【環境問題Project】

温室効果ガス26%削減を目指す日本の未来に向け、燃料になる〝水〟の実証実験を公開

 

「燃料になる水」として本誌1月号の特集で取り上げた「創生フューエルウォーター(SFW)」。その後も実用化へ向けた取り組みが着々と進む中、3月4日、東京港・品川埠頭で燃焼実験のデモンストレーションが行われた。多くの報道・港湾関係者が詰めかけた当日の様子と創生フューエルウォーターの未来を探る。

 

◆取材:綿抜幹夫

 

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創生ワールド株式会社/深井利春氏

 

■公開デモンストレーションを実施

化石燃料の燃費削減量が最大50%、CO2の排出量も半減される、そんな燃料があったらどうだろうか。本誌1月号の特集でお伝えした世界初の原子状水素が溶解した活性水素水・創生フューエルウォーター(以下、SFW)の話である。開発したのは長野県上田市に本社を構える創生ワールド株式会社の深井利春氏だ。

原子状の水素が水の中に滞在するSFWは、水素が酸素と繋がらずに単独で存在するため燃焼しやすく、分子状水素の水素ガス(H2)に比べて、3.8倍のカロリーの水素ガス(H)を発生させる。また、活性水素の働きにより界面活性作用があり油と融和するため、エンジンに注入しても不完全燃焼を起こすことがない。しかも、同社の実験によれば、基油のみでエンジンを燃焼させるよりもSFWを混合した燃料のほうが燃焼効率が高まり、原油の使用量が最大で50%も削減できるという。SFWはまさに「燃料になる水」なのである。

新しいエネルギーとしてSFWに注目が集まる中、去る3月4日、東京港・品川埠頭で燃焼実験のデモンストレーションが報道・港湾関係者に公開された。会場には東京港運協会加盟店社、東京都港湾局など100名近い関係者が詰めかけ、この新しい技術への高い期待を改めて感じさせるものとなった。

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実験では軽油にSFWを30〜40%混合させた燃料をストラドルキャリアのエンジンに注入。実際に走行し、コンテナが吊り上げられると、参加者からはいっせいに拍手と歓声が沸き起こった。

 

■42.8%の燃費削減に成功

実験はコンテナヤード内荷役に用いるストラドルキャリアを使用し、軽油にSFWを30〜40%混合させた燃料をエンジンに注入、実際に駆動させるというものだ。「水自体がエネルギーになる瞬間です。ぜひご覧いただきたい」と力強く挨拶をする深井氏。その後、多くの観衆の眼前でストラドルキャリアは走行しコンテナが吊り上げられると、会場からいっせいに拍手と歓声が上がった。そして実験の結果、軽油のみの場合と比較し、42.8%の燃費削減に成功した。

これまでもSFWのあらゆる実験データや検証動画をホームページ上で公開してきた深井氏にとって、この日の結果は当然至極であっただろう。いっぽう、今回のデモンストレーションに協力した第一港運株式会社の岡田社長はこう語る。「水が本当に燃えるのかという疑問を皆さんお持ちだと思います。実際にSFWと軽油の混合燃料がエンジンを動かす事実を多くの方々に見ていただければ、今後、何らかのエネルギー改革が起こるのではないかと期待しています」。そして、こう付け加えた。「世界的に温室効果ガスの削減が叫ばれる昨今、SFWの実用化に向けて行政がどうバックアップをしていくのか、それが重要になると思います」

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■海外での導入が進むSFW

実は岡田氏のこうした言葉の裏にはあるもどかしさが含まれている。それはSFWが有益な技術であるのにもかかわらず、それに見合うだけの認知・普及が日本において進んでいない点だ。もちろん、どんなに革新的な技術であっても中小企業の発信力は大手企業のそれに比べて非常に弱く、世間への周知にはそれ相応の時間が必要だろう。しかし、他方では、日本はエネルギー自給率が低く、調達力の確保などの問題から規模の大きな事業者が長年に渡りエネルギー供給の安定を守ってきた歴史がある。その結果、中小企業によるエネルギー関連市場への新規参入に対する敷居が高いのも事実だ。SFWシステムの導入は、海外のほうが実績を上げているのも、そうした日本特有の事情を裏付けしている。

例えば、マレーシアでは2015年7月よりSFWを用いた漁船が航行を続けている。また、フィリピンでは今年1月よりディーゼルエンジン2基、発電機2基を搭載する大型フェリーにSFWシステムが導入されている。いずれも現在までトラブルの報告はされていない。さらにはタイの石油開発公社においてもSFWシステムの本格導入が決定し、年内にはバンコクにSFWステーションが設置される予定だ。また、中国の上海でも近々、実証試験が行われるという。

