君の名は──。

〜俄然注目の薔薇パゴス進化論〜

◆取材・文:大高正以知

 

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菊や桜と並ぶれっきとした〝国花〟

無粋というか、無教養というか。

この豊葦原の瑞穂の国が、バラの自生地としても世界によく知られており、各国で品種改良に使われているバラの原種のうち、3種類もが日本原産であることを、恥ずかしながらこれまで筆者は、まったく知らずに過ごしてきた。聞くと万葉集や常陸国風土記にも記述が見られるというから、もはや(?)菊や桜と並ぶれっきとした〝国花〟と言っていい。現に明治政府は、ラ・フランス(フランス原産のバラ)を現地から取り寄せ、国の威信をかけるかのような勢いで研究者らの尻を叩き、栽培させている(青山官制農園=現在の東京大学農学部)。

物の本によると、その馥郁(ふくいく)たる香りに魅せられた多くの市民が、連日、見学に訪れたそうだ。

 

ただし庶民にとって、バラが今のように身近な存在になったのは、戦後の高度経済成長期以降のことである。欧米に比べると、1世紀から2世紀の〝周回遅れ〟だ。国中が富国強兵と産業振興に明け暮れたせいもあるが、なんたって一番の理由は住宅事情だろう。

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新種のバラに奥方(?)の名前を付ける

梅や桜のような高木と違って、低木でトゲも広がりも持つバラを自宅で育てるには、それなりに広い庭が必要になる。したがってどんなに憧れようが欲しがろうが、庶民にはそうそう手が出ない。手が出せたのはやんごとなき身分の人たちか、一部の富裕層に限られたというわけだ。

しかしこのことが逆に、世界でも例を見ないほどの繊細で高度な栽培技術と、品種改良(新種開発)技術を生み出し、結果として日本独自の進化を遂げるから、何が幸いするか分からない。言ってみれば、ガラパゴスならぬ〝薔薇パゴス〟である。

 

そこで今、国内はおろか世界でも少なからぬ注目を集めている薔薇パゴスの成果を、一つ紹介しよう。団法人日本ばら会の理事であり、京成ばら会の会長でもある、ローズブリーダー(バラの育種家)の小川宏さんが進めているバラのネーミングライツ(命名権)事業だ。簡単に言うと、新種のバラに任意の名前が付けられる権利を、一般のユーザーに商品として売り出す事業である。

 

「バラは毎年、様々に改良され、様々な新種が生まれています。もちろん、とくに注目するほどではない新種もありますが、中にはたいへん優れた新種も少なくありません。そういったバラに、ご自分のお名前なり、奥さんや恋人、娘さんのお名前を付けることのできる権利です。もし企業としての取得なら、社名や商品名を付けることができます。名前を付けたバラは、全国の花屋さんに並べることも可能ですし、四季折々のセールやPRに使うこともできます。あとはアイデア次第ですね」(小川さん)

気分はまさにプリンセスだろう。というわけで読者諸氏、もしすぐ側に気になる女性がいたら一度声をかけてみません?

「君の名は」って。

プリント

【取材協力】

パティオローズ/小川宏氏

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