「デジタルと日本古来の文化が混じり合うことで、世界にインパクトを与える国になっていける」Hyper Island 創業者 ジョナサン・ブリッグス氏

 

数多くのグローバルカンパニーに優秀な人材を輩出している、デジタルに特化した学びのエキスパート集団がある。1995年に始まる活動が、今回日本に初上陸したと聞き、インタビューを敢行。

デジタル版ハーバード大学

その学校「Hyper Island(ハイパーアイランド)」は、世界中のメディアから「デジタルのハーバード大学」と賞賛されている。スウェーデン発の社会人向けスクールとして開校したのが1995年。校舎は、陸軍の監獄を再利用してのものだった。一風変わったデジタル・イノベーション教育とビジネス・コンサルティングを提供するデザイン・ファームとして名高い。

ハイパーアイランドはそのコンセプトからして変わっている。まず教室がない。教科書がない。さらに常勤の講師もいない。なぜならテクノロジーの世界は日進月歩。専門性など数年で陳腐化する。だから常勤など設けても意味がないという理由らしい。同じく教室がないのも、クリエイティブな仕事は優れたチームワークで行われるという考えから。そのため講師もスタッフルームをもたずに、学生と同じ場所で作業している。

すべては、「実際のビジネス環境に近づけるため」「実際にプロジェクトに携わり、手を動かしながら学んでもらうことを重要視しているため」という彼らの明確な思想に基づいている。まさに校名に恥じない「ぶっとんだ」学校なのだ(直訳すれば「ぶっ飛んだ島」)

そんな彼らが輩出した人材の就職先はGoogle、H&M、 Spotify、マイクロソフト、IDEOなど枚挙に暇がない。さらには5,000人以上の卒業生たちが、企業や国の垣根を越えてコミュニティ化されており、日々SNSで情報交換がされているというから、これはもうデジタルテクノロジー分野における唯一無二のネットワークと言えるだろう。

そんなぶっとんだ学校がこのほど日本に進出するという噂を嗅ぎつけた。

 

スウェーデン南部に位置する、スタムホールメン島。ここに陸軍の監獄があった。そこを買収して校舎としたのがハイパーアイランドの始まりだ。現在、キャンパスはスウェーデンのストックホルムとカールスクリーナに2校。イギリスのロンドンとマンチェスターに2校。ブラジルのサンパウロに1校。アメリカのニューヨークに1校。シンガポールに1校の計7校だ。様々なコースが設けられているが、世界で150名の学生が学んでいる

 

祝 日本初上陸!

田町駅から再開発著しい芝浦方面を歩くこと5分。オシャレなカフェスペースを一階に備えたSHIBAURA HOUSEの5階の開放的なフロアで10月17日から3日間、そのイベントは開催されていた。創業者のジョナサン・ブリッグス氏もあわせて来日。

「日本進出を祝おう、ここから物語がスタートします」と高らかに宣言して「ハイパーアイランド3DAYS MASTER CLASS」と銘打たれたプログラムは盛況にスタートした。受講生は30名近く。企業経営者や大手企業のデザイナー、エンジニアなど多様な背景を持つメンバーが集まっていた。

 

 

 

3日間のプログラムの様子

 

この3日間で何が起こったのかは、正直体感しなければ伝わらない。そこでコンテンツや感じたことの詳細を時系列で語る代わりに、ユーザーの声を届けたい。プログラム終了後、参加者の多くが興奮冷めやらぬといった体で、口々に3日間の間に体験した出来事と各々の感動、また学びをどうしたら自社に持ち帰れるかを討論し合っていた。

 

「感動しています。本当に大きな学びがあった」と語ったのは大手広告代理店でマネージャーを務めるAさん。「デジタルテクノロジーが推し進める未来はユートピアでもありディストピアでもある。しかし、どんな環境になろうと、しっかりとアンテナを張り、自社のエッジをどこにどのように立たせればよいかを掴むことができた」と語る。

 

グループに分かれてのセッション。様々な意見が飛び交う

 

また、出版業を営むBさんは、「居心地のよい環境から半ば強引に引っ張り出される手法が他のセミナーや講座などと違い、はじめは大きなストレスを感じました」と答えたが、終わってみればそれがかえって、さながらショック療法という形でこれ以上ないぐらい効果的にデジタルテクノロジーが自分の仕事や生活をどう変えるのかを理解することに繋がったとの感想を述べていた。

