青山社中株式会社 桑島浩彰氏・インタビュー 「世界で戦える日本を目指して、アメリカを軸にみる対外発信の現状と対策」動画
青山社中株式会社 桑島浩彰氏・インタビュー
世界で戦える日本を目指して、アメリカを軸にみる対外発信の現状と対策
◆インタビュアー:加藤俊 /文:渡辺友樹
アイゼンハワー・フェローシップ参加報告会
「世界で戦える日本へ」という志の下、2名の官僚が霞が関を飛び出して設立した政策シンクタンク、▶青山社中株式会社。リーダー育成機関としての事業も行う同社の共同代表桑島浩彰氏は、今回世界各国から選抜された若手リーダー20名がアメリカの現在を見聞し、参加者同士でリーダーシップの議論を深めるプログラムである▶アイゼンハワー・フェローシップに日本代表として参加した。その報告会の模様をお伝えしよう。
※本校は動画収録後の講演を纏めたものです。報告会のセッティングにあたり、創光技術事務所に尽力頂きました。
アイゼンハワー・フェローシップとは?
アイゼンハワー大統領の名前を冠した「アイゼンハワー・フェローシップ」は、アメリカ政府によるプラグラムです。約2ヶ月間のアメリカ滞在を通して、参加者に「今」のアメリカを見させ、理解を深めてもらい、世界を変革するリーダ^を育てたいという趣旨で行われるものです。
日本からも2,3年に一人が参加していますが、世界各国から若手リーダー20名が集まって7週間過ごします。はじめの1週間と最後の1週間はこの20名が集まって「リーダーシップとは何か」などの議論をし、間の5週間は自分の興味関心に応じて全米を見て回れます。どこに行っても、誰に会ってもよいという非常に寛容なプログラムなのですが、アメリカ大使館からご紹介をいただき、今年の3月30日から5月17日まで行って参りました。これから、現地で調べてきたことの一部をご報告します。
日本の現状、強みとは
日本と中国で対外発信の争いになったときに、歴史的な国際社会への貢献度を比較すると、日本が中国に負けることはありえないというのがワシントンでよく言われますが、実際は中国に押されています。これはひとえに、いかにワシントンでアジェンダを作っていくかという訓練を、政府なり、民間が積極的に行って来なかったためです。
対外発信については、人材育成をいまようやく行おうとしていますが、当然2,3年ですぐ効果が出るような話ではありません。そういったコミュニティ、特にワシントンに入り込んでいく人材を見つけて地道に投資をしていくことが重要です。こうした活動は日本の文化に馴染みにくいことなので、国、企業を問わず日本としてしっかり中長期的に人材教育をコミットして行えるかどうかが問われています。
日本のアピール向上については、たとえばこんな例も。アイゼンハワー・フェローシップにはフィリピンのミンダナオ島の知事も参加していたのですが、彼は昨年、フィリピンでイスラム教原理主義勢力との停戦交渉を成功させた当事者です。実はこの成功jに日本が大きな役割を果たしていたと、彼から非常に感謝されたことがありました。日本政府は長年、内戦終結に向けて交渉支援をしてきたほか、イスラム教原理主義勢力の代表と、フィリピン政府との和平会談が成田空港の近くでに行われ、日本がそのセッティングを行ったりしています。ミンダナオ島の住民は日本に大変感謝しているとのことでした。
こうした貢献の例は多くあり、世界中から感謝されていることが沢山あります。このような例こそ、日本が世界の平和や安定のために、アピールできる事例が沢山あるわけです。では実際に何をすべきなのか。
アメリカにおける政府と企業活動の関係、ロビー活動とは
アメリカにはロビー活動が活発に行われています。中国や韓国は国を上げてロビー活動を展開している。日本企業は、企業活動に大きな影響があるにも関わらず、ワシントンの議会対策に関してまだまだできることがあると言われます。
