神谷宗幣会長|地方から日本を変える!龍馬プロジェクト 後編
地方から日本を変える!龍馬プロジェクト 後編
◆取材・文:加藤俊 /文:渡辺友樹
神谷宗幣氏 龍馬プロジェクト全国会 会長・元吹田市議会議員
前号(神谷宗幣会長 地方から日本を変える!龍馬プロジェクト )では、『龍馬プロジェクト』全国会の会長である神谷宗幣 元吹田市議会議員に、日本の将来のために目標を立てて、「教育」「食糧」「エネルギー」「軍事」「経済」という5つの柱における日本の自立を目指していることを語って頂いた。今号ではその5つの柱の内容を具体的に語って頂く。
聞き手:特定非営利活動法人修学院 梅本大介氏
精神の自立のための教育
梅本:「精神の自立」のための教育とは、具体的にどういったことを意味するのでしょうか。
神谷:大きく三つあります。ひとつめは「歴史教育」を再構築することです。本来、歴史は多角的に捉えるべきものですが、今の教育は戦後敗戦国として無理やり宛行われたストーリーを今だに信仰しています。それにより、意図的に触れてこなかった視座があります。私は、この視座にこそ、日本人が日本人としての精神の自立を獲得するための鍵があると思っています。例えば、70年前、戦争に負け、何年間占領されて、どんなことをされたのか。占領した側の意図を学ぶことです。
二つ目は「精神教育」です。『本末転倒』という言葉の本当の意味を知っていますか? 「本」は「本学」で人間性や倫理観のこと、「末」は「末学」で、知識や技術を学ぶことです。 末学ばかりをやって、人間性を高めない学びが『本末転倒』ということなのです。そんなことをいうと、「価値観の押し付けだ」などと言う人も出てくるかも知れませんが、生まれた赤ん坊をしつけもせずに放っておいては野生児になるだけですから、人間としての型に嵌めていくことが必要なのです。
三つ目は、かつて世界を回った私がそうだったように、若者を豊かで平和ボケしている日本から出して、「日本人としてのアイデンティティが目覚めるような機会を提供」することです。
梅本:こうしたお話は、『龍馬プロジェクト』としてどういうレベルで解決しようとしているのでしょうか。解決主体としての『龍馬プロジェクト』があるならば、地方議会で具体的に変えていくのか、それとも全体としての改正を目指すのでしょうか?
神谷:もちろん、すべてのステージでの解決を目指しますが、現実的には、地方自治体から解決している段階です。
梅本:それは、教育委員会を変えるということでしょうか。それとも教育委員会以外の教育行政なのか、教科書なのか、教師の在り方なのか、この辺りはいかがでしょうか?
神谷:モデルケースとして半官半民でひとつの学校を作ってみれば良いと思います。塾の先生を学校に入れて、免許を持つ教員とどちらが良い結果を生むか。また歴史観にしても、果たして自虐史観を注入するべきなのか、そうではないのか、同じステージで計画的にやってみて、結果をみましょうということです。教科書や教育委員会のトップを変えるとか、の程度では何も変わりません。教師を変えればある程度の効果があるでしょうから、いっそ民間、つまり塾教師を入れるぐらいのことをやるべきとは考えていますが。
大阪の教育行政はもともと多くの問題を抱えて難しい面もあり、成り手の不足が言われていますので、教員の給料を上げて教員を目指す若者を大阪に呼び込むということを考えても良いと思います。教員を目指す若者が大阪を避けて隣の兵庫県で試験を受けているという話しを聞くと、大阪で市議会議員を遣っていた私としては少し残念に感じます。
中小企業の問題
梅本:教育は、中小企業の人手不足や後継者不足の問題とも密接な関係があります。高度成長期が終わって、多くの中小企業が成長できなくなりました。こうした中小企業に安定的に人材を供給するには何をすべきなのでしょうか。
神谷:根本的な価値観を変える必要があります。たとえばドイツは工業大国ですが、工業大国として工業大国なりの教育をしています。職人を目指すことは尊敬される価値観が根付いています。これに対して日本では、普通高校の方が農業高校や工業高校よりも格が上であるというイメージが持たれています。同時に大企業に就職する方が中小企業に行くよりも人生として成功であるというイメージもあります。東大や京大を出て外資系に就職し、アメリカからお金をもらう形で年収1000万円稼ぐ人生がカッコいいというイメージもあります。なぜ、こういったイメージが幅を利かせるのでしょうか。私は、日本のグランドデザインの問題だと思います。つまり、国家としてのメッセージがないことに起因している、と。
このままでは農業に進む若者がいなくなってしまうのに、国は有効な指針を立てておらず、亡国の途を歩んでいます。ですから、入試の段階から変える必要があり、今いる生徒・学生に訴えても根本の解決にはなりません。
では具体的になにをすべきなのか。例えば、アメリカ式の6・3・3・4の単線教育ではなく、進む道が色々ある複線にすべきです。戦前はそうでした。また、中小企業って面白い、中小企業の方が個人の能力が活かされるし、うまくやれば外貨も稼げる。そのモデルケースを国が示す。世界と勝負できる日本の中小企業、このモデルがカッコいいことなのだと国が国民に思わせないといけません。
内需の拡大
梅本:国が栄えるための内需の拡大については何かアイデアをお持ちですか?
