山中哲男×山口豪志 30代若手リーダーが語る「繋がり」が日本の未来を変えていく!
◆聞き手:山口豪志
将来に対する漠然とした不安。この国はこのままでいいのか。一人ひとりの人間が何をすべきなのか。若手経営者のオピニオンリーダー山中哲男さんに聞いた。
(写真右)山中哲男(やまなか・てつお)さん……1982年兵庫県生まれ。株式会社トイトマ代表取締役会長。ビジョンや想いに共感するものに携わり、現在まで50以上のプロジェクトを立ち上げる。既存事業の事業戦略策定や実行アドバイス、新規事業開発支援を中心に活動中。著書に『立上力』、『あったらいいなを実現するビジネスのつくり方』がある。2015ワールド・アライアンス・フォーラム事務局長 /U3A国際会議2016実行委員<br />
(写真左)山口豪志(やまぐち・ごうし)さん……1983年岡山県生まれ。茨城大学卒業後、クックパッド株式会社のIPOに営業セールストップで貢献した後、株式会社ランサーズに参画。2015年よりベンチャー投資会社デフキャピタルのアクセラレーター、また同年、株式会社54を創業。2017年からベンチャー企業の成長を全工程で支援するプロトスター株式会社に参画。投資、コンサルティング等で事業に関わった会社の数十社にのぼる。
上場を目指すことがすべてではないなかで
山口豪志(以下、山口):現状の日本において未来を悲観する人が多い印象です。超高齢化社会や膨れ上がる社会保障費、地域衰退、格差社会、子育て問題などみんなが漠然とした不安を覚えています。この閉塞感を打破すべく、企業経営者たちは何をすべきなのか。
明確なゴールを定めないでディスカッションとして、山中さんのお話を聞きたいなと思いまして。
山中哲男(以下、哲男):閉塞感ですか。確かに感じますよね。経済的に躓いたり、格差の問題もあれば、集団のなかのいじめの問題、行き詰まって自死という選択を取る方の話など、とかく将来を悲観せざるを得ない情報がそこかしこで拾えます。子供の貧困率が14%を超えるってもはや凄まじい数字ですよね。
山口:身近なところで感じる違和感は私もあって、例えば、何か事業を通じて新しい価値を生みだすとき、そのインパクトを最大化するためには方法論としてその領域のトップになることが一番正しい方法とされていますし、誰しもがそれを目指します。でも多くの場合それって、シェアを奪い合う「椅子取りゲーム」みたいな構造になるんですよね。
また、個人ごとの話で置き換えると経済格差で言われる話としては、所得格差の上位2%に入れた方々のみが最先端医療や新しいサービスの利益を享受できる。でもそれも翻って考えると、その2%の人が幸せに暮らしていける一方で、そこに入らなかった人たちの未来は暗いという現実があるわけで。これっていいのかなと。
甘いと言われるかもしれませんが、甘さも含めて、勝者ではなく敗者の気持ちも汲めるような社会にならないと、全体として善い社会にはならないんじゃないかと。
98%の人が次のステージに移行するところをサポートするとか、その人たちの暮らしとか幸せを同時に考えられる志向性もないと、結果としては幸せな世界は作れないのではと思っています。
もっと評価されるべきは、新しい椅子が増えることで、更に誰もがその椅子に座れるチャンスは等しくあるという、そんな社会を実現することを目指すことが各社の目指す事業のハズです。
でも、それを生みだすことの難易度は高く、事業活動はみんなガチンコで必死ですから、他社や環境、まわりを思いやる余裕はなかなか生まれないことも理解はできます。ただ一方で、それぞれの利益追求型の構造だけになってしまうことにどうしても違和感を覚えてしまう。
哲男:今の社会って、仰る通り社会的包摂性が無いんですよね。セーフティネットがきかない。あるいはきかない社会だとみんなに思わせてしまっている。一度転落するとやり直しがきかない、そう思わせてしまっている。そこが生き辛さというか閉塞感に繋がっている。
格差がいけないのではない。格差程度で行き詰まってしまう社会的包摂性のなさこそが悪なんです。
山口:みんなが使命感や目標を持つことで幸せを感じられる社会って作れないんですかね?社会主義が望ましい訳ではないんですが、今の社会構造の延長線上に、「みんながハッピーだ!」って言える社会があるのかなって。その違和感を持った状態で日々を暮らすのって、しんどいですよね。
哲男:こうした状況に対して、僕ら若手経営者が何かを発信しなければならないとは切に感じています。ただ、その何をすべきかの明確な回答は僕も持っていない。
でも言いたいことはあって。経営者だったら、あるいはこれからの将来を生きていかなければならない世代の人のひとりだったら、この問題から目を背けないで、みんなで答え探しをやろうよって。
山口:誰しもがこの問題に向き合うべきだと思いますか?
