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日本再生の鍵を探せ 企業x学校物語

修学院 久保田信之院長 ‐ 李登輝氏から託されたメッセージ「日本は捨てたものじゃない」

 

創光 オビ 

修学院 久保田信之院長 ‐ 李登輝氏から託されたメッセージ「日本は捨てたものじゃない」

聞き手:筒井潔(創光技術事務所所長)・塩入千春(同社シニア・アナリスト)

文:加藤俊・野村美穂

オビ インタビュー

李登輝元台湾総統 修学院 (2)修学院久保田信之院長と李登輝元台湾総統

「台湾民主化の父」と称される李登輝元総統と、公私において30年以上に渡り交流を深める日本人がいる。李登輝元総統から託された「日本再発見」の導きを日本人に対して行う、特定非営利活動法人修学院の久保田信之院長だ。

二人の交流はどのようなきっかけで始まったのか、李登輝元総統は久保田氏へ何を託したのかなどお話をうかがった。

「日本は捨てたものじゃない。勤勉さ、もてなしの心、武士道などの戻るべき原点を持っている国」(李登輝元台湾総統)

 李登輝氏との出会い

修学院 久保田信之氏 (4)左より塩入・久保田・筒井

筒井:私は、1972年の日中国交正常化、それに伴う台湾との断交の際に、先生が台湾に乗り込んで行ったことが、先生と李登輝元総統閣下との出会いのきっかけであると伺っておりますが、その辺の事情を読者の方向けにもう少し詳しく教えて下さい。

 

久保田:当時、日本と台湾は、お互い切っても切れない密接な関係を築いていたにも関わらず、1972年に田中角栄氏が中心になり台湾と国交断絶をしました。私はこれに我慢がなりませんでした。日本からあんな裏切り方をして良い訳がない。

それで、蒋介石氏が作った政治大学の国際関係センターで、有識者による「大陸問題検討会」、現在の「アジア太平洋交流学会」という研究会を立ち上げたのです。そこに、当時台北市長だった李登輝先生にお越し頂いたのです。それからことあるごとに、日本の精神文化の素晴らしさ、それを現代日本の若者に伝えることの重要性を説いてくださいました。

 

塩入:昨今のご交友はいかがですか?

 

修学院 久保田信之氏 (1)

久保田:20歳まで日本人でおられた李登輝先生は、日本の文化などをきちんと語り合うことのできる、本当の教養人です。新渡戸稲造氏の話や武士道の話など、「人間の心の形成」や「旧制高校の素晴らしさ」について当時から随分とお話してきました。

それで、ある時「今」の日本を憂う話になったのですが、「日本は捨てたものじゃない。勤勉さ、もてなしの心、武士道などの戻るべき原点を持っている国だ。日本は原点に立ち返り、世界がうらやむ民主主義を実現しないと」と言われまして、「君が日本を語ることで、日本人が日本の再発見をすれば良い。日本には良き文化的伝統があるじゃないか。問題意識を持っている君がやらなきゃダメだ」と激励頂いたのです。この李登輝先生の思いを受けて発足したのが設立当初の「日本李登輝学校 修学院」なのです。

 

修学院の役割 

李登輝元台湾総統 修学院 (1) 台湾総合研究院にて
李登輝元台湾総統 修学院 (3)李登輝氏と久保田氏の交流は公私に渡り30年にも及ぶ(左の女性は久保田氏の奥様)
李登輝元台湾総統 修学院 (4)修学院福岡で開かれた勉強会の様子

塩入:李登輝先生は久保田先生に、日本人が「日本の再発見」をするための導きを託されたのですね。

 

久保田:ええ。私としても、台湾との国交断絶後、台湾の「民度を高めよう。平和であろう」とする姿勢を知れば知るほどに感動しましてね。平和は日本にとっても財産なのに、現代の若者は価値をわかっていないのですから。

もともと「日本の再発見」を目的としたゼミ(久保田ゼミ)を学習院女子大学で始めていたこともありました。それで私が学習院女子大学を定年退職するにあたり、その久保田ゼミを「日本李登輝学校 修学院」として創立しました。

 

塩入:修学院では具体的に、どのようなことをなさっているのでしょうか?

 

久保田:「日本の再発見」をテーマに、文化や教育問題を中心に勉強会を開催したり、日本精神が今も残る台湾への研修旅行、李登輝先生本人による最高指導者研修「日本李登輝学校 台湾研修講座」の開催を行っています。この講座では、台湾の最高指導者として活躍された李登輝先生の経験から、「最高指導者論」や「武士道」「リーダーシップ」などについて、時に質問や意見を交えながら学ぶ貴重な場となっています。

全てに共通して言えるのは、学ぶプロセスを重視した勉強会である、ということです。これには明確な理由があって、昨今は森羅万象すべての本質を極めようとする学問が台頭していますが、対象を原子レベルまで分析をしたところで本質に出会うことはできないという思いが強いからです。

例えば、料理における家庭の味など、分析を重ねて数値化にこぎつけたとして、それで本質を学ぶことにはならないでしょう? それはモノには過程もあるし、背景もあるワケで。修学院では、家庭の味を含め、日本の文化全般を学ぶプロセスに意義を置いています。そのすべての目的は、「主体性豊かな日本人」を育成するためなのです。

 

塩入:それは何故ですか?

