域の保有資産を精査した上で特色を作り出していきます。東信エリアには誇れる地場資産がしっかりとありますので絵空事ではない実行要素の高い行動計画を導き出すことができます。

 

 

具体的な行動計画とは?

 

  「東信」という括りでみると、この地域には可能性が詰まっています。自動車、電機関係で培った高度な技術力がありますし、人口は42万人、製造品出荷額は年間1兆円になる。これは大田区や、北九州、浜松、川崎などと同じ規模の工業集積地帯です。

私は、東信の未来は医療や介護産業が担うと思います。大学には、軽量素材や新素材についての多くのシーズがある。「リハビリ・アシストロボットスーツ」、「高分子ゲルを用いた人工筋肉」、「情動コミュニケーションロボット」など、福祉介護分野にも役立てられる人間支援技術を研究しているロボットスーツや繊維強化プラスチック(FRP)のリサイクルの研究をしている教員もいます。

こうしたシーズを活かし、この地域に「次世代自立支援機器産業」を創出していこうと。特定栄養成分が豊富な野菜の工場生産や介護食品の製造、スポーツ医学とリハビリテーションなどいろいろと進みつつあります。いずれにしろ、医療機関や地域企業の多くが参画できるものにならなければ、活性化は上手く行きません。

 

 

―地域を活性化するには、人を呼びこむ必要もあるかと。その際、具体的なインセンティブが見えないと難しいのでは?

 

東信は、軽井沢をはじめ、移住する環境としても魅力的です。首都圏からロボット開発、福祉アプリケーション開発などベンチャーの誘致は行っていくべきでしょう。なにせ、地域活性化は若者を巻き込まないと進みませんから。

 

 

―そうした文脈上で、「信州若者1000人会議」の取り組みはユニークです。田舎暮らし希望地域で長らく一位だったとのことだが、(出典:NPO法人ふるさと回帰支援センター「田舎暮らし希望地域ランキング」)長野もまた、県外就職率が高いのが悩みと聞くが?

 

信州若者1000人会議では、地元長野へのUターンをサポートしています。はじまりは地元を離れた者同士の結束を高めるための集いでした。しかし会合を重ねる毎に地元への熱い思いを持つ学生と、地元信州の魅力的な企業との交流の場と成長していったのです

このような交流の中で、ARECが果たす役割は、戻ってきた若者たちが動きやすい環境作りを行うこと。支援を受ける若者たちは、SNSを活用して地元経済を賑わせるなどユニークなアイデアを多く提出してくれます。

 

 

―若者の減少を危惧した各自治体は、地元就職セミナーを開催するなど積極的に呼び戻すための努力を行っているが、若者の要望・嗜好とは合致しているとは言えない。1000人会議は若者受けはいいだろうが、ある種アドバルーンに過ぎないのでは?

 

ええ、やはり県内で就職を考えてもらう必要はあります。ARECでは、そういったお手伝いもしています。その1つが学生と企業が食事やお酒を呑み交わしながら居酒屋で語り合う就コンです。いわゆる就職セミナーでは叶わない「本音で対話できる環境」を提供しています。この就コンは通常よりも精度の高い相互理解を産み出すことに成功し高い評価を得ています。

 

 

―どういう経緯でできたのか?

 

企業側からARECに「人材も斡旋して欲しい」と寄せられた声に応える形で誕生しました。

―日本再生は地方の再生なくしては有り得ない。地域活性化の成功事例になれるのか。

 

私達が東信エリアをまとめていく過程が、他所の地域振興のための手本になれたらと考えています。エリア単位でしたら200事例は創造することができます。そうすれば他の自治体が「参考にすべき存在」を発見できる可能性を増やせるかと。

 

 

―有難うございました。

 

 

岡田氏の「東信」で纏まるという言葉の裏には、長野県ひとつでは纏まれない県民性も覗ける。長野と松本の仲の悪さは有名で、旧制高校や師範学校の分散の名残を未だ引き摺りキャンパスが散在する蛸足大学、信州大学自体がその象徴のようにも思える。先年信州大学は、国が推進する産学連携プロジェクト『地(知)の拠点整備事業(COC)』に採択された。繊維学部にもその信州大学地域戦略センターの上田分校ができている。

ところが、ARECとの連携はあまり図られていないようだ。産学連携に触れると大学の縦割りに驚かされることが多い。この点が活性化の阻害にならなければよいが……。とはいえ、日本経済新聞社産業地域研究所が調査した2011年度の「地域貢献度」において信州大学は総合ランキング1位になっている。数々の受賞歴を持つARECが果たしてきた役割も大きい。東信の行方を注視していきたい。

 

オビ スペシャルエディション

岡田基幸(おかだ・もとゆき)氏…1971年大阪市生まれ。信州大学大学院工学系研究科博士後期課程修了(工学博士)。1997年上田市役所入所。2010年信州大学繊維学部特任教授(産学官地域連携) (現在に至る)。2011年上田市役所退職。2013年一般財団法人浅間リサーチエクステンションセンター(AREC)専務理事。

 

一般財団法人浅間リサーチエクステンションセンター(AREC)

〒386-8657長野県上田市常田3-15-1 信州大学繊維学部

℡0268-21-4377

http://arecplaza.jp/

 

代表的な受賞歴

・平成16年度中小企業組織活動懸賞レポート本賞 (個人)

・JANBO Awards 2004 新事業創出機関賞 (AREC)

・JANBO Awards 2004 新事業創出支援賞 (個人)

・JAPAN Venture Awards 2007 地域貢献賞 (AREC)

・日刊工業新聞社 第3回モノづくり連携大賞 特別賞 (AREC)

・優秀地域力連携拠点 関東経済産業局長賞 (AREC)

・第1回イノベーションコーディネータ大賞 文部科学大臣賞 (個人)

・ものづくり大賞 NAGANO 2013 特別賞(AREC)

 

2015年7月号の記事より
WEBでは公開されていない記事や情報満載の雑誌版は毎号500円!

雑誌版の購入はこちらから

お問い合わせ

本記事に対する、ご意見ご感想をお待ちしております。
BigLife21に対するご感想などもお気軽にお問い合わせ下さいませ。
※メールアドレスが公開されることはありません。

最新号ご案内

詳細を見る »

こちらからご購入いただけます

 

アクセスランキング

立ち読み

「BigLife21」の記事の一部をPDFで立ち読みすることができます。

読者プレゼント

Top