哲男:ええ。やはり我が事ですから、無自覚でいるべきではないと思っています。個人と事業を営んでいる経営者では役割が違うと思いますが。
例えば、やるべきことが明確にわかるものもあります。一つは、新しい企業評価の指標を作ること。
今の時代って、ひと昔前まではいきていた「目指すはIPO!」みたいな企業経営に於ける明確なゴール像を共有できる時代ではないんです。同年代や20代の経営者仲間と話していても、意外と会社を大きくすることのプライオリティは高くない人が多い。なんというか、皆が憧れるモデル「カッコいい」の在り方が複雑化してるんだと思います。
一方で、人を思いやる心の領域のサービスや人と人との「繋がり」を軸にしたサービスを展開している会社が、肌感覚ですけど、すごい増えてきている。たぶんこういった人達って、ひと昔前だったらNPOとかやっていたんだと思います。
でもそれが、人の温もりとか温かさが受け取れる距離感を大切にした事業活動をNPOとかボランティアではなくて、営利目的で展開している。
これって時代としては良い方向に向かっているなと感じていまして。もっともっと増えていってほしい。それにこういった会社がきちんと評価されるようにならないといけないと思っています。そういった意味で、社会性あるテーマに取り組む事業活動ってカッコいいよね、という評価軸の確立は必要なことだと思っています。
新しいタイプの若手起業家の兆し
哲男:僕たちの世代ってみんな共通して、起業する前から今の社会に対する「このままでいいのか」という将来に対する不安や違和感をもっていますよね。その違和感の正体は何なんだろうって考えると、僕はたくさん絡み合っている要因の中で、人と人、人と社会、人と地球との「繋がり」の在り方が希薄化されていることも大きな要因だと思います。
要は心の問題。きちんと繋がれているという感覚が持てなくなってしまったからなんじゃないかなと。
山口:同感です。日本の戦後社会が長寿になったのは、社会や地域のなかで人の繋がりや結びつきを表す概念「ソーシャルキャピタル」が非常に高い状態に保たれていたから、というハーバード大教授の研究があります。そういった結びつきを自覚しにくい社会になってしまっている。
人やモノ、あるいは組織に対しても違和感がある。だからこそ、その違和感を解決する方法と自分たちの事業を合致させた繋がりと思いやりを体現した企業が増えているのでしょう。
哲男:でも、そうした会社の活動はまだ陽の目を見ていないところが多い。誰かがここにこんな善いことをしている人たちがいるよ!と声を上げてあげなければならない。その文脈上で僕はプラットフォームを作っていきたいと考えます。
彼らはまだ人的ネットワークもきちんと構築できていないケースも多いですし。事業会社として永続性を考えながら、きちんと利益を出す体制をつくらないといけない。そこが不得手な人が多いので、僕はそういった人たちのサポートをしていきたいと思っています。
今現在、ロールモデルはあるのか?
山口:山中さんの口ぶりだと、実際に会社像が見えているようですけど、どういった会社がその人々の幸せに寄与するサービスと考えているのですか?
哲男:例えば、神戸に株式会社L・E・Cという会社があります。創業10年くらいのリユース、リサイクルの会社です。社長は36歳。彼らのやりたいこと、目指していることは、単なるモノの売り買いだけではなく、「売り手と買い手の思いを繋ぐ」ということ。モノを簡単に売ったり捨てたりできる社会のなかで、そのモノが辿ってきた物語や温もりを付加価値として表そうとしています。
具体的には、売り手の方にメッセージを添えてもらうことで、例えば、カメラだったら、売り手自身がどういう思いでこのカメラを使っていたかとか、そういう想いをきちんと言葉にすることで、購入者へはその思いの詰まった手紙を一緒に梱包して渡す。そうすることでモノに愛着をもってもらう。
こういった一つひとつ心や想いを繋いでいくことを実直に体現している事業っていいですよね。また、すごく真っ直ぐな人たちなんです。
後は有名だけど、森山和彦さんが社長のクレイジーウェディング。既成の結婚式に捉われず、二人の人生や価値観に向き合い、オリジナル結婚式をつくりあげることで、人と人との結びつきの在り方をもう一段深いところに持っていけてるのかなって。
山口:そういった活動をしている人たちの活動がきちんと可視化される、紹介されることを通して、新しい評価軸を確立していきたいですよね。ここにこんなにカッコいい人たちがいるよ!って伝えていけるようになれば、善い波及効果が生まれると思うんですよ。
繋がるプラットフォームのイメージ
山口:プラットフォームの具体的なイメージってあります?
