ƒvƒŠƒ“ƒg学校と企業を行き来しながら、座学と実務訓練を長期に行う、ドイツ生まれの「デュアルシステム」が日本の専門高校に導入されてから12年。

もともと高卒者の就職率向上と、中小企業の人材不足を解消する目的で始まったが、いまやその効果も活用法も多様化し、地域全体を巻き込んだまちおこしにも活用されている。

そこで各地で定着しはじめた、デュアルシステムの活用の実際とポイントについて実例を挙げながら紹介していく。

 

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遂に入社希望の学生が!続けてよかったデュアルシステム!

◎都立葛西工業高等学校編/有限会社萩原溶接工業

 

◆取材:富樫のぞみ/文:五十川正紘

※都立葛西工業高校の過去掲載記事はコチラ

 

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入社を希望してくれたのは、溶接の仕事の現実とやりがいを伝えられたから

ビルや工場などの各種鋼構造物の建設に必要な溶接工事を手掛ける有限会社萩原溶接工業

1993年の創業時からの総溶接距離は、東京から沖縄県の石垣島までの距離とほぼ同じ約2200キロメートルにも及ぶ。

東京五輪に向けて需要も高まっている。人材不足は深刻だが、足掛け4年に渡る実習生の受け入れの結果、ついに当社への入社を希望する学生さんとめぐり会った。同社代表取締役、萩原省一氏は「入社を希望してくれたのは、実習を通した溶接の仕事の現実とやりがいを伝えられたから」とみる。デュアルシステムによる人材登用の秘訣を萩原氏に聞いた。

 

溶接で出る火花の音の違いから、質の違いを体感させる

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 ─実習生は、どのような仕事に携わるのか?

 

実習生には、お客さまの建設現場にも足を運んでもらいますが、そこで溶接の仕事をしてもらうことはありません。溶接の仕事には専門的な技術が求められるため、半年の実習期間中に実践レベルの技術までは教えられないからです。そのため、実習生は、実際の溶接の仕事を傍らで見てもらうことになります。

しかし、溶接の仕事をただ見せるためだけに、現場に連れて行くわけではありません。現場で、溶接の技術を身につける上で大切な〝感覚〟を、しっかり感じ取って欲しいという狙いがあります。

当社では、専用工具を使って金属に電流を流し、その電熱で金属を溶かして接合する方法で溶接を行っています。溶接作業時は、電気による火花が生じるのと同時に、「バチバチ」といった音が出ますが、実はこの音がとても大切なのです。その音の微妙な違いから、金属の溶け具合が分かるからです。

一人前の溶接工であれば、その音の違いを聞き分けられるはずですが、最初は誰でもその違いを感じ取ることはできません。しかし、何度も何度も繰り返し聞き続けているうちに、音の違いを聞き分けられるようになる。そういう感覚的な技術を養うには、実際の溶接の仕事の現場に触れること以外に方法はありません。

 

 

溶接の仕事の現実をしっかり伝えて、採用ミスマッチを回避!

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─実習生の受け入れにあたって、何か準備したことはあるのか?

 

特にありません。もし実習生が入社した場合は、しっかり長く定着してもらい、将来は一人前の溶接工として活躍してほしいと思っています。それには、入社時までに実習生が抱く当社の仕事に対するイメージと、入社後の現実との間のギャップを埋めることが、何よりも大切だと考えています。さらに、そのギャップを埋めるには、実習生のために何か特別なことを準備するのではなく、実際に入社した場合の現実に限りなく近い、今の私たちの仕事のありのままを知ってもらうしかないと思っています。

要するに、採用ミスマッチを回避するベストな方法は、入社希望者に溶接の仕事の現実をしっかり伝えることに尽きる。

 

例えば、実習生をお客さまの建設現場に同行させる時は、そこで実際に仕事をする溶接工たちと同じ集合時刻に来てもらい、朝礼の場から立ち会わせます。建設現場の集合時刻は朝早いことが多く、朝6時の集合なども決して珍しいことではありません。また、当然、現場までの移動時間を考え、その分、集合時刻よりも前に家を出なければなりません。さらに、当社のお客さまの建設現場は首都圏が中心ですが、その場所はお客さまによって異なりますから、家を出る時間も現場によって異なってきます。

 

 

2020年の五輪会場の現場で仕事のイメージを膨らませる

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─入社希望の学生さんについて、その希望動機は、どのようなことだと思うか?

