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ネナド・グリシッチ特命全権大使閣下インタビュー『日本企業 セルビア進出の可能性を探る』

 

オビ インタビュー

ネナド・グリシッチ特命全権大使閣下インタビュー『日本企業 セルビア進出の可能性を探る』

◆取材:筒井潔・金盛由紀子/文:加藤俊

セルビア大使館 ネナド・グリシッチ大使閣下

 

2014年5月13日より数日間にわたって、集中豪雨が東欧のセルビア共和国を襲った。各地で河川の氾濫による大規模な洪水が発生し、人命が失われたほか、多くの被災者が避難生活を余儀なくされた。全人口の4分の1が暮らす地域と、農地の大部分が水没。その被害は、過去120年で最悪と言われるものとなった。

この災害に対して、日本のネット上である運動が起こったのをご存知だろうか。呼びかけは、「今こそセルビアに恩返しをしよう」。事の経緯を説明する。

 

■東日本大震災の際のいち早い支援

セルビア大使館 インタビュー (3)

 東日本大震災当時、セルビアから日本に寄せられた励ましの声

 

まず、写真を見てもらいたい。日本国旗には、多くのメッセージが寄せられている。

「Voli vas(あなたを愛している)」や「がんばれ!日本」と日本語で書かれた言葉もある。これは、セルビア人達が東日本大震災の際、送ってくれた激励のメッセージである。『セルビア人として言わせてください。あなた達は、今まで沢山の事を私達にしてくれました。だからこれは、恩返しの始まりですらないんです。がんばってください!』(出典:【海外の反応】パンドラの憂鬱/セルビア「日本はいつも助けてくれた」震災時 セルビアからの支援が凄かった)。ネット上には、こうしたメッセージもあった。

 

セルビア 地図

セルビアという国は決して裕福とはいえない。平均月収は300ユーロ(約4万円)、失業率は20%を超えるという。90年代にはユーゴスラビア、コソボ両紛争下に置かれ、国際社会から経済制裁を受けた歴史を持つ。現在は、政府による民主化と市場経済化に向けた努力により、国民の生活水準は向上しつつあるが、いまだ発展途上にある。

そんな裕福とはいえない国が、東日本大震災の際に、いち早く援助を差し伸べてくれたのだ。震災の7カ月後(2011年10月時点)での震災地への義捐金は、世界では5番目、ヨーロッパでは1番多い援助だった(セルビア赤十字を通じて1億9000万円以上の海外救援金)。

これは、セルビアの経済規模を考えれば、どれほどのものかわかるだろう。聖書の中の有名な言葉、「この貧しいやもめは、賽銭箱に入れている人の中で、だれよりもたくさん入れた。皆は有り余る中から献金したが、この人は、乏しい中から自分の持っている物を全部入れたからである」(マルコによる福音書12章41節)を地で行く話なのだ。

 

■セルビアに恩義を返そう

こうした日本への支援が、セルビアを襲った洪水の際に、TwitterやFacebookを通じて拡散。メディアでも報道されるようになり、徐々にセルビアによる東日本大震災当時の募金活動のことが知られるようになった。

はたして、「今こそ、セルビアに恩返しをしよう」という掛け声は広がり、Yahoo! JAPANが募った緊急支援募金はネット上で1億7447万円集まった。さらに、日本赤十字やサッカーの名古屋グランパス、セレッソ大阪のサポーター、多くの民間企業なども支援を呼びかけ、そちらも多額の義捐金が集まったという。

 

セルビア大使館 インタビュー

 洪水時に大使館に寄せられたお見舞いの手紙の数々

 

日本から遠く離れた国だが、意外にも親日家が多いというセルビア。「今は色々な改革が有り、日本企業がセルビアに投資をする上でも良い機会」とネナド・グリシッチ特命全権大使閣下は語る。閣下へのインタビューを通して、本稿では、日本の中小企業のセルビア進出の可能性を探ってみたいと思う。

 

 ■セルビアが親日国の理由

セルビア大使館 インタビュー (1)

 

―両国の繋がりの歴史を教えて下さい。日本ではセルビアが親日国だという認識が、最近になってやっと広まり始めたように思います。

 

「仰るように、一般の日本人の方はセルビアのことをあまり知らなかったと思います。一方セルビアでは日本は昔から人気の国でした。セルビアと日本との友好の歴史は132年と長いです。明治天皇とセルビア王家との交流にまで遡ることができます。そして、セルビア人は、日本の伝統や文化に対する尊敬の念を持っています。侍や武士道に見られる、特別なモラル、礼節などは、日本の方々が思っている以上に認知されています」

 

