オビ 特集

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学校と企業を行き来しながら、座学と実務訓練を長期に行う、ドイツ生まれの「デュアルシステム」が日本の専門高校に導入されてから12年。

もともと高卒者の就職率向上と、中小企業の人材不足を解消する目的で始まったが、いまやその効果も活用法も多様化し、地域全体を巻き込んだまちおこしにも活用されている。

そこで各地で定着しはじめた、デュアルシステムの活用の実際とポイントについて実例を挙げながら紹介していく。

 

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ものづくりから、家づくり、街づくりまで学ぶ

東京都立田無工業高等学校

校長 前田平作氏/デュアルシステム担当・主任教諭 小栗章義氏

 

◆取材:小原レイ/文:五十川正紘
ds_tanashi01「ものづくりに興味がある生徒が進学したいと思える、魅力的な学校にしたい」と語るのは、東京都立田無工業高等学校校長・前田平作氏(写真右)だ。

同校は2012年度からデュアルシステムを実施し、その協賛企業数は地元の武蔵野・多摩エリアの企業を中心に延べ約240社に上る。

同校の特色やデュアルシステムの実施状況などについて、前田氏とデュアルシステム担当の教諭・小栗章義氏(写真左)に話を伺った。

 

 

 

クレーン、ブルドーザーなど土木、建設に使う重機が充実

─まずは、御校の概要および特色について伺いたい。

ds_tanashi02敷地が広い分、設備も充実

前田氏:当校には、機械科、建築科、都市工学科の3科があり、1学年全体の定員人数は175名です。1学年あたりのクラス編成は、機械科と建築科が各2クラス、都市工学科が1クラスとなっています。

当校の特色の1つは、都市工学科が設置されていることです。実は、工業系の都立高校で同科が設置されているのは、当校と世田谷区にある都立総合工科高等学校のみです。

同科では、電気・ガス・水道など、私たちの日常生活に欠かせないインフラ構築・整備を担う土木技術者の育成を目指します。

また、都心にある工業系高校に比べて敷地が広いことも大きな特徴です。大きなスペースを要す設備も備えられる余裕があります。

例えば、クレーン、ショベルカー、ブルドーザーなど、建設・土木工事現場で使われる設備・車輌を備え、生徒たちが実際に動かして、その操作方法を学んでいます。それだけ敷地が広いのは、当校が都心から離れた武蔵野・多摩エリアにあるからこそです。

 

─御校のデュアルシステムの仕組みは、どのようになっているのか。

 

前田氏:デュアルシステムは当校の全3科で実施しています。企業の現場に直に触れる機会としては、まずは1年次に現場見学会があります。

次の段階として、平均3日間のインターンシップを2年次の夏季休業期間中に行います。最後は、5~7日連続の長期就業訓練を計3回行います。

その3回の長期就業訓練は、2年次の12月に行うⅠ期、2年次の3月に行うⅡ期、3年次の夏季休業期間中に行うⅢ期と、それぞれ区別しています。

なお、毎年度、インターンシップや長期就業訓練など、企業での実習を体験した生徒による発表会を開催し、翌年度以降、実習に参加する生徒たちがデュアルシステムへの理解を深められるように努めています。

 

小栗氏:全生徒にデュアルシステムへの参加を義務づけているわけではなく、希望する生徒が参加する仕組みとなっています。やはり、生徒の自主性に任せた方が、生徒本人のデュアルシステムに対する取り組み方が違ってきます。

また、デュアルシステムの大きな目的の1つが生徒と企業のミスマッチの回避であるため、生徒が自分自身の希望で企業での実習に参加する方が望ましいと考えています。

 

 

建設・土木工事現場では、数日間、集中的に実習を行った方がよい

─デュアルシステム実施校の中には、長期就業訓練を3年次にのみ、週1日ペースで半年以上に渡って行う学校もいくつかあり、御校の場合とはかなり違う。その違いについて、どのように考えているのか?

