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この人に訊きたい。〜衆議院議員 亀井静香氏〜

亀井静香議員 ご注進  「晋三総理、覚悟をお決めなさい」

モラトリアム法再々延長に向けて

◆取材:大高 正以知・加藤 俊

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二度延長されたモラトリアム法(中小企業金融円滑化法)が、いよいよ最終期限を迎えようとしている。麻生太郎副総理兼財務大臣も、国会答弁で再々延長はしないと明言した。確かに同法は急場凌ぎの時限立法ではある。しかし施行(2009年12月)以来3年余り、この法律で最悪の事態を免れた中小企業の数は計り知れない(適用を受けた企業数は約40万社)。アベノミクスで景気浮揚の兆しが見えてきたとはいえ、中小企業にとっての急場はまだまだ終わってはいない。にも係わらず打ち切りでは、この後どう凌いでいけと言うのか。

そこでこの人に訊いてみた。周囲の猛反対を押し切り、あれよあれよという間に同法を成立、直ちに施行させた当時の金融改革担当大臣、亀井静香衆議院議員である。

 

つくるときはもっとたいへんな状況だった

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─モラトリアム法が施行されて3年余りが経ちました。その間に中小企業の倒産は着実に減り続け、事業不振や経済的困窮による自殺者数も劇的に減少しています。言うまでもありませんが、国の一番の責務は、国民の生命と財産を守ることにありますね。その意味で同法は、100%理に適った法律であると私どもは理解しています。それが今この時期に打ち切られることに対し、亀井さんはどう考えていらっしゃるのか。まずはその辺りからお聞かせください。

 

亀井「ハハハ。ちょっと待ちなさいよアナタ。打ち切り打ち切りって言うけど、法律で決められた期限まではまだ1カ月以上あるんだよ(編集部注/このインタビューは2月中旬に行われている)。近々にも私は、(安倍)晋三総理に会ってきちんと話をするつもりでいるんだから」

 

─え!? じゃあ今からでもひっくり返る可能性はあるんですか?

 

亀井「ありますよそれは。だって考えてもみなさいよ。今、モラトリアム法で何とか生き延びている中小零細が一体どれくらいあるか。それをここで打ち切ったらどういう事態が予測されるか。晋三総理だって知らないわけじゃない。確かにね、これだけ包囲網を敷かれ、外堀を埋め尽くされては簡単ではないけれど、しっかり腹を括ってやればできますよ。そもそもこの法律をつくるときは、もっとたいへんな状況だったんだから」

 

─そう言えばあのとき亀井さんは、周囲の猛反対を押し切って、半ば強引に成立させ、それも僅か1カ月余りで施行させましたね。

 

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亀井「そうでもしなければいけない、それほど切羽詰った状況だったんだよ。何とか年末のね、金繰りに間に合わせなきゃいけないと思って。その意味じゃあ今も同じじゃないの? でも勘違いしちゃいけませんよ。借金は借金で当然、返さなきゃいけない。そこで政治には、同時に景気対策をしっかりやって、その人たちがきちんと借金を返せる状況になるよう持って行く役割があるわけよ。だからという意味もあって、私は時限立法にしたんだ。

そもそも自民党がガタガタにしたこの経済状況とか格差社会を、何とかしてくれってことで政権交代したのに、民主党はそのことがまったく分かっていない。だから結局何もできなかった。だからあれだけ反対していた自民党も公明党も、延長しろってなったわけよ。しかしそれでも状況はちっとも良くならない。というより逆にもっと悪くなった。だったら仕方ないよ。アベノミクス、アベノミクスって言うけど、それが中小零細に良い影響を及ぼすまではまだ時間がかかる。だからそれまでは、セーフティーネットとして再々延長するしか方法がないんだよ。

(畑中龍太郎)金融庁長官が説明に来て、モラトリアム法の精神をしっかり受け継いでやっていきますとは言ってたけど、あの金融界の連中がそうするとはとても思えないからね。だって彼らは、金貸しの本来の役割を履き違えているんだよ。企業に寄り添って、企業の経営とか成長の手伝いをしようなんてこれっぽっちも考えていない。第一、リスクを取らないでしょ? 国債とか金融商品とかの手数料で儲けることしか考えていない。だから私が金融改革担当大臣になってすぐのとき、検査官たちを集めてこう言ったんだよ。今まで君たちは貸し手側のための仕事をしてきたが、これからはそうじゃない。借り手側に立って、金融機関がきちんと社会的責任を果たしているかどうか、それをチェックする仕事をしなさい。できないと言うなら今すぐ辞表を出せって(笑い)。でもその辺りの考え方は、金融庁の連中もだいぶ分かってきたと思うし、晋三総理も良く理解していると思うよ。肝心の金融機関はまだまだだけどね」

 

 

アベノミクス成功にはセーフティーネット不可欠

─安倍政権になって、とりあえず経済政策は順調に進んでいるように見えます。あとはそのセーフティーネットさえきちんとしていれば、経済の再生は十分に可能というお考えですね?

