次世代の産業を担う【中小企業】初めて明かされる秘話
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株式会社東京大学TLO|東京大学の発明を製品化しませんか?

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株式会社東京大学TLO  東京大学の発明を製品化しませんか?

◆取材:加藤俊 /文:坂東治朗

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空港 (4)

麻薬を探知する蛾が出現?

空港 (1)

201x年○月△日午前零時、とある空港の入国検査場。

バゲージクレイムエリアの裏側で。どこからともなく無数の蛾が現れ、一つのスーツケースに群がり出した。麻薬のにおいに呼び寄せられたのだ。この蛾の集団は、意図的に遺伝子を組み換えられた麻薬探知蛾。つまり、蛾が群がったスーツケースの中に麻薬が隠されていることを知らせているわけである。

 

これは近未来に実現するかもしれない光景だ。

東京大学先端科学技術研究センター神崎亮平教授の研究室では、性ホルモンを感じ取るオスの蛾の遺伝子の一部を組み換えることで、オスの蛾が別のにおいを追うことを発見した。この技術は、複数の化合物で作られる脱法ハーブや、爆薬や病気の発見などにも応用が可能。その使い道は、アイデア次第で広がる。

蛾

蛾のにおいセンサーは、犬の嗅覚と同等だといわれている。この技術を使って探知が可能になるとしたら、夢のような話だ(蛾が群がる光景を想像すると悪夢だが……)。なぜなら、現在は、約100頭の麻薬探知犬が全国の税関で違法に持ち込まれた麻薬の発見の現場で活躍しているが、蛾であれば犬のような訓練が不要で、コストも安価に済むことになる。(麻薬探知犬の育成には約4カ月の訓練が必要。しかも、訓練によるストレスなどが原因で、麻薬探知犬が活躍できる期間は意外と短いそうだ)。

近い将来、麻薬探知犬に代わって、麻薬探知蛾が活躍するかもしれない。

しかし、事はそう簡単に行かない。この技術が開発されたという報道から、すでに3年、いまだ事業化には結び付いていないのが現状だ。

 

技術移転で新ビジネスを創出

東京大学TLO 山本貴史社長 (3)

大学は教育の場であり、研究の場である。多くの研究者たちの知的好奇心から、大学では実にさまざまな研究が行われている。そうした研究の中には、産業界と結び付けることにより、社会の役に立つものも少なくない。

東京大学TLO山本貴史代表取締役社長は、蛾のにおいセンサー化をはじめとする、東京大学で開発されたさまざまな技術を紹介するとともに、それらの事業化の有効性を強く訴えている。毎年、東京大学では600件に及ぶ発明の届出がある。使い方によっては、ビジネスとして成功に結び付くものもあるだろう。

 

ここで、東京大学TLOとはいかなる組織なのかについて説明しておこう。

経済産業省のWebサイトによると、「TLOとはTechnology Licensing Organization(技術移転機関)の略称で、大学の研究者の研究成果を特許化し、それを企業へ技術移転する法人であり、産業と学の『仲介役』の役割を果たす組織。大学発の新規産業を生み出し、それにより得られた収益の一部を研究者に戻すことにより研究資金を生み出し、大学の研究の更なる活性化をもたらすという『知的創造サイクル』の原動力として産学連携の中核をなす組織」だという。

東京大学TLOは、東京大学で生まれた技術の産業界への窓口機能を担う組織であり、東京大学唯一の子会社(100%子会社)である。せっかくの研究成果を世のために使わないのはもったいない。東京大学TLOは東大発の技術をさまざまな企業に紹介し事業化することに、日夜、たゆまぬ努力を重ねている。

 

「大学には、社会問題の解決につながるような有望な研究施設があります。日本は、公害や高齢化など、どこよりも先んじていろいろな問題が起きています。それらを技術でブレイクスルーすることによって、新しいビジネスを世界に出していきたい」

 

山本氏は、こう語る。

もちろん、こうした取り組みは、東大に限った話ではない。全国のさまざまな大学が技術移転に取り組んでいる。企業側の方でも、新たな試みを探す際は、大学との連携を選択肢の一つに入れているところが多くなった。大学は敷居が高いと思われるが、事業化が成功することで、大学にもメリットがもたらされる。そう考えれば、技術移転は企業と大学をWIN-WINの関係にする可能性があることがわかる。

 

 

