リゾートテレワークのネットワークを広げるプロジェクト1 軽井沢リゾートテレワーク協会×サイボウズ
軽井沢リゾートテレワーク協会は、豊かなライフスタイルの実現の為、東京でのセミナーの開催や、軽井沢での体験企画などを精力的に行っている団体だ。
昨年秋、東京でのフォーラムの一環として、「 コミュニケーションをもっと快適に!!チームの働き方を考える」を開催した。リゾートテレワークとは、ICTを活用しテレワークを行うにあたって、心身ともにリラックスできるリゾート地を活用しようとするものである。今後のAI社会の到来の中で、人間に求められる創造力を触発する機会として、リゾートテレワークが注目されはじめている。一方、リゾート地においては、休暇中以外は利用度が少なく、平日の利用促進により、地方創生につなげようという狙いもある。同協会は2018年7月発足以来活発な活動を行い、プロモーションを兼ね様々な企業を会場として、1~2か月に1回のペースでイベントを行っている。今回は、働き方改革の先進企業、サイボウズを会場に行われたイベントをレポートする。
(協会広報担当 株式会社東急シェアリング代表取締役社長 金山明煥氏から開会の挨拶)
サイボウズ 「働き方改革におけるチームワーク」
2001年設立のサイボウズはベンチャー企業時代には、21時には帰りたくても帰るとも言えず、そのまま会社に寝泊まりするほどの会社だった。その結果、退職率が極めて高く、メンタルの強い人間しか残らなかった。そこで、人材が定着するための会社にしようと考えたのがサイボウズの働き方改革のきっかけだ。最近は、さらにそれを前向きに踏み出し、優秀な人材を獲得するための積極的な手段として活用している。理念として「チームワークあふれる社会」作りを目指し、業務ではサイボウズOffice、kintone(キントーン)、Garoon(ガルーン)などのお馴染みのグループウェアを運営している。あるとき、自社がグループウェアを販売している以上は、自らパフォーマンスの高いチーム運営ができている必要があると気づき、良いチーム作りを行うための働き方改革に本腰を入れて取り組んでいる。人の問題を突き詰めて考えると、チームを構成する一人一人は多様であり、その多様な個々人がモチベーション高く働くためには、その1人のために人事制度が必要との結論に行きついた。つまり100人いれば、100通りの人事制度を作るという発想だ。
サイボウズ株式会社 カスタマー本部長 関根 紀子氏
働き方改革のための施策は縦横無尽に展開しているが、一例を紹介すると、社内には「仕事Bar」というスペースがあり、そこではアルコールも入れて、本音ベースでの仕事やチーム作りについての議論ができるようになっている。新しい制度を作る時は、まず、そこで打診をする。事前に議論することで制度がスムーズに決めやすくなるという。会社には説明責任があるのでそういった場で説明するが、一方、社員には「質問責任」があって、そこで質問しなければ、後で文句が言えない仕組みになっている。
肝心のテレワークについては、ポリシーとして、公明正大、嘘をつかないということを是としており、テレワークも在宅で集中してやっているかどうかなど業務状況などは管理もしない。社員は、年1回、働き方宣言をして週何日働くということを決めることができる。したがって、副業も自由だ。
チームにおける働き方に関するセッション
左から箕浦、真山、宮田、龍太各氏
続いて、組織のあり方、個人としてのチームへのかかわり方、リゾート地での働き方も意識しながら働き方を掘り下げていった。セッションを通じて、リゾート地でのテレワークに求められる本質的な要件が明らかになってきた。今回、ICT社会基盤整備の文脈において、テレワークの振興政策を担う総務省の箕浦氏がファシリテーターを勤めた。
総務省 行政評価局総務課長 箕浦 龍一氏
箕浦:それでは前半の関根さんのお話への気づきも踏まえ、各位、現状の活動と問題認識について話してください。
NPO法人 スポーツコミュニティ軽井沢クラブ チームビルディング部 部長真山嘉昭氏