 

久保田:日本文化が最も軽蔑してきた「私利私欲・私情に流される未熟な人間」ばかりが目立つようになってしまった現状を糺さなければならないからです。

 

久保田氏が抱く「日本への危機感」

筒井:先生は、現在の日本のどの領域に特に危機感をお持ちで糺す必要があると考えているのでしょうか。

 

修学院 久保田信之氏 (5)

久保田:私の専門は教育哲学で、何十年もの間、学習院女子大学をはじめ多くの大学で学生たちと関わってきました。ですので、学生の意識の移り変わりを否が応でも見てきたと言いましょうか、若者の視野が時代を経るごとに狭まってきていることを危惧しています。

 

ただ、これは元を正せば、若者たちが“普通科”の卒業をもって大学へ進むことがあたり前になった社会に原因がある、と言えます。「今」の普通科で教えていることは、単なる受験勉強に過ぎません。本来、「普通」という言葉は相当広い意味合いをもっていて、これが普通を学ぶ「普通科」となった場合、少なくとも、この日本で生まれた意味と向き合う教育、「先人の心を我が心に」して、広い視野と豊かな感受性を培い、逞しい創造力の持ち主を育てるような教育であるべきだと思うのです。

そのためには、学問の相当範囲を網羅的にカバーする必要があるのですが、受験勉強しかしていないのが実情ですから、結果「何のために大学へ来たのか、何のために自分が生きているのか」を大学生にもなってわからない学生が量産されてしまうのです。

端的な例として、私共では、李登輝先生と哲学の話をするため、学生を連れて台湾へ行くのです。ところが、連れて行った学生は、受験勉強で覚える勉強しかしていない。モノを考えるための思考回路を持っていないのです。要は、深い哲学の話ができないのですよ。

 

筒井:哲学というと、カントやデカルトのことを連想する人も多いかと思いますが。

 

久保田:いや、それは違います。カントやデカルトの本を読んで「哲学ですか。難しいですね」と言うのは、根本的に間違っているのです。哲学は難しくない。誰もが向きあう「心」という最も身近な問題を扱うのが哲学です。つまり、物事をじっくりと考えることこそが哲学であり、カントやデカルトが問題を突き詰めたことの結果を書いた本を読むことではありません。言うなれば、過去の賢人達が導き出した答えを知ること自体に大きな意味はない。そうではなく、賢人たちが一生をかけて悩みながらも答えを導こうとした、その探求の過程、思考する習慣を自分も会得することにこそ、意味があるのです。

こうした文脈上で、哲学を捉える方が少なくなり、実際に今の若者は物事をじっくり考えなくなってしまった。残念でなりません。

 

筒井:昔の若者は違ったのでしょうか?

 

久保田:昔の若者は先祖代々の家や地域社会など、個でないものを背負っており、「この学問を深めたい、こんな活躍がしたい」など志をもって大学へ入学する人が多かった。しかし、今の教育のエネルギーは、「自己の利益」や「個の幸せ」を求めることで終わっている。その先を教えない。そのため、社会と自身の生活が遊離したまま、接合点を見いだせない子が育つのです。これでは、視野も狭量にもなりますよ。要は世の中を宛もなく彷徨い続けるだけですから、当然、自身の身近な問題に目が行くハズもない。じっくり考える習慣が身につくきっかけが生まれてこないのですよ。

あげく、現代の若者には先輩後輩などの縦の繋がりもありません。いろいろな関わり合いを持っていれば、一人では生み出せない独創性や主体性が生まれうるものなのに。

私の教育哲学の基本は「広い視野に立つことにより、豊かな感受性や想像力が生まれる」というものでした。これじゃいけない、何とかしなきゃいけないと考えるための逞しい想像力が、現代の若者たちには備わっていないのですよ。

 

塩入:考えてみれば、現代で言う「科学」あるいは「自然科学」という分野も、もともとは「哲学」の一つである「自然哲学」という学問から分化したものですものね。最近は基礎理論を深く考えることよりも実験や分析、ビジネスに繋がりやすい応用を重視する傾向が強くなり過ぎたせいか、先生がご指摘されたような問題が生じているのかもしれません。

 

網膜を通して見える世界ばかりではない

修学院 久保田信之氏 (3)

筒井:そもそも先生はいつ頃から人の心の動きにご関心をお持ちなのですか?