“技術移転の父”との出会い

山本氏は、前職のリクルート在籍時代、社内の新規事業として技術移転のビジネスに携わった経験を持つ。その際、1930年代から実績のあるアメリカの大学のTLO事情を調べ、「技術移転でほかの大学がお手本にしている大学」「産業界の評判が良い大学」「大きな成功事例がある大学」「人材が育っている大学」という4つの観点から、提携する大学を探した。すると、4つの観点のどこから調べても、一人の人物に行き着いた。それがスタンフォード大学のOTL(Office of Technology Licensing)の創始者であるニルス・ライマース氏だった。ライマース氏は“技術移転の父”と呼ばれ、数々の逸話を持つ。

「コーエン・ボイヤー特許」は、ライマース氏に関する逸話で最も有名なものの一つだろう。この特許は1972年、ハワイで行なわれた学会に参加した、スタンフォード大学のコーエン教授と、カリフォルニア大学サンフランシスコ校のボイヤー教授が、ランチを共にしたことをきっかけに生まれた。二人は、バクテリアを利用した遺伝子組み換え技術を思いつき、共同研究の末、翌年末の学会でその技術を発表した。

二人の発表を知ったライマース氏は、熱心に特許の取得を勧めたが、二人は簡単に首を縦に振らない。しかし、最終的には特許を取得し、「コーエン・ボイヤー特許」は約2億5000万ドルの収入を上げた。それだけではなく、アメリカのバイオ産業の発展に大きく寄与し、TLOによる技術移転の成功事例として有名になった。

 

「ボイヤー先生は『大学教授たる者が特許でお金を稼ぐなどはけしからん』と言っていた人です。

東京大学TLO 山本貴史社長 (2)

私が技術移転の仕事を始めたときにお会いしたほとんどの大学の先生も同様でした。某私立大学では、『大学は神聖な場所なので、ここでロイヤルティーやストックオプションなんて言わないで欲しい』と汚い物を見るような目で怒られました」

 

山本氏が語るような状況は、現在ではだいぶ改善され、技術移転について大学の研究者の理解も進んでいる。しかし、どのように結び付けばいいかを、いずれも考えあぐねているケースも少なくない。その溝を埋め、産学連携の接点づくりをサポートするのがTLOの役目なのである。

 

 

特許取得がもたらすメリット

ところで、ライマース氏は、どのようにして二人の許諾を得ることができたのか。

一般的に、「特許=一社独占」というイメージがある。確かに特許の多くはそうだが、「コーエン・ボイヤー特許」は複数の企業にライセンスが供与された。これによるメリットは三つあると考えられる。

一つは、一社当たりのライセンス取得コストが低くなること。二つめは、それにより、新しい技術が社会に広く知られやすくなること。そして、三つ目が最も重要なのだが、その新しい技術が社会の抱える問題を早期に解決することを可能にするということだ。ライマース氏は、特許取得でこれらが実現できることを説明して、二人を説得したのである。

 

特許と研究に関する話で有名なのが、世界最初の抗生物質と知られるペニシリンにまつわる話だ。1928年、イギリスの細菌学者、フレミングがペニシリンを発見した。しかし彼は、人命救助のために広く使われるようにと考え、あえて特許を取らなかったという。イギリス紳士らしい高潔さの表れと言えるだろう。

しかし、特許取得による排他的独占権を得られないため、開発しても真似されることを危惧した製薬企業は、ペニシリンの事業化になかなか手を出さなかった。そのため、最初の発見から薬剤としての実用化まで、ペニシリンが世に出るまで実に10年以上かかることになった。もし早い段階でフレミングが特許を取得し、製薬企業が薬剤の開発に着手していたならば、第2次世界大戦の戦場で破傷風などの細菌感染で失われた傷病兵の多くの命を救ったことだろうといわれている。

結局、ペニシリンの特許はアメリカの企業が取得し、イギリスにはほとんど何ももたらさなかったどころか、イギリスの企業は特許の使用料をアメリカの企業に支払うことになってしまった。イギリス紳士の高潔さが、皮肉な結果になったと言えるだろう。

 

 

技術移転先の大半が中小企業

東京大学TLO 山本貴史社長 (1)

大学から生み出される新しい技術を産業界に移転する際、企業の大きさはそれほど問題ではなく、むしろ「大学の技術移転は中小企業支援につながっている」とさえ、山本氏は力説する。