真山:企業で中途採用が増える中、そういった人材をどのように組織に定着してもらい活躍してもらうかという社会的課題に当て、カーリングなどスポーツを通じて、チームビルディングの研修を行っている。現状、外資系のIT企業の引き合いが強い。遊びをいかに学びに変えるか、彼らはこういった経験から実業務にフィードバックして、スパイラルアップしていく能力が高い。プログラムの内容は、会社の課題がどうあって、どう解決するのかによって、3時間から2日間のものが幅広く設計できる。この研修は特にGAFAに属する企業にヒットしている。こういった企業では人材のIQ値も非常に高いが、チームで何かをやろうとしたとき、それぞれ優秀すぎて上手くまとまらないこともある。そこで体験型のチームビルディングを実施している。GAFA企業は、EQを上げるためのユニークな研修を真剣に探しており当NPOのような体験型の研修は人気がある。
ホロス 宮田正秀氏
宮田:カマコンは、地域を愛する人を全力で支援することを理念として活動しているコミュニティだ。立ち上あがりは鎌倉唯一の上場ベンチャー、カヤックを慕って集まってきた仲間と聞いている。今日の話題はチームだが、厳密な意味ではまだ、チームになってないと思える。その中でファシリテーターを多く引き受けている。もともと自身は、人が集まる場に出ても隅に引っ込んでいる性格なのだが、カマコンに関わることで、ファシリテーターができる人になってしまった。全力のウェルカム「ようこそ!」がカマコンの信条だ。軽井沢と鎌倉は連携して活動しているので、今ここにいる。
サイボウズ社長室長兼プロデューサー 中村龍太氏
龍太:社長室でのミッションの一つとしては、グループウェアなど普通使わないだろうと思われる組織での活用を促進している。例えば、益田市の鳥獣被害対策ではイノシシの出没情報を共有している。また、空き家対策にも使っている。半径500m圏内の空き家をどのように活用するかというプロジェクトだ。他には、PTA、マンション管理組合、地元サッカークラブチームといった方々に利用いただいている。その場合破格の「チーム応援ライセンス」というサービスを提供している、
また、先に関根より紹介させていただいた副業を私もやっていて、土日月はニンジン作りのNKアグリという会社を運営している。週末になると、台風の塩害からニンジンをどう守るかといったように、サイボウズを離れるとニンジンのことで頭がいっぱいになる。入社5年になるが以前は先進的な外資系企業にいたので、学ぶことはないかと思っていたら、結構面白い会社だった。「何だこれ、学ぶことだらけ」といった感覚だ。
箕浦:組織のパフォーマンスはリーダーによってかなり変わってくると思っていて、チームビルディング上はそれがどのように表れてくるのか?
真山:チームビルディングは、マインドフルネス、エモーショナルインテリジェンス(EI,感情的知能)、ポジティブ心理学の成果を駆使して行っている。例えば、ハーバード大卒IQ180といったハイスペック人材でも、パフォーマンスが発揮できないというケースがままある。この時に必要なのが、EI要素になる。EQが高いと社会性や、他者との関係性、自分のコントロールができるといった特性を持つ。EIを簡単にいうと思いやりがあるということだ。パフォーマンスが高いリーダーはこの点が優れている。
チームビルディングではチームのEIのレベルを上げつつ、個々にも配慮していく。ユングのタイプ論によると人それぞれタイプが違い、世界でいうと73億人がそれぞれ違う。エネルギーがたまりやすいのが外なのか内なのか。ものごとに対して、思考的なのか、感情的なのか?情報を取り入れるときは、感覚なのか直感なのか?同じものを見ていても同じ認知をしないし、同じ答えにならない。そういった、違いを受け入れるダイバーシティが良いチームの前提となっている。
チームビルディングの中では、自分自身の人生の意義、生きる意味を全員に開示する。開示した後に自分の意味、意義を働いているチーム内でどう整合性を取るかということが重要になる。最近はポジティブ心理学の研究も進み、幸福な状態を創ることの再現性が高まっている。個人がどうすれば幸福になれるかは、感謝や、褒められる度合いによる。そういう部分を取り入れて実施している。
箕浦:鎌倉では、カマコンの起こりである地元のベンチャー企業と行政のチームワークが上手くまわっていているように見える。どういうあたりがカギか?