―東日本大震災の際、セルビアは多額の支援金をいち早く送ってくれました。地理的に遠く離れている国ですが、何故これほどの支援を頂けたのか、その背景が知りたいです。

 

「セルビア人は昔から日本に良いイメージを持っていました。これは、メイド・イン・ジャパンに対する信頼と、そこに基づく尊敬の気持ちからのものでしょう。

もう一つの理由は、セルビアが一番大変だった90年代に、既に日本は多くの支援をしてくれていたことです。勿論、他国も支援をしてくれたのですが、日本の支援は、一般市民が目にすることのできる形のものが多かったのです。

例えば、ベオグラードを走る黄色いバスがあります。このバスの外装に、日本とセルビア両国の国旗が交差した絵が描かれているのです。これは、経済制裁やNATO軍の空爆に対する援助の一環として日本から寄贈されたバスで、現在も100台近くが市内を走っています。きちんと日本政府のドネーションと明記されているのです。

そして、このバスはベオグラードで一番きれいなバスだということが重要なのです。さらに、バス以外にも病院医療機材、水道整備、学校校舎修復などで日本の支援が見られます。こうした点が日本への恩義を感じることに繋がり、東日本大震災の際の行動に結びついたのだと思います」

 

―なるほど。逆に、セルビアが洪水の被害にあった時に、日本の行動はどういったものだったのでしょうか。

 

「今回の被害で、多くの日本人の方に助けて頂きました。政府や民間企業もさることながら、有難かったのは、普通の市民の方達の行動です。大津波の襲来で被害を蒙った地方の住民の方たちもまた義捐金を集めてくださいました。本当に有難いことです」

 

―そうした支援はセルビアの方達には伝わっているのでしょうか。

 

「ええ、現地のメディアなどを通して報道されています。日本人は恩を返してくれたと報道したメディアもありました」

 

 

■セルビアの産業

 

―日本人の思いとしては、裕福な国ではないのに、多額の寄付をしてくれたセルビアの為に何かできないかということが背景にあったと思います。こうした交流を通して、両国の関係が温まっている今だからこそ、ビジネスについてお聞きしたいのですが、日本企業にとっての、セルビア進出のメリットを教えて下さい。

 

セルビア大使館 ネナド・グリシッチ大使閣下 (2)「昔、日本で大学生活を送っていたのです」と語るグリシッチ大使閣下

「セルビアの良い点は、政治的に東と西両面と良好な関係を築けていることです。この点がビジネスを築く足場として、良い環境になっています。さらに、EU加盟を目指していることも有り、法律は既にかなりの部分がEU水準になっていますので、カントリーリスクが低い。その上で、EUとくらべて物価は低い」

 

―それはビジネスとしてはアドバンテージですよね。

 

「ええ、そうした意味でも、今は、日本企業がセルビアに投資をする上で、とても良い機会だと思います。去年、日本の経団連の方達が初めてセルビアを訪問しました。ベオグラードにはJICAのオフィスも構えられています。既に、日本企業をサポートする体制は万全に整っているのです。そして、これはビジネスに限った話ではありません。国と国、人と人の繋がりが、両国に起きた痛ましい災害を機に、強くなっているのです」

 

―既に進出している企業はあるのでしょうか?

 

「ええ。日本企業で進出している有名な企業には、JTI(日本たばこインターナショナル)とパナソニックがあり、それぞれ生産工場を持っています。また、アサヒビールと三井物産が設立した合弁会社は、米国企業オルテック社がセルビアに保有する工場に、天然由来調味料の酵母エキス生産の委託事業をしています。

これに伴い、グループ会社のアサヒフードアンドヘルスケア株式会社もエキス製造技術などを供与しています」

 

―セルビアというと、蚊取り線香の金鳥が有名ですが。

 

「大日本除虫菊株式会社との繋がりは非常に古いのです。蚊取り線香の材料である除虫菊はもともとセルビアが原産地になります。蚊取り線香は、セルビアより渡った種の栽培から始まっています。こうした関係があるため、今の上山直英社長には、セルビアの名誉総領事になって頂いています」

 

―中小企業では?

