ƒvƒŠƒ“ƒg学校と企業を行き来しながら、座学と実務訓練を長期に行う、ドイツ生まれの「デュアルシステム」が日本の専門高校に導入されてから12年。

もともと高卒者の就職率向上と、中小企業の人材不足を解消する目的で始まったが、いまやその効果も活用法も多様化し、地域全体を巻き込んだまちおこしにも活用されている。

そこで各地で定着しはじめた、デュアルシステムの活用の実際とポイントについて実例を挙げながら紹介していく。

 

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会社の若返りに、デュアルシステムという切り札

◎都立葛西工業高等学校編/株式会社岡本モータース

 

◆取材:富樫のぞみ/文:五十川正紘

※都立葛西工業高校の過去掲載記事はコチラ

 

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地元を知っている生徒だから卒業後も安心して採用できる

ds_okamotomotor01工場内

自動車整備や自動車保険の代理店業務などを手掛ける株式会社岡本モータース。

デュアルシステムの受け入れ先となってから2名の実習生が入社を果たしている。

「彼らも含めた新卒採用者は、技術的には未熟ですが、中途採用者とは異なる魅力を持っています」と語るのは、同社代表取締役の岡本紀雄氏

同社が実習生を受け入れる目的や、実習生に期待することなどについて、岡本氏と、同社取締役部長の岡本恒明氏に話を伺った。

 

 

 

車の整備はIT時代に。新卒採用者の柔軟な吸収力と成長力が必要

─なぜ、実習生を受け入れることにしたのか?

 

紀雄氏:実習生を受け入れ始める前は、60代や70代のスタッフも当社で働いていました。当時、その方々の退職後のことを意識し、組織の若返りを図ることを考えていました。

ちょうどその頃に、葛西工業高校さんからデュアルシステムのご紹介を受けて、会社の若返りを図るのにピッタリの制度だと考え、実習生を受け入れることにしました。

その結果、現在、当社のスタッフの平均年齢は30代半ばぐらいになりました。なお、現在の当社全体のスタッフ数は14名で、一番年配のスタッフは40代の工場長です。

 

恒明氏:実習生を受け入れ始めたのは、5年程前からです。

デュアルシステムの実習生を受け入れる以前からも、中高生のインターンシップに協力し、様々な学生さんを受け入れていました。葛西工業高校さんからデュアルシステムのご紹介を受けたのは、そのような活動を続けていたからだと思います。

 

─若返りを図るなら、即戦力となる30代や40代の人を中途採用してもよいのではないか?

 

 

ds_okamotomotor02岡本恒明部長

恒明氏:

中途採用も考えましたが、長く働いてもらえる人を採用するには、新卒採用の方が適していると考えました。

新卒採用者には、何でも覚えようという姿勢があります。その姿勢の有無が、長く働いてもらえるかどうかのポイントになると思います。

 

紀雄氏:ある程度のキャリアのある中途採用者は、そのキャリアの分だけ腕も自信もあると思いますが、それだけ仕事に対する自分なりのこだわりがあります。

一方、新卒採用者は、腕も自信もないけれど、それゆえに、何でも覚えようという姿勢があり、職場に馴染もうと努力をしてくれます。

その両者の違いを考えると、雇う側としては、新卒採用者の方が受け入れやすい。

また、自動車整備の仕事は、ITスキルも求められる部分があり、その部分の仕事は、中途採用者よりも若い新卒採用者が向いていると思います。

今の自動車は、コンピュータ制御で作動する様々な機能やツールが数多く搭載されています。例えば、ほとんどの自動車に搭載されているエアバッグやナビも、その車輌に内蔵のコンピュータによって制御されています。

そのようなコンピュータが正常に機能しているのか診断するのも私たちの仕事です。診断の際は、パソコンで操作する専用システムを使います。

このような仕事は、年配の自動車整備スタッフが若い頃には無く、パソコンの操作も年配者が苦手とするところです。しかし、今の若い人は、普段からパソコンの操作に慣れ親しんでいます。

実際、若い自動車整備スタッフに、自動車に内蔵のコンピュータの機能を診断するシステムの操作方法を少し教えたところ、後は自分でどんどんマスターし、すぐに使いこなせるようになりました。

 

 

デュアルシステムには、様々なメリットがある!