 

亀井「まあ、大体のところはそう思うよ。とくに今やっている財政政策なんかは、私が(自民党の)政調会長時代にやろうとして小泉純(一郎元総理)ちゃんに仕舞い込まれた政策を、倉庫から持ち出してやっていることだからね。極めて高く評価していますよ。でもそれだけじゃあダメだね。だってその間の小泉改革なるものでね、日本の社会構造、雇用構造がガタガタに壊されちゃってるんだよ。極僅かな富裕層と、大勢の貧困層に分かれてしまって、中間層が極端に少なくなってるでしょ?それをそのままにしてアベノミクス、アベノミクスと言ったって、ザルに水を注ぐのと同じでね、何の効果も出ない(キッパリ)。

この前(2月12日)、晋三総理が財界のトップらを呼んで、給料を上げるように言ってたけど、そういうことなんだよ。富の配分を、現場サイドからもう一度真剣に見直さないと。

もう一つは日本の古き佳き産業文化を取り戻すことだよね。金融改革担当大臣の頃に、当時の公取(公正取引委員会)の委員長にも言ったんだよ。君たちは何でも〝談合、談合〟と言って取り締まっているが、優位な立場を利用してやっている大手ゼネコンのそれはともかく、下請けとか孫請けとかも相応に潤うようにやっている地方建設会社の談合は、どっちかと言うと良い談合なんだ。何でもかんでも、競争原理が働けば良いってもんじゃないぞって」

 

─亀井さんは公的機関、とりわけ公取についてはより厳しい目を向けられているようですが、その狙いはどこにあるんでしょうか。

 

亀井「ある意味で公取はねえ、日本経済にとってたいへん重要な鍵を握っているんだよ。今言った大手ゼネコンの談合もそうだけど、優位性を利用した大企業の横暴を監視したり、場合によっては摘発したりね。例えばほら、よく言う下請けイジメ。不当に安く使ったり、無理難題を吹っかけて不公正な取引を強要するなんて事例は、日本中にゴマンとあってね。それは酷いもんだよ。それらをしっかり取り締まって、中小零細に温かい血が流れるようにしてやる。それのできるのが公取なんだよ。言うまでもないけど、中小零細がダメになるとこの国の産業自体が持たない。だからうるさく言ってるんだよ、私は。だって見てごらんよ。市場原理とか競争原理とか言って、何でもかんでも安くするでしょ? その結果、シワ寄せがいくのはいつも中小零細だよね。今のデフレだってね、ある意味じゃあつくられたデフレと言えなくもないんだよ。それが証拠に、大企業はしっかりと内部留保を溜め込んでるでしょ。300兆円からの。結局、デフレで苦しんでいるのはこれまた中小零細なんだよ。そんなところへ金融緩和でジャブジャブ金を流したって、景気なんかちっとも良くならないよね。だってこんな社会構造のままだったら、末端にまで金が流れるわけがないんだから」

 

─分かりました。要約すると、中小零細へのセーフティーネットを含めた社会構造の立て直しが大前提で、その上でアベノミクスを推進しろと、そういうことですね。

 

亀井「そう。そのセーフティーネットの象徴となるのが、このモラトリアム法ということだね」

 

─念を押すようで申し訳ありませんが、本当に再々延長は可能ですか?

 

亀井「可能だよ。私から晋三総理に必ず言う。後は晋三総理の腹と覚悟次第。それだけあれば大丈夫だよ」

 

─ありがとうございました。益々のご活躍をお祈りしております。

 

 

 〈別掲〉貸し剥がし? 衣替え?

モラトリアム法がこのまま既定方針通り3月末で打ち切られると、様々な事態が予測される。まずは約40万社と言われる適用企業の行く末だ。仮にその3割が倒産に追い込まれただけで、失業者はおそらく100万人を超える。貸し手の金融機関側も、今は「正常先」に分類されている適用企業を、本来の「要管理先」や「破綻懸念先」に戻すことになり、その分の貸し倒れ引当金を用意しなければならなくなる。政府は貸し付け条件の変更など、これからも借り手側の要望にできるだけ応じるよう指導していくとしているが、そうなると金融機関も黙って言うことを聞いてばかりはいられないだろう。あの手この手の貸し剥がしに回るのは間違いのないところだ。

一方、金融庁はポスト・モラトリアムに向けて既に動き出している。昨年10月31日の金融審議会で示された、「5%ルール」の緩和策である。これは銀行による企業への出資比率を、これまでの5%以下から最大20%未満にまで広げるという案で、実現すれば既存の融資を株式に転換することも可能になるという。そうなると早い話が、融資から出資への衣替えだ。その分、銀行側のリスクは拡大することが懸念され、果たしてどれだけの実効性があるかは疑わしい。

いずれにしても、そしていずれの立場にとっても、極めて難しい局面である。

 

2014年6月

 

亀井先生にはまた政界を賑わしてほしいものです。インタビュー末尾にあった総理への御注進の甲斐もなく、モラトリアム法は終了しました。

ただ、金融機関の融資打ち切りが懸念されていたものの、リスケについて締め付けが厳しくなってきたという話は思ったほど聞こえてきません。事実、企業倒産件数が2013年度は24年ぶりに1万1000件を下回る低水準になりました。これは、モラトリアム法終了後も、金融機関が中小企業のリスケ要請に応じているからに他なりません。

モラトリアム法に関していえば、「ゾンビ企業を無駄に延命させるだけ」「亀井悪法」「企業の生活保護」などと様々な声があります。事実、弊社内でも、統一的な見解を出せず、意見が分かれます。私自身は、どちらかというと、この記事を書いた大高とは反対で、モラトリアム法に関してはかなり否定的です。銀行にリスケをのんでもらった後も、企業体質が何ら変わることなく、ただ延命しただけという企業を取材先で多く見ました。とはいっても、多くの指摘のように、この法律が、悪法だと言い切るつもりはありません。成長産業への投資が後回しになったとしても、この間、何万人もの雇用が維持されたことに違いはないのですから。

ただ、産業の構造がかつてとは変わっていますから、賛成派の方が意図するところ?、「景気が上向くまで各企業が延命できれば良い。景気が回復すれば、仕事は生まれるのだから」という通りにうまくいくとは、想えないのです。(加藤 俊)

 

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2013年2・3月合併号の記事より

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