オビ 特集

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学校と企業を行き来しながら、座学と実務訓練を長期に行う、ドイツ生まれの「デュアルシステム」が日本の専門高校に導入されてから12年。

もともと高卒者の就職率向上と、中小企業の人材不足を解消する目的で始まったが、いまやその効果も活用法も多様化し、地域全体を巻き込んだまちおこしにも活用されている。

そこで各地で定着しはじめた、デュアルシステムの活用の実際とポイントについて実例を挙げながら紹介していく。

 

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協賛企業240社。豊富な経験を持つデュアルシステムのパイオニア

東京都立六郷工科高等学校

統括校長 佐々木哲氏/デュアルシステム科主任・主幹教諭 野澤幸裕氏

 

 

◆取材:小原レイ/文:五十川正紘

 

ds_rokugou01東京都立六郷工科高等高校は、2004年4月の開校と同時に「デュアルシステム科」を全国で初めて創設し、以来、ものづくり教育のパイオニア校として知られてきた。

同校のデュアルシステムの導入準備にも携わっていた統括校長・佐々木哲氏(写真右)は、デュアルシステム成功のポイントは、「生徒を指導する立場である教員たちがデュアルシステムを通して成長すること」と語る。

その佐々木氏とデュアルシステム科長を務める野澤幸裕氏(写真左)に、デュアルシステムの実施状況、デュアルシステムがものづくり教育に与えた影響などについて話を伺った。

 

 

最新の企業情報を提供することを目指す!

─まずは、御校の概要とデュアルシステムの仕組みについて伺いたい。

 

佐々木氏:当校は全日制と定時制に分かれています。全日制については、計5科を設置し、所属生徒全員がデュアルシステムに参加する「デュアルシステム科」の他、「プロダクト」「オートモービル」「システム」「デザイン」の各工学科があります。

デュアルシステム科では、1年次は企業5~7社での現場見学と、企業2社での各5日間のインターンシップを行います。2年次と3年次は、各年次で1カ月間の長期就業訓練を2回行います。

定時制については、普通科と生産工学科の2科を設置しています。

 

─御校のデュアルシステム協賛企業数はどのくらいか。

 

ds_rokugou05野澤氏:協賛をお申し出いただいている企業は、13年間で延べ約240社に上ります。しかし、そのうち100社近くで、未だ当校の生徒が実習をしたことがありません。それは課題の1つとして認識しています。

また、実習実績がない協賛企業の場合、その最新の企業情報を生徒たちに提供できなくなってしまうという問題もあります。それは実習が行われないと、私たちの手元にある企業情報が協賛のお申し出があった当時のまま、更新されないからです。

つまり、過去に実習実績がなく、かつ、協賛のお申し出があった当時から変化があった企業については、その最新の企業情報をキャッチアップすることができません。

その対応として、まずはご協賛各社の企業情報を更新することから取りかかろうと思っています。

 

 

生徒が関心を持つのは、積極的にコミュニケーションを取ろうとする企業

─生徒たちは、どのような企業を実習先、あるいは就職先として希望する傾向があるのか。

 

ds_rokugou04デュアルシステム科の生徒さん

野澤氏:今どきの高校生は、他者とのコミュニケーションがうまくありません。さらに、相手が世代の違う大人となると、生徒たちの方からコミュニケーションを取るのは難しいです。

そのため、生徒たちは、その存在価値を自分から企業にアピールするのではなく、企業の方からコミュニケーションを取ってもらい、かつ、そのコミュニケーションを続けることによって、自分の存在価値を見い出しています。

つまり、生徒たちが関心を示すのは、積極的に生徒たちとコミュニケーションを取ろうとする企業です。また、そのコミュニケーションを通して感じ取れる、企業の雰囲気を重視しているように思います。

世間一般的には大企業志向の若者が多いと言われますが、生徒たちは企業規模の大小にはあまりこだわっていないようです。

 

─長期就業訓練について、生徒は1カ月間のプログラムを計4回行うことになると思うが、4回全て同じ企業で行うのか。

 

