次世代の産業を担う【中小企業】初めて明かされる秘話
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世界中で魚需要が急上昇 未利用率9割の魚の利用率を上げよ!

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未来の沃野を拓け!ビジネスニューフロンティア10 

世界中で魚需要が急上昇 

未利用率9割の魚の利用率を上げよ!

◆取材・文:佐藤さとる

オビ スペシャルエディション

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魚離れが進む日本。魚介類の需要は1980年代をピークに過去30年下がり続けている。片や海外では魚介類の需要が急上昇。欧米の健康志向や中国など新興国の経済成長などを背景に争奪戦が繰り広げられつつある。世界中の争奪戦に取り残されないためにも、水産資源の確保が求められる。とりわけ9割と言われる魚の未利用率を上げることは喫緊の課題だ。

■全世代が肉にシフトする日本

四方を海に囲まれ、親潮と黒潮が交わる世界的な漁場を持つ日本は、世界的な魚食国である。だがその需要は1980年代半ばにピークを打った後、一貫して下がり続けている。とくにこの10年ほどは日本人の魚離れが深刻化している。

水産庁の調査では、従来であれば50代、60代と加齢とともに肉から魚にシフトしていく「加齢効果」が見られなくなり、全世代での肉へのシフトが進んでいることが判明した。

こうした情勢に鑑み、水産庁は水産資源の内需拡大策を図り続けている。手軽で調理時間の短い「ファストフィッシュ」の開発を後押ししたり、スナック菓子など新たな特産品の創出など地味に活動を続けている。

消費者目線に立てば、良質のタンパク源を調理がしやすく満足度の高い肉に求めたとすれば、それは市場の理にすぎない。まして人口減少下の日本においては、需要減は致し方ない面もある。もとより漁業は高齢化、後継者不足を抱える産業だ。需要に合った供給という点からすれば、一概に嘆くことばかりではない気もする。

だが問題は、こうした事象が日本だけに見られることだ。

 

■山岳国ネパールでも養殖がはじまる

06_new_frontier10_02世界中で魚介類の消費が急速に伸びている。特に中国がすさまじい。

FAO(国連食糧農業機関)によれば、世界の1人あたりの水産物消費は50年前の約2倍に上昇している。欧米の健康志向や新興国の経済成長などが背景にある。とくに最大人口を抱える中国が刺身まで食べるようになったことは大きい。

実際、日本人が好きなマグロは高級魚として知られるようになり、中国の業者が築地などで大量に買い付けるようになった。高級魚だけではない。マイワシなどの大衆魚が買い付けられることもある。人が捌いて食べるのではなく、養殖用の餌として、だ。

実は世界的な魚食市場の広がりに伴い、世界中で養殖を手がける国が増えているのだ。最近ではなんと山岳国のネパールでも養殖が本格化し、農家がこぞって取り組みはじめているという。

 

■魚粉の高騰で日本の養殖がピンチ

漁業関係者が憂慮しているのは、この養殖用の餌が高騰していることだ。

06_new_frontier10_01水産総合研究センター中央水産研究所主任研究員の石田典子さん。「カタクチイワシ資源の高度利用による地域活性化計画」(2006〜11年)のプロジェクトリーダーを務めた。「水産資源の利用率を上げることは国の大きなテーマ。さまざまなアプローチがある。中小の水産業者の可能性を引き出したい」と語る。

「養殖魚の需要が世界的に高まっているため、餌に使われる魚粉が奪い合いとなって、日本は買い負けている。今後中国が本格参入するとされ、さらに価格が高騰すると言われている」と危機感を募らせるのは、独立行政法人水産総合研究センター中央水産研究所主任研究員の石田典子さんだ。

 

日本の養殖技術は世界を引き離している。不可能とされたマグロの完全養殖をはじめ、近年ではキャビアの原料のチョウザメの量産化も成功しており、ほかに数十種の完全養殖を実現している。

この養殖を支えているのが餌の品質である。日本の飼料メーカーが手がける養殖用餌は世界トップで、「技術では他国より20年先は行っている」(石田さん)という。そしてこの餌の質を決めるのが、魚粉だ。魚粉は、子アジやアンチョビといった小型魚などを粉末に加工して作られるが、餌の高騰から魚粉の買い付け元であるチリやペルーなどは漁獲枠に制限を加え出した。