そのほかの何人かの参加者の声にも「JTBD(Jobs to be done)のワークで、ある大企業の業務サポートアプリを作ったのだが、モックらしきものは僅か30分程度で制作できるようになってしまった」といった驚きや「ワークライフバランスが叫ばれる時代のなかで、自分の生きがいや幸せをどこに置けばいいのか、それを深く考える機会となった」。

「企業の成長を過度に追及して一人ひとりのプライベートが軽視されたうえで初めて構築できる環境が尊ばれた時代が終焉に近づいていること。無理に最大の成果を狙わないことで、かえって無駄が圧倒的に減ることをワークで気づいた」といった声もあった。

 

アプリを作っている際の様子

 

参加者の声

もう少し参加者の声を紹介しよう。

「良かったのは何事にも実践を伴わせること。例えば、テッカソンと称して、ECサイトやVRソフト、WEBアプリやチャットボットなどを数時間という短時間で作らせられるのだが、そんなこと自分にできる訳がないと思いつつ、実際に手を動かしミッションに挑戦してみると、驚くほど簡単にサービスを作ることができることを体感できる。つまり、それほど世の中にはフリーツールがあふれており、リテラシーの無い者でも、お金の無い者でも、気軽にサービスを作れてしまう世の中になっていることの裏返しでもあるのだが」

 

「デジタル社会の恩恵を有難みをもって受け取れるというよりは、そう遠くない日に多くの業種が破壊的なイノベーションの渦に巻き込まれ、ビジネス環境や生態系は劇的に変動してしまうイメージが見えてしまった。それを皮膚感覚で深く感じ取れた。その意義が大きかった」

 

「これはユーザーとしては歓迎できるが、自分が勤務している企業の立場からは恐怖そのもの。ただ、ユーザーとしては、技術革新に基づいたサービスが当たり前の要求水準となっている。そのため雇用されているから、既存の会社を残したいと思いつつ、もうこんな会社、利用者としてはつぶれていいんじゃない?という矛盾のなかで働いていることが多いかも。もはや、自社がそれをやらずに、GAFAが滅ぼしてくれるのを、実は受け入れることもあるのかな」

 

「感慨深いのは、こうした技術革新を恐いと捉える人がいる一方で、素晴らしいことと捉える人がいたり、いや寧ろ社会構造の新陳代謝を考えると、そこに恐さを覚える人たちは顧客視点に立脚するとマイナスでしかない商習慣や旧弊、既得権益にしがみついている人たちだから、さっさと淘汰された方がいいとまで述べる人がいたりすること。まさに多種多様なバックグラウンドをもつ参加者同士がジョナサン氏をはじめとした講師陣も交えて、議論を重ねることで、参加者全員の視野や学びが拡張されていく様がありありと見えた」

 

「生徒と講師が一緒になって授業を作っていく、まさにぶっとんだ学校だよ」

 

各チームに分かれてのワークの一コマ。JTBDを活用して、想定企業の業務支援アプリを開発。写真は、モックを活用してのプレゼンの様子

 

こうした様々な参加者の声が聞こえたプログラムだが、見ていて秀逸な点は、リフレクション(内省)が非常に丁寧に設けられていることだ。一般的なセミナーだと、ややもすると洪水的なインプットの連続のなかで学習理解の定着は各人に委ねられて、疎かにされがちだ。

その点ハイパーアイランドは違った。プログラム中、ことあるごとにリフレクションの時間が設けられていた。コーヒーを片手に施設内を自由に巡りながら、自分の気づきや学びをどうやって自社に持ち帰ることができるかを考える時間が設けられ、またそれを皆でシェアし合うことが設計されていた。これが他人の考えを知るよい機会に繋がった。

 

リフレクションの様子。中庭にでてくつろぎながら

 

ここまで丁寧に設計された学びの連続に、ハイパーアイランドの確固たる思想を感じずにはいられなかった。いったい彼らの野望は何なのか。なぜ日本なのか。創立者のジョナサン・ブリッグス氏へのインタビューを敢行した。

 

Hyper Island 創業者 ジョナサン・ブリッグス  インタビュー

―3日間を終えて、受講生たちと接しての感想を

 

ジョナサン:とてもいい気分だ。当初は日本で我々のプログラムや教え方が通用するのかに不安があったが、我々のやり方は世界のどこでも展開できることを再確認できた。同時に日本人の可能性を感じることもできた。

 

―他国の学生との違いは?