たとえばロビイストたちは、クライアント企業からある政策を実現して欲しいという依頼を受け、その政策がいかに有益ということを、実際に法律を作る議員などの政治家に対して、彼らにとってのメリット、票に繋がるような形に言い換えて訴えます。また、ある法律が作られようとしているときに、クライアント企業にとって有利なように、項目を書き足したり削除したりするよう働きかける活動も行います。それと、これは日本の永田町や霞が関でも同じですが、政策のアジェンダ・セッティングにあたって誰がキーパーソンであるかは外からはなかなか分からないわけです。つまり、キーパーソンが誰であるか知っていること、そのキーパーソンに対してコンタクトを取れることは、大きな価値があります。特に議員は多忙で、そう簡単に会えませんから、会える関係にあるだけでロビイストとして力を持っているということになります。
企業と議員・政治をつなぐロビイング・ファームがアメリカには合法的に存在しています。ロビイングは癒着につながりやすいため、完全に透明化されていて、各企業がロビイングに使った予算など、お金の動きはすべて公開されることになっています。ロビイストも法律上、登録が必要です。ロビイスト自身がお金を運ぶわけではありませんが、アメリカという国は事実上、資金力が大きく影響する仕組みになっています。今回私がインタビューしたとある防衛産業のロビイング部署は、ワシントン近郊に100人体制の規模で政府渉外の部署をおいており、幹部は元次官補であるとか、そういった人物ばかりでした。
資金力がアメリカで重要だということについて付け加えると、たとえば大規模な対抗候補へのネガティブキャンペーンをインターネットやメディア上で展開されて、ある法律がいかに特定の人たちにとってダメージが大きいかをアピールするような手段もあります。いったんメディアで世論の流れを作られてしまうと、政治家としても影響を受けざるを得ません。ですから、例えばメディアを使ってPRをする、世論を形づくることでグラスルーツで政治を動かすという意味でも、やはりアメリカでは資金力が重要ということです。
日本企業に関して。例えば、たとえば三菱重工は現在旅客機を開発していますが、MRJという旅客機をいざアメリカに輸出しようというときに、アメリカの航空機産業とは直接戦わないかもしれないけれども、ブラジルの航空機メーカーとはぶつかる、そこで政府にどう働きかけるかという話が出てくるかもしれない。ほかにも、日本が新幹線を輸出しようというときに、アメリカの政権に対してどう働きかけるかなど、こういった活動がロビイング・ファームの役割です。
今回色々な企業にインタビューして、日本企業の中ではやはりアメリカへの直接投資で長い歴史を持つ、トヨタ、ホンダ、東芝など日本の大手製造業が抜きん出ている印象を持ちました。ワシントンだけではなく、各州でディーラーやサプライヤーなどを巻き込み、グラスルーツで戦略的に展開しており、力強さを感じました。
中国や韓国のアメリカでの活動
国を上げてロビー活動を展開している中国や韓国は、何かあれば日本のネガティブキャンペーンを展開し、オウム返しのように日本の悪口をワシントン中で言い続けているわけですが、このアプローチが100%効果的かというと、必ずしもそうではないということが分かりました。
中国はとにかく多額のお金を投じている。いまアメリカでは、「人民日報(China daily)」があちこちに置いてあって、タダで持って行くことができる。ワシントンでもCCTVという、中国のNHKのようなTV局が巨大なビルを建てて、アメリカのスター記者を雇って中国の宣伝をしようとしている。ニューヨークのタイムズスクエアでは東芝の電飾の上に新華社通信(xinhua news agency)の電飾が輝いていて、24時間CMが流れている。現在の中国のメディアは基本的に共産党の影響下にあって、すべてのメディアが海外では同じようなことを言うわけですが、中国を研究しているとあるアメリカの教授に話を聞くと、最近では、覚えのないニュースレターが届いて、権威ある人のコメントを引用するなどしてっsらしいメッセージが書いてあるけれども、よく読んでみると実は中国のプロパガンダだという巧妙なケースも増えているとのこと。