 

その入社希望の学生さんは、実習当初は、溶接の仕事について、それまで自分が抱いていたイメージと、現場で実際に目の当たりにした現実との間にかなりのギャップがあったそうです。でも実習を通して、そのイメージが徐々に変化するのと同時に、そのギャップも埋まりつつあることに気がつき、入社をご希望されているのだと思います。

実習期間中、2020年の東京五輪で使われる予定の施設の建設現場に連れて行けたことも、その学生さんの背中を後押ししたと思います。現場を見て、溶接の仕事は「歴史に残るような建物を支えるやりがいのある仕事なんだ」と実感し、そのやりがいの大きさに魅力を感じたのだと思います。

溶接の仕事にやりがいを持てるかどうかというのは、溶接工の人材確保において、とても大切なポイントだと考えています。

 

溶接工のような職人の仕事は、その技術を徐々に覚えながら一人前に近づくにつれて、そのやりがいも分かってくるはずだと私は思います。でも溶接の仕事を始めても、それが分かってくる前に辞めてしまう人が多い。溶接の仕事は、金属を溶かすような高熱に間近に触れるため、非常に高温下の中で作業をすることになります。その作業時の熱さが辛くて、辞めてしまうのです。

それ故、その辛さに耐えて、長く働けるようになるには、企業側が働きやすい環境づくりに務め、溶接工一人ひとりが、より大きなやりがいを持てるように努力する必要があると考えています。当社では、より働きやすい環境を提供するために、シフト制で休暇が不定期であることが多い溶接工事業界の企業としては珍しく、週休2日制や有休休暇制度を導入しています。

 

 

働き盛り世代中心の組織でも、デュアルシステムで若い人材の確保に取り組むべき!

─御社の溶接工の方々の年齢構成は? また、若い人材の確保のために実習生を受け入れている企業もあるが、御社の場合はどうか?

 

当社の溶接工は、私と同じ40代が中心で、一番年配の人が54歳、一番若い人が25歳です。これは、年配者中心で後継者がいないというわけでもなく、技術的に未熟な若者中心でもなく、働き盛りの世代中心で、企業組織としてほぼベストな年齢構成だと思っています。

しかし、今から若い人材の確保に取り組まないと、例えば10年後、当社のメンバーはその分、年齢を重ねるわけですから、50代中心のやや年配者が多い組織となり、それは望ましくありません。また、仮に10年後に若い人材の確保に取り組み始め、すぐに大量採用できたとしても、技術的に未熟な若者が多い組織になってしまい、それも望ましくない。

つまり、10年後もベストな年齢構成を保つには、今から若い人材の確保に取り組む必要があり、デュアルシステムの実習生の受け入れは、まさに、その取り組みの1つなのです。

 

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◉プロフィール

萩原省一(はぎわら・しょういち)氏

1970年生まれ。東京都出身。東京都立深川高等学校卒業後、アパレルメーカや物流会社への就職・転職を経て、1992年から溶接の仕事に従事。1993年、溶接工事を手掛ける個人事業「萩原工業」の創業に携わる。1998年、同事業の法人化に伴う、有限会社萩原溶接工業の設立に携わる。その後、同社代表取締役として現在に至る。

 

有限会社萩原溶接工業

〒132-0025東京都江戸川区松江5-16-10

TEL 03-5659-5284

http://hagi-weld.co.jp

 

2016年9月号の記事より
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