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新栄水産有限会社  地元水産資源を有効活用!

絶品『あみえび醤油』で魚醤のイメージを打ち破れ!

◆取材:綿抜 幹夫 / 文:小川 心一

 

11_Yamagata04_ShineiSuisan01新栄水産有限会社 代表取締役 髙橋精一氏(たかはし・せいいち)…昭和32年山形県遊佐町生まれ。県立加茂水産高等学校卒業後山形県漁業協同組合入祖。平成6年新栄水産有限会社設立。

『地産地消』。近年頓に聞く言葉だ。地域で生産された農林水産物を、その生産された地域内において消費する取り組みのことだが、それは食料自給率の向上や、直売所や加工による『6次産業化』にもつながるものとしても期待されている。その取り組みで、疲弊した地元・酒田の漁業に活気を取り戻すべく奮闘する新栄水産を訪ねた。

 

絵に描いたようなダメ上司のおかげで独立を決意!

山形 港

山形県酒田市にある新栄水産有限会社は、その名の通り新鋭の鮮魚介類卸売り業者だ。最後発でありながらも、今や地元で一目置かれる存在である。

会社設立は平成6年。社長・髙橋精一氏は強い独立心や功名心があってスタートしたわけではないそうだ。

 

「私は高校を卒業すると、山形県漁協に入組しました。必ずしも望んでサラリーマンになったわけではなかったんですよ。性格的にごますりが嫌いで、組織の中で上手く立ち回るというのが苦手なものですから。それに、そもそも漁協の職員は漁師や消費者のために『奉職』するものですよね。それが自らの組織のため、職員のために働くという環境が、いかにもサラリーマン的でいやだった。

特に上司が最近のドラマじゃないですが、『部下の手柄は上司のもの! 上司の失敗は部下の責任』というダメな中間管理職の典型でした。こういう人とは生涯一緒に仕事をしたくないと思って漁協を飛び出したんです。それが32歳の時でした。まだ充分若かったので、女房子供は何をやってでも食わせていけると思っていた。今思えば無鉄砲だったかもしれませんね」

 

その後、紆余曲折を経て新栄水産を設立。山形県の庄内浜で取れた新鮮な魚介類を卸している。

「最初は卸売りがメインでしたが、それだけでは経営的に行き詰る。そこで、庄内浜で捕れるが売れなくなった魚種、価値が低下した魚種に付加価値をつけてどう売るか、あるいはそうしてできた加工品をどうやって全国にアピールするのか、そういうことに取り組んでいます。今は生鮮が7割、加工が3割になっています」

 

生鮮品は築地の卸売市場や、北関東の市場向けに出荷されている。もちろん地元用としては生協に、あるいはマルイチ産商と言う大手水産物卸売会社を通じてスーパーへと卸される。

 

その生鮮品の中でも、新栄水産イチ押しなのが岩牡蠣だ。

「岩牡蠣の取扱量で我が社は県内トップを占めています。山形県遊佐地区の鳥海山のミネラル豊富な伏流水と、そこに育つプランクトンを食べて成長した『天然岩牡蠣』です」

毎年6月から産卵期を迎える8月のお盆頃まで、その美味しさから地元はもとより観光客などにも注目されている岩牡蠣は貴重な地元水産資源だ。

「最近は、岩牡蠣があちこちの産地から出てきていますが、山形のものこそ最高だと私は思っています。県内での競合が少ないので、ほぼ独占に近い状態で取り扱っているんですよ」

 

そして冬の主力は鮟鱇。

「山口や島根、新潟、秋田からも仕入れています。こういった鍋商材の場合、産地を固定しないで、安定供給を目指しています」

こうした市場を通しての卸売の他にも、生鮮品を直接消費者へ販売するチャネルも開いている。ネット通販だ。プロが厳選した庄内浜の季節の魚介類が気軽にセットで楽しめるようにもなっているのだ。

 

 

地元資源を有効活用する『あみえび醤油』誕生!甘海老

会社の業績は、髙橋社長の様々な創意工夫で安定的に推移している。しかし危機感は大きい。

「この酒田の港から上がる魚種は約50種、県内では4社の卸売業者があります。山形の水産業のピークは年間売上72億。今は27億まで落ち込んでいるのです。これは我が社のみならず県内漁業の危機と言っていいでしょう。そこで目をつけたのが未利用の水産資源、あるいは低価格過ぎて商売にならない水産物です。そういうものを利用して、付加価値のある加工品を開発していかなければならないと思い至りました。我々卸売の人間も、生産者の生き残りに寄与しなければ共倒れになりますからね」

 

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その未利用の水産資源の一つが『あみえび』である。一般的には釣り餌や養殖魚の飼料として用いられることの多いエビの一種だ。

「この地域では、本来あみえびを生で食べていました。しかし、異物の混入や寄生虫の問題などでその食べ方に問題が出てきた。それで売れなくなって捕ることを止めてしまっていたんです。昔のように魚屋での対面販売なら知識のある人間が食べ方等の指導もできましたが、今の量販店でのパック販売では、面倒は避けたいということで外されてしまうんです。これをどうにかしたいという思いで考え出したのが魚醤です。漁協の協力を得てその開発に成功しました。甲殻類を使った魚醤の開発は、国内では初めてのことです」