─デュアルシステム以外に、組織の若返りのために取り組み始めたことはあるのか?

 

恒明氏:新たな取り組みはデュアルシステムだけです。長く働いてもらえる人材を重視している当社にとって、デュアルシステムは様々なメリットがあります。

一番の大きなメリットは、実習生と当社の双方が、お互いをよく知ることができることです。

半年間の実習の中で実習生は、仕事内容や職場の雰囲気を知ることができ、当社も、実習生の人柄や特徴を知ることができます。つまり、お互いのことを事前によく分かった上で、入社・採用できるわけです。

従って実習生が当社に入社した場合は、ミスマッチが少なく長く働いてもらえることが期待できるのです。

 

ds_okamotomotor03車検整備にも、もちろん対応!

また、葛西工業高校さんに通う実習生は当社がある同じ江戸川区内を始め、同校への通学に便利な地域に住んでいることが多いです。そのため当社に近い地域に住んでいる人を採用できるメリットもあります。

通勤時間が短ければ、通勤も楽になるでしょうし、退社後のプライベート時間も増え、長く働いてもらえることにつながると思います。

さらに、当社内で同じ学校出身の先輩と後輩という関係ができるメリットがあります。現に、当社では2年連続で1名ずつ実習生が入社したので、そのような先輩と後輩の関係ができています。

同じ学校出身なので共通の話題も多く、先輩と後輩双方が、お互いにコミュニケーションを取りやすい。

後輩は、困ったことや悩みごとを先輩に相談しやすいと思いますし、先輩も自分を頼りにしている後輩がいると思うと、「その見本にならなくては」という気持ちが芽生えるようです。

つまり、同じ学校の先輩と後輩という関係ができれば、その両者が長く働けることにつながると思うのです。

このようにデュアルシステムは当社にさまざまなメリットをもたらしてくれています。

 

 

若い実習生が入るだけで、職場の雰囲気を一変させる!

─実習生の受け入れにあたり、業務マニュアルなどは策定したか?

 

恒明氏:そもそも、自動車整備の仕事自体がマニュアル化しづらいため、特にそういったものは策定していません。

例えば、形状・サイズ・性能などが同一の製品をつくる仕事の場合であれば、一つひとつの製品をつくる工程も同じなので、それらを分かりやすく解説したマニュアルを作成すれば大いに役立つと思います。

一方、当社は、お客さま一人ひとりのお車の状態や、ご要望に合わせた整備を行います。つまり、自動車整備の仕事では、マニュアル通りの対応ではなく、ケースバイケースの対応が求められます。

また、実際の仕事で実習生に任せているのは、タイヤ交換やオイル交換などの基本的なことだけです。そのため、当社では、実習生のためにマニュアルを策定することは考えていません。

 

─実習生に期待していることは?

 

恒明氏:スタッフ一人ひとりの仕事に取り組む姿勢次第で、職場全体の雰囲気が変わります。

ある実習生は、大きな声で挨拶をしていました。その影響を受け、スタッフ同士でしっかり挨拶をするようになり、職場全体の雰囲気が変わりました。

実習生には、即戦力として活躍してもらうことではなく、仕事に取り組む姿勢で当社に良い変化をもたらしてくれることを期待しています。

 

オビ 特集

◉プロフィール

ds_okamotomotor04岡本紀雄(おかもと・のりお)氏/写真右

1947年生まれ。東京都江戸川区出身。東京都立台東商業高等学校卒業後、1966年、実父が個人事業として創業した岡本モータースに就職。株式会社岡本モータース代表取締役として現在に至る。

岡本恒明(おかもと・つねあき)氏/写真左

大学卒業後、1997年、株式会社岡本モータースに入社。同社取締役部長として現在に至る。

 

◉株式会社岡本モータース

〒132-0025 東京都江戸川区松江5-16-1

TEL 03-3680-7355 

 

 

 

◆2016年9月号の記事より◆

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