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軽油のみの場合と比較し、軽油+SFWの混合燃料では平均で42.8%の燃費削減に成功。温室効果ガスの削減に向けて期待を寄せる声が、参加者からも多く聞かれた。

 

■温室効果ガス削減の国際的な流れの中で

 2013年のIPCC(気候変動に関する政府間パネル)第5次評価報告書は「人間活動が20世紀半ば以降に観測された温暖化の主要な要因であった可能性が極めて高い」と公表した。近年、頻発する豪雨や干ばつなど世界的に起こっている異常気象は、たまたま「異常」が続いているのではなく、人為的な活動による温室効果ガスの排出が影響している可能性を示す内容であった。そして2015年、安倍政権は2030年度の温室効果ガス排出量を2013年度比で26%削減するという目標を世界に向けて表明した。同年12月にはフランスでCOP21(第21回気候変動枠組条約締約国会議)が開催され、今世紀後半に世界の温室効果ガスの排出量を実質的にゼロを目指すパリ協定も採択された。環境コンプライアンスといった言葉を持ち出すまでもなく、環境負荷低減への努力は国家や企業、しいては日本人一人ひとりが否応なしに取り組まなくてはならない責務であることはもはや自明なのである。

 さて、そこで冒頭の問いかけに戻ろう。化石燃料の燃費削減量が最大50%、CO2の排出量も半減される、そんな燃料があったらどうだろうか。

SFWはもともと飲用や調理用水に、また高い洗浄力を持つことから食器洗いや洗濯などのほか、美容や健康の目的でも活用されてきた「創生水」を発展させたものである。現在、エネルギー分野という新たな領域で、燃料になる〝水〟の活躍が大いに期待されている。

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【参加者の声】

◉大手重機メーカー談

水と燃料が混ざり、それがエンジンを動かし、燃費も大幅に改善する。最初にお話をうかがったときには、本当にそのようなことがあるのだろうかと思いましたが、水の中の水素を分子の状態でなく、原子の状態で存在させることによりこれが可能となるとの説明を読み、ある程度理解した上で今回のデモンストレーションに臨みましたが、実際にエンジンは止まることなく作動しましたので認識を新たに致しました。

実験はストラドルキャリアという海上コンテナを運搬する大型荷役機械を使って行なわれ、水を加えた混合燃料を送り込みましたが、エンジンは止まることなくきちんと作動し、また、海上コンテナの昇降速度も通常通りの速度が出ていたように思いました。

私はこうした省エネ、地球温暖化対策技術には非常に深い興味と関心を抱いています。折しも、安倍政権は2030年度の温室効果ガス排出量を2013年度比で26%削減するという目標を国連に届け出ました。SFWはこの動きに沿った技術であり、日本でも早急に実用化が計られることを強く願っています。また、全世界的に地球温暖化が叫ばれる中で、日本を含め、多くの国々でこうした技術革新が進むことを大いに期待しています。

 

◉大手海運会社談

水が燃料になりエンジンを動かす。言葉だけなぞれば、一笑に付す方もいるのは当然です。しかし、実際に燃焼実験のデモンストレーションを目の当たりにすれば、誰もが信じざるを得なくなるのではないでしょうか。

CO2の削減目標は、古くは1997年の京都議定書など、以前より提言されながらも、すべて失敗に終わってきました。SFWの技術が今後、世の中に周知されれば、遅かれ早かれ行政、あるいは重機等を製造する大手メーカーなどが何らかのアクションを見せてもおかしくはないでしょう。

ただし、日本には「失敗しちゃいけない」風潮があり、それが障壁になっている感も否めません。例えば、欧米では何かしらの製品を納品する際、1割は壊れた物があることを見越して1割分を上乗せして納めますが、日本は100個の製品を納めるのであれば、完璧な100個を目指します。もしかしたら、そういった考え方がSFWのような新しい技術に対して企業が慎重になってしまう傾向を生んでいるのかもしれません。近年、日本の優秀な科学者が欧米に流れてしまっていますが、SFWの技術も慎重になる余り同じような道を辿ってしまわないことを願っています。

実際にマレーシアではSFWを使用した漁船が運用されているそうですが、船については大型船のほうがより実用性があるのではないかと思っています。例えば、船内の造水器により海水から清水を作り、その清水をSFWに利用したり、あるいは大きな船であればタンクを置く場所もありますから、これほど適した環境はないのではないでしょうか。現在、重油を船の燃料として使用することを禁止する流れが世界的にあり、我々のような船会社にとっては死活問題であるため、そういう意味においてもSFWには大きな期待を寄せています。

 

◉北見毅彦氏(株式会社宇徳/取締役)