宮田:それは半分あたっているが、半分過大評価だ。今のところまだ、チームとして動いているとは言えない。実際には、木曜日の夜、会員140人で、各回はその何割かと、その紹介でやってくる新規の方が参加するといったイメージ。3~4組、私のチャレンジを応援してほしいというプレゼンターテーがプレゼンをする。軽井沢と違って鎌倉ライフスタイル研究会はまだできていない(その後2018年11月27日発足)。プレゼンの内容は、例えば、生春巻き屋をやりたいという話だ。それに対して参加者が10~15分高速アイデア出しをし、ブレストをする。もともとカヤックが生み出したのがこの高速ブレストだ。短い言葉で、荒唐無稽なものも含めて沢山アイデアを出す。自分の経験を長々と語るのはダメ。メモ係がメモを取り、何百個出たアイデアを読み上げる。何百個アイデアをもらうとプレゼン側は感動する。そうすると、提案した側もむずむずしてきて関わりたくなる。関わりたい人は、名刺を箱に入れておく。強烈にウェルカムの体制とはこういうことだ。ブレストが終わったら小コミュニティが出来上がっている。これが外から見るといいチームというものの中身だ。実際には、この土地を選んで住んでいるわけだから、価値観が似ていることもあるのでのでやりやすい。運営のチームビルディングも関わり方は自分で決める。
箕浦:主体的な姿勢から、行動が生まれ、共感に繋がる。それが深ければ深いほど、推進力が生まれるということがよくわかった。龍太さん、これらを踏まえてご意見ください。
龍太:サイボウズでは100人100様の制度に進化してきたが、会社設立してからもう20年たつ。自分は5年しかいないが、もともとチームワーク、チームビルディングをやらなければ、という言葉自体は中では聞いたことない。やっているうちに自然にできてきた感がある。ここで、皆さんに逆に質問だが、グループとチームは何が違うのか?ワークショップで高校生に聞くと彼らはこういう。ジャニーズはグループ、EXILEはチームですと。チームとグループの違いは 同じ目標に向かって活動する集団がチーム、ただ集まっているという集団がグループ。チームワークの特長は①理想を持つ②それを共有③役割分担④協働という要素があることだ。実際には、世の中には色んなチームがある。
サイボウズ流のチームということを社長と議論していて、常々何なのだろうと考えていたが、最近ティール組織を目指しているのだということに気づいた。ティールとは生命体を表し、チームの特徴としてチームの目的、ホールネス、セルフマネジメントを重んずる組織ということになる。今、当社で弱いのはセルフマネジメントの部分で、これを強化していくとティール組織に更に近づく。
真山:ティール度において、特定の外資企業などで成熟度が高いチームになると、ゲーム内で起こるいろいろな出来事に対し、お互いに喜ぶポイント、残念がるポイントとかが皆同じになる。そういうときは、各人の自己超越が起こっていて、進化した生命体のように感じることもある。
箕浦:それはもともと優秀だからなのか、スキルアップしているからなのか?
真山:外資系企業はいろいろな研修を受けスキルアップしているからできるという要素も多い。
宮田:ティールでいうと、カマコンにはメンバーの中にダイヤモンドメディアの武井君(ホラクラシー経営のエバンジェリスト)がいて、よくその話をしている。カマコン用語でいうと、従業員脳か、経営者脳かみたいな、主体性の発揮の仕方になる。「○○さんが言うと何でもするよ」というのが一般のコミュニティ。「〇〇さんが言ってないけど、むずむずして勝手に手伝う」のがカマコン流。前者が従業員脳で、後者が経営者脳とも言える。経営者脳は課題が見えていて、物事を主体的に自分の課題としてとらえる。このときカマコンの呪文がある。それは「全部自分事」。そして運営に関わる中で、カマコンに何か不満を言って来たらそれがチャンスだ。「あなたがカマコンですよ」といって巻き込むのだ。
龍太:一般的に在宅ワークは在宅業務が監視されている、録画とられているといったイメージもあるが、政府としてはどのようなテレワークを推進しようとしているのですか?
箕浦:政府が進めているテレワークは、簡単に言うとICTがこれだけ発達しているのだから、会社か在宅かという二者択一的ではなく、会社と職場は自分の都合のいい時に、都合のいいように活用すればよいと考える。セキュリティが担保されれば、どこでも仕事ができる。軽井沢に途中下車して、旅先でも仕事をすればよいという考えだ。リゾートテレワークというと、新幹線の扉があいたとき清涼な空気感があり緑があり、パフォーマンスも上がる。
(会場)松嶋:軽井沢にはワクワク感がある。ワクワク感の正体はなにかと言うと、ドイツに行って気づいた。ドイツは1週間家族がリゾートに滞在するという習慣がある。このとき、親しくしていただいた方がいた。リゾートと言うと、背景の景色もあるが、結局人。人にあった体験が記憶に残っている。軽井沢では、経営者が集まる。そういう間では、結構親密なやり取りがされていると聞く。この人のネットワークが軽井沢のワクワク感ではないか。経営者より下層のミドルクラスが集まる場もニーズがあるのではないか?。
真山:軽井沢はすごく経営が集まる。コミュニティ文化が創り出してきた町だから、街そのものが人の集まりとも言える。
箕浦:人とのつながりという話が出たが、経営者たちは東京で会っていて、また夏になると同じメンバーで軽井沢で会って話しているという話も聞く。そのとき、東京で話すよりは、また、また違った環境で、軽井沢でしかできない別の話になるという。実際に鈴木さんどう思われますか?