哲男:今後より具体化する必要がありますが、現段階としてのイメージはあります。
繋がりを深くするためには、人だけの視点で考えるのではなく人がつくる社会や地球も合わせて考える必要があるかと思っています。
個人がもつリソースを、社会や地球を本当に良くしようと活動しているチームに提供し、それぞれのリソースを循環させることでより持続可能な社会を創るプラットフォームの構築を考えています。ここでいうリソースとは、時間、お金、スキル、人脈、情報のことです。
個人同士が繋がり合い、得意分野を活かし行動し、バランスを保った豊かな社会(地球)を共に創りあげていきたいと思うのです。
まず、人の活動を言語化した際に経済活動とプライベート活動があげられますよね。更にライフスタイルに「社会活動」を導入できないかと考えています。経済活動、プライベート活動で得たリソースを社会活動で使う。社会活動で得たリソースを経済活動、プライベート活動で使う。この循環を実現したいです。
今は働き方の中で、余暇をつくることが重要とされてきています。しかし、余暇ができても有効な時間の使い方ができるのはごく一部の人しかいないように思います。今の時代だからこそ、余暇の使い方としても提案していきたいです。
社会活動では個人または企業のリソースを、既に社会を良くしよう、地球を良くしようと考えているチーム(企業、社団法人、NPO)に提供し、協力できる仕組みを構築します。
これはボランティアとは全く異なり、仕組みを継続させるためにしっかりとインセンティブをもらえるのが特徴です。インセンティブと言ってもお金だけでなく、体験、お礼、出会いなどもインセンティブとしてカウントし、インセンティブの在り方も変えていきたいと思ってきます。
これは得れるモノとして非常に価値があるものですし、何よりも社会に参画すること、他者に貢献することの喜びをこの活動を通して実感してほしいと考えているのです。この体験が、個人の心の豊かさを増幅させることにつながるとも信じています。
このプラットフォームを実行する際に重要な点として、
・リソースを出してもらうチームの精査と評価
・どんな課題の重要度が高いか、わかりやすい地球バランスシート指標の作成
・気軽に参加できる動線
・潜在層を掘り起こす仕組み
・キャッシュポイントの構築
などがありますが、対策はあります。
初期段階では“何かやりたいけど、何をして良いかわからない人”を対象に参加してもらい、徐々に潜在層を掘り起こしていきます。
このようなプラットフォームを利用しリソースが循環することで、社会や地球がさらに豊かにバランスを保てるようになると考えています。
併せて人と人、人と社会の繋がる機会を創出することは個人の存在意義の確立や居場所となり、心の豊かさへとつながりますし、さらには他者へ思いやりをもち相互理解を深める機会にもつながるはずだと思っています。
使命として取り組む
哲男:僕は自分が感じる社会に対する違和感を、自分が生きている間に1つでも多く解消していきたいんです。あと現代社会は気軽に仕事が作れる時代とも言われますが、地方に行けば状況は変わります。
僕は兵庫県の加古川という田舎出身で、地元では自分で何かを生むという選択肢が就職の際に選択肢としてあることさえ分かりにくい社会です。
端的に言えば、職業を選択するときに「起業」するという選択肢が候補にあがらないんです。都内にいると自分で事業を起こすという雰囲気や情報がなんとなくでも醸成されていて、この地域格差は解消していきたいテーマです。
山口:仕事を一人ひとりが創り出せる社会ってのはいいですよね。私も地方を見て回っていて実感するのですが、現状の東京と地方との差というのは無視できないと思っています。
哲男:もっとローカルに根付くようなことが教育的にできないかなと。地域活性化も、たいてい地域の名産は何だとか、その場所の個性を尖らそうと、ある特定の産物を前面に押し出すというのが、あるあるパターンになっていますよね。それでコンサルなんかは仕事をした気になっている人が多い。あの名産を産んだのは俺だって。
でも、考えていただきたいんですが、地方の名産品を扱っている人は大抵のケース、その地域のなかの一部の従事者だけ。じゃあ他の7割8割の人はどうするのかと考えた時に、ここに住んでいるからできることをやらないといけない、観光地だから観光業、ということに留まらず、「あなただからできることがありますよね?」というところに目を向けていかないと、多分新しい仕事は生まれてきません。
自分は観光地だから、工場地だから、ではなく、「そもそも自分は何がやりたいんだろう」というところに一個人として動くところから、新たなモノが生まれるのだと思うんです。今は既存のバランスがあって、特にローカルになればなるほど既存の注目されるものしか目に入らない。そういった状況を変えたいですね。
山口:何をどうすれば良いと考えますか?