アメリカの事例だが、大学の技術の移転先の15%が大学発のベンチャー、半分が中小企業、大手企業は3分の1ぐらいという割合。つまり、技術移転の受け入れ先のほとんどが大手企業ではないわけである。

 

技術移転および産学連携の歴史を見てみると、いまやビッグネームになっている企業の歴史が大学発であることに気づかされる。Googleの技術はスタンフォード大学のTLOから出願され、Yahoo!やNetscapeに紹介されたものの、ライセンスを受ける企業が現れず、ベンチャーとしてスタート。また、BOSEはMIT(マサチューセツ工科大学)、シスコシステムズやサン・マイクロシステムズはスタンフォード大学と、いずれも大学発のベンチャーである。日本においても、帝人は山形大学、TDKは東京工業大学、味の素と荏原製作所は東大と、それぞれ大学発のベンチャーである。このことはつまり、産学連携がイノベーションのエンジンであることを証明している。

もちろん、すぐに使える技術ばかりではないが、大学の基礎研究と企業の事業戦略が合致したときには、大きなイノベーションになる可能性を秘めている。もしも技術移転・産学連携に関心を持ち、新技術を自社製品に生かしたいと考えるならば、大学の知的財産本部やTLOと話をしてみるといい。マッチングの“目利き”である彼らが新しいビジネスの萌芽を与えてくれるかもしれない。

 

最後に、技術移転を受け入れる企業の“資格”を聞くと山本氏は、次のように答えた。

「その企業が新しい技術を使えることと、その技術を広げていくモチベーションがあるということでしょう。事業規模の大小は問いません。現に多数のライセンス実績があります。もし技術の活用に関するご要望等ございましたら、お気軽にお問い合わせください」

 

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東京大学の技術紹介

ライセンス事例

東京大学 技術移転事例 (3) 東京大学 技術移転事例 (2) 東京大学 技術移転事例 (1) 東京大学 技術移転事例 (4)

技術移転が待たれる発明例

東京大学TLO 資料 (5)

石川正俊教授の研究室が開発した「ビジョンチップ」は、人間の眼をはるかに超えた高速で画像処理する技術。このシステムをロボットの眼に採用すると、手の素早い動きを瞬時に追い続けることが可能。

東京大学TLO 資料 (2)
ビジョンチップを採用したロボットの眼だと、人間の眼では追い続けることができない速さに対応することができる。この技術を使えば、本のスキャニングが正確で容易になり、電子書籍の作製が簡単にできる。東京大学TLO 資料 (1)

ビジョンチップと顕微鏡とを組み合わせれば、高速で動く微生物を追跡することが可能。しかも、動きを録画して、どこを通ったかをX軸とY軸で示してくれる。東京大学TLO 資料 (3)

『ウゴウゴルーガ』やおしりかじり虫を描いたアニメーション作家のうるまでるびさんと、五十嵐健夫教授が共同開発した技術を使えば、誰でも簡単にパソコン上でアニメーションを描くことができる。

東京大学TLO 資料 (4)

嵯峨山研究室が開発した画像処理の技術は、デジタルカメラで撮った画像で消したいものを、画像をコピーして貼り付けるのではなく、勝手に周りの環境を読み取って補正して消してくれる。

東京大学TLO スモールビジネスデパート

「取材協力;本取材は、本誌7月号でも取材した、株式会社スモールビジネス研究会の運営するスモールビジネスデパート(http://www.business-department.com)が会員のために行っている<「つながる」ミーティング>内で行われた。同サービスや会員サイトについてのお問い合わせは、info@business-department.comまで。」

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株式会社東京大学TLO

〒113-0033 東京都文京区本郷7-3-1産学連携プラザ3F

℡03-5805-7661

http://www.casti.co.jp

山本貴史(やまもと・たかふみ)氏…1985年中央大学卒。(株)リクルートで、採用関係の営業・企画を約10年間担当した後、産学連携による技術移転のスキームを提案、事業化に向けて始動させる。また米国スタンフォード大学のOTL(Office of Technology Licensing)の創始者である技術移転のニルス・ライマース氏と独占的なコンサルティング契約を交わし、米国の技術移転に関する研究を行う。(株)リクルートにて技術移転を本格事業化した後、2000年に(株)リクルートを退社、(株)先端科学技術インキュベーションセンター(現(株)東京大学TLO)代表取締役社長就任。現在に至る。

 

 

2014年9月号の記事より
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