佐々木氏:4回とも全て同じ企業で行うことも、それぞれ別な企業で行うことも可能です。

ただし、必ず生徒が希望した企業で長期就業訓練ができるとは限りません。生徒が希望しても、企業の方からお断りされることもあります。

その場合は、教員が企業から生徒の受け入れを断わる理由をしっかりヒアリングし、生徒にも、その理由をしっかり説明します。

生徒の希望がかなわなかったという意味では残念ですが、断られた理由を生徒に説明することは、その生徒が客観的な視点に基づいた自分自身の仕事への適性を知ることにつながり、生徒のためになるはずです。

 

 

デュアルシステムは教える側の教員を成長させてくれた

─開校から今までを振り返って、デュアルシステムは御校のものづくり教育にどのような影響を与えてきたと思うか?

 

ds_rokugou03デュアルシステム科の生徒さんたち

佐々木氏:現在、あらゆる世代でものづくり離れが進んでいることを考えると、ものづくり人材をしっかり育成するには、まず、ものづくり教育を行う立場の人間が成長すべきだと思います。その意味で、デュアルシステムは大きな成果を挙げていると思います。

デュアルシステムに取り組む以前は、私たち教員が企業と直接やりとりする機会はあまりなく、私たちが得られる企業情報は、企業の求人票に掲載されている企業規模や給与などの数値的なデータが中心でした。

しかし、取り組みを始めてからは、デュアルシステムを通して教員たちが企業とのやりとりを積み重ねてきたからこそ分かる情報……例えば、企業の技術力の高さ、地元の工場ネットワークにおける役割、職場の雰囲気、働いている人たちの人となりなども得られるようになりました。

その結果、生徒たちに対して、よりきめ細かい情報提供ができるようになりました。

教員たちは、ものづくり企業と直接やりとりすることを通して、ものづくりが日本の産業を支えていることを実感し、ものづくり教育を行うことに誇りと自信を持てるようになったのです。加えてより熱意を持って普段の授業に取り組めるようになった。

 

一方企業側にとっては、デュアルシステムを通して教員とのやりとりを積み重ねることで、生徒たちの傾向、ものづくり教育の現状や課題など、人材採用・育成方針を考える上でポイントとなる情報を把握できるようになります。

ds_rokugou02つまり、教員とものづくり企業がしっかり連携できれば、双方それぞれにとって、ものづくり人材の育成に本当に役立つ情報が得られ、また、それが双方の成長にもつながります。

さらに、その教員とものづくり企業のしっかりとした連携が構築されるので、肝心の生徒の成長が期待できる。今までを振り返っても、デュアルシステムに関わる〝教員と企業のキャッチボール〟で生徒が育つと実感しています。

 

教員と企業は、長期就業訓練を通じ、生徒の生活態度、性格、将来の希望など、学校生活に関する情報も、生徒の仕事に対する姿勢や適性、仕事を通して身についたスキルなど、企業での実習に関する情報も、お互い共有できるようになりました。

この共有の情報ベースがあるからこそ、お互いに、より望ましい生徒指導を行うための意見交換を重ねられるようにもなったのです。このような教員と企業のキャッチボールがあってこそ、生徒は、企業で働くものづくり人材としての素地を養えると思います。

これらを踏まえると、デュアルシステムが成功するか否かは、当たり前ですが、教員たちの取り組み方に負うところが大きい。

だからこそ、まずは教員たちが、デュアルシステムを通してより深いコミュニケーションを取りながら成長することが大切になってくると言えます。

 

 

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◉プロフィール

佐々木哲(ささき・さとし)氏

1961年生まれ。日本工業大学工学部電気工学科卒業、筑波大学大学院修士課程教育研究科修了。東京都立六郷工科高等学校デュアルシステム担当副校長、同校全日制課程副校長、東京都立中野工業高等学校校長などを歴任後、2015年4月、東京都立六郷工科高等学校統括校長に就任。

 

野澤幸裕(のざわ・ゆきひろ)氏

東京都立六郷工科高等学校デュアルシステム科主幹教諭。同校デュアルシステム科科長として現在に至る。

 

 

東京都立六郷工科高等学校

〒144-8506 東京都大田区東六郷2-18-2

TEL 03-3737-6565

http://www.rokugokoka-h.metro.tokyo.jp/

 

 

 

◆2016年10月号の記事より◆

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