(会場)鈴木(軽井沢リゾートテレワーク協会 副会長):私は軽井沢8割、東京2割というで暮らしをしている。軽井沢はいろいろなアイデアが生まれる場所だ。露天風呂の湯煙の中で考えるとまさにアイデアが湧きだしてくる。経営戦略、商品開発など、湯煙の中にいるとアイデアが出やすい。軽井沢には何ともいないワクワク感、オーラがある特別な場所。別荘所有者、移住者、半移住者、地元住民、観光客など多種多様な人材が集まり、イノベーティブで刺激的な場所。ビジネスには最適な環境だ。これが軽井沢の圧倒的な優位性である。25年住んでつくづくそう思う。
箕浦:チームのパフォーマンスを支えるのは、チームビルディングとともに、個人のパフォーマンスが重要で、そのとき環境や、人とのつながりが大きな意味を持つ。どいう仕事をするかだけでなく、どういう人とつながるということが重要ということが深められたのではないでしょうか?人を求めてテレワークをするということもあるかもしれませんね。
<プロフィール>
●関根 紀子(せきね のりこ)
サイボウズ株式会社 カスタマー本部長 関根 紀子
2001 年サイボウズ株式会社入社。入社後企画部にてグループウェア製品のプロダクトマネージメントに従事。その後、新規プロジェクトにて新製品「メールワイズ」の企画から開発のプロジェクトマネージメントに取り組む。CRM 事業推進部長、開発本部副本部長、ビジネスマーケティング本部副本部長兼ダイレクトマーケティング部長を経て、現職に至る。現職ではお客様に会社のファンになっていただくマーケティング活動に取り組んでいる。
●箕浦 龍一(みのうら りゅういち)
総務省 行政評価局総務課長。
前行政管理局オフィス改革チームリーダー(2018 年 2 月 人事院総裁賞を受賞)
●中村龍太(なかむら りゅうた)
サイボウズ株式会社 社長室長 兼 チームワーク総研アドバイザー
1964 年広島県生まれ。大学卒業後、1986 年に日本電気入社。1997 年マイクロソフトに転職し、いくつもの新規事業の立ち上げに従事。2013 年、サイボウズとダンクソフトに同時に転職、複業を開始。さらに、2015 年には NK アグリの提携社員として就農。現在は、サイボウズ、NK アグリ、コラボワークスのポートフォリオワーカー。2016 年「働き方改革に関する総理と現場との意見交換会」で副業の実態を説明した複業のエバンジェリストとして活躍中。
●真山 嘉昭(さなやま よしあき)
SC軽井沢クラブ スポーツビジネスマーケティング部 部長 プログラム開発者
チームビルディングファシリテーター
ここ数年で急激に増えてきた社会問題、人と人との“コミュニケーション不足”と“個人の多様な生き方”にカーリングアクティビティーを通じて、人材育成のチームビルディング研修を提供。人生アップデート出来る場をデザインするファシリテーターとして活躍中(特に外資系企業が多い)
●宮田正秀(みやた まさひで)
言語家・経営者メンター・IT コンサルタント・ファシリテーター・ 1962 年横浜市生まれ。上智大学理工学部卒業。 出版社で教育ソフト及びTVゲーム等のディレクションを経てマルチメディアビジネスを 開拓、その後、マルチメディア業界を経て、2001 年から国内ソーシャルメディアの草分け 「関心空間」の運営に関わり、取締役、社長を歴任、2016 年まで 15 年間、サービス経営 及び数々のオンラインコミュニティへの関心空間の導入・運営支援にあたる。並行して、 スマートフォンアプリのプロデュース・ディレクションにも従事。 2013 年からは鎌倉を拠点に IT で地域活性を支援する「カマコン」のメンバーとしても活 動。地域クラウドファンディング、禅寺でのハッカソン、国際カンファレンス「ZEN2.0」、 「今昔写真」アプリの企画・運営など様々なプロジェクトに参画。 現在は、「1964TOKYO VR」プロジェクトメンバーの他、地域コミュニティの立上げ支援、ファシリテーターならびに、IT サービスの立上げ、スタートアップの経営支援、コミュニティマーケティング、ソーシャルメディア活用のコンサルタントとして活動中。