 

違いは明確に感じとれた。日本人はやはりルールを守るね。チームワークでのパフォーマンスの素晴らしさを感じる一方で、思考の枠外から飛び出でくるような奇抜なアイデアや積極性はそこまでないように感じた。

 

―なぜ日本への進出となったのか?

 

ハイパーアイランドは人と人との出会いを大切にする。シンガポール校には、何名かの日本人が通っている。今回の話でいえば、TDSや櫻井さん(GOB‐IP)など多くの人たちとのご縁だ。彼らが私たちを日本に引っ張ってくれた。

 

―日本での目的は何なのか?

 

テクノロジーや変化はワクワクするが、コワさもある。しかし誰もがここから目を背けることはできない。日本は古き良き伝統が今もいたるところに息づいている国だ。しかし、この伝統もデジタルテクノロジーの影響とは無縁ではいられない。ギャップを埋める橋を考える必要がある。これはテクノロジーの問題ではなく、人の問題だ。私たちの目的は、人々をテクノロジーの被害者にしない方法を模索すること。そのために、変化を作るチームをどう作れるかが私たちの挑戦でもある。

 

―ハイパーアイランドの使命は?

 

人類を本当の意味で助けること。テクノロジーの進化によってどんな未来を想像するだろうか。ロボティクスやAIなどは、多くの人の仕事を奪うだろう。究極的には人を必要としない世界がイメージされがちだ。しかし、私たちとしては、その世界にきちんと人の血を通わせたいと思っている。ロボットだらけの無機質な未来ではなく、ちゃんと人も未来に連れて行きたいんだ。そのために、デジタルの進化ときちんと向き合える人材を作ること。主体的に向き合おうとするマインドを一人でも多くの人に醸成させたい。それがハイパーアイランドの使命だ。

 

―ここで生徒は何を学べるのか?

 

一番大事なことは、教えることではなく、経験、体験すること。そしてそれを振り返る機会を作ることだ。そのとき理論的な座組は、そこまで大事ではない。一人ひとりの脳裏に実社会でもきちんと活用できるための旅路が設計されていくことが大事なのだ。

また、ハイパーアイランドは多様な人材が集まってくる。一人ひとりが自らのスキルを拡張したいという想いをもっている。そうした仲間が集う場所で切磋琢磨しあう意味は大きい。例えば、企業経営者であれば、経営をしていると孤独を感じることが多い。引っ張ってくれる人や支援してくれる人を探している。ハイパーアイランドの多様な人材のミックス具合が大きな成長を齎すだろう。

そのとき同じ受講生だけではなく、世界の色々なところでネットワークが構築されているからそれが役に立つはずだ。コソボやシンガポールでも立ちあがっている。

 

―日本への期待は?

 

私はアジア(シンガポール)に住んでいるので日本は大好きだが、同時にすごく難しい国だ。今回で5回目か6回目か。訪れると良い意味で毎回ビックリする。美しさや規律、秩序、歴史ある文化。しかし人の表情を見ると皆疲れて見える。道を見るとあまりに規律が行きわたりすぎているようだ。こうしたことを鑑みるに、日本は他国と比べて変化を受け入れることが難しい国だろう。

しかし、デジタルテクノロジーをはじめ、変化を楽しむ心構えを持つことが重要だ。そして、それを日本らしさを失わずにできるといい。伝統とテクノロジーの上手い融合の仕方を模索してほしい。その尊いチャンスがある国だから。

私が15年前にはじめて日本に来た時に、人類の素晴らしい未来像を見た気がした。しかし今の日本は、未来を感じさせない。中国やシンガポールに比べて懐かしさを感じさせる。しかし今も日本製のブランドはあまねく世界中に展開されている。だからデジタルを真に理解してほしい。日本は世界に大きな影響を与えるキープレーヤーだ。アメリカ流のデジタルではなく、中国流でもなく、日本ならではの日本流のデジタル社会の風景を私は見たい。

繰り返すがデジタルと伝統の融合だ。

 

―その伝統とデジタルとの間を橋渡しする人材、翻訳者をハイパーアイランドが作っていく?

