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日本は世界に冠たる豪雪国! 厄介者の雪を21世紀の資源に変えよ!

 

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未来の沃野を拓け!ビジネスニューフロンティア⑧ 

日本は世界に冠たる豪雪国!

厄介者の雪を21世紀の資源に変えよ!

◆取材・文:佐藤さとるプリント

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国土の半分に雪が降る日本。雪は、北日本の人々の暮らしを大きく制限するまさに「厄介者」。しかしその厄介者が新たな資源として生まれ変わろうとしている。雪の冷熱を利用したエコハウスや工場、雪室で熟成させた食材など、新たな産業や市場が生まれつつあるのだ。

除雪から利雪へ。目指すのは雪資源大国だ──。

日本は世界トップの豪雪国

今年2月。首都圏から北日本にかけ観測史上まれにみる大雪に見舞われた。11都県で13人の死者と多数の負傷者が出た。首都圏の多摩地方や山梨では陸路が寸断され孤立する地域も出、救出に自衛隊が投入される事態となった。

雪の脅威を改めて知らされた形だが、実はもともと日本は世界的にも希有な豪雪国である。

例えば北海道の札幌市は1シーズン約6mの降雪がある。これは人口100万を超える都市ではダントツで、2位のロシアのサンクトペテルブルクの倍以上ある。

この圧倒的な積雪に日本人は悩まされてきた。北日本では雪が降るたびに除雪を行わなければならず、その費用は例えば札幌では1シーズン約150億円にも達する。さらに雪による犠牲者も増えている。消防庁によれば、2000~09年の10年間の雪による死亡・不明者は439人にのぼり、90~99年の10年間の190人より2倍以上増えているのだ。

雪国の人にとって、雪は金も手間もかかり、命の危険もある、まさに「厄介者」なのだ。だがこの厄介者に対する見方がこの10数年ほどの間に変わってきた。

 

世界初の雪冷房マンション

北海道美唄市では、99年に雪を使った“世界初”の雪冷房マンション「ウエストパレス」が誕生し、話題となった。

マンション脇に設けられた貯蔵庫に、冬の間積もった排雪を貯め、夏の冷房に利用する。保存した雪を強制的に融解させ、全室に設置した風量調整つきのファンコイル型ユニットから冷風を提供する。

同マンションではこの仕組みにより、シーズン中の冷房費はエアコンの3分の1に抑え込むことができたという。当初800万円と見積もっていたシステム予算は2000万円に膨らんだが、建物のランニングコストはほとんどかからなくなったという。

さらに雪には除菌作用や除湿作用があることが分かっており、クリーンでさわやかな空気を提供できるため、長時間冷房をかけていたとしても体に負担が少なくて済むという。

こうした取り組みは、すでに全国で広がっている。

豪雪地を多く抱える新潟県もその一つ。同県では雪室付き雪冷熱エネルギーシステム住宅の普及を全県的に支援、05年度より「雪冷熱エネルギー住宅基本設計」を作成、(県が把握しているだけで)数十軒が建っているという。

 

驚異の低電力消費雪を使ったデータセンター

05_New_frontier08_01新潟の雪室で低温熟成された「越後雪室屋」の商品群。東京の百貨店で好評という。雪の貯蔵では電気冷蔵で発生するイソバレルアルデヒドという匂い成分が発生しないため、まろやかになるのではということが最近の研究でわかってきた。

注目を集めているのはデータセンターとしての雪の利用だ。

データセンターとはインターネットのサーバーといわれる大型コンピュータや通信機器などをまとめておく施設。ネットなどの進展によりデータセンターは大型化しており、その機器から発せられる熱が誤作動を生む可能性があると問題となっていた。

「北海道グリーンエナジーデータセンター」の試算では、札幌に雪冷熱システムを活用したデータセンターをつくった場合、東京の同規模のデータセンターに比べ、電力消費削減率は実に89・8%にのぼるという。さらに温室効果ガスの排出量も89・9%削減とほぼ同率の効果が期待される。

前出の美唄市では、雪の冷熱システムを利用した「ホワイトデータセンター」を計画中で、電力コストの9割ダウンを目指している。

雪の冷却機能を丸ごと利用する「人工雪山」の利用も広がりつつある。北海道の沼田町では5000tの巨大な人工の雪山をつくり、地域一帯でカスケード(多段階)利用する「雪山プロジェクト」を展開している。

