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世界戦略レポート『残された巨大市場・イスラムマーケットへのゲートウェイ戦略』

 

オビ 世界戦略レポート

残された巨大市場・イスラムマーケットへのゲートウェイ戦略

◆文責:佐々木宏

オビ コラム

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サマリ
◉イスラム市場は、北米・ヨーロッパ・中国・インドにならぶ巨大市場である。
◉イスラム世界はイスラム教を中心とする世界観と価値体系を持つエリアのことを指している。
◉イスラム世界は、長い歴史と多様性を持ち一括りで捉えることは適切でなく、オスマン世界・ペルシア世界・中近東世界と大まかに分けて理解することができる。
◉このうち、日本企業はオスマン世界を入口として、イスラム市場への足掛かりを作るべきである。
◉イスラム世界とビジネスをするには、イスラム独特の歴史や文化、習慣を理解するだけでなく、イスラム独自の商法も理解する必要がある。
◉イスラム世界に限らず、日本企業には多様な世界の価値観を理解し、自らの利益をグローバルな舞台で追求する能力が今問われている。

■市場としてのイスラム世界

イスラム世界とは、イスラム教を信仰する人々であるムスリムが人口の多数を占め、またムスリムが社会の指導的な立場で構成されるエリアのことを指す。

市場としてイスラム世界を見た場合、人口規模でイスラム世界は、欧州や米国より多く、中国・インドに匹敵する市場である。このうちの中国市場は市場開拓が進みつつあり、またインド市場も市場開拓がはじまりつつある状況であるが、イスラム市場は市場としては手付かずに近い状態と言える。イスラム市場が残された巨大市場と謂われる所以である。

とはいえ、以下に見るように、イスラムの世界は多様性に富んでおり、イスラム世界を一括りで理解することはできず、また同様にイスラム市場を単一の市場として捉えることもできない。一方で、ある程度の「枠」としてイスラム市場を捉えなければ、市場としての魅力や面白味に欠けることになってしまう。

そこで、捉え方として、まず他の海外マーケットに比較的市場の属性が近い市場をゲートウェイとして捉え、そこを足掛かりにしてより「ディープ」なイスラム市場へ分け入ってゆく、というプロセスを辿るのが良いと考えられる。

 

■イスラム世界の概要

イスラム世界の人口は、世界人口の約20%を占めており、これはキリスト教世界の約33%に次いで2番目に多い数である。地理的には、中東エリア・近東エリア・北アフリカエリア及び一部東南アジアのエリアに広がっており、これらのエリアのムスリムの人口の合計は、全体で13億人である。

国家としては、イスラム教国或いはイスラム諸国と呼ばれることが多く、これらの国は概ねイスラム諸国会議機構(OIC)に加わっている。加盟国はムスリム(イスラム教徒)が国民の多数を占める西アジア、北アフリカ、西アフリカ、東アフリカ、中央アジア、南アジア、東南アジアなどの57カ国、オブザーバーが5カ国・8組織(国連など)からなる。

OICには、イスラム教徒が多数派を占める国はほとんど参加しているが、国内でムスリムが大多数を占めることは必ずしも条件となっている訳ではなく、南アメリカ、ガボン、ウガンダ、スリナム、ガイアナなどイスラム教徒比率の低い国もOICに加盟している。また、イスラム教徒比率の高いエチオピア(30~50%)とタンザニア(約30%)は加盟しておらず、絶対数としてイスラム教徒人口の多いインド(約1億5000万人)や中国(約2000万人)も加盟していない。

 

■複雑で多様性に富むイスラム世界

イスラム世界は、非常に長い歴史と多様性を持ち、イスラム教国だからといって、一括りにして理解することはできない。

610年にムハンマドが創始したイスラム教は、一神教であることと明快な教えでアラブ人に受け入れられやすく、創始から30年足らずでペルシアからパレスティナの地域に一気に広がった。その後の750年までには、ムハンマドの後継者とされるカリフが統治するイスラム帝国により東はインダス川流域、西は北アフリカを経てイベリア半島まで勢力を伸ばした。広大な版図をもつイスラム帝国では、陸と海の交易路を支配し、その中をイスラム商人が行き来しつつ、その過程でアフリカ内陸や中央アジア、さらにはインド洋を超え東南アジアにまでイスラム教が広まって、今日まで至っている。

 

