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TPP 政府がイエスでも、国会はノーを突きつけられる!

◆聞き手・文:加藤俊

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衆議院議員 平沢勝栄氏

7月の参院選で安倍晋三首相率いる自民党は、大方の予想通り大勝した。ねじれ国会が解消され、〝政治の安定〟が戻ったことに胸を撫で下ろしている国民は多いだろう。

その国民が、近ごろよく俎上に載せるテーマは、TPP(環太平洋戦略的経済連携協定)と消費税増税問題だ。とりわけTPPは喫緊の課題である。先ごろマレーシアで行われた日本にとって初めての交渉では、官僚百人という大交渉団で臨んだにもかかわらず、殆どの時間をこれまでの交渉内容を記した膨大なペーパーを読み解くだけに費やしたという。良い悪いはともかく、やはり参加の遅れは否めないようだ。

それにしても不安なのは、秘密保持を理由に一向に情報が開示されないことだ。政府関係者は、農協や経団連にも交渉内容に関して「言えない」の一点張りだったという。国民の生活に直接かかわる交渉の内容が、秘密裡に決められていくことに不安を覚える人は少なくあるまい。 そこで早くから交渉に参加すべきと主張してきた自民党のご意見番、平沢勝栄衆議院議員に、TPPが内包する諸問題について語ってもらった。

 ◆

―TPPの交渉がはじまりました。数多くの懸念材料を抱えたまま、交渉参加のテーブルにつきましたが、日本としての主張はしっかり通していけるのでしょうか。

 

平沢 2

平沢議員(以下、平沢)それは勿論、主張すべきところはしっかりと主張すべきです。そのための交渉ですからね。そもそも、私は日本がTPPに入らないという選択肢は余程のことがない限り、ないなと思っています。TPPには、アメリカを含むアジア太平洋地域の新たな経済的枠組みという側面の他に、中国を睨んだ安全保障という意味合いもあるためです。確かに色々な懸念材料はありますよ。ただ最終的にどういった内容になるかは、これからの交渉次第なんです。これから国益に適うように戦略的に交渉を行っていき、日本にとって有利な条件を作っていくという段階なんです。

 

―TPPによる影響は様々な分野に及びます。よく言われる農業や医療もそうですが、知的財産権や移民問題、ISD条項問題など多岐に亘ります。これらが全て日本の主張通り100点満点でクリアできるとはとても思えないのですが。

 

平沢 全てを満足のいく結果に導けるかというと、それは難しい。トータルとして、日本の国益に適うかどうかの判断をつけるというのが、現実的なところでしょう。どうしたって一方を立てれば、もう一方が立たず、という問題なのですから。農業のようにデメリットの方が大きいと言われている分野もあります。でもですよ、では日本の農業が今のままでいいのかという問題が一方にはあるわけです。

一年以上耕されない耕作放棄地は、今や、滋賀県一県に匹敵する広さですよ。農業の大規模化などによって、こうした土地をなくし、生産を効率化しなければなりません。この機会に、農業が諸外国に勝てるように、もっと質の高い農産物を作っていかないと。そこにこそ政府として大幅なバックアップをして、今の農業を抜本的に変えていくという知恵が必要なのではないでしょうか。

 

―医療の分野も反対がものすごく強いですね。

 

平沢 そう。彼らは必死にネガティブキャンペーンを展開しています。彼等に今の医療の在り方でいいのかと訊くと、医師会は現時点で医者が余っていると言うんだから。それで医学部を新設するのは反対と言うが、考えてもみてください。

今や日本の大抵のサービス業が、24時間、365日体制を敷いているのに、医療はそうなっていますか? 土日、夜間に平日の昼間と同じサービスが受けられますか?受けられないでしょう。既得権益を守ることに躍起になっている人達ですから、TPPという外圧でもないと変われないのですよ。医療界も現状に甘んずることなく、もっと努力することが求められていると、私は思いますよ。

 

―国民皆保険が崩れてしまうという懸念に対してはどうですか?

 

平沢 確かに、これは守らないといけない。そこは交渉なわけですよ。いずれにしろ、TPPをきっかけにして、今の日本の医療の問題点を医療界が自覚し、積極的に直していくということに向かってくれることを期待しています。

 

―つまりTPPによって、ガチガチに固まったこの国の悪しき利権構造が崩れ、改善される見込みも立つということでしょうか。

 

平沢 そうです。だいたい反対の声が大きいところが、どこかを見れば分かります。JAと医師会なんですから。既得権益の権化でしょう? 何より、これから先、交渉の過程で色々な情報が出てきますから、一つ一つ検討していけばいいんです。そのうえで、日本の国益に反するとなれば、そのときになって参加しないという選択肢を考えればよいのです。

 

―いったん交渉について、国益に反するから参加しないということが、現実的に可能なのでしょうか。外交上の慣例からも、そんなことはできるわけがないという声が少なくありません。

 

平沢3

平沢 そんなことないですよ。TPPはあくまで〝条約〟ですからね。最後は国会が承認しなければ批准もできないんです。交渉の結果が日本にとって不利益ばかりになれば、政府がどれだけ進めようとしても、国会はノーを突きつけることができます。それこそ、農業や医療の分野で、大幅な譲歩を迫られるようなことになった場合には、自民党の中でも反対する人がいっぱい出てくるんじゃないかな。

 

―そういった理由が諸外国に通用するのでしょうか?

 

平沢 確かに、政府はアメリカとの関係もあるし、日本の安全保障にも関わってくるので、ノーとは言えないかもしれません。しかし、国会はノーと言えるんですよ。国会の場で一人一人の議員が意思表示することはできるのです。一人一人の議員がアメリカに気を使う必要はないのですから。政府だって、その場合はアメリカに説明できますよね。政府としてはやったが、国会がノーといったからできなかったと、そう言えるわけです。

 

―しかし国会で採決となれば当然、党議拘束がかかります。あるJA関連の人が面白いことを言っていました。現時点では「TPP反対!」と気炎を上げている自民党の諸先生方も、造反したら結局どうなるかを、前々回の郵政選挙で目の当たりにしているから実際には反対できまい。そんな気骨のある政治家は今はいないだろう、というのです。この点に関してはどう思いますか。

 

平沢 そうですかね。ことこのTPPに関しては、私は党議拘束はかけられないと思いますよ。だって交渉の結果が大きく日本の国益に反するものだったら、国民が黙っていないでしょう。あちこちから怨嗟の声が上がりますよ。そうした中で執行部が党議拘束をかけることなどできますか? 現実的には難しいと思います。だから国民の信頼を絶対に裏切ることのないよう、政府は国益に沿って堂々と主張すべきは主張し、しっかりと戦略的に交渉を進めなさいと私は言っているのです。

安倍首相は8月13日、山口県萩市の吉田松陰の墓を参った。そこで記者団に、「秋にも様々な難しい判断をするが、『間違いのない正しい判断をしていく』と誓いを新たにした」という。若くして維新の偉業に殉じた吉田松陰のように、首相にも、方向感をもった勇気ある決断を期待したい。まさかこのまま国民には何も知らせず、気が付いたらアメリカの術中に嵌まっていたというのだけは、真っ平御免だ。(次号に続く)

▼10月号では移民問題と地元葛飾に関してお聞きしている▼

=後編=10月号の記事:日本は世界一の工場を目指せ!

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町工場・中小企業を応援する雑誌 BigLife21 2013年9月号の記事より

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