 

ds_tanashi03同校で学ぶ生徒さんたち

前田氏:デュアルシステム協賛企業の中でも、建築科や都市工学科の生徒を受け入れていただいている企業の多くが建設・土木工事を手掛けています。

建設・土木工事の現場では1週間も経つと、その作業工程がすっかり変わってしまいます。そのため、数日に渡り連続で集中的に実習を行った方が、実際の工事現場で行われている1つの作業工程をできるだけ幅広く学べるメリットがあります。

しかしながら、週1日ペースで半年以上に渡り実習を行っている学校も、それなりのメリットを感じて、そのようなプログラムを組んでいると思います。そのため、一概にどちらが良いとは言えないと思います。

 

─どのような企業が御校のデュアルシステムに協賛しているのか。

 

前田氏:地元である武蔵野・多摩エリアの企業中心ですが、東京23区内など、それ以外の地域の企業も含まれ、地域的には広範囲に渡ります。

地元の協賛企業については、建設・土木工事関係が多いです。武蔵野・多摩エリアは住宅街が多く、産業が活発な地域ではないため、都心に比べると企業数自体が少ないからです。

また、建設・土木工事業の企業の特徴として、建築やインフラ構築・整備を担うため、どこでも必ず地域に密着した地元の建設・土木工事会社があります。

つまり、武蔵野・多摩エリアでも地域密着型の建設・土木工事会社が多数あり、それが当校のデュアルシステム協賛企業の内訳にもよく表われています。

 

─生徒たちのデュアルシステムに対する反応はどうか。

 

ds_tanashi04廊下に貼られたデュアルシステム協賛企業のポスター

前田氏:当校のデュアルシステムをしっかり理解して入学している生徒は、あまり多くないようです。そのため、インターンシップに参加しても、次の段階の長期就業訓練には参加しない生徒も多く、それはインターンシップ参加者の半数近くに上ります。

そこで、今年度、当校のデュアルシステムを案内する、企業用と中学生用のリーフレットをそれぞれ、計2種類、作成しました。

 

小栗氏:在校生に対しても、デュアルシステムの啓蒙・参加促進に取り組んでいます。例えば、今年度からデュアルシステム協賛企業各社にお願いして、企業紹介ポスターを作成いただき、校内の廊下に貼り出しています。

これまで生徒に提供していた企業情報は文字だけでまとめられたものがほとんどでしたが、写真も織り交ぜたポスターも活用して企業紹介をした方が、生徒たちに企業の仕事内容や魅力がより良く伝わるはずだと考えました。

 

 

教員全員が中学校を訪問し、魅力をアピール

─ものづくりに興味がある生徒が進学したい学校にするために、例えば、どのようなことに取り組んでいるのか?

 

前田氏:今年度から、より当校の啓蒙に努めるべく、教員一人につき中学校を1校以上訪問することにしました。中学校に対して、デュアルシステムを始め、当校が様々な取り組みを行っていることをしっかりアピールしたいと思います。

デュアルシステム以外の取り組みとしては、例えば、就職でアピールポイントにもなり得る、実務で役立つ各種資格の取得を目指す講習会を開催しています。

実は、今週だけでも私が中学校2校を訪問します。まずは当校のことを知ってもらうことが大切だと思いますので、校長の私が率先して啓蒙に努めています。

それから当校では、地域への貢献も心掛けています。一例として、建築科の1年次の授業で製作したベンチを地域の小中学校や公民館、市役所などに寄贈しています。これも広い意味で当校の魅力のPRとものづくりからの啓蒙につながる活動だと思います。

 

─今後は、どのようなことに取り組むつもりなのか。

 

前田氏:理想を言えば、最新設備の導入、技術指導ができる教員の育成、外部人材の活用などに取り組み、授業内容をより一層充実させることができればと思います。

取り組むためのコストや人員の問題など、課題もあると思いますが、できることから取り組み始め、ものづくりに興味がある生徒が進学したいと思える学校にしたい。

また、そのような意欲的な生徒が当校に集まってくれば、教員たちのモチベーションも上がり、より熱意を持って生徒の指導にあたれるようになると思います。

 

 

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◉プロフィール

前田平作(まえだ・へいさく)氏

1965年生まれ。東京都出身。東京学芸大学大学院教育学研究科専攻。1992年から都立工業高校の教諭を務め、東京都教育委員会統括指導主事を経て、2015年4月、東京都立田無工業高等学校校長に就任。

 

小栗章義(おぐり・あきよし)氏

東京都立田無工業高等学校都市工学科進路指導部主任教諭。2016年4月より同校のデュアルシステム担当。

 

 

東京都立田無工業高等学校

〒188-0013 東京都西東京市向台町1-9-1

TEL 042-464-2225

http://www.tanashikougyo-h.metro.tokyo.jp/

 

 

 

 

◆2016年10月号の記事より◆

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