イスラム世界、と一括りで言われることが多いが、イスラム世界は、大きく旧オスマン世界・旧ペルシア世界・中近東世界の3つの小世界で構成されている。

3つの小世界のうちの1つ目の小世界は旧オスマン世界で、現在のトルコを中心とするエリアである。オットマンの小世界とも呼ばれる。この世界は、西欧に隣接し、絶えずキリスト教世界と接触をしてきた歴史を持ち、東ヨーロッパから北アフリカ・西アジアに広がる巨大な帝国が支配していたエリアである。西欧にとっては、旧オスマン帝国は過去に重大な脅威であり続け、今日でも西欧諸国の人々にとっては旧オスマン帝国に対する恐怖心が根底に流れていると言われている。

 

2つ目の小世界は、旧ペルシア世界で、古くはアケメネス朝からはじまり、ササン朝に続くペルシア帝国の版図を中心とする世界であり、現在のイランに当たるエリアである。ササン朝の後にイスラムに占領され、当地はイスラム化してゆくことになるが、後から来たイスラム教徒は当地のすぐれた技術と学問を吸収し、イスラム文明を花開かせてゆくことになる。

 

3つ目は中近東世界である。この中近東世界は、現在の日本にとっては、産油国と消費国の関係で深い結びつきがあるが、一部の国を除いて政治的に安定していない国もあることもあり、それ以外の国々との結びつきが必ずしも強い訳ではなく、また相互の理解も進んでいるとは言えない状況にある。

 

これらの地域は、イスラム教が普及する以前から、それぞれ独自の歴史、文化、習慣を持っていた。また、それぞれの小世界毎に、西欧や中央アジア、インドなどとの接点や歴史があり、イスラム世界の中でも、それぞれの世界観を作り上げてきた。現在でも、イスラム世界は、それぞれが異なる文化や考え方を持っており、一様に捉えることはできない。

 

■日本企業のイスラム市場戦略

日本にとって、イスラム市場へのゲートウェイとなるのは、先に述べたイスラム世界を構成する3つの小世界のうちの1つ目であるオットマンの小世界である。オットマン世界は、現在ではトルコ共和国を中心に構成されている。

現在のトルコ共和国は、イスラム世界で初の世俗主義国家であり、また、1924年の建国以来、西洋化による近代化に熱心に取り組んでいる。NATO及びOECDにも加盟しており、更にはEUへの加盟を表明するなど、西欧の価値観を拒絶することなく国を開いており、他のイスラム教国と西欧諸国との橋渡し役的な存在を自ら担ってきたとも言える。

また、トルコは言わずと知れた明治以来の親日国であり、ボスポラス海峡を跨ぐファーティフ・スルタン・メフメト橋やボスポラス海峡海底地下鉄などの日本のODAによって作られた象徴的なインフラ施設も多い。

 

■それでも簡単ではないトルコ市場

しかし、だからといってトルコが日本にとって優しく且つ易しい市場であるかといえば、そうではない。トルコも、長く複雑な歴史を抱えている。

現在のトルコの大統領であるエルドアンは、2003年に首相に就任して以来、着実にトルコの経済成長を実現させ、その実績から高い支持率を得て2014年には大統領となった人物であるが、西欧化・自由化によるトルコの経済発展を進める一方で、女性の公共の場でのスカーフの着用を認める法案や姦通罪の復活法案(のちに廃案)を提出するなど、イスラム復興主義的な動きを見せることがある。テレビのインタビューなどでも、質問者の英語による質問に対して、また、ネット規制実施に関して言及するなど、強権的な一面もある。

これは、エルドアン大統領が、イスラム国家としてのオスマントルコ帝国の栄光を取り戻したいと考えていることが背景にある、と言われている。当然、これは領土的な拡大の野心を意味しているものではないが、トルコ国内にこうした価値観もあることや時々見せる国粋主義的な国内の動きについては、常に留意しておく必要がある。

 

治安の面では、現在、概ね社会は安定しているものの、それでも反政府デモが時々起こっている。これは他の国同様、社会の発展による貧富の差の拡大により不満が高まっているためだと言われている。また、周辺国と同様にトルコもISIS問題を抱えており、今年になってイスタンブール旧市街での自爆テロなども起きているなどしており、注意が必要である。

イスラム世界の中では日本や西欧諸国と価値観が近い国であるトルコとは言え、これだけの価値観の違いや社会的な問題を抱えており、イスラム世界の市場が如何に多様性に富み、ひとつの市場として捉えることができないか、ということがこれでも理解できると思う。

 

■イスラム世界への浸透方法

とは言え、この巨大市場を諦めるわけにはいかない。この巨大市場に足掛かりを作り、且つ深く入り込んでゆくためには、どうしたらよいか?