 

そうだ。翻訳者としての機能も期待されるが、伝統とデジタルを上手いバランスで混ぜ合わせる。ミキサーでもある。私の父は、植物学者だった。父が良く言っていた。「生物は一つの遺伝子ではなく、多様な遺伝子が混じりあうことで、遺伝子レベルで強くなれる」と。文化も同じだ。

デジタルと日本古来の文化が混じり合うことで、世界にインパクトを与える国になっていける。そこに日本はチャレンジしてほしい。

 

GAFAはヒーローなのか?

今回の3日間のマスタークラスを皮切りに、ハイパーアイランドは日本での開校を本格的にスタートするという。マスタークラスの趣旨はデジタルシフトする社会にきちんと向き合うためのマインドセットを醸成し、顧客理解のためのメソッド(JTBD)や組織変革を成功させるための要点を「実践」で学ぶというものだ。レガシーな産業にいる企業経営者ほど参加する意義は大きい。

どれだけ破壊的にイノベーションが進んでいくか、それを疑似体験すべきだからだ。それほどまでに近年人々の暮らしや働き方、意識の在り方などあらゆる側面にデジタルテクノロジーが入り込み私たちの生活は大きく変わりつつある。

これら破壊的イノベーションがもたらすのは人類にとって本当に輝ける未来なのだろうか。セッションは、この現代社会を生きるということがどういうことなのかをきちんと知るところから始められる。

 

例えばGAFAだ。グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾンといったテクノロジー時代の4強を指して「GAFA」と呼称するようになって久しい。4社の時価総額は足元で3.42兆ドルにものぼる。アップルとアマゾンにいたっては時価総額1兆ドル(約110兆円)の大台を遂に超えてしまった(2018年9月)

日々大量のデータを握り、何十億人もの人々の日常を支えるGAFAのビジネスモデルは「人類の可能性を切り拓く」として賞賛されてやまない。同時に様々な懸念が指摘されてもいる。曰く、「市場の公平な競争を阻害している」「何千枚もの写真や動画を分析し、個人情報をフォーチュン500に売りつけている」「税を払うのを逃れ、何万という仕事を消滅させている」。

そう、残念ながらGAFAは善良なだけの存在ではない。「それを理解する必要がある」とジョナサン氏は強調する。

デジタルテクノロジーの目まぐるしい進化は社会の至る所で破壊的な創造を起こしている。この潮流にのまれ衰退していく企業がいる一方で、成長していく企業もいる。成功していく企業に共通するものは何か。顧客の真の課題に向きあうカスタマードリブンという発想が重要だと言う。「ビジネスに貢献するデジタルトランスフォーメーションの実現は、顧客の深い理解とそこに根付いた体験の企画・設計が出来るかどうかにかかっている」と。そのために、まずは現代社会を生きるということは「プライベートな個人情報を無防備にさらしている」という前提を理解し、GAFAが何をやっているのかをきちんと知ることが重要なのだ。

はたしてデジタルテクノロジーの進んだ社会でプロであるということはどういったことなのだろうか。人が人として評価されるために何が残るのか。プロフェッショナルであり続けるためには、人として、企業として、何をしていかなければならないのか。

その答えをハイパーアイランドで見つけられるだろう。

 

Jonathan Briggs氏

 Co-Founder and Academic Director
デジタル、組織改革、高度な教育と多岐にわたったThought Leader(ソートリーダー)。1996年、組織をデジタルかつグローバルに改変をしたいと考える個人や企業のために、ハイパーアイランドを立ち上げました。IKEAやMoët Hennessy、Paul Smith、Unileverなど著名な国際クライアントの戦略パートナーとして、そして革新的な学びの創造者として25年間実績を積み上げ続けてきました。また、ジョナサンはOTHER mediaとCrimson Sunbirdを立ち上げ、技術、アジリティ、データ、IoTや興味深いソフトウェアのイノベーションを模索しています。Unileverのデジタル諮問委員会にも在籍し、NTUシンガポールのアジアコンシューマー・インサイト研究所のアソシエート・フェローとして勤務しています。過去には、ロンドンのキングストン大学で教鞭を執った経験も持ちます。 ジョナサンは、実験や失敗したプロジェクトのトラブルシューティングを楽しみ、生徒、クライアント、同僚を巻き込む革新的な方法を設計しています。

 

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