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加茂水産高等学校 海から至近の恵まれた環境で総合的な人間教育を

◆取材:加藤俊

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山形県立 加茂水産高等学校 校長 長谷川 賢氏

学校のすぐ目の前は日本海。近隣には、世界一のクラゲ保有数で知られる加茂水族館もあり、水産を学ぶには絶好のロケーションに加茂水産高校は位置している。さらに、学校が独自に保有する船・鳥海丸は現在で5代目となり、先代よりも飛躍的にハイスペックになったという。

これら恵まれた環境の中でのびのびと学ぶ生徒たちに、学校としてどのようなポリシーで指導にあたっているのか、さらに産業界への要求としてどのような視点をお持ちなのか、長谷川校長からの提言をお伝えしたい。

 

校外での魅力的な実習時間が豊富!

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水産高校はその性質上、教室で学ぶ授業よりも、海に出て学ぶ実習の時間が多くなります。それは全国どこの水産高校でも同じだと思いますが、当校の場合、日本海が至近距離にあり、いつでも行き来できる環境にあることは大きな強みです。

たいへん痛ましいことですが、2011年の震災で、岩手や宮城などの太平洋側では、海辺の学校は今までよりも海岸部から離れて再建することを余儀なくされています。当校には幸い、そうしたハンディキャップはありません。また5代目となる自慢の鳥海丸ですが、先代よりもコンパクトな大きさになったことで学校から徒歩数分の距離まで進入できるようになり、生徒たちが船に触れる機会も増えました。

 

 

待望! 企業からインターンシップの機会を

当校を卒業した生徒たちは、約3割が専門学校や大学へ進学し、7割が船長や機関士など船の仕事をはじめ、水産加工業や工業系の製造業などに就職します。就職指導については地元の企業にも協力を求め、最善を尽くしていますが、近隣の宮城や福島、青森、新潟などに比べると、山形県は水産業の関連会社の数がそもそも多くありません。

中小企業となると、日々の業務を滞りなく行うだけでもなかなか大変だと思いますが、いま少し、高校生たちが将来の目標について具体的にイメージできるような、インターンシップの機会を積極的に設けていただけたらありがたいと思います。働く現場を目の当たりにすることで、なぜいま自分が学校でがんばっているのか、そのことが将来、どのように役に立つのかがわかり、生徒たちの学ぶモチベーションがグンと向上するものと期待しています。

 

インターシップを行ったからといって必ずしもすぐ就労に結びつくわけではないと思いますが、「こういう仕事があるんだ」ということを高校生に知らしめるということだけでも、企業にとっても意義のあることではないかと思います。

 

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それではさらに具体的に踏み込んで、長谷川校長からの「直言」「直答」を。水産高校は、その生徒たちは企業に何を期待しているのか?

 

Q・学校としての基本的な教育方針、どのような人材を社会に送り出したいと考えているのか、この点についてお聞かせください。

 

本校には海洋技術科と海洋資源科があります。技術科は船や漁業に案するスペシャリストの育成を、資源科は栽培漁業や食品などを中心に、海洋に係わることを学ばせることを目的としています。専門的な知識の習得はもちろん大事ですが、海を大切にする心や、船に乗って共同生活する中で、機敏に動けること、皆で協力できる姿勢を学んでもらうことを教育の根幹に据えています。

また私としては、産業と地域住民と学校が一体とならなければ地域の発展はないと考えています。ですから、地域に貢献できる人材を送り出すことができなければ、学校としての存在理由はない。地域や産業と深く連携した教育を心がけています。

 

Q・貴校の生徒たちは、主にどのような仕事(業界)に就職されていますか?

 

技術科の生徒は船長や資源管理型漁業技術者、機関長や工学技術者など、実際に船の航行に係わる仕事に就く生徒がいる一方、水産とは関連の無い工業系の企業に行く生徒も少なくありません。資源科は地元では、マリンスポーツや水族館などの求人が少ないためサービス関連や食品の貯蔵・加工・流通および調理などの事業所が多いです。

 

Q・生徒たちが地域や社会と触れる機会として、具体的にどのような場を設けていますか?

 

インターンシップの機会としては、蒲鉾の製造工程の研修に参加させていただいています。また地元の漁師の方から、底引き、延縄など、学校が保有する鳥海丸ではできない漁法について教えてもらう機会を設けています。

 

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当校に特長的な指導としては、加茂水族館と連携した「水族館概論」という授業があります。これは全国でもめずらしい試みだと思います。また実習製品としてマグロの缶詰、秋刀魚の味付け缶詰、イカ飯を作り、これらは山形県や鶴岡市の「産業まつり」など、漁業系の行事の際に実際に販売し、すぐ売り切れてしまいます。

このほか、幼稚園児や小学生を対象に出張講座を行っています。自分たちが育てた稚魚を放流するところを見せるなどして、自然や魚と親しんでもらうことが目的ですね。

 

Q・将来ある高校生を預かるお立場として、若者を雇用する中小企業に求めたいのはどのようなことですか?

 

現在の経済状況においては仕方のない部分もあるとは思いますが、即戦力を求めすぎる面はあると思います。入社5年目の社員と新人が競争相手にならざるを得ないようなシビアな局面が多く、せっかく会社に入っても短期で辞めてしまう子が多い。

もう一つはやはりインターンシップの機会を増やしていただきたいということです。当校でもいろいろ働きかけていますが、断わられてしまうことも少なくありません。貴重な時間を割いてわざわざ教えるのは大変なことだと思いますが、世の中にそういう仕事が実際に存在していることを生徒たちに見せ、自分の将来像を明確につかんでもらうことは、企業にとってもプラスになることだと思います。

まとめて言えば、若い人材に関しては、できるだけ長期的なスパンに立って判断していただきたい、ということになるでしょうか。

 

Q・そうした連携を中小企業と学校が深めて行くために、何か具体的なプランをお持ちですか?

 

もう少し産業と連携した側面があっていいと考えています。例えば今、漁業者の中には、魚価に不満をお持ちの方が相当数いらっしゃると思うので、そこに付加価値を付ける工夫ができないか。水産高校と連携して開発した商品があれば新たなマーケットが開けるかもしれません。最近、農業や水産業の6次産業化ということが盛んに言われますが、高校生たちも、自分のさばいたマグロが5万円になった、加工した製品が10万円になった、という目に見える成果があったら、学習するモチベーションが確実に上がり、市場も刺激されると思います。

 

そのほか、例えば水族館が改装したら、そこで体験ダイビングができるとか、生簀の中に県魚のサクラマスをいっぱい放すとか、地域の方々がもっと海や魚と親しむ機会が増えるといいですね。当校も積極的に鳥海丸を体験していただきたいと思っています。高校生と地元の水族館と企業と、あとできればリタイアした方々にもボランティアなどで参加していただいて、もっと地域が活気付いて、その結果、外から人が来るような、そんな方向で産業がまだまだ興せるのではないかと思っています。

 

Q・なるほど。具体的で鋭いご提言、ありがとうございました。

 

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●山形県立加茂水産高等学校

山形県鶴岡市加茂字大崩595

TEL 0235−33−3031(事務室)

http://kamosuisan-h.ed.jp/

 

 

◆この記事はBigLife21 2013年12月号に掲載されています。◆