「日本は魚粉の9割以上を南米産に依存しているため、そのコストをいかに抑えるかが喫緊の課題」(石田さん)となっている。

そこで石田さんが他の研究機関と一緒に取り組んでいるのが、魚粉率を抑えた養殖魚向けの餌の開発だ。

 

■未利用率9割の実態とは

注目したのは、煮干しなどに使われるカタクチイワシだ。カタクチイワシは、身の質が脆弱で鮮度低下が早いため同じ小型魚のマイワシなどに比べ利用率が低い。サイズも小さく単価が低いため、機械化に対応できず、頭や内臓を取り除いて店頭に出すと利益が確保できない。つまり、狙って獲るのではなく、他の魚と一緒に網にかかる「やっかいな」魚だった。

こうした利用率が低い、または利用されない「やっかいな魚」は漁獲量の実に9割を占めるとされ、その利用率の向上が関係者の長年の課題だった。

それにしても9割とは…いったいどういうことなのか。

「漁師にとって魚は種類が単一で、サイズが一定であるほうが売りやすい。巻き網などで漁獲する場合、魚種が多く、狙った大きな魚が少ない場合は、船の魚槽に入れる前にそのまま海に戻すことも多い」(石田さん)。こうしたケースや、頭などの廃棄部を含めると未利用率は9割にのぼってしまう。

 

■小型魚向け「フィレーマシン」の開発

石田さんは餌の開発において、熱工程に注目した。

魚を一旦スチームして圧搾し、油を抜いた後で乾燥させていた従来の方法を、「エクストルーダー」と呼ばれる高圧高熱の押出機にかけてペレット化するようにした。スペースと時間のかかる熱工程を2回から1回に減らしたことで大きなコストダウンが実現。肝心の餌の品質も良く、カンパチに与えたところ、「従来品と遜色ない飼育結果が得られた」という。

 

06_new_frontier10_0306_new_frontier10_04石田さんらが開発したヘッドカッターとフィレーマシン(写真上)。カタクチイワシのほか、シシャモ、小アジなど、サイズが合えば魚種を問わず対応できる。投入すると頭が揃う簡易型方向揃え装置も開発した。(魚はシシャモ)

ほかにも石田さんたちは、小型魚の開きを自動化する「ヘッドカッター」と「フィレーマシン」も開発している。従来であれば人手を使って頭を切り落とし、内臓を取り出して開いていた作業が、工程管理者1人だけで、毎分120匹のカタクチイワシの開きが量産できるようになった。このマシンでは魚種を問わず10〜25gまで対応できるので、カタクチイワシ以外の未利用魚の利用に道を拓いた。

 

■ソフト・ハードをパッケージ化したビジネスモデルを

だが石田さんは、「実際の現場への導入は思うように進まない」と打ち明ける。

餌に関しては「飼料メーカーがまだ儲かっているので、新たな生産ラインの必要性を感じていない。では漁協などが入れるかというとコストがネック」(石田さん)。

フィレーマシンとヘッドカッターも同様だ。工場のサイズや設置場所を考慮して設計するセミオーダーのため、価格がセットで800万円ほどする。ただ価格に関しては、ある程度台数が出るようになれば、量産効果で下げられそうだ。

問題は導入後だ。天然魚は時期によって魚種や量が変わってくるため、せっかくの機械が遊んでしまう懸念もある。また台数もほとんど出ていないため、メンテナンスコストが見えにくい点もネックだ。

こうした新しい機械やシステムの導入には大企業でも慎重になるもの。まずは価格を思い切り下げて、導入事例を増やすことが必要だろう。事例が増えれば、改良改善のデータも集まり、より洗練されたマシンが生まれる。

ビジネスモデルの見直しもカギだ。現在製造業では商品のライフサイクル全体で収益を上げる仕組みが主流だ。機械の売り切りではなく、保守や機械を活用した商材開発などのコンサルティングなど、ソフトで稼ぐことも考えるべきだろう。導入側も1社だけでなく複数社が共同となり、複数台まとめて購入する方法もありだ。リースやレンタルもあるだろう。

売り先は当然世界だ。練り込んだビジネスモデルを、需要の高い国々にカスタマイズする工夫も必要だ。

何よりまず未利用率9割という現実を、業界を超えて共有することが重要だろう。知恵はまだまだ出るはずだ。石田さんらの努力に期待したい。

 

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