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シンドラー社は事故を予知していた!? シティハイツ竹芝のエレベーター死亡事故

 

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特集シンドラーのリスク

シンドラー社は事故を予知していた!?  シティハイツ竹芝のエレベーター死亡事故

根っこに業界特有の習癖。今こそ求められる行政の指導力 オビ スペシャルエディション

OLYMPUS DIGITAL CAMERAいよいよ逃げ場がなくなってきた。販売したエレベーターがトラブルを続発し、果ては殺人まで犯したというのに、いけしゃあしゃあと知らぬ存ぜぬで通してきた、あのシンドラーエレベータ社(東京・江東区)である。

 

先ごろ開かれた公判(東京・港区の同社製エレベーターによる高校生の死亡事故の裁判)で、被告人の元幹部らは事故を予知しながら放って置いたのではないか、と強く疑わせる関係者の供述調書が明らかになったのだ。

もしそうだとすると過失致死罪は免れないし、次に予定される民事裁判でも、同社は厳しく責任を問われることになる。

 

もはや躱そうったって躱せない

問題の調書は2009年3月、東京地検で取られている。供述人はシンドラー社の元社員(仮にA氏としておく)だ。なぜ検察がA氏を呼んだかというと、死亡事故(2006年6月)を起こしたシティハイツ竹芝のエレベーターは、以前(2004年11月)にも住民が大騒ぎするブレーキ事故を起こしており、当時の保守点検を担当していたのがA氏で、二つの事故の関連性を調べるためである。信頼できる情報筋の話によるとこうだ。

 

「検察が押収した2004年11月8日付の部品出庫・依頼票に、A氏は〝シティハイツ竹芝用〟とはっきり書いてブレーキコイルを2個発注している。これは竹芝のコイルが異常をきたしていることに気付いていた証拠と見ていい。現にA氏も、届いたコイルのうちの1個を現場の機械室に持って行ったと供述している。

しかしどういうわけか取り替えることもなく、結局A氏は、保守契約の切れる2005年の3月末に再度持ち出して、担当する別の現場の機械室に移したと言っている。

問題はそれら一連の事務処理やデリバリーを、会社の指示や報告の上にやったかどうかだが、当然ながらその辺りについては会社とあらかじめ打ち合わせていたのだろう。記憶にないとか、思い出せないとか言って、巧みに躱(かわ)しながら供述している」

今さらながら食えない連中である。しかし発注書にはA氏の他、当時の上司(保守部課長)だった原田隆一被告ら3人のハンコも突かれているという。躱そうったって躱せるものではあるまい。

 

案の定、検察側は初公判の冒頭陳述で、「両被告は以前の事故の際の点検で、ブレーキパッドの摩耗を認識していたにも拘らず、その原因の徹底調査や再発防止措置を怠った」と正面から切り込んでおり、返す刀で、「そればかりか、保守点検業務を他社に引き継いだ(2005年4月)際にも、その情報をまったく提供していない」ことから、事故に繋がったとバッサリ切り捨てているのだ。

 

もしその通りだとすれば、事故はシンドラー社側の故意、少なくとも〝未必の故意〟によって引き起こされたと言っていい。

したがってシンドラー社側の弁護人も、法廷戦術上そうするしかないのだろう。「2004年の11月時点で、ブレーキは正常だった」と冒頭陳述で強弁し、検察側の鑑定内容が変遷(これはこれで問題だが)したことを取り上げ、これを痛烈に批判した上で、「ブレーキパッドの摩耗の原因はまだ解明されていない」と、論点のすり替えに躍起になっているのが実情だ。食えないばかりか、何とも往生際の悪いやつらである。

 

シティハイツ竹芝の概要

階段

事故が起きたのは2006年6月3日の午後7時20分頃。エレベーターに乗った少年(当時高校生の市川大輔君)が、自宅のある12階で自転車を引きながら降りようとしたところ、扉が開いたままカゴがいきなり上昇し、天井側の扉の外枠とカゴの床とに挟まれる。

通報を受けて駆け付けた当時のメンテナンス会社の担当者と、東京消防庁のレスキュー隊員の手によって少年は降ろされたものの、搬送先の病院で死亡が確認された。

 

事故原因の大本はブレーキコイルの短絡(ショート)。これがブレーキを半がかりの状態にし、そのまま運転を続けていたためにパッドの摩耗が急速に進み、ちょうど少年が降りようとしたその瞬間に限界に達し、ブレーキが開きっ放しの状態になったものと見られている。

検察は業務上過失致死罪で、シンドラー社の当時の保守部長(上笹貫斎被告)と同課長(文中)を在宅起訴、今年の3月から公判が始まっている。

 

ルールになければ何でもあり

前月(4月)号で詳しく述べたのでここでは取り上げないが、とにかくここ10年間だけを見ても、同社のエレベーターは事故のオンパレードである。閉じ込めや停止位置のズレは日常茶飯事。酷いのになるとワイヤーが切れたり、暴走して天井にぶつかって停まったりと、まさに〝走る凶器〟と言っていい。

なぜそんなに事故を起こすのか。ちなみに同社はエスカレーターで世界第1位、エレベーターで世界第2位のシェアを持つ、押しも押されもしない正真正銘の世界のトップ昇降機メーカーである。素人考えかも知れないが、技術的に劣っているとは到底思えない。では何が原因でそうなのか。取材を続けるうちに確信したが、ひと言で表すと、この会社の度し難い隠蔽体質であり、カルチャーと言う他ない。