神谷:やはりなんといっても人口の維持ですが、移民はやがて必ずその国の福祉システムを食い潰しますから、移民政策ではなく、日本人を増やす必要があります。子どもを生み育てるということは、将来の納税者を生み育てているわけですから、子どもや女性を税制で優遇するべきです。高齢化の問題とも絡めて、二世帯住宅減税なども良いでしょう。また、「子育てを終えた30歳以上の女性は公務員になりやすくする仕組み」などを取り入れるのはどうでしょうか。今の日本では家制度の崩壊も問題だと思いますが、それ以上に日本人が減って行くことに危機感を感じています。日本人がいなくなっていは家制度も成立しませんから。
また、教育から離れますが、中小企業が海外進出する際のプラットフォームが必要です。国では大きすぎるのです。そこに何十年も住んでビジネスをしていて、ネットワークを持っている日本人がどこの国にも一人はいます。JICAのような政府機関もありますし、日本国内には海外進出支援をする会社などもあります。そのような機関や会社を必要に応じて活用することも大事ですが、個人的には、現地にいる民間の、相談できる相手に繋いであげる。その国や地域とがっちり組んで、間を持つような人間、パイプを育成して行くことも必要だと考えています。
地方への分散
梅本:国としては大きすぎ、市区町村や商工会では小さすぎるというところで、廃県置藩や道州制については、『龍馬プロジェクト』としてはいかがですか?
神谷:東京一極集中は問題で、地方分権は必要です。しかし、いまブロック分けしても、関東の一人勝ちです。東京は人口の密集度が世界一で、ビジネスもやりやすい。司法があり、行政があり、企業の本社があり、トップがいます。大阪で、ナンバーツーやナンバースリーと話していても埒が明きません。そこで、いきなり数によるブロック分けではなく、税制で差をつける。たとえば10年という期間を設けて、東京は有利な代わりに税が高いとか、そうしたことで分散を促してはどうでしょうか。
地方を蔑ろにしては、国土保全ができなくなり、やがて国が滅びます。地方で農業や林業が衰退し、結果、都市も干上がる。地方を殺して都市のみが栄えた例はありません。国家は集中と分散を繰り返して発展しますが、日本はこれから分散の時代です。
リーダーの条件
梅本:なるほど。ただ、うまく分散を実現させるためには各所に優秀なリーダーが必要になりますが、神谷さんが考えるリーダーの条件は何でしょうか。
神谷:私はリーダーには戦国武将のような経営感覚が必要だと常々思っています。戦国武将は単に戦をするだけではなく、与えられた野ッ原の領地をいかに開拓し、いかに石高を上げていくか、こうした経営感覚がシビアに問われる職業でした。分散時代のリーダーにも、戦国武将的な経営感覚が不可欠だろうと思います。
梅本:ビジネス界が抱える問題と同じですね。私はこれから「経営者」という「職業」が出てくると思っていますが、政治の世界にもより経営者という意味での「首長」という職業が出てくるのだろうと思います。
本日は本当にありがとうございました。
龍馬プロジェクト
http://ryouma-project.com/
神谷 宗幣(かみや・そうへい)氏
http://www.kamiyasohei.jp/
1977年 福井県生まれ。関西大学文学部史学地理学科卒。同学大学院法務研究科にて法務博士。
2007年 大阪府吹田市議会議員選挙に初当選。『吹田新選会』立ち上げ。
2009年 『大阪教育維新を市町村からはじめる会』結成。
2010年 関西州政治家連盟代表、『龍馬プロジェクト』全国会会長。
2011年 吹田市議会議員選挙に2期目の当選。吹田市議会副議長。
2012年 自由民主党大阪府第13区支部長就任。同党公認候補として第46回衆議院議員総選挙に出馬、落選。
インタビュアー
梅本 大介(うめもと・だいすけ)氏…1983年福岡県生まれ。早稲田大学政治経済学部経済学科卒業。早稲田大学大学院公共経営研究科修士課程修了。早稲田大学大学院教育学研究科博士後期課程研究修了。ルーテル学院大学、国士舘大学、玉川大学で非常勤講師を勤める。専門は、教育学、政治学。大学で教鞭を取る傍ら、私立学校や幼児教室で、教務コンサルティングなど行っている。特定非営利活動法人修学院幹事長。
◆2014年11月号の記事より◆
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