オビ 企業物語1 (2)

株式会社クリハラント ‐ 絶体絶命の危機突破!! 強い使命感と協力会社の信頼を背に独立独歩

◆聞き手:綿秡 幹夫/撮影・伊藤 真 obi2_human

株式会社クリハラント/取締役社長嶋田雅景氏

日本の電力エネルギー界を支える総合エネルギーエンジニアリング

それは2002年のことだった。当時、40代の若きホープとして将来を嘱望される身であった現社長・嶋田雅景氏に、会社再建が託された。

90年代半ばにピークを迎えたクリハラントの売上は、その後急坂を転がり落ちるがごとく激減し、2000年代に入るや半減するに至っていた。理由は様々ある。

日本経済全体が「失われた20年」の真っ只中ともなれば、顧客たる企業が設備にお金をかけられなかったのは至極当然だったし、バブル期の過剰な投資のツケも残っていたはずだ。しかしこの絶体絶命の危機を嶋田氏は……。

 

大手メーカーの傘下に入るか、それとも…

クリハラントの中核事業は電力プラントの建設とその保守である。日本のエネルギーにおける電力の占める位置は大きく、あらゆる産業の基盤と言っても過言ではない。クリハラントは九州電力を除くすべての電力会社を顧客とし、いわばこの国の根幹を支える企業だという自負もある。

その会社の窮地に、敢えて火中の栗を拾う役を担ったのが当時の常務取締役、嶋田雅景氏である。

 

「このままじゃ会社がつぶれるという危機感がありました。我々の仕事は数年先の売上が読めます。その頃はちょうど電力の自由化もあって、企業が設備投資や修繕工事、新規発電所建設などをすっかり控えていました。その上、コスト競争の渦中にはまってしまった。ここで、生き残りのために電力会社の資本を入れるか、あるいは大手メーカーの傘下に入るかも含めてずいぶんと社内で議論を重ねました」

 

時に嶋田社長はまだ40代。会社が生き残る道を探って、創業者である故・栗原英三元社長の友人たちに助言を求めた。一方で社員たちもまた、クリハラントの技術について顧客に聞いて回ったという。

 

「行った先々で『御社の技術は優秀じゃないですか』とおっしゃっていただけましてね。そこで得た自信をもとに、私がこのまま独自資本で行こうと言うと、会社の若い人たちが大いに盛り上がった。それに勇気付けられたこともあって、社長を引き継いだわけです」

 

嶋田社長の予見通り、就任から2年は売上が減少した。まさにどん底を見ることとなったのだ。だが、手をこまねいていたわけではない。

「社長に就任してすぐに、厳しいリストラを断行しました。当時約1100名いた社員から200名に辞めていただき、新規の採用も中止しました。もちろん経営陣も、私より先輩の役員にはほとんど退いていただきました。今思えばこんなにつらいことはありませんでしたが、当時はしんどいとは思いませんでした。会社のため、社員のためでした。誰かがやらなければならないことでしたから」

 

一般的に見て、社長と言えばサラリーマンの究極の目標、いわばゴール。だが、嶋田社長にとって若くして到達したそのゴールに待っていたのはいばらの道だった。つらく厳しい状況は分かり切っていたのに、それでも社長を引き受けたのはクリハラントへの熱い思いがあったからに他ならない。

 

「困難な状況下で社員に無理を言うことは大変難しいのですが、苦しい改革はプロパーの者がやらなければ卑怯であり、社員は全員、納得も協力もしてくれません。当時私は取締役の末席にいましたが、ここは若いものにやらせてみようという空気が醸成されていました。早くに取り立てていただいた私としては、その期待に何としても応えてみせようという強い使命感があったのです」

 

ということでまずは、その使命感やリーダーシップが、どのようにして培われてきたかを見てみよう。

「中学・高校とずっとバスケットボールに打ち込んできました。高校の時には国体に出たりインターハイに出たりもしたんですよ。キャプテンも仰せつかりましたしね。先頭に立って皆をまとめる資質があったのかもしれません。大学は関西で進学するつもりだったんですが、失敗してしまいました。そんな時、国体の出場時に出会った東洋大学の先生に声をかけていただきました。

当時、東洋大は運動部を強くしようとしていたそうです。二次募集の試験を受け、もぐり込むことができました(笑い)。大学でも主将を務めて。クリハラントに入社後も労働組合の設立に携わり、3代目委員長を任されたり。きっとそういう役回りなんですね」
人を魅了し、人をまとめ上げ、目標に向かって突き進むという天性の資質が、スポーツを通じてみるみると磨かれていき、続いて入社したクリハラントでの出会いが、それを更に大きくしてくれたようだ。

 

「すべて栗原英三氏のご指導で、ここまで育てていただいたんです。ご一緒にいろんなところに営業にも行かせていただき、様々な人をご紹介いただいただけでなく、若くして取締役にも抜擢していただきました。その恩返しではありませんが、自分が社長を引き受けなかったら失礼だと感じていました。その使命感と責任感でここまでやってきたんです。教えを請うた私がやらないで誰がやるのかという心意気です。

ですから、敢えて火中の栗を拾って、という意識ではありません。皆はよく引き受けたねとおっしゃいますが、この会社に入れてもらった以上は、そして英三氏に可愛がってもらった以上はやらなければならなかったんです。いざ自分がこの立場になると英三氏の苦労が身にしみてわかります」

 