 

久保田:どうだろう、私の原体験として、3、4歳の頃のエピソードだと思うのですが、祖母のところへ通っていた按摩師さんが、目が見えないのに私に「今日は天気が良いですね」とか「チューリップが咲きましたね」と話してくれることがありました。「どうしてチューリップが咲いているのがわかるのか、紙に書いて欲しい」と幼い私は言うんですが、彼女、それは書けないと応えるんです。では、見えないし、書けないのに、なぜわかるのか、どういうことなのか、そうやって考えだしたのが、始まりのような気がします。おそらく彼女が見ている世界は我々が目を瞑ってわかる世界ではなかった。彼女の頭の中はどうなっているのだろう? と不思議に思い、それが精神科の医師を志すきっかけとなりました。

 

筒井:精神科医ですか。現在の教育哲学とは異なりますね。

 

久保田:それはですね、高校2年の秋に、父が交通事故で亡くなりまして。当時既に医学部へ通っていた兄がいて、2人で医学の道へ進むと家庭へ教育費の負担が大きすぎるから、私は医学の道を諦めたのです。でも、人を知る学問は諦められなかった。だから、当時は心理学を中に有していた政治学、哲学の道へ進み、思考や認識などの基本的なテーマについて学びました。

 

筒井:当時の関心はどのようなポイントにお持ちだったのですか?

 

久保田:やはり3、4歳の頃から抱いている「見える」ということへの関心でしたね。目が見えない人にも見える世界があると先述した原体験は私にとって本当に大きかった。「見えるとは何なのだ?」、この世とは、網膜を通して見える世界ばかりではないのだろうか。そうやって煩悶した先に、英語のwatchとseeの違いにヒントを見出せた。ああ、これは認識論の話なのか、と。つまり、心が動かないと見えないことに気付いた。そこから考えることや心を動かすこと、つまり哲学に興味が移ったのです。

 

塩入:哲学を研究した先に、先生が今お考えになっていることとは何でしょうか?

 

久保田:それは、この世に生を受けた理由、尊敬され信頼される人間になる道とは何なのか、ということです。カネを貯め、モノを持つことではない。欧米の言語・文化に精通することでもない。歴史辞典を丸暗記することでも、博物館に陳列してあるようなカビの生えた古き日本文化を学ぶこととも違う。結局、先人の心を我が心にして、広い視野と豊かな感受性を培い逞しい創造力の持ち主になること。そして、その先に、日本のため、世界のために、何をできる人間になるか、ということなのです。李登輝先生が言いたいことも、そこです。

李登輝先生はよくこう仰います。日本人は、調和のとれた自然感覚、穏やかさ、おもてなしという心が有る。武士道的勤勉さ、清らかさも有している。そうした原点を見直せ。そして、日本と台湾が手を組むことによって、世界が羨むような民主主義を創ろう、と。こうしたメッセージを日本中に広める発信基地に修学院をしたい、これが私の想いなのです。

 

筒井&塩入:なるほど。本日は貴重なお話を聞かせて頂き、ありがとうございました。

 

オビ インタビュー

修学院 久保田信之氏 (2)

修学院院長 久保田信之(くぼた・のぶゆき)氏…1936年生まれ。教育学博士。学習院女子大学国際文化交流学部元教授。学習院大学政治経済学部・文学部卒、法政大学大学院人文科学研究科哲学専攻博士課程終了。学習院女子大学、芝浦工業大学、法政大学、青山学院大学、学習院大学、学習院女子短期大学等で倫理学、教育史、教育哲学などを担当。2007年、学習院女子大学国際文化交流学部教授職を退職。2008年、藍綬褒章を受章。現在、学習院参与・東京家庭裁判所参与・NPO法人修学院院長・アジア太平洋交流学会会長などを務める。

主な著作に『断絶の修復』(芸林書房)、『魂の荒廃』(創樹社)、『家族崩壊』(日本教文社)、『近代化の忘れ物』(酒井書房)『日本を糺す』(世界日報社)などがある。

特定営利活動法人修学院 

「日本」を考え学び、21世紀に通用する「日本人」と「日本学」の確立を目指すNPO学校

http://www.shugakuin.jp/

筒井潔(つつい・きよし)…経営&公共政策コンサルタント。1966年神奈川県生まれ。慶應義塾大学理工学部電気工学科博士課程修了後、外資系テスターメーカー、ベンチャー企業、財団法人等勤務を経て、合同会社創光技術事務所所長。

塩入千春(しおいり・ちはる)…合同会社創光技術事務所シニア・アナリスト。理学博士。京都大学理学部卒。総合研究大学院大学博士課程修了。理化学研究所研究員等を歴任。2013年9月より現職。

2015年1月号の記事より
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