例えば雪山の雪を溶かし、その融雪水をパイプを通じて農産物の生産施設や公共施設等に送る。また雪山を切り崩し、雪そのものを農産物貯蔵施設等に搬送して利用する。

同町は低温貯蔵した米や椎茸などを「雪中米」「雪中椎茸」として出荷し、人気を博している。

 

10年で冷熱システムも大進化

公益財団法人「雪だるま財団」主任研究員伊藤親臣公益財団法人「雪だるま財団」主任研究員伊藤親臣さん。室蘭工業大学で利雪研究の権威媚山政良教授の下で学び、2000年より現職。新潟県を拠点に全国各地で利雪事業のタクトを振る。「重要なのは雪を邪魔だと思うか資源だと思うかの人の意識なんです」
05_New_frontier08_0205_New_frontier08_03伊藤さんが設計に関わり、昨年開業した新潟県の醸造会社「八海醸造」の雪室。1000tの雪で日本酒を冷温貯蔵できるほか、レストランやショップが併設されている。

利雪研究者で新潟県の公益財団法人「雪だるま財団」の主任研究員伊藤親臣さんによれば、2013年度現在、雪冷熱エネルギーシステムを導入した建築物は全国で自治体関連施設を中心に150棟ほどあるという。ただ「これまでの取り組みを考えると歩みは遅い」とも。

だがその歩みも、2011年に起こった東日本大震災を機に変わった。太陽光や風力発電など再生可能エネルギーの一つとして、雪に注目が集まったのだ。

伊藤さんのもとには「雪室を使った貯蔵施設はないか」、「雪冷熱エネルギーシステムを利用した工場をつくれないか」といった問い合わせが舞い込むようになった。

伊藤さん自身も、これまでの取り組みの方向性を見直した。従来は雪冷熱エネルギーシステムの普及ばかりに目を向けていたが、雪室で熟成させた食品を東京都内の百貨店で販売するなど、雪がつくりだす様々な価値の見える化にも力を入れるようになった。

「反応はいいです。電気で低温貯蔵した食品に比べ、雪で低温貯蔵した食品は味がまろやかになることは分かっていた。でもそのメカニズムが分からなかった。それが分かってきたので自信を持って売ることができます」

貯蔵技術もずいぶん進化した。夏になると溶けてしまうというイメージがあったが、技術進化で次のシーズンまで残せるようになり、ITを使って大量の雪の温度や湿度調節も細かく制御できるようになった。

「雪さえあれば冷房費がかからないのです。新潟の場合、高速道路のそばに施設をつくれば東京から2時間半で来れる。電気で冷やしていた企業にとっては魅力的だと思います」

 

スノーバレーで国家備蓄拠点に

伊藤さんは、こうした低温貯蔵施設が雪国に集まるようになれば、シリコンバレーならぬ「フードバレーもできる」という。

「オランダは豊富なガス田などを背景にフードバレーを目指しています。私たちも日本海側で採れた食料、あるいは大陸から運ばれた食料も雪国にストックすることで、電気に頼らない低コストのフードバレーが実現できる」

そもそも中東から石油を運び、それを電気に変えて、冷蔵するコストを考えれば、雪の冷熱コストは安い。

ほかにもデータセンターが集まれば、今後起こる東南海トラフ地震や首都直下地震への対策にもなる。さらにワクチンなど低温管理が必要な医薬品を備蓄することで、伝染病のパンデミックに備えることもできる。

 

伊藤さんはさらに雪国の「スノーグリッド」も提案する。

「高速道路などの除雪では雪を捨てていた。それを指定場所に集めて貯めるのです。そこに沿道の木々をチップ化して撒くと雪が残せる。チップは3年したら、堆肥として畑に撒く。そこで野菜や菜の花を作り、その菜の花から採った油で除雪車を動かす。一つの循環社会が生まれる。そこまでくれば、雪国の人も雪を厄介者とは言わなくなる。雪山が宝の山に見えるはず」

 

厄介者だった雪が雪国の暮らしを変えるだけでなく、国家のエネルギー戦略、さらには外交カードにもなりうる可能性が出てきたのだ。

技術シーズは揃った。あとはビッグピクチャーをどう描くか、だ。

 

プリント

2014年11月号の記事より
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