なぜ嶋田社長は栗原英三氏に見出されたのだろうか。

「生まれも育ちも関西ですが、大学でこっち(東京)に来たからこそ、いろんな人や文化に触れることができました。そして入社したクリハラントは大阪に本社がありますが、私は早くからこっちの営業を任せてもらった。関西・関東どっちの気質もわかっていたのが大きかったのでしょう。この会社は技術を持っている社員はたくさんいますが、その分、逆に私のような営業肌の社員が目立ったんでしょうね」

 

 

社員が二食でも、協力会社には三食食べてもらう

社長就任3年目から、業績は回復軌道に乗った。それはまさにV字回復と呼ぶにふさわしいものだった。

 

「特別なことをしてきたわけではありません。我が社には技術を持っている社員が多数います。ですが、大手の系列ではなく独立でやっていくには、それだけではダメで、営業力も必要不可欠なのです。全国で社員が頑張ってくれています。昔は技術あれば仕事は勝手についてきたものですが、今はこちらから打って出ないと仕事は来てくれません」

 

嶋田社長は謙虚に言うが、クリハラントの姿勢も周りを立てる献身的なものだ。

「お客様から『クリハラントは自分たちが二食しか食べなくても、協力会社には三食食べさせる会社だ』と評価していただいたことが最高の勲章ですね。昭和36年より工事の事業を始めてから、ずっと一緒にやってきた同じ協力会社とは、互いに甘えることはせず、絶えず緊張感と距離を保って歩んできているんです。

浮気は絶対にしません。そうすれば協力会社側もファミリー意識を持って頑張ってくれます。仮に双方の経営者の代替わりがあっても、その企業文化は変わることがありません」

 

もちろん仕事は顧客のためのものだが、一緒に仕事をする「仲間」はとことん大事にする。

「中には赤字の協力会社もありました。九州の小倉にある会社でしたが、直接現地に足を運んで社長に会い、『どうして入札に参加しないんだ?』と尋ねました。すると『実は昨年こんなに赤字を出したので』とおっしゃる。

うちの担当管理職が、自社の利益のためにこういうことを報告しなかったわけです。そこで『その赤字はどのくらいだ』と尋ねるとこれこれこうだと。私は『3年で必ず返せるように仕事を回す』と約束し、実際に3年で赤字額を返済しました。すると協力会社はみるみる元気になって、これまで以上に我が社のために頑張ってくださるようになりました」

 

簡単に思えても、実際に行うとなったら難しいことを誠実にやり抜く。こういうことの積み重ねが、クリハラントを甦らせ、更に新しいステージへ押し上げたと言っていいだろう。

 

 

エネルギー大転換時代への挑戦!

そして迎えたのが、新エネルギーへの大転換時代である。地球温暖化の元凶とも言うべき二酸化炭素を排出しない、クリーンエネルギーへの転換だ。

「我が社の歴史は、新しい事業への挑戦の歴史でもあります。常に新しい分野を切り拓いてきたわけです。30年前から核融合科学や、サンシャイン計画にいち早く参画し、さらに直流超伝導送電システム、国家プロジェクトである大型放射光施設の建設にも携わってきました。商売は正当性と品格と、節度ある利益。それがなければ会社は〝社会の公器〟たり得ません。今、新しい技術を必要とする分野はどこにあるか。自分たちで探して開拓しなければならないのです。現在、50数億を投じての大型の太陽光発電に事業者として携わっているところです」

 

それにしてもこれまで培ってきた技術とはまったく違う土俵である。このことにリスクは感じないのであろうか。

「リスクのない仕事はありません。問題は、そのリスクを知恵と技術でどこまで軽減できるかです。昨今のコスト競争も問題でしょうね。我々の仕事において、コストはイコール技術力でもあるんです。技術力に見合ったコストを負担しないで、ただ安いだけを求めるのは間違いだと思います。コストダウンは目的ではないはずです。あくまでも手段です。安く作っても長期間、安全・安心でないのは本末転倒だと言わざるを得ません。もちろん、それにはコストに足る技術力の裏付けが必要ですが」

 

では、その高い技術力を獲得、維持し、よりよい仕事をしていくためにクリハラントは何をしているのであろう。

「とにかく社員教育です。人材を育てなければならない。〝いい仕事〟をする〝いい人〟が必要不可欠です。挨拶ができる人、礼儀をわきまえている人、嘘をつかない人、約束を守る人。『クリハラントはいいムードで仕事してるな』という人の集合体でないといい仕事ができないと思っています。併せていろんなことができる人たち、いろんな個性の集まりにしたいと思っています。技術に優秀な人だけの集団は、案外脆いものですから」

 

高い技術力と強固な団結力。大いなる武器を手に、挑戦を続けるクリハラントと嶋田社長。こういう会社がある限り、日本の電力業界はまだまだ捨てたものではない。

 

obi2_human

10_kurihalant02嶋田雅景(しまだ・まさかげ)氏
昭和27年7月22日、奈良市生まれ。三人兄弟の二男。奈良一条高校、東洋大学卒業。バスケット部の主将を務める。大学卒業後、株式会社クリハラントに入社。平成14年に取締役社長に就任、現在に至る。

 

株式会社クリハラント
【大阪本社】
〒550-0004 大阪府大阪市西区靱本町1-11-7
信濃橋三井ビル4F
TEL 06-6459-0200
http://www.kurihalant.co.jp/

【東京本社】

〒100-0003東京都千代田区一ツ橋1-1-1パレスサイドビル2F
TEL 03-6268-0600

従業員数:768名(2014年4月現在)

年商:302億6,900万円(2014年3月期)

 

WEBでは公開されていない記事や情報満載の雑誌版は毎号500円!

雑誌版の購入はこちらから