とはいえ、アメリカの知識層はそこに政治的な意図があるのは分かっています。だから、まともには取り合わない。ただ、そうは言っても、たとえば尖閣問題についてこれほどまでに日中間に領土問題があると言われ続けると、「少なくともケンカはしている」という認識にはなる。実際に「交渉すれば良いじゃないですか」といったようなことを言われました。日本政府は領土問題など存在しないという立場を貫いてきたにも関わらず、アメリカの知識層では領土問題があるという共通認識になっている。つまり、黙っていてはダメだということです。
ただ、これは企業における広告投資のようなもので、積み上げが重要なので、ここまで積み上げられたものをひっくり返すのは容易ではありません。更に現地のロビイストの話では、ワシントンで発言しても無駄で、有権者がいるところ、すなわち各州へのアプローチが重要との話がありました。アメリカの政治を動かしたかったら地方に、各州に行けということで、アメリカの共和党員がどれだけ中央で「中国怪しからん」と言っても、たとえばとある州に中国の携帯電話メーカーが工場を作って雇用を作りますと言ったりすると、途端にコロッと変わってしまったりするものなのです。日本はワシントンに人を送って発言させる活動をしていますが、このやり方には限界が来ており、各州選出の連邦議会議員により影響力をもつグラスルーツ活動に変えた方がいいという意見がありました。
韓国に関しては、見習うべきところもあります。ワシントンの関係者曰く、慰安婦問題などに関しては、学者をはじめ誰もが同じことを一方的に言い続けていると。しかし、叫び続けることが効果的かというと、必ずしもそうではなくて、対話にならない、建設的ではないと捉えられてもいました。
一方で、現地に地道にKorea Economic Instituteというシンクタンクを作って韓国研究者を増やしたり、米韓のFTA交渉のときにはいかにそれが重要かということを韓国の商工会議所が全米を行脚して主張したりといった活動も行っています。こうした点は、TPP交渉への日本の経済団体の対応などと比較すると大きく異なり、良いところは取り入れた方がいいと思います。
いま日本では韓国の活動なども参考にしながら、アメリカ議会の中に日本議連のようなものを実際に作っています。これからそれをどう戦略的に展開・発展していけるか、期待がかかります。
日本は戦後約70年の間に積み上げてきたアセットがあり、その間一度も戦争をしていないことや、JICAや青年海外協力隊といった海外での活動など、世界に対して多大な貢献をしてきて、きちんと評価もされていますが、こうしたことを外にアピールするのがまだまだ苦手です。日本のプレゼンスが高かった時代は、日本の専門家が少なからずいて注目されていたのですが、これからは意識的に親日派を育ていく必要があります。私も微力ではありますが、定期的にワシントンを訪問し、日本のイメージを向上させるためにどんどん活動していきたいと考えています。
ビッグライフチャンネルとは?
誌面では伝えきれない企業の魅力をお届けする動画番組です。月刊誌ビックライフ21に過去掲載した記事の中から反響のあった記事ないしは、より深くお話をお聞きしたい企業の方に押上のスタジオに登壇頂く30分のフリートーク番組です。動画はホームページ( https://www.biglife21.com/)と YOUTUBE にて公開されます。
桑島 浩彰氏(くわじま・ひろあき)…1980年石川県生まれ。東京大学経済学部卒業。ハーバード大経営大学院/行政大学院同時修了(経営学修士/行政学修士)。三菱商事株式会社 生活産業グループ (コーヒー担当)を経て、株式会社ドリームインキュベータ (日系戦略コンサルティングファーム)に入社。国内大企業のグローバル戦略立案及び実行支援に従事。2012年5月青山社中株式会社 共同代表CFO就任。2014年アイゼンハワーフェロー日本代表。グロービス経営大学院講師就任予定(2015年1月より)。米国、中国、アジア各国など日本の政治経済に関する海外講演多数。
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