 

「ルールになければ何でもあり、というところがありますね。例えば二重ブレーキの件ですが、国内のエレベーターについて同社はまったく対応していません。ヨーロッパなど厳しいルールがある国では、きちんと対応しているんですよ。他にもメンテナンス会社に点検マニュアルを出さないとか、オープン研修を開かないとか、とくに行政から義務付けられていない限り、安全のためだろうが何だろうが、自分からは何もしないおかしな会社です」(全国紙の社会部記者)

二重ブレーキとは、仮に何らかの異常でブレーキが利かなくなっても、もう一つのブレーキが作動し、カゴを停める仕組みのことを言う。従前これに関するルールはなかったが、竹芝の事故を受けて法が改正され、2009年9月から、新設のエレベーターに限り義務付けられている。

 

「今一つこの会社が抱えている大きな問題は、CSR(企業の社会的責任)をまるで感じていないことですよ」  こう言うのは、某在京スポーツ紙のデスクだ。

「もう10年近くも前の話ですが、競輪の前反祐一郎選手が、別府競輪場でシンドラー社のエレベーターに約40分間も閉じ込められたことがあるんです。それもただ閉じ込められたのではなく、1階に着いて降りようとしたら急に上昇して、天井(4階の上)に衝突する形で停まったんです。本人はまた急降下して、死ぬんじゃないかと思ったそうですよ。

そのショックでレースの出走を取り止めたことから一部のスポーツ紙が取り上げましたが、シンドラー社がこのことについて謝罪なり説明をしたことは一度もありません。たまたまシティハイツ竹芝の事故があったから、その流れで公表せざるを得なくなったということでしょう」

いやはや。

 

行政が主導して公平で健全な業界に立て直せ

話を戻そう。今後の公判において争点となるかどうかは分からないが、見落としてはならない問題点が、今一つあると小誌は考える。多くの報道を見ると、保守点検さえきちんと行っていれば事故は未然に防げたという論調がほとんどだが、果たしてそうだろうか。

先の二重ブレーキも然ることながら、そもそも製品(事故を起こしたシンドラー社のエレベーター)自体に、何も問題はなかったのかという素朴な疑問である。言うまでもないが、とりわけ注目すべきは例のブレーキコイルだ。

 

「ブレーキコイルは通常の点検では確認できませんから、設計の段階で短絡しないよう構成する必要があります。もしそうでなかったとすれば、設計上のミスと言われても仕方がありません」(某メーカー関係者)

ちなみに事故機のブレーキは、コイルがブレーキの開閉に合わせて動くという、国内ではほとんど見られない特殊な構造になっているという。そのため電気の口出し線とコイルが接触し、その摩擦によって被覆が破れ、短絡した可能性が極めて高いというのが、竹芝での事故に対する調査委員会をはじめ、多くの専門家らの見立てである。これまたルールがないということを盾に、(その方が安く上がるといったような理由で)シンドラー社が故意にやっていたとしたら、被害者家族はもちろん、一般の市民感情からしても到底許せる話ではないだろう。

 

 ◆提言

さてこれまで3回に亘り、シンドラー社を取り上げてエレベーター事故の問題を追及してきたが、最後に、一連の事故の全体像を俯瞰した上で、小誌としての意見を少々述べておきたい。

シンドラー社はもちろんその責任をしっかり取らなければならないが、よく見ると悪いのは何も同社だけではない。ややもすると第二のシンドラー社は明日にも生まれるだろう。理由の一つは、三菱電機と日立製作所だけで市場の9割を占めているという、この業界特有の異様な構造と、そこから生まれる悪しき習癖、そしてそれを野放しにしてきた行政の怠慢である。

とりわけ行政に対しては、強く要望しておきたい。事故防止については確かに幾つかの指針や対策を発表しているが、はっきり言っていずれも対症療法に過ぎない。

 

おそらく大手メーカーやその周辺にいる議員さんたちに遠慮しているのだろうが、何よりも優先すべきは国民の利益と安全である。その利益と安全を担保するには、業界を一度ガラガラポンして、公平で健全な姿に立て直す必要がある。そのためには、電力で言う〝発送電分離〟にも匹敵する思い切った施策や指針を、直ちに打ち出すべきではないか。

 

今一つは喫緊の問題である。国内には約70万基のエレベーターがあり、その多くはすでに高経年化している。シンドラー社製に限らず、いつ何があっても不思議ではないのだ。そこでまずは取り急ぎ、新設だけでなくすべてのエレベーターに、二重ブレーキ化を義務付けたい。国交省は少しでも安く二重化するための技術革新を業界に求め、コンテスト紛いのことをやっているが、そんなことではもはや間に合わないだろう。補助金を出してでも、強制的にやらせるべきだ。

少々乱暴に聞こえるかも知れないが、仮に1基当たり300万円出しても合計2兆1000億円である。僅か1年だけ、消費税の1%を回せばできる話だ。二度とあのような事故を起こさないという国の姿勢と決意があれば、反対する国民はおそらく一人もいまい。

 

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町工場・中小企業を応援する雑誌BigLife21 2013年5月号の記事より

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