 

「IT企業で数社、現地の企業との提携があります。セルビアは、マイクロソフトの開発センターがあるなど、昔からIT分野は強いのです。現在も、4社が日本企業と連携、業務提携、協力をさせて頂いています。アプリケーションの開発などを行っているようです」

 

―そうした企業はどうやってビジネスを始めたのでしょうか。

 

「既に進出している事例を見ると、セルビア人の知り合いがいて、そこからビジネスを始めるプライベートな関係から発展したものや、こちらの大使館やJICAのセミナー等に興味を持ってもらって始まった例もあります。多額の投資額とはいえないですが、既に投資している企業には満足頂いています」

 

―海外に進出する際、政治リスクを気にしますが、政情は安定していると言えるのでしょうか。

 

「はい、安定しています。一度来て頂ければ分かるかと。国際社会も政治的に安定していることを認めています。イタリアやドイツからの進出企業は多いので、日本企業もそういった各国の企業の事例を見て頂けると良いかもしれません。ある韓国企業は工場を3つも持っています。

そうした事例を見て、日本の中小企業の方にもチャンスと捉えて頂きたいですね。日本企業が進出すれば、西ヨーロッパで注文を受けたものをセルビアで生産することができます。EUとの距離が近いのでコストが抑えられる点は大きな利点になるかと思います」

 

―セルビア企業を知っている人に話を聞くと「頭脳が優秀だ」と。特に数字が得意な国民性だと聞いたことが有ります。

 

「そうですね。セルビアは昔から教育には力を入れていた国でした。エジソンのライバルと称されたニコラ・テスラに代表されるように優秀な科学者を輩出した国でもあります。共産主義時代も、ユーゴスラビアは諸外国に比べ、オープンだったのです。残念なのは、90年代を機に、そうした頭脳がかなり他国に流出してしまったことです」

 

 

■日本企業に期待すること

 

―日本の外務省のHPを見ていると、セルビアから日本に入ってくるのは、煙草やフルーツ、衣類で約18億円となっています。これをどう変えていきたいのでしょうか。

 

セルビア大使館 マキッチ・ジョルジェ参事官セルビア大使館 長門ティヤナ大使秘書取材時には経済担当のマキッチ・ジョルジェ参事官(写真上)と、長門ティヤナ大使秘書(写真下)にもご同席いただいた。

「まずは農業食品です。既に日本企業にも何社か興味を抱いて頂いていますが、ヨーグルトやチーズを始めとした乳製品は有名です。ラキヤという発酵された果実から作る蒸留酒も輸出していきたい。セルビアというブランドを確立したいと思っています。

ただ、多くのセルビア企業は加工品を作る機械を導入できずにいます。例えば、ラズベリーのピューレ。これは美味しくて有名なのですが、国内では防腐包装技術が十分ではないために、フランスに持って行き、包装されています。

心苦しいのは、それでメイド・イン・フランスの食品となってしまう点です。中身は我々のラズベリーのピューレなのに。また、東京では毎年、FOODEXと呼ばれる食品・飲料の国際見本市が開催されています。私たちはこのような見本市を通して、質の高いセルビア製品を日本の皆様にプロモーションしていきたいと思っています」

 

―食品の他はどういう産業を育てていきたいのでしょうか。どういう分野に力を入れていきたいのか。国家戦略がわかると、日本企業も進出しやすいのですが。

 

「食品の他は、金属加工、エレクトロニクス、IT、医薬品、自動車部品などに力を入れたいと考えています」

 

―日本からセルビアに行った際の、進出した企業に対する優遇措置というのはあるのでしょうか。

 

「日本企業も外国企業と同じ待遇になります。例えば、投資額の規模や案件により優遇措置は変わりますが、代表的なものに、輸入の関税免除、雇用奨励金プログラム、好条件下での拠点地域の確保などが挙げられます」

 

―現状の課題は?

 

「外国投資の誘致は非常に重要と考えています。ヨーロッパや米国はもちろん、最近では日本からの関心も高まっています。投資を呼び込むのは簡単なことではありませんが、すべての課題を解決する努力をしています。ほかには、国内で生産された製品がそのままの形で日本に輸出されないことが挙げられます。

日本の要求レベルが非常に高いので、これをクリアするのがなかなか難しいのです。開発に予算が割けず、中小企業は、大きな投資もできないのです。そのため、日本に大量に輸出する企業体力がない」

 

―最後に日本企業へのメッセージをお願いします。

 

「私は、今のこの時期がセルビアに投資をする絶好のタイミングだと考えています。ただ、その前にまずはセルビアのことをもっと知ってもらうことが重要です。ヨーロッパへ訪れる際は、ぜひセルビアにも立ち寄ってもらいたいですね。セルビアに関する情報が必要でしたら、いつでも大使館にご連絡ください。お互いを知るところから始め、絆を深めていきたいと思います。私たちは日本・セルビアの経済発展のために最大限の努力をいたします」

 

―本日はありがとうございました。

 

セルビア大使館 インタビュー (2)

インタビュアーの筒井氏(左)と金盛氏(右)。グリシッチ大使閣下を囲んで。

 

オビ インタビュー

セルビア共和国大使館

〒140-0001 東京都品川区北品川4-7-24

TEL 03-3447-3571

http://www.yu.emb-japan.go.jp/

http://www.tokyo.mfa.gov.rs/

 

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