哲男:僕が言っているのも1つの形にすぎなくて、多分、他に考えるべきアプローチはあります。自分が思うことを、どんなに小さなことでもいいからアクションを起こしていく人たちが増えないと、どれが刺さるか、はまるかということも分からないし、僕が全部正解なんていうこともありません。人の背景とか、感じ方は様々ですから。
けれども、僕の言葉が響く人たちが増えて行くことによって、10年後20年後が少しでも変わればと。
若い世代が発信している、という事実から、「俺も、私もできるんじゃないか」とか、そういったアクションが増えていくことで、自分なりの使命や目標を見つけてくれたらちょっと変わるのかなと思います。逆に、それをやらなかったら何も起きないのではないか、とも。
世の中の歪みの数って何千何万とあると思います。ただ、僕がそれを感じ取れるのは、目で見て取れる数個といいますか。でもその目に入ったものに対して、きちんとアプローチをしていく。
僕で言えば、先ほどのプラットフォームをつくること。他には、わかったつもりを解決すること。これは相手や事実の相違から始まる溝で、この小さな溝からケンカや戦争にも繋がっていくと思う。そして、支配欲と自己顕示欲のエネルギーを転換したい。
なぜなら、このような人が循環やチャレンジの機会をとめているから。しかし、このエネルギーは強く、転換すればプラスになる可能性はあると考えています。最後に、失敗、ネガティブ、負けをプラスに転換したい。失敗、ネガティブ、負けは成長過程でとても大切な気づきを与えてくれます。
しかし、本人はそれどころではなく大切な気づきをスルーしてしまうことが多いので、その良き機会を逃さない仕組みをつくりたい。
今、同じような問題意識をもった同年代の経営者たちで集まって、そこに志ある学生達も交えてコミュニティを立ち上げようとしています。興味を持ってくれた人は、俺もこの課題に対して解決策を考えていきたいって連絡をしてもらえれば、小さなところから「うねり」をつくっていけるんじゃないかなって。
山口:その違和感は一人ひとりが自己解決できるようにならないといけませんね。私もお手伝いできたらと思います。ありがとうございました。
山中哲男(やまなか・てつお)さん
1982年兵庫県生まれ。高校卒業後大手電機メーカーに就職する。約1年間働くが、やりがいをもつことができず転職を試みるものの、失敗の連続。自分で仕事をつくることを決意し、飲食店を開業。“ゆったりくつろげる空間”をコンセプトにした居酒屋を展開し繁盛店にする。その後、米国ハワイ州でコンサルティング会社を設立しCEOに就任。日本企業の海外進出支援、M&A仲介、事業開発支援を行う。丸亀製麺ハワイ店など人気店を多数支援。翌年、株式会社インプレスを設立し、代表取締役社長に就任。株式会社トイトマ代表取締役会長。ビジョンや想いに共感するものに携わり、現在まで50以上のプロジェクトを立ち上げる。既存事業の事業戦略策定や実行アドバイス、新規事業開発支援を中心に活動中。著書に『立上力』、『あったらいいなを実現するビジネスのつくり方』がある。2015ワールド・アライアンス・フォーラム事務局長 /U3A国際会議2016実行委員
聞き手:山口豪志(やまぐち・ごうし)
1983年岡山県生まれ。茨城大学卒業後、日本最大規模のレシピサイト「クックパッド」を運営するクックパッド株式会社のIPOに営業セールストップで貢献したのち、株式会社ランサーズに参画し大手企業との業務提携・協業を実現するとともにクラウドソーシングの普及・啓蒙に携わる。2015年よりベンチャー投資会社デフキャピタルのアクセラレーター、また同年、株式会社54を創業。2017年からベンチャー企業の成長を全工程で支援するプロトスター株式会社に参画。投資、コンサルティング等で事業に関わった会社の数十社にのぼる。