ここでの戦略としては、オスマン帝国の旧版図をベースに市場を捉えるのが良いと考えられる。オスマン帝国の最大版図は17世紀後半で、地中海と黒海及びペルシア湾を覆う形で構成されている。現代でも、トルコを中心として旧オスマン帝国領の文化的な結び付きなどが残っており、旧オスマン帝国領内に市場を開拓してゆく、という浸透の仕方は有効である。実際に、既に当地で先行している日本の素材メーカーは、そうした浸透政策を採って成功している。

 

具体的にはトルコでの足掛かりを固めたあとで、エジプト・アルジェリア・チュニジア・シリアなどの各国に展開してゆく、という流れになる。

ただし、トルコは先述したようにイスラム教国ながら比較的西欧に近い価値観を持つ国であるが、それ以外の旧ペルシア帝国領国はそれぞれ価値観や国情が異なるため、自社の業種業態やマーケットの発展度合いなどにより個別に見極めて自社にあった浸透プロセスを計画する必要がある。

また、その他の留意点として、イスラム独特の商習慣がある。商習慣とは、特定の地域や民族などが持つ商取引に於ける基本的な考え方や商業の歴史、得意パターンの総体を指す。日本でも近江商法や富山商法などが有名であるが、世界にも華僑商法、インド商法、ユダヤ商法などと並んでイスラム商法(レバシリ商法)というものが存在する。

イスラム商法は、合理主義に基づく商法であり、それに独特の宗教的な観点が加味された商法である。こうした世界の商法に関して日本人には特に馴染みがないため、イスラム世界の価値観を理解するとともに、こうした商法においても相手と取引できるだけの深い理解が必要である。

 

■多様性を理解できる能力

このようにイスラムマーケットと一括りで言っても、その歴史や価値観などは複雑で多様性に富む。また、ビジネスの観点で言えば、日本とは全く異なる独特の商法も当地の常識として存在する。そうした多様性を、頭で理解するだけでなく、しみじみとした感覚をもって把握できる能力を身に付けることこそがグローバル企業への第一歩であると言える。それは、例えば非アジア圏の人々がアジアマーケットと一括りに理解しようとしたところで、アジアの多様性を把握できないのと同じことである。

ただし、理解できることは、あくまで最初の一歩で、真のグローバル化には相手を深く理解するだけでなく、自分自身の理解及びそれを説明する力や互いの立場を尊重しつつ自分たちの利益を追求する交渉力なども必要になる。

つまり、グローバルな世界が持つ多様な価値観を、自分の関係と絡めて理解し、相互の関係や多様な価値観を先見的に評価する能力が今こそ日本人には強く求められている。それらについては、長くなるので別の稿を改めて説明をしたいと考えている。

 

オビ コラム

【文 責】

(株)海野世界戦略研究所(Unno Institute for Global Strategic Studies)

佐々木宏氏

代表取締役副社長 佐々木 宏(Hiroshi SASAKI) …経営&ビジネスコンサルタント。早稲田大学大学院生産情報システム研究科博士課程後期中退。早稲田大学在学中に、シンガポール国立大学MBA課程に派遣留学。富士銀行系列のシンクタンクである(株)富士総合研究所、(株)中央クーパースアンドライブランド・コンサルティング、アンダーセンコンサルティング(当時。現アクセンチュア)を経て、2004年、(株)テリーズ社設立、代表取締役に就任。大手メーカーを中心に経営コンサルティング、ビジネスコンサルティング領域を中心に、中期経営計画策定、資金調達、各種PJのPMOなど経営全般に関わる支援サービスを展開している。

海野世界戦略研究所について

海野世界戦略研究所

海野世界戦略研究所(Unno Institute for Global Strategic Studies)は東京都港区に本拠を置くコンサルティング会社で、日本企業のグローバル化と日本社会の国際関係構築を目指した戦略的なオピニオン・アクションリーダーとなることをミッションとしており、

①情報提供事業:世界情勢に関するインテリジェンス、そのインテリジェンスに基づく戦略の国内外の個人または組織への提供

②組織間のコミュニケーション促進及び利害調整代行業

を展開する会社である。

海野塾

グローバルな世界で真に活躍できる人材を育成するための教育プログラムで、講義は英語を中心に行われる。グローバル化する複雑な世界を理解するだけでなく、その中で主体的にリーダーシップを発揮できる人材の養成が、海野塾の主眼である。

海野塾は、毎週末に有志によって開催されているものの他に、個別企業向けにアレンジした研修プログラムとしても提供されている。

 

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