SFWについては、行政へのアプローチやSFWの使用を前提としたエンジンの開発・販売など、そういった課題をどこまで実行できるか、あとはそれだけの問題のような気がします。実際にデモンストレーションを見させていただきましたが、あれだけエンジンが回転していれば、特に問題はないという認識を持ちました。

技術として大変に驚きましたし、とても興味はあるのですが、まだ現段階では実用レベルでのプラントなどがなかったり、既存のエンジンに取り付ける形を取ったりするため、期待値が高い分、そこが非常に残念ではありました。ただし、当社としても今回のデモンストレーションは前向きに捉えており、現在、当社がご協力いただいているエンジンメーカー、また、機械類のメンテナンス業者を含め、SFWがどこまで当社において現実的に運用ができるのかを検証してもらっているところです。

今回のデモンストレーションではSFWに軽油を混ぜていましたが、B重油やC重油でも同じことが可能ということで、その点でも非常に興味を持っています。

現在、ハイブリッド型のトランステーナなど省エネを推進する設備機器について、購入に際しては国からの補助金が出ます。SFWは化石燃料やCO2を従来よりも大幅に削減できるため、まさに省エネに寄与するものであり、国からの認可が下りるような形さえ整えば、確実に全国規模的な普及が進むのではないでしょうか。早くそうしたことが実現するよう期待しています。

 

◉若松一真氏(日本コンテナ・ターミナル株式会社/取締役執行役員)

軽油とSFWを混ぜて、問題なくエンジンが動くという話は前もってうかがっていたので、どういう状況でデモンストレーションを行うのかに大変興味がありました。実際に当社に導入した際、どれくらいの費用対効果があるのかなど、もう少し精査は必要になると思われます。

SFWはあくまでも「水」ということで、当日は試飲もでき、実際に飲んでもみました。実はその後、一升瓶6本セットの創生水を定期的に購入しています。つまり、それだけ「気に入った」「興味がある」ということなのですが、果たして実際にどんな水なのか、手にとってよくよく検証してみたかったのです。

創生水は油と混ざり合うため、洗剤などがいらなくなるということでした。また、化粧水の代わりにもなるということで妻が現在、化粧水として使用しています。当然、飲料水としても飲め、大変まろやかな味に感じます。

港湾の仕事というのは多くのCO2を排出する業種です。そのため、今後はますます環境問題とは切っても切り離せないものになっていくでしょう。化石燃料の代わりにSFWを使えばCO2が少なくなる、当然、化石燃料の消費量もSFWを使う分、削減できるとなれば、ものすごくインパクトがあることに違いありません。

 

◉岡田幸重氏(第一港運株式会社/代表取締役社長)

現在、東京都ではエネルギー消費量が多い企業に対して、温室効果ガスの削減を義務付けています。もしも、削減義務が達成しなかった場合、ペナルティが課せられます。つまるところ、仕事をすればするほどCO2は排出され、ペナルティを課せられる可能性も高まるという、企業にとっては八方塞がりのような状況です。

そうした中、省エネ対策として電気自動車や水素エンジンの開発・普及に期待がかかりますが、実情はインフラ整備や開発費用の問題などから広く実用化されるまでには至っていません。

SFWを使用したエンジンは水を供給する仮設タンクなどの設備を設ければガソリンなどの使用量を約半分に減らせ、CO2の排出量も大幅に削減できるというシステムです。運用・実用化の現実味がある設備であり、企業にとって八方塞がりだった状況を打開できる技術であると確信しています。

しかし、当社だけがSFWのシステムを導入しても環境負荷の低減には到底繋がるものではありません。そして、このSFWの技術を内輪だけの自己満足で終わらせてしまっては大変もったいなく思っています。そこで、我々が少しでもSFWを周知させるお手伝いができればと思い、今回のデモンストレーションの実施にご協力しました。
国が定めたCO2の26%削減という目標、あるいは地球規模で考えたときの環境負荷の軽減にはSFWは大変有効ではありますが、しかしながら、これらのことを実現するにはより多くの人々や企業が関わらなければならないことも事実です。今後、SFWが包括的に広く日本中に展開され、より多くの人々や企業にその革新性、有用性が伝わることを切に願っています。

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第一港運株式会社/岡田幸重氏

 

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創生ワールド株式会社
〒386-0041 長野県上田市秋和201-2
TEL 0268-25-9422
http://www.soseiworld.co.jp

 

深井総研株式会社
〒386-0041 長野県上田市秋和201-2
TEL 0268-27-3750
http://www.fukaisouken.jp/

 

第一港運株式会社
〈本 社〉
〒135-0024 東京都江東区清澄1-8-16
第一港運清澄ビル
TEL 03-3642-3255
http://www.daiichi-koun.com/

 

◆2016年5月号の記事より◆

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