 

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『あみえび醤油』と名付けられたこの魚醤は、経済産業省が認める『農商工等連携事業』にも認定された。

この『農商工等連携事業』とは、地域の基幹産業である農林水産業、商業、工業等の産業間での連携(農商工連携)を強化し、その相乗効果を地域の活性化につなげる事業。『あみえび醤油』は昨年夏にこの認定を受けた。

 

「日本の食生活にあって、甲殻類(海老や蟹)は非常に好まれ多く食されています。また、基本的調味料と言えば醤油や味噌ですよね。その海老で作る醤油なのですから、受け入れられないわけがない」

そもそも魚醤は、中国・韓国をはじめ東南アジア一帯で万能調味料として古くから親しまれている。タイの『ナンプラー』、ベトナムの『ヌクマム』、カンボジアの『タクトレイ』など、各地の食文化に根付いているのだ。

 

日本でも古来は醤と呼ばれ、平安時代の諸制度を記した延喜式には『鯖醤』『鯛醤』などの記述があり、平城京や平安京の市でも売られていたと言われている。秋田の『しょっつる』、石川の『いしる』、香川の『いかなご醤油』は日本三大魚醤と言われ、その土地土地で愛されている素朴な旨味調味料だ。

 

「魚醤は国内で馴染みが薄いので、これをどう普及させていくのか。市場開拓が大きな課題です。使っていただければ、一般消費者にも喜んでいただける味だし、プロはその使い勝手の良さを評価してくれています」

そこでネーミングに一工夫している。『あみえび醤油』と言う名に『魚醤』感はないし、『天然うまみ調味料』を謳うことで自然食品であることを前面に押し出している。

「魚醤という馴染みの薄いものから、天然うまみ調味料という呼称で普及を図っています。メディアにも多数取り上げていただきましたし、料理のコンテスト等でも使っていただいています。おかげさまで、少しずつですが認知が上がってきているところです。まずは、一般流通に乗るだけの実績を作って、そののちに商品ラインナップの拡充を図りたいですね」

現在は、地元土産物屋や首都圏の物産展での販売、レストラン等での使用がメイン。これをゆくゆくは全国展開できるまでに育て上げることが目標となっている。

 

 

すべては地元漁業のために!

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地元漁業の活性化なくして自社の発展はない。そのために様々なチャレンジを続ける新栄水産であるが、一社で世の中の流れを変えられるほど事態は簡単ではないことも重々承知している。例えば昨今の魚離れ。

「丸物の魚を『どうやって調理するの?』と消費者が思った時に、昔なら町の魚屋さんがいろいろと教えてくれたものですが、今の大手流通にはそういう機能はありませんよね。このこと一つとっても魚消費の低下につながっているのではないでしょうか。業界全体で考えなければいけない大問題です」

 

そして、生産者の衰退も由々しき問題である。

「1次産業が上手くいかなければ、2次産業も衰退し、3次産業もうまくいかなくなる。『6次産業化』が言われる現在、根本にある1次産業を立て直さないでどうするのか。

人が生きていく上での根幹を成すのが1次産業です。安定的な食糧供給なくして発展はあり得ません。利益優先、効率優先ばかりを追求するがために、食品の多様性が失われるのではないかと危惧しています。売る側の都合ばかりで、本当の意味での〝食べる喜び〟が軽んじられている現状に大いに憤りを感じているのです。原点に帰って、捕る喜び、作る喜び、売る喜び、食べる喜びを共有できる豊かな食文化の再構築が必要ではないでしょうか。

今の価格ありきの売る側の都合ばかりが優先される食の流通形態は間違っていると思います。魚離れを食い止めるために、価格を下げることばかりに目が向きますが、適正価格にならないと、業界の健全な成長は望めません。今言われる6次産業化もこれでは決して上手くいかない」

 

地元酒田の漁業を憂い、延いては国の食をも考える。一企業の社長が何を大層なと思う向きもあるだろう。しかし、国民一人ひとりの意識が変わらなければ、大きな流れを変えることはできないはずだ。

 

一方、自らの足元をさらに強固なものにすることも忘れてはいない。

「パートを含めて10数人の会社ですが、これを安定軌道に乗せることが喫緊の課題です。そのためにも地元庄内浜の元気を取り戻さないといけません。生産者に夢を与えないとダメなんです。あみえび然り、岩牡蠣も然り。希望に満ちた生産現場を作るために、我が社は先頭に立って頑張っていきますよ」

日本の大切な食文化である魚にかける熱き思い。そして大きな地元愛。このエネルギーがある限り、新栄水産の挑戦は決して終わることはない。

 

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新栄水産 有限会社

〒998-0838 山形県酒田市山居町2-14-22

TEL 0234-21-2755

http://www.shinei-suisan